5-23.トレント猛攻
場面は魔法街にて緊急クエストを受注し、トレントと戦っていた所へ戻る。
前述の経緯により、龍人は新しいスキルを習得していたのだ。そして、そのスキルがピンチを切り開く一手となった。
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龍劔術【黒刀】の赤い稲妻を纏う黒い魔力の刃は、空から降ってきたトレントを弾き飛ばす。
おしっ!龍魔力発動までの時間が短縮出来てなかったら危なかったけど、結果オーライだ。
「ギヂギヂギヂギヂ…。」
ひっくり返ったトレントは足みたいな根っこをグネグネ動かしながら起き上がってくる。
真下から黒刀の斬撃を当てたのに倒せないのか。想定以上に強い。Bランクの魔獣はそう簡単には倒せないって事か。
「龍人君ナイス!」
炎矢をトレントに連射しつつ、火乃花が俺の隣に移動してくる。
「先ずはコイツを倒すわよ!」
「オッケー。」
つっても、今の俺の実力だと連続で攻撃を叩き込まないと倒せそうにも無い。…ここは有利属性を使う火乃花をメイン火力にして。
「龍人君、火乃花さん。他の4人で隙を作ります。2人は同時に特大の一撃を叩き込んで欲しいですの。」
え?俺も?
「ルーチェの言う通りですわ。火系統の魔法を使えるのは龍人と火乃花の2人。私とルーチェで攻撃の道は確保しますわ。」
「守りは私に任せるのよ。」
マーガレットとルーチェが道を切り開き、マリアが俺たちを守る。その間に最大火力の攻撃を叩き込む準備を整えるって事か。
「ギヂ!ギヂギヂギヂギヂ!!!」
そうこうしている内に、火乃花の炎矢を受けながら起き上がったトレントが木の鞭を振り回し始めた。
うわっ…切れ味が半端ねぇんだけど。周辺の木々がバターみたいに切られてますよ?
「行きますわ!!」
マーガレットとルーチェが前に出て木の鞭による攻撃を捌き始める。一進一退…いや、トレントの方が優勢。
「火乃花。どの攻撃でいく?」
「真焔【戦神ノ業焔】に真焔【流星】を重ねるわ。」
「えっ。同時に?」
スキルにスキルを重ねるって出来るのか?
「えっ。…じゃないわよ。龍人君だって龍人化【破龍】と龍劔術【黒刀】を同時に使ってるじゃない。」
あ…。確かに。でも龍劔術は龍人化を使ってないと使えないんだよね。そう考えると、俺のスキルって龍人化が使えなくなったら全部使えないのか?微妙に死活問題な気がする。
要検証だな。
「言われてみれば。…じゃあやりますかね。」
「龍人君はどうするの?」
「俺は…ちょっと試してみたい事があるからやってみる。」
フィニッシュは火乃花に任すべきだろ。それなら、致命打を与える隙を俺が作らないとね。
ってな訳で、俺はトレントに向かって…歩く。龍劔術【黒刀】でルーチェとマーガレットが捌き切れない木の鞭を薙ぎ払う。
…切っても切っても枝が無くならない。切られた側から再生してるっぽいな。となると、やる事は1つだ。
「再生速度より速く斬りまくる!」
俺は魔法陣から夢幻を取り出したり
単純計算で2倍の斬撃だ。俺が歩いてたのはこの為。トレントのスペックを測り、一気にとどめを指すのが目的だ。
2刀流で攻撃量を一気に増やし、隙を作ってやる。
「おらぁあ!!!」
龍劔術【黒刀】で強化された2つの刀を振るう。
トレントも攻撃速度を上げて応戦してくる。俺1人じゃあ対応し切れない攻撃量。でも、俺には仲間がいる。
少し後方からルーチェとマーガレットが光魔法を的確に放ち木の鞭を弾きまくってくれるお陰で、なんとか攻め切れる。
木の鞭を斬って、斬って、斬って…無心に刀を振り続ける。
…ここだ!!
木の鞭による嵐のような攻撃に1本の道が見えた。その道を塞ぐ幾本かの木の鞭を叩き斬れば…!
龍刀と夢幻をそれぞれ左右斜め上に振り上げ、交差するように振り下ろす。エックス斬りみたいなね。
そして、交差した龍魔力の黒い斬撃を飛ばした。
「ギヂギヂギヂギヂ!!!」
慌てたように木の鞭を集中さけようとするトレント。
しかし、エックス斬りの斬撃の軌道を四角く覆うように物理壁が展開され、木の鞭を尽く弾き返した。
「ふふっ。こうやって美味しい所を持っていく私。」
マリアだ。
つーか…物理壁が移動しているように見えたんだけど。
けど、この疑問を追求する時間は無かった。後方から物凄い熱量の魔力が膨れあがったんだ。
「いくわ。」
真紅の焔を纏った火乃花だ。真焔【戦神ノ業焔】を使った時間限定のブーストスキル。この状態の火乃花にぶん殴られた記憶が蘇る。
…マジで強いんだよな。
「真焔【流星】。」
スキル名の詠唱と同時に拳大の焔が流星の如く放たれ、俺とマリアがこじ開けた道を突き抜ける。
……拳大?サッカーボールくらい大きいんですが。スキルの併用恐るべし。
ドドドドドドドドドドドド!!!!
爆発音のような鈍い音が大気を震わせ、幹をくの字に歪ませたトレントが苦悶の奇声を発する。
お、倒せたか?トレントの体が収縮していく……えっ?
「ギヂギヂギヂー!」
収縮したかと思ったトレントの体が急激に膨張して…何かを飛ばしてきた。
…嫌な予感がする。
追撃を仕掛けようと思ってたけど、咄嗟に物理壁を展開して防御へと切り替える。
ドガガガ!!!
銃弾にでも撃たれたみたいな音だ。
「これは…木の実?」
「マズいですわ。」
俺の隣に着地したマーガレットが左腕を押さえながら、歯噛みする。
…って、押さえた腕の隙間から何か出てきてるんですが!?これは、木の芽…?
「マーガレット、今の攻撃は何なんだ?」
「恐らくトレントシードですわ。低ランクの魔獣に減り込むとその魔獣を操り、人に減り込むと目を出して魔力を吸い取る極悪な攻撃ですわ。それに…トレントシードが当たった左腕が動かしにくいですわ。」
マジかよ…。被弾が許されないとかヤバいだろ。
俺は慌てて仲間達の様子を確認する。
……無事なのは、俺と遼だけか。
防御が間に合わなかったんだろうな。皆が体の数カ所から芽を出して辛そうな顔で立っている。
さっきまでの戦いで魔力を消耗している上に、魔力を吸い取られ続けるとかハンドモードにも程がある。
「ギヂギヂ!!ギヂギヂギヂギヂ!!!」
トレントは何が楽しいのか、木の枝をバサンバサンと打ち合わせて体を揺すっている。
「マーガレット…トレントシードの魔力吸収を解除する方法ってあるのか?」
「…火系統の魔法なら燃やして無効化できるのは知っていますわ。それ以外の方法は…定石があると思うのですが…。」
知らないって事か。でも、火系統の魔法以外で対処出来ないとしたら、ランクBよりは上になりそうだから…きっと対処方法はあるんだろうな。
ボワっ!という音に振り返ると、火乃花がトレントシードを燃やして灰にしていた。
「魔力が吸われたから…後2分くらいしか真焔【戦神ノ業焔】がもたないわ。やるなら次の攻撃よ。」
「マジか…。」
マズい。火乃花の攻撃で倒せなかったのは想定外だ。弱点属性を操る火乃花がスキル併用をした強力な攻撃で倒せないとなると、突破口が見出せない。
いや…でも、見た感じはトレントの体の半分以上が焦げてるんだよな。
もしかしたら、もう少しで倒せるとか?植物系の魔獣だからダメージ蓄積が見にくいって可能性はあるかも。
…チャンスはまだある?
「……火乃花。もう一度やろう。俺が懐まで潜り込んで上に斬り上げる。そのタイミングで同じ攻撃を頼む。」
「任せて。」
今度は俺と火乃花の2人だけでやる必要がある。使える手段は全て使わないと。
…そうだ。俺は龍人化【破龍】だけが武器じゃない。それを前提にすれば…!
火乃花と頷き合い、トレント目掛けて突き進む。
火乃花の真焔【流星】が木の鞭を燃やし、弾き飛ばしてくれる。数本の木の鞭が焔の弾幕をすり抜けてくるが、光の矢が割り込んで吹き飛ばしてくれた。マーガレットだ。遼の魔弾も、ルーチェの光魔法も援護してくれる。
さらに接近したタイミングでトレントシードがばらまかれたけど、俺の前面を守るようにマリアの物理壁が展開され、俺の移動に付随してくれる。
皆が魔力を吸われる中、繋いでくれたこの道…無駄には出来ない!!
「先ずは…吹き飛べ!!」
魔法陣直列励起による威力特化型の爆風を前方に発動。更に、炎渦を風に乗せる事でトレントシードを吹き飛ばし、燃やし尽くす。
「ギヂギヂギヂギヂ!??」
トレントシードが効かないと判断したのか、トレントは木の鞭による波状攻撃へと切り替える。
マリア…真似させてもらうぞ。
物理壁を連鎖的に展開。木の鞭が次々と打撃を加えてくるけど…何とか耐え切ってるな。マリアみたいに物理壁の移動は出来ないけど、これでトレント迄の道は確保できた。
「これで…!」
龍劔術【黒刀】で漆黒化した龍刀と夢幻を振りかぶる。最大級の斬撃をぶつけて、宙に浮かせてやる!
…ここで、俺の意識に油断が生じたのを、自覚できていなかった。
物理壁の隙間を縫うようにしてトレントの根が内側へ侵入してきた。そして。
パァン!!
と、弾け…俺の全身にトレントシードが直撃したんだ。
衝撃に仰反った俺が見たのは、背後の地面から生えた根から射出されたトレントシードの直撃を受けて倒れ込む火乃花。
遼、ルーチェ、マリア、マーガレットも追撃を受けたのか…体の数箇所から芽を出した状態で倒れている。
このままじゃ、全員が魔力を吸われてやられちまう。
俺の体も至る所から芽が出始めている。
魔力が減れば減る程…取りうる手段が限られていく。
絶体絶命。の文字が頭に浮かんだ。




