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第120話 一方その頃あそこら辺では



「え、やばくないかこれ」


 まさか誰よりも先にリィンがバレるとは。

 グレンがその言葉をグッと飲み干して、リックの口を離す。実はリックが余計なことを言わないように無理矢理口を塞いでいたグレンだった。腐れ縁はよくわかっている。


「なぁ友よ」

「兄弟」

「なぁ兄弟よ、どうする?」

「どうするったって」


 ズッコケパーティーの頭脳だぞ、彼女は。


 グレンは悩む。直前に交わした会話に込められた意味も分かっていた。自分が込めた意味も把握されているだろう。それだけ頭の回転が早いということだ。


 彼女がいなければどうにも出来ないし、嘘つきを巡る舞台の主役は彼女だ。

 話が始まらない。


「──嘆願書でも、書く?」


 ちょっとよく分からない提案に、グレンは肩の力が抜けてしまった。


「あぁ、うん、そうだな……。お前馬鹿だよな……」


 ダクアの悲劇(きげき)。リックの布教によりリィンファンが増えた案件が再び顔を覗かせようとしていた。お前布教力はやばいんだって。


「今更リィンちゃんの笑顔が見れない生活に戻れねぇ! 野郎共ー! 癒しが、欲しいかーーーー!!」



 はぁ。


「空が、綺麗だなぁ」


 グレンは遠い目をした。リィンの好感度上げと、リックの布教力。それら合わさればファングラブが爆誕する。悲しきかな、これが運命というものであった。



 ==========




「いやちょっと待て早過ぎないか?」

「ヴォルペール殿下? 聞いてますか?」

「いやごめんエルドラードちょいと待って」


 自分の視界で景色を見ている上に、魔法によりリィンの視界も見なければならない。

 二重の視界の中では普通の生活もろくに出来やしない。


 そんな中、リィンの視界で色々問題があった。


 絶対これダメなやつだろ。


「それで、よりにもよって黄金の君を逃がした殿下。中央はこの戦争どうするって言ってましたか?」

「おま、自分の父親が大臣なんだから親に聞けよ」

「ここ数日帰ってきてませんけど」


 大臣はガッツリ仕事漬けであった。

 ちょっと申し訳なく思った第4王子(ペイン)はしっぶい顔をした。


 リィンの視界でリィンが運ばれていく。そちらに意識を集中すると自分まで連れていかれている気分だ。バランスを崩しそうになる。

 慌ててクロロスの顔面に集中した。


「殿下?」

「お前の顔面可愛げがなくて落ち着く」

「喜べばいいのか悲しめばいいのか反応に困る感想を抱くのやめていただいても?」


 ヴォルペールはひとつため息を吐いた。


「王宮はまぁ、それなりに絶望的だな。今うちの手駒に盗ま……探らせているが」


 ちなみに彼の言う手駒はサーチである。国の許しを得た、真っ当な盗みだ。


「あのカジノの地下に入り浸っていた貴族は正直ただの膿だ。内部分裂も甚だしい。エンバーゲール様に着いてる側というか。まぁ、トリアングロにそそのかされている奴らだ。早めに罰する証拠がいる」

「なるほど、あそこを根城にしていたトリアングロの動物の手の中ってことですか」

「そういうことだ。それに国境の要であるローク・ファルシュ辺境伯か倒れたと聞いた。……正直言って、さっさと降伏した方がいい、という意見が殆どだ。リィンが受けた仕打ちも、練られた策も、エンバーゲール様の離反も。それら全てが『トリアングロが全力で攻めてきた』という証明になった」


 特にリィンの現状に関しては。

 冤罪をふっかけた立場として言わせてもらうが、まさか本物の狐が隣にいるとは思わないだろ。



 人知れず口封じとしてリィンが死んでいれば、恐らく『現実』は見えて来なかった。

 これまで相棒を騙し通し、情も容赦も無く叩きのめしたルナールのこれまでの『努力』が。国家の、何よりも重鎮達に伝わった。


 彼らが見えたのはルナールの努力だ。べナードの手腕だ。

 もしかしたら他にも自分たちの知らぬ間に準備を終わらせているのかもしれない。



「──だが国家はそれに待ったを掛けた」


 開幕1週間も経たずに身バレをしたであろうピンチの運命を助けるためにペインはいそいそと荷物の準備をする。


「それは、なぜ」

「トリアングロに降伏をすれば、魔法のない生活になる、と判断を下した。我が国の生活に魔法は必要不可欠だ。交易も、移動手段も、食事も。生活に必需な魔法を切り離しては最低限の生活すらままならない」

「まぁたしかに。エルフも多い国柄ですし魔導具はありますけど、根本は魔法ですね」

「そこが分かるなら話は簡単だ。国王陛下は戦争に乗り気な方では無いしな。……──生活から魔法を切り離す期間が必要だ」



 クロロスはその言葉に、クアドラード王国がどんな姿勢でこの戦争を行うのか察した。



 ──負け戦。


 ただひたすらに耐えて、国内がトリアングロに支配されても国民が困らないようにする為の戦争。


「もちろん使者も送る。こちらの意図を知らせると、苛烈に攻められる可能性があるため探り探りだがな……。絶対漏らすなよ」

「はい、殿下のお心のままに。──でーーすーーがーー!」


 クロロスはキッと眉を釣りあげた。


「その荷物はなんですか! というか俺の家なんですけどここ! 着々と準備をするなどこ行くつもりだ。こんな非常時に脱走させると思わないでくださいね!?」

「俺のお心のままにだろ」

「それとこれとは話が違います!」


 2人も金の血を逃がしてたまるかと息巻くクロロス。

 ペインが冒険者生活で通行記録を取っている理由がこの従者だった。自由にしたいのにこいつうるさいから居場所を逐一確認出来るようにしているのだ。ウザイ。

 何がこの男をそこまで駆り立てるのか分からないが、常に付きまとわれるよりはマシだ。別に嫌いではないが、まぁウザイ。

 それに今回はリィンを逃がしたことで怒りが限界突破しているようだ。


「大体、リィンだってただの庶民だ。貴族の家に居たって居心地悪いだけだろ」


 やれやれと頭を振りながらリィンの視界を意識する。


 リィンの視界の目の前、トリアングロの兵士が足で踏みつけるのが見えた。


「くっそ、クロロス・エルドラード、頼むから見逃せ」

「ダメです。ダメなもんはダメです。──貴方、黄金の君に馬を貸したでしょう。検問の騎士が貴方からの命令だと報告がありました。そしてその馬が乗り捨てられたのはダクア。国境まで行くならファルシュ領に乗り捨てられるはずです。だから、国内にいる可能性が高い」


 クロロスはヴォルペールを見た。


「殿下、一体何を知ってるんですか。一体、何をしようとしているんですか」


 ペインが五感を共有することが出来る、というのは一部の人間しか知らない。冒険者ならともかく、貴族王族で知る人間は少ない。クロロスだって知らない。


 それくらい言えないのだ。



「──リィンの視界を覗く魔法を掛けた。あいつは今、トリアングロに居る。幹部と思わしき人間に拷問を受けかけている」


 ヴォルペールは簡単に答えを出した。

 どんな立場を押しても助けると、そう約束したから。約束を破られたばかりのリィンを、裏切ることなんて出来ない。



「ばっ、馬鹿ですか!?」

「はぁ!? お前主人に向かって何言って」

「──金髪はクアドラード王国の王家の血を引いてる髪色なんですよ!? わざわざ金の血だとアピールしながら潜るなんて真似ッッ!」




 奇跡的にも、従兄妹達はどうタイミングで声を揃えた。



「はあああああああああああ!??!???!??」



 貴族ならまだしも庶民に遠い親戚が居るとしって大パニックだ。まぁ、実際は庶民ではなく貴族なのだが。

 幸いなことに残念な言語のせいで貴族だと考えられないのだった。





 ==========





「早く、伝えなきゃ……!」


 森の中を必死に駆ける女が1人。


「ッ、はぁ、もうすぐ……っ!」


 もうすぐ、国境。


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― 新着の感想 ―
[良い点] リックさんの布教力半端ないな!こうしてファンクラブが出来るのね。トリアングロ兵士もリィンちゃんファンクラブに入るんすかね? ペイン君来ましたね!ペイン君とクロロス君の絡み好きなのよ。 別…
[良い点] 早速リィンちゃんが捕まった……!! リックさんお口塞がれてたとはいえよく堪えたね、ここで騒げば芋づる式に全員……… ……全員?……バブちゃんどこいった? そしてここでもリィンファンクラブ…
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