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第172話 牢屋は心の実家


 牢屋。罪人を入れて閉じ込めておく所。牢獄。監獄。


「私が今思ってることを教えましょうか」


 男は私を見下ろして言った。


「──なんでお前大人しく捕まるとかできないんだよ!!」


 否、べナードは叫んだ。既視感。




 牢屋に入れられ僅か1時間。見張りとしてなのか純粋に遊びに来たのか分からないけどべナードとグルージャがやってきた。そしてその発言である。


 現在の私?

 ぐるっぐるの拘束を纏いながらゴロゴロ寝転んでいます。


 いやぁ鎖が微妙な塩梅でゴリゴリ体を解してくれるから気持ちいいんだよね。


「うわぁ……本当にいる……」

「その反応どうなのです??」


 ドン引きの様子を見せたのはグルージャ。なんか腹立つ反応だな。

 やーい、お前の兄貴、クライシスー! 身内に盛大な恥を抱えた一族ー!


「やめてください」


 真顔で拒否られた。げせぬ。


「勘弁してくれよ本当に。何、牢屋に入るの趣味なのか? そういう趣味にとやかく言うつもりは無いけどうちを巻き込まないでくれ本当に頼むから」

「とやかく言うすてる〜。あと趣味じゃなき。微塵も」

「これまでの人生牢屋に入った回数は?」

「……実家、誘拐、クアドラード王城、カジノ、国境基地、トリアングロ王城」

「ハハッ、おめでとう王城コンプリートだな」

「実家×10。合計15回程」

「もう牢屋に住め」


 もしかしたら趣味だったのかもしれない……。(洗脳済)


 おかしいな、牢屋に進んで入りたいなんて微塵も思ってないのに牢屋の方が私を追いかけて来る……。もしかして災厄のせい?


「はぁ、とりあえず要件を聞く前に」


 べナードは私の後ろを。

 ──カナエさんを見た。


「異世界人、シラヌイ・カナエで間違いはありませんね。初めまして、私は陸軍の幹部、レヒト・べナードと申します」


 穏やかな笑顔で挨拶をする。

 カナエさんは驚いた顔をしたけど、キョロキョロ私達に視線を寄越した後ぺこりと頭を下げた。異世界人という単語に驚いているのは唯一知らなかったエリアさんだけだった。


「えっと、異世界人のシラヌイ・カナエです」

「グルージャ邸で会った時はどこぞの誰かのせいで挨拶もまともにできませんでしたからね。会えて光栄ですよ。生粋の人間、この目で見てみたかったんです」

「…………。」


 カナエさんは目を見開いた後視線を伏せ、何かを考えた。


「──リィン、あの人、絶対カジノキャラだよね」


 思わず頭を床に打ち付けた。

 考えた結果出た結論がそこかよ。


「さて、ひとまずカナエ様。貴女は外に」

「え……」

「トリアングロの客人を、地面に這いつくばらせるわけにはいかないでしょう」


 ほー? つまり拘束でぐるっぐるにされた上に牢屋の地面に敷物も何も無く置かれた私は客人では無い、と?


 その通りだな。うん。

 客人は不法入国しないし毒もばらまかない。


「なっ、カナエに何するつもりだ」

「やっさんは渡さないからなー!」

「リック君の名前のバリエーションってどんだけあるんだろうなぁ……」


 答えを求めるようにカナエさんが私に視線を向けてきた。


「大丈夫、カナエさんは安全です」

「で、でも」

「クアドラードで動物扱いされるすた人間を、人にこだわるトリアングロが邪険にするはずも無きです故に。……ですぞね?」

「この娘に同意するのは甚だ遺憾なのだが、まあぶっちゃけるとそう」


 カナエさんは他のメンツに比べて日本産引きこもり種族だから、正直戦闘になるとお荷物になる。

 トリアングロはクアドラードが嫌いだから、クアドラードの被害者をトリアングロの被害者なんて同じ穴に入りたくないだろう。だから、カナエさんは絶対大丈夫。今まで無事だったフロッシュ邸での生活を考えると、必ず。


 必ず被害がいかない場所へ連れていく。


「……そういう頭が回るところは純粋に腹が立つな」


 聞こえてるが?????


 グルージャが牢屋の鍵を開け、カナエさんに手を差し伸べた。カナエさんはそれから避けるように一歩身を引く。


「あ、あたしは……」


 未だに迷っている。


「すいません、無理矢理引きます」


 軽い拘束のカナエさん。グルージャが手を取ると簡単に立ち上がり外へと引っ張られていく。


「……っ!」

「カナエさん……!」

「あたし、まだ友達と一緒に」

「蛙さんの所に再び戻ってもらいます。戦争の最前線なんて危険な場所に一般人を置いて置けませんから」


 ごねるカナエさんにグルージャが諭すように言葉を重ねた。


「カナエさん、また会えるですよ」

「う、だけど…….。あたしだけ別の場所なのは」

「まぁまぁ、無事トリアングロから信用ぞ得てみますから。ゆっくり茶でもしばくすて下さい」

「(無理だろうなあ)」

「(無理ですよね)」

「(無理だと思うけど……)」


 なんか牢屋の外側の人間が私をナチュラルにバカにした気がする。


「リィン、絶対無理はしないでね……」


 グルージャに連れ去られカナエさんは地下牢から出て行った。


 カナエさんを連れてトリアングロに行けばこうなるだろうなとは予想していた。戦力的には足でまといだし、何より平和な国で暮らしたカナエさんを戦闘の場に置いておきたくない。引っ掻き回される予感がする。


 その点レディに優しいフロッシュなら安心できる。

 私は知らずに溜め込んでいた息をふっと吐き出した。




「それで、一体何の用だよ」


 グルージャが去り、残ったべナードは腕を組んで横たわる私を見下ろす。


「え、何って。ルナール殴りに参るすた」

「……なぁ本当にお前なんなの?」

「あわよくば殺せると良きと思うです」

「クアドラード城での出来事覚えてないのか? お前、魔法があってもルナールにボコられただろ、同情する程」


 月組が『えっ、そんなに酷かったの?』なんて顔を向けてくる。

 失敬な。

 不意だったし動揺したから一発貰っただけだって。


「えっと、改めるすてですけど。私そもそも元からトリアングロの敵対すてるわけじゃ無きです。あるのは個人への報復」

「うっっそだぁ」

「いやそれは嘘でしょう」


 べナードに続きグルージャまでもが即答した。


「私、1人も殺すすてなきですぞ」

「「……。」」


 私の発言に2人は確かに、という顔をした。

 でしょうでしょう。無力化はしたけど殺してないよ。シンミアのペットは月組だから私は手を下してないです。はい。


「そもそも、クアドラードに忠誠も無きです。べナード、理解出来ますか。スタンピード止めるすた英雄と言うされるべき存在、冤罪でとっつかまるすたですよ。しかも第2王子誘拐。王族誘拐」

「えっ」

「えっ」


 エリアさんが驚きの声を上げた。

 なんで、君?


「……リィンさんスタンピード止めてたんですか?」


 あー、そういえば言ってなかったね。リックさんとグレンさんにバレていたし正直そこまで重要な話じゃなかったから、うん、言ってなかったわ。……エルドラード男爵に。そう、国に戻れば大臣と伝手がある貴族に。


 よし、無視しよう。


「私の仕業の罪を被ってくれて大変に嬉しい限りですよリィン様!」

「殴るぞ?????」


 それはそれとしてお前絶対許さないからな真犯人。トリアングロの下手人とクアドラードの迷探偵は殴るって決めてるから。


「はい、まぁ、とりあえずリィン様はトリアングロとクアドラードの戦争に何かしらの進展を望むつもりは無い、と。そう言いたいとのことでよろしいですか?」

「はい、ですぞ」


 あくまでも個人で動いている私の目的は個人。

 リアスティーンであれば、クアドラードの魔法文化を消したくないから戦争の結果も追随してくるけどね。


 いやぁ、魔法使えない国で生活してよく分かった。

 ……──魔法、便利だわ。


 遠いところのものを取るのにわざわざ動かないといけないし、水を飲む為に水を汲まなければならないし、火をつけるのも一苦労、戦うのも肉体疲労がすごい。

 魔法という怠惰を覚えてしまった私には……もう魔法無しの生活なんて考えられない……!


 そんなことを考えていると、べナードは眉を下げながら歯を見せて笑った。


「──なら、その瞳にかけてある魔法を解いてもらおうか」


 ゲス顔とも言う。


「…………、」

「えぇえぇその気持ちは分かりますよ! ですがねぇ、甘すぎますよリィン様。私もあなたの瞳が黒だということは記憶しております!」


 うっさんくさい笑顔でべナードは続ける。その顔面かち割りたい。


「ほら、早く」

「……。」

「みすみす我々が伝達手段を見逃すとでも思うのか?」

「…………はぁ〜〜〜〜〜〜」


 私は深くため息を吐き、べナードを見た。


「紙とペンぞ寄越せ。魔法の発動者に伝えるです」

「断ります。代筆ならしてあげますよ」

「あ、それで良きです」

「そうですか。なお、私は貴女の不思議な言葉そのままは書けませんので悪しからず」

「筆記は標準語ですけど?」

「えっ」

「えっ」

「言語、弱いんじゃないのか?」

「いやいや普通に読み書き出来るですけど」

「……じゃなんで日常会話が標準語とかけ離れてるんだ?」


 無言。


 心を沈める。ほら、目の前に広がる風景は爽やかな空と海の風景。決して腹立つおじさんの顔なんて広がってない。耳を澄ませば波の音。決して後ろの方で男共がボソボソ悪口言っている何て音は聞こえない。だれの言語が異世界だ。その通りだよ馬鹿。


「んで、なんて伝えるんですか」

「『ごめん、ぶん殴られるルナールの顔面送れぬです、リンク魔法解除すて!』と」

「お前そんな邪悪な考えでスパイが欲しがりそうな魔法使ってたのか!!!???」


 私の安否確認兼、勝手にトリアングロの情報を送って糸口にしてたけど。まあそんなことを言えるはずもなく。


 適当に作った言い訳にしては本音だったな……。


「べナード」

「なんですか?」


 メモ帳にカリカリと代筆しながらべナードが視線も寄越さず反応を見せた。


「ルナールは?」

「……。」


 ビリッとメモを破る。


「手酷い目にあっておきながら、よく会いたいと願えるものだな。普通ならトラウマを負い、会いたくないと泣きわめくものだ」

「生憎、私はそこまで可愛い性格ぞしてませぬので。ご存知でしょう、シュランゲぞ連れお前のカジノに向かった私を」

「あれ本当に性格が悪い」

「でしょ」

「危うくトリアングロ側だと思って口を滑らせる所だった。まぁ、寸前でルナールがお前の目的を教えてくれたおかげで助かったが」


 あの時蹴り殺しておけばよかった。

 くっそ、やっぱりうっかりじゃなくてわざとだったか。何がコミュニケーションだよ。圧倒的に欠如してるのはおっさんの方じゃんか。


 べナードは檻越しにメモを見せつける。



「見ろ」


 ……ペインの魔法を知られてるのって、厄介だな。冒険者として共に行動をしてライアーが敵である以上、手の内は知られてるも同然だし。


 渋々文書を読む。


 『リンク魔法を解除しろ。さもなくばこの娘の命はない』


「……全然違うじゃん?」

「考えたのだがお前の言いなりになるより人質を取るほうが手っ取り早いことに気付いた」

「ド畜生じゃん?」

「はっ、何を今更」


 クアドラードの貴族から金を貪り取ってトリアングロの戦力にしようと企む位性格が悪いのは知っているけど。


「……!」


 私と目を合わせていたべナードの目が驚愕に染まった。


「……黒に戻った。青は消えた」

「そう、ですか」

「魔法というのは、理解出来ませんね。本当に」


 一体魔法がなんなのか。

 それは私だって分からないけど、便利なものは便利なもの。


「まぁ、貴女にはしばらく……いや別の牢屋だな。反対側の牢屋に入ってもらいます。仲間と一緒に居させれば悪巧みする気がする」

「失敬な!」



 既に企んだ後だわ!!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] お嬢さん、投獄のご経験は…… 15回ほど…/// 多いわ!お嬢多いわ! それもう牢屋の住人だわ!! しかも鎖でグルグルに梗塞されながら寛ぎすぎだろ! マジ実家感半端ない!獄中慣れしてるな…
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