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第129話 運とタイミングが最高に悪い



 こんにちは、私です。

 クラップに引き摺られてます。


「クラップさん、クラップさん何するですか!?」

「お前がいちいちやかましいからだろうが」


 エリィのお世話2日目。エリィから王都に行くという言質が取れた。

 それを即座に報告しようと扉を開けてもなんとびっくりクラップが居ないのである。監視が緩くなったと確信した瞬間。……とは言えど、油断大敵。余計なスパイ行為などはせずにすぐクラップを探しに向かった。


 クラップがいたのは大広間。

 そこには丁度グレンさんとリックさんが居たので大声で『エリィが王都に行くのでここから離れる可能性があるよ!』ってことを報告ついでに伝えたけど、どうやらクラップはお気に召さなかった様子。


 ちなみにエリィやリックさんに伝わらなくてもグレンさんなら伝わる。そこに関しては安心していますよ。


「んで、エルフは今どこ行ってる?」

「外の空気ぞ吸いたきっていうしてたの散歩に行くしてますよ。あ、大丈夫、建物が見える場所だけって約束ぞしますたので普通に戻るですよ!」


 あ、これは何も企んでなくて、極々普通にエリィのわがままです。


 私の報告にクラップはため息を吐いた。そんなバカスカため息吐き散らかしてたら二酸化酸素濃度高まる。息止めて。


「そりゃ居なくなっても別に問題ねぇが、勝手に指示をするのは……」

「クラップさんはあのバブちゃんの面倒見るしたことがないからそう言うのですよ! 肉体が成人済みの赤ん坊がどれほど厄介かご存知!? しかも私自衛手段持ちませぬし癇癪起こすされたら」

「あーわかったわかった。うるせぇよ」


 必殺ゴリ押し。

 エリィは突然やってきた災害なので居なくなっても問題は無い。逆に言えばフリーなわけだ。

 それなりの監視は着くだろうけど、非魔法国家で魔法の使えるエルフというのは脅威だろうからエリィに逆らう者はあまり居ないはず。


 そもそもあの性格を知ってあまり関わりたいと思う人間は居ないはず。


「それで、私は何をするのです?」


 本題に入ろう。

 何故私が引き摺られているのか、という点だ。モテ度でいえばマイナス。だから童貞なんです。


「エリィさんの件は問題にならぬでしょう。他に何かする必要ぞあるですか?」

「お前……。そう言う所は頭回るのに自分の命の危険とかは分からないんだよなぁ」


 そう言う=仕事内容や判断

 命の危険=幹部にじゃれつく


 分かってらい。分かってて敢えて危険性の高い幹部にくっついているんだろうが。

 人間予想の反対の行動をされると判断能力鈍るんだからな!?


「……。例えばだが」


 廊下を歩きながら話す大股のクラップに置いていかれないよう足を速める。

 その次に聞こえてきた言葉に私の足は自然と止まることになる。


「例えば、姫さんに大事な奴がいるとするだろ。それで姫さんは──そいつに裏切られた」

「ーーーッ」

「姫さんは、裏切り者にされて1番嫌なことはなんだと思う?」


 クラップが振り返り私を見る。

 遠くで兵士の声が聞こえるが、幹部の部屋や客間の近い廊下は私とクラップ以外居なかった。


「裏切り者にされるして? それは裏切られるとか、そういうこと自体ではなく、それより未来での話?」

「そうだ。裏切られた後に、だ」


 つまり、今ライアーにされて1番嫌なこと。


 バレてる? 私がルナールに裏切られた冒険者だということが?

 ……いや、多分違う。フロッシュならまだしも、クラップは現状証拠だけで私をすぐ殺そうとした人間だ。だから遠回しな質問はしないだろう。


 これはただ純粋に私の意見を聞かれているわけだ。落ち着こう。


「私なら、そうですね」


 実力差で叩きのめされた。

 武器を破壊された。

 プライドをズタズタにされた。


 だけど、それよりも1番嫌なこと。


「──会えぬこと、ですかね」

「会えない? 何故だ、普通裏切り者の顔は見たくないだろ」


 普通ならね。


「でもクラップさん言いますたよね。大事な人、と」

「まぁ、言ったが」


 私は髪の毛を結ぶ青いリボンをくるくると指で回しながら困ったように笑った。


「文句も言えぬし、絶交も言えぬの、辛いじゃなきですか。今まで築くした時間に、精算が付けられぬの、苦しいじゃなきですか。裏切り者がこの先何をしているか、分からぬの、悲しいじゃなきですか」


 だって、大事な人なんでしょ。

 途端に息が出来なくなって、頭が回らなくなって。そんなショックを抱えたまま生きるなんて、惨すぎる。


 裏切りに罰を与えなければ、裏切られたままでは何も進めない。

 待てばいいのか裁けばいいのか分からないまま無駄な時間を過ごしていく日々の無力さと言ったら。


「大事であればあるほど、裏切りの衝撃が強きほど、会えない事への辛さは比例すると思うです。知りませぬか、怖いって感情の意味」

「怖い?」

「知らない、分からない、理解出来ない。……人間は愚か故に、自分の理解が及ばぬことに怯えるのです。それを恐怖だと言うのです」


 私は軍事国家トリアングロ王国の幹部を見上げた。


「理解出来ぬ魔法を、強さを、怖いと思う人、居ませぬか」


 貴方は魔法が怖くないですか?

 ひ弱な人間からどんな種類でどんな威力の魔法が飛んでくるか寸前まで理解が出来ないの。どんな対策を取ればいいのか分からないの。怖くない?


「だから私、大事な人に裏切られた者が1番嫌なこと。何も分からないまま会えぬことだと思うですよ」


 私がそこまで意見を述べると、黙って聞いていたクラップは息を吐いた。


「そうだな、言い分に理解出来る。参考になった」


 どうやら私の意見はクラップの腑に落ちた様だ。

 質問の意図が分からないけれど、クラップに好印象与えられたということでいいだろう。よしよし。


 クラップは再び歩き始める。私はそれを追いかけた。

 歩幅くらい気を使ってくれないかなぁ! 常に小走りなんだけど! 全く、これだから童貞は──


「…………悪ぃ、嫌な事を思い出させた」


 聞き間違いかと思うくらい小さな声で私の耳に入り込んできたのは奇跡と言っても過言ではない。


「──! ……! っ!」

「……うるせぇ」

「まだ何も言うしてないですぞね!?」

「あーあーうるせぇうるせぇ、何言おうとしてるか分かるんだよ、分かりやすすぎて!」

「酷き! 手荒! そんなんだからモテぬですーっ!」

「殴るぞ!」


 キャイキャイ騒ぎながらクラップの周りをぐるぐる回る。

 手応えが分かりやすいからやる気に繋がってとてもありがたい話でございます!


 監視がフロッシュじゃなくて良かった。

 まぁ見るからに分かりやすいスパイだからって意味だと思うけど。別にスパイじゃない。


 うんうん、私別にスパイじゃないもん。人探しって個人的な目的でトリアングロに旅行に来ているだけだもん。……あれ、最初からそれいえば良かったんじゃ?


「それで、質問の意図、聞くしても良いです?」

「ん。まー、なんだ。取り扱いに悩んでるもんがあってな」


 目的地に着いたのだろう。クラップは立ち止まった。


「異世界人だって事はまぁなるべく漏らさない方がいい。姫さんに新しい仕事だ、あのエルフと纏めて監視をしとけ。逃がさないように」

「エリィさんと? でもエリィさん王都に行くですけど」

「さっきの会話で処遇が決まった。王都に連れてく。よってまぁ、顔合わせみたいなもんだ」


 エリィみたいに丸め込む必要のある人間なんてそう居ないよね。


「……んぇ? 私と顔合わせ?」

「姫さんも王都に向かわせる。あのエルフの相手出来る人間はこの基地に姫さんくらいしかいねぇだろ」


 ビクトリーー!!!!


 うっそでしょ、エリィ大手柄じゃん!?

 私、トリアングロの手によって王都に行けるの!? しかも今なら命令主が幹部という大ボーナス付き!

 いやぁ、運がいいなぁ!


「クラップさんと離れるはちょっと嫌ぞ」

「まぁ、俺も今の仕事が終わったら一旦王都に向かう。それまでややこしい事はすんなよ姫さん──」


 少し考える素振りを見せたクラップが、私を振り返って口を開いた。


「リィ──」



──コンコン


 内側からノックの音が響いた。


「さっきっから声が聞こえるのだが、話があるなら室内で──」


 部屋の中から出てきた顔。

 成人したばかりかはたまた寸前か、その顔は基地の兵士と比べて幼さが残る。


 その人物は短く切りそろえた金髪(・・)を揺らし、大きく開いた碧眼(・・)で私を見て硬直する。

 そして1分だったか10秒だったか1秒だったか、思い返すように考え事をした、その方はポツリと呟いた。



「キミは確か……リィン?」



 パターン1、シラを切る。私は金髪だけどいつもの黒目と違って青色の目をしている。別人だと言い張れる。だけどそれだと何故名前を知っているのかってことになる。

 パターン2、口封じさせる。わぁ偶然ですね、この前会いましたよね。名前覚えててくれたんですか。兄妹のように可愛がってくれましたよね。ただしこの人が部屋から出ていない可能性が存在するしクラップが戻ってからは常にクラップの監視がついてたから無理。

 パターン3……(ここまで約0.5秒)





 ──脱兎!!!!!


 リィン は 走り はじめた !


「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ! 何が異世界人だぁ! バッチリ知り合いじゃねぇか姫さん!」


 だってこんなところで出会うとは思わないじゃんかぁ!


「──クアドラード第2王子と!」



 ボン、と地面を蹴る音がして、ワンテンポ私の方が先に走り始めたのに追い詰められる気配がする! やばいやばいやばいやばい! 普通にバレた!!!


 なんでエンバーゲール殿下がいるんだよーーーっ! もう少しだったのにーーーっ!


「びぎゃあああああ! 来るなぞ鬼ぃ!!!!」

「流石に言い逃れは出来ねぇぞ姫さ」

「撤退っ! 撤退ーーーっ!」


 大広間に逃げ込んだので大声上げながら人混みの中に飛び込んでいく。

 あぁぁぁぁくそめちゃくちゃ身バレしたぁ!

 貴族だって事はバレてないけどFランク冒険者だって事は速攻バレるでしょこれ! 逃げるが勝ち!



「月組ーーーッ!」


 私が王都に向かうって事は情報共有できてないから誰も知らない事だしここでバラバラになるのはまずい!

 私は声を荒らげた。

 なんだなんだと注目が集まるが誰も状況が読み込めない。


「思ってたより持った! 上出来!」


 人混みの中からお褒めの言葉と共に同時に飛び出したのはグレンさんとリックさんの2人。よし、エリィは見つけ次第回収! 見つからなかったら放置!


「俺から逃げられると思うなよ姫さ──」

「必殺シリーズ! 〝レモン消毒液〟」


 建物の外に転がり出たタイミングで追いつかれたので袖から消毒液を取り出して噴射した!


 ふっふっふっ、私に武器は与えないようなしていたみたいだけど、お前が来る前に仕込んだ消毒液(レモン入り)はいつ持っててもおかしくないもんね!


 足の止まった一瞬のタイミングで距離を取る。


「リィンさん何事です!?」

「見っけ! エリィ鬼ごっこしよ! あれが鬼ね!」

「鬼ごっこ!」


 嬉しそうな顔をしたエリィが一緒に逃げ始めた。──何故かよく分からない誰かと手を繋いで。


「……だれ?」

「ごめんあたしもよく分かんない。何事?」


「姫さんッッッ!」


「ひぇっ」


 怒りを含んだ怒号に胃痛が痛くなってきた。


「逃がすか、絶対逃がすか! ──ってシラヌイ! お前もいるのかよ!」

「え、は!? クラップ!? うっっっっわやっば……!」


 シラヌイ?

 その人はエリィと手を繋いで、一緒に全力で逃げ始めた。


「アレから逃げてるんだったら丁度いい! あたしも一緒に逃がして!」

「異世界人?」

「うんそう!」

「「異世界人!?」」


 もうそろそろ頭がキャパオーバーだし普通にすぐ追いつかれ──!



「エリィ魔法!」

「ふふふ、実はリィンさんにサプライズがあるんです」


 咄嗟に指示を出したがエリィは得意げに笑う。

 なんだって? ちょっとワクワクしてそうな雰囲気で悪いけど、私はそこはかとなく嫌な予感しかしないから早く言ってみて?


「──実は精霊が私の言うこと聞きませんの!」


 なお、未だにドヤ顔しているのである。


「ばぁああああか!!!!」

「なっ、馬鹿と言った方が馬鹿なんですのよ! リィンさんのばーか!」

「……お前ら本当に俺から逃げる気あるのか?」


 あ、追いつかれた。

 何故か脱力している。


 く、こうなったら無理矢理リミットクラッシュして足止めを魔法で……。


「〝火球〟──急急如律令!」


 グレンさんが懐から取り出したなにかの紙を掴むと、そこからファイアボールが飛び出した。


 魔法を使えない国での魔法に思わず目を見開く。


「今だ、逃げるぞ!」

「うん!」


 後で聞かせてもらうけどね!?


「──じゃあねクラップ! お前との仲良しごっこ、楽しかったぞ!」

「どこの悪役だ!」


 自分の国に潜り込んだ敵国の裏切り者は、世間一般的に言うと悪役なので問題なし。





 こうして『言語不自由の達人 リィン』に『能天気名前覚えない馬鹿 リック』に『死霊使い グレン』に『ナチュラルバブエルフ エリィ』のパーティーに、『異世界人 シラヌイ』の新胃痛案件(メンバー)が加わったのであった。チェンジで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 唐突なドタバタ劇キターーー!!!!! クラップさんはすっかり慣れたな~と思ったら知ってか知らずか随分ドキッとさせる質問ぶっ込んできたな!! リィンちゃんの答えは恐らくドストレートな本心だ…
[良い点] なんともまあ愉快なメンバーになったもんだなぁ。 やったね!予想的中だよ!カナエさんご登場だぁ!! あの愉快なメンバーでここまで長く潜入できたの奇跡よねー?褒めたグレンさんに激しく同意しち…
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