第195話 魔物討伐
「……まさか、ほんとに現れるとは思ってもみませんでしたよ」
引き気味に男が目の前を見る。
「あら、あららのら? おたく、見覚えあんねー。ほら、あれじゃない? 前世の仲?」
「今世の仲ですっ! 前世も来世も、真っ平御免なんですよ!」
黒い髪に黒い瞳、それとは対象的な白い髪に黒い瞳。
「──兄さん!」
ブレイブ・パスト・グルージャとクライシス・パスト(仮)の再会であった。
「あっはぁん、理解。理解したっちゃ。お前名前なんだって、口の利き方なってな次郎? 悪ぃわね、僕ちんマイダーリンのことが印象的過ぎてもう全人類ミノムシなわけよぉ! ダーリン名前なんだっけ」
「あぁぁぁっ、虫酸が、鳥肌が! 全身を掻きむしりたくなるこの感情が! 慈悲云々じゃなくて世界のためにこいつだけは殺さなきゃ……!」
「ふぅん、頑張ってね」
「あああああっ!」
この存在、腹が立って仕方ない。
「殺す、絶対殺す」
「大変ね、そんな感情に支配されるだなんって……しゃなり。オイラ様を見習いなよボーイ……ご覧世界はこんなに麗しい……、あっ、これ拙者イコール世界でござるな。いえーい、人生、楽しんでるぅ?」
「どういう思考回路を持ったら前衛的な言語を喋れるようになるんですかね!? 別の意味で言語不自由!」
「ワ、オラわかっちゃったもんね。おめー金髪アホ毛のこと思い浮かべただろ。失礼しちゃうわねシャチョサーン。……あんな言語アマと同じ扱いすんじゃねぇよエセ常識人」
「産道を逆流して常識を胎盤からひっぺがしてこいっ!」
「いや常識的に考えて無理みじゃなくなくない?」
「縄鞭の剣ぃ!」
常識持ち合わせてないやつに常識を語られたくない。
というかそのリィンに言われた大立ち回りを意図せず出来てしまうことに無性に腹が立った。自然と視線を集めてしまうし、兵士に指示を出したくとも全てクライシスに思考を注いでしまう。
本当に勘弁しろ。
グルージャが剣を振るって攻撃するが、城門の壁や備品を薙ぐだけで終わる。
狙いを定めた白色のクレイジーボーイはクルクルひょいひょいと猿の軽業のように避けた。お前は元とはいえ鶴だろうが。
「Ah、自称弟君?」
「残念ながら血縁関係はありますし血が繋がってないなら自称したくないほど縁よ切れてくれと願ってるんですけど?」
「あらまぁ高血圧? 昆布食べる? あるよ」
「(イラァッ)」
懐からなぜ昆布が出てくるのか、人類はまずその謎に迫らなければならない気がしていた。
「それよかさぁ、お主は俺様殺す気あんの? ないの?」
「殺意しかありませんね」
「の割には攻撃お粗末だよねぇ。だってそれ」
ビュン、とクライシスのリボンがグルージャの喉に回った。
「あちくしの真似っ子だもんねー!」
幼い頃から恐怖を抱くほど見てきた兄の人殺しの技の数々。
グルージャにとって一番身近で最大の脅威がクライシスだった。そんなグルージャがある意味最恐の存在を真似するのは、誰にも殺られない為に利用していた。
図星だ。図星だが。
「……トリアングロの幹部が、メイン一本に絞り込むとお思いで?」
──ダァンっ!
「おりょ?」
目にも止まらぬ速さとはこのことだろう。グルージャの手には硝煙がゆらりと立つ、銃が握られてあった。
早撃ち。
ただの銃では殺られる。殺られる前に殺るには、速度だ。
「アハっ、なんだか段々たのちぃ〜〜〜くなってきたジャン? レッツエンジョイ、オイラとダンスっちまおうぜぇい!」
その時、城からひとつ、爆音が響いた。
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ビリビリと激しい爆発音。
「え、何事!?」
発生源は分からないけど、城が揺れる位には大きな爆発。パラパラとホコリが落ちてくるのを不快に思いながら警戒する。
発生源は、フロッシュだろうか。
この国でこの規模の爆弾を使う存在なんて限られているはず。
……もしかして誰かと対戦した? 月組の2人かエリアさんと。
考えたって仕方ない。
私は首を横に振ってシアンを見た。
「あくまでも、私はクアドラードに復讐するだけだ。お前の味方になったわけではない」
シアンが青い瞳を得て、その身に降りかかった災厄など目をつぶってもわかる。そう、エルドラードって人権侵害家系がな。
トリアングロへの執着は薄いと踏んで、クアドラードへの恨みの方を優先すると思ったから出した提案。
ふう、良かった。無事飲み込んでくれたみたいだ。
「お前もクアドラードに連なる者。死んでくれたって構わない、むしろ死ね」
「おおう」
「だがお前が生きていることで私に利益があるのなら、渋々だが条件を飲んでやる。精々足掻け、血の混ざった庶民がどこまで出来るのか見物だな」
…………ん?
「血の混ざるすた、庶民?」
「今更血が混ざってないとでも言うつもりか? お前、確実にクアドラード王家の血が混ざっているだろう。隔世遺伝か隠し子か知らないがな」
あ、いや、血は確実なんですけど。
庶民。ふぅーん、庶民って思われてるんだ。ふぅん。だからこんな貴族当主ですみたいなご尊大な態度ですのね。
ふぅん(面白い予感を察知)
「時にシアン、ルナールの、居場所はご存知なきですか?」
「最終的には、知らん。だが一度国王の元に向かったのは確かだ」
「あー、ハイハイ」
つまり結局国王……この国の最強と会わなきゃ情報は出ない、ってことかぁ。気が重いな。戦闘せずに穏便に済ませたい。
「……私はもう行く。クアドラードが戦争に負けて喜ばしいのに変わりはないからな」
恐らく私との戦闘じゃなくて戦争情勢を優先したのだろう。いやそりゃそう。むしろ戦争そっちのけで私を追い回している幹部が異常なんだよ。聞いてるかクラップ、お前のこと言ってんだよばーか。
シアンは振り返ることなくどこかへ向かっていった。
私も行かなきゃ。
この城は二階建てではあるけど、城の途中途中にある階段のある塔は3階まである様子。
ここを登れば謁見の間だろう。
えっちらおっちら登っていく。
そして重厚な扉が見えたその先で、私は絶望した。
「ふふっ、随分とゆっくりしよったんとちゃう?」
独特な訛りのある喋り方。窮屈そうな軍服を気崩した格好。温暖な海の浅瀬のような特徴的な髪色。
イードゥラ・アダラ。
リックさんが食い止めているはずの幹部が私の目の前に現れたのだ。
「……リックさんは」
「リックはん? ……あぁ、あの白い子ぉかな」
アダラはくすくすと笑い始める。
「いやねぇ、あの子、諦めがえらい悪うてなぁ。うち、ちょっと本気出してしもうたんよ」
あんたを探したで、なんて言いながら愉快そうな、愉悦に満ちた笑顔でアダラは懐から何かを取り出し私に向かって放り投げた。
ぼとり。
石にしては柔らかくて、布にしては重たい。
カシャン、と金属が床に擦れる音がした。
「クアドラードの冒険者は、魔物狩る時討伐部位の剥ぎ取りで証明するんやてねぇ? うちは冒険者やあらへんけど、ゴブリン狩りしたんやったら、証拠が必要やろ?」
右、耳。
ゴブリンの討伐確認の部位は確かに右耳だった。剥ぎ取る時にぐにゅって感覚が嫌で途中でやめたけど。
ただ、その右耳に。
彼が『リィンにもらった石だから!』って好んでつけた、月を用いたピアスが……付いていた。
ピアスには私が使っていた砕けた魔石も。
「…………そう」
私は魔法を唱えた。
詠唱では無いけれど。
「〝アイテムボックス〟」
感覚的に分かった。
魔力が切れた。クラップから逃げ回るのに、そしてシアンを相手取るのに、やはり肉体だけでは限界があったから魔力を酷使した。
連戦に続く魔力消費でリミットクラッシュで引き出した魔力も切れてしまったんだ。
だけどまぁ、いい。
「私のモノに手を出したこと、天獄の狭間で後悔しろ」
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