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5-21.湖エリア

仕事の都合で久々の投稿となりました。

次週より定期投稿再開します。

 マーガレットが言った湖エリアを見た俺は首を傾げる。

 序でにさり気なく強引にマーガレットの幸せウフフな抱擁からも脱出した。何故か名残惜しそうな顔をしてるけど、気にしない…気にしないぞ!


「湖が見えないのは気のせいか?」

「気のせいではありませんの。湖エリアは外側に林、内側に湖が広がっていますの。」

「なるほどね。…ん?禁区の形状的に、湖ってドーナツ状なのか?」

「そうですわ。だからこそ…の厄介さがありますの。」


 困った様に眉根を寄せるルーチェの横にマーガレットが並び立った。

 ダブルお嬢様。神々しく見えるのは気のせいではない筈だ。

「その通りですわ。強力なBランクの魔獣は、通常縄張りがあるものてすが、この湖エリアにおいては回遊する傾向にありますの。」

「え…それって……。」


 若干引き気味の遼を見てマーガレットは薄く笑う。


「いつどの魔獣と遭遇するかが未知数ですわ。」

「うげ…。」


 Bランクってだけで厄介なのに、戦う相手を選べないって…若干鬼畜仕様じゃん。

 緊急クエストの元凶が湖の中にいたら、相当やばくないか?回遊するって事は1箇所で止まって戦ってたら、次から次へと魔獣がやってくるって事だよね。魔獣大乱闘じゃん。


「ただ…今回の討伐目標は林にいる可能性が高いのですわ。」

「あ、そなの?」

「えぇ。そう言えば魔獣の名前を言ってませんでしたわ。聞いてくれれば良いのに。」


 いや、聞きにくい状況を作ってましたよね?


「私どもの予想が正しければ…」


 バキバキバキバキバキバキ!!


 木か何かがへし折れる音に全員の動きが止まった。


「…ビンゴですわ!今の音から察するに、活動を開始しましたわ。ここからは時間勝負です!マリア!いつものいきますわ!」

「任せて。」


 マーガレットとマリアが走り出し、その後ろを俺達が追いかける。


「マーガレット!魔獣の名前は!?」


 前を駆けるマーガレットは指をぱちんと鳴らす。


「ズバリ、Bランクの魔獣、トレントですわ!」


 トレント…所謂、木の魔獣だよな。葉っぱやら木の実を飛ばしたり、根っこで叩きつけてくるイメージがあるけど、大体そんな感じかな?


「トレント…マズいわね。活動時に近寄るとか聞いた事ないわよ…?」


 火乃花の怪訝な声に振り向いたマーガレットは深く頷く。


「そうですわ。通常なら非活動時を狙って攻撃を仕掛けます。」

「どうしてだ?」

「それは……。」


 マーガレットの両手に光が瞬き、空を駆け上がる。

 ババババン!と炸裂音が連続し、木の破片がパラパラと降り注いだ。なんだ?木の枝を撃ち抜いたのか?


「……こういう事ですわ。」


 ズザザザザ!!っと、俺たちの周りに小さな木の魔獣が着地した。なにこの数…。


「皆さん!要注意ですの!この魔獣はトレントベビーです。トレントが量産する小型魔獣ですの!」


 小さな木の中心にある目玉みたいなのが、一斉に見開かれ…ギョロリと俺たちを睥睨する。無数の眼に睨まれるのって気持ち悪い。


「ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ。」


 …変な声を出す魔獣だ。しかも、周囲360度から聞こえるから頭がおかしくなりそうだよ。


「ちょっと数多過ぎない?」

「そういうものなの。…来る!」


 地獄に突き落とされた。みたいな顔をする遼の肩をポンポンと叩いていたマリアが両手を広げると、全方位に物理壁が展開される。

 そこに叩きつけられたのは木の鞭だ。トレントベビーの奴ら、ちっこい割に手みたいな枝がすごい伸びるのね。

 さて…これだけ囲まれてたら、俺の新しいアレを試すチャンス…


「一回吹き飛ばすわよ!!」


 両手に焔を灯した火乃花が演舞の様に回転し、灼熱の炎が全方位に向けて放たれた。

 トレントベビー達はギチギチと音を立てて、為す術も無く灰になっていった。


「案外弱いのね。」

「火乃花ナイスですわ!今の攻撃でトレントベビーをかなり片付けられた筈です。再び増える前に本体を狙いますわ!」


 マーガレットの号令を合図に全員が一斉に行動を開始した。

 マリアが奇襲に対応し、マーガレットと火乃花が前衛で道を切り開く。前衛で撃ち漏らしたトレントベビーをルーチェが光魔法で撃墜しながら後方からの攻撃に対応。遼は広報中心に近寄ってくる前に敵を狙撃していく。

 俺?俺はそれらの撃ち漏らしが接近してきた時の対処係だ。まぁ適材適所って言葉があるくらいだからな。相手が木の魔獣じゃなければ俺が前衛だったんだろうけど、有効属性を得意とする火乃花が前衛になるのは当たり前だわな。

 俺たちは湖エリアの林を時計回りに進んでいった。

 襲ってくるトレントベビーは5体前後。俺たちの布陣で苦になるはずもなく、順調に探索は進んでいく。

 ドーナツ状になっている林の西側辺りに到着した所で、顎に手を当てたマーガレットが立ち止まった。すぐ隣では火乃花に燃やされたトレントベビーの残骸がブスブスと煙を上げている。


「おかしいですわ。基本的にトレントベビーは親であるトレントを守る様に動きますのに。」

「ですの。今のトレントベビーの動きは規則的過ぎますの。」


 ルーチェが同意を示しながら額の汗を拭く。お嬢様2人の会話って感じで入り込みにくい。


「普通はトレントベビーの攻撃が薄くなるか、厚くなるかをする筈ですわ。それなのに最初の襲撃以降…変わっていませんわ。」

「可能性は2つですの。トレントが私達を追いかけているか、私達から逃げているか。」

「しかし…そうする理由が分かりませんわ。」

「むむぅ…ですの。」


 困った顔で首を捻るお嬢様達…絵になるな。

 …ん?

 妙な気配が…。


「…!上だ!!」


 空から降ってくる物…それは巨大な木の塊。いや、違う。

 こいつがトレントか!!

 このタイミングはマズイ。反応出来るのは…俺だけ!


「龍人化【破龍】」


 相手は巨大な質量の魔獣。となると、生半可な攻撃じゃぁ弾かれて終わりだ。

 それなら…。


「龍劔術【黒刀】うらぁぁぁ!!!」


 龍刀を赤い稲妻が付帯する黒い魔力が包み込む。

 これが夏合宿で習得した龍魔力だ。

 俺は気合いのまま、無造作にトレントへ向けて龍刀を振り抜き、龍魔力の刃が飛翔。トレントの胴体中央に直撃した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍人が赤い稲妻を纏う黒い魔力…龍魔力を習得したのは、夏合宿最後の特訓であるサバイバルバトルだ。

 生徒同士の協力が禁止されたこの特訓は、単純に生徒個々人の総合力が試されるものだった。

 攻撃力に欠ける者は防御に徹し、相手の被ダメージバーがゼロになるタイミングで効率的な攻撃を仕掛ける。

 防御力に欠ける者は回避行動を中心に被ダメージを抑えながら、相手の撃破を優先に動いていく。

 そして、オールラウンダーの実力を持つ者は状況に合わせて適切な行動を取る事で、有利な展開に持ち込む事が出来る。

 この点で、龍人は他の生徒達よりも秀でていた。


「おっし!これで撃破数5だな。」


 クラスメイトを背後から奇襲して撃破数を稼いだ龍人は、辺りを見回すと駆け出した。

 3人目を撃破した辺りから、誰かにつけられている気がしているのだ。

 もし、その相手が狙撃する瞬間を狙っていたとしたら、立ち止まる事はリスクでしかない。

 幸いなことに今のところは攻撃されてはいないが、もしかしたら油断させておいて最も気の抜けた瞬間を狙おうとしているのかもしれない。


「…気持ち悪いな。このまま追跡させるよりも、炙り出して撃破した方が良いかも。となると…。」


 走りながら思案した龍人は、近くにあった大木の反対側に回り込んで追跡者の死角に入り込むと、魔法陣を展開して地面に開けた穴へ飛び込んだ。更にもう1つの魔法陣で穴の入り口を塞ぐ。


(今まで属性【地】系統の魔法は使ってないから…相手は俺の姿が消えて動揺するはず。移動系魔法での高速移動か、木上からの襲撃を俺なら予想する。そうなれば…。)


 穴の中で息を潜める龍人の耳に足音が届く。

 距離は数メートル。恐らく大木の陰に姿を消した龍人を追い、姿を見失ったことで足を止めたのだろう。

 これこそが、龍人の狙った状況だ。

 人は予想外の状況に陥った時、思考に空白の時間が生じる。そこを狙えば…。


(一撃で決める!)


 このサバイバルバトルは被ダメージを如何に抑えて撃破数を稼ぐのか…という点が最も重要。つまり、正々堂々と正面から戦うのは得策とはならないのだ。

 その側面ではかなり実戦を重視した特訓だとも言える。

 故に、龍人は奇襲を躊躇わない。

 隠れている穴から追跡者が一歩遠ざかったタイミングで、龍人は電撃を放つ魔法陣を多重展開してさみだれ撃ちを仕掛けつつ、穴から飛び出して龍刀の一閃を見舞う。

 余談ではあるが、銀の腕輪には装着者を守る魔法壁と物理壁が自動展開される機能が付いている。つまり、余程強力な攻撃をしない限りは相手を傷付ける心配は無いのだ。

 雷撃が晴れ、その向こうにいるであろう追跡者へ龍刀を振り抜いた龍人は、まさかの光景にギョッとしてしまう。

 そこには焔鞭剣を構えた火乃花が立っていたのだ。

 今の雷撃を防ぎ切った事も驚きだが、何よりも龍人を驚かせたのは殺気すら感じさせる相貌。


(…マズい!)


 危機を感じて横に飛び退いた龍人の頬を鞭のように撓った焔鞭剣が掠る。


「あっぶね…!…なんで俺を狙うんだよ。」


 不可解だった。ポイントを重ねるためには自分よりも弱い相手を狙う事が定石となる。その条件で実力が比較的拮抗している相手を狙うことは…リスクが高いと言わざるを得ない。

 焔鞭剣を剣の形に戻した火乃花は、龍人の疑問を鼻で笑った。


「そんなの決まってるじゃない。龍人君が強敵だからよ。私が撃破ポイントを重ねても、龍人君の方が上を行く可能性が高いわ。だから、龍人君の被ダメージポイントを減らさないと。そうしないと1番は狙えないでしょ?」


 次々と放たれる炎矢を魔法壁で防ぎながら、龍人は自身の考察力の甘さに気付き…内心で舌打ちをしていた。

 つまり、このサバイバルバトルは龍人が想定していたよりも複雑だったのだ。撃破数と被ダメージのポイントを掛け算する事で順位が決まると言うことは、強敵の被ダメージポイントを減らせば…どんなに撃破数を稼いでもポイントを伸ばすことが出来ない。

 ここで唯一の救いとなるのが…協力関係の禁止だ。このルールによって個々人の実力、判断力が問われる内容になっている。

 もし、今目の前に立っているのが火乃花だけでなかったら…龍人はピンチだった筈だ。

 そんな事を考えながら、気丈にも笑みを作る。


「まぁそうだよな。じゃあ俺は…。」


 龍刀を構えた龍人は魔法陣で旋風を複数発生させ、地面の砂を巻き上げた。即席の煙幕…のようなものである。

 火乃花が視界を奪われた隙に龍人は…身を翻して逃走を図った。

 単なる逃げ…ではない。

 1年生の中でも指折りの実力者である火乃花と正面から戦って、無傷で勝てる訳がないのだ。だからこそ、逃げつつ牽制し、隙を見つけたら強撃を叩き込むというヒットアンドアウェイを選択したのだ。


(このサバイバルバトル…被ダメージのゲージを1回もゼロにしないつもりで挑まなきゃ駄目だ。命を懸けた実戦だと仮定すれば、それを前提とした上での立ち回りが必要。相打ち覚悟だなんて…論外だ。)


 天地と戦う。それを意識しているからこその戦術。

 しかし…天地と戦うという同じ前提条件の火乃花が龍人を狙うのは、だからこそ違和感があった。


 その違和感の正体に思考を巡らせた龍人の首筋に薄青色の刃が突きつけられた。


(どういう事だよ…!)


 身を捻りつつ龍刀で刃を弾きつつ前方を確認した龍人は思わず舌打ちをしてしまう。

 そこに立っていたのは燻んだ水色の羽織を着たオルム=ヴァッサー。氷冰刀の切先を龍人に向けたオルムは冷たい表情で淡々と告げる。


「龍人…お主のポイントを削らせて貰うでござる。」


 クラスの2人同時に狙われるという事態。

 2人が共闘していたのならルール違反だが、個々人で龍人を狙ってきているのなら…何ら違反に該当しない。

 つまり…このままでは後方の火乃花、前方のオルムと同時に戦わなければならないのだ。


(マズいな…。あの2人と同時に戦ったら無傷どころか、全ポイントを削られちまうぞ。)


 ならばいっその事こと、こちらも制限を外して戦うしかぬい。

 このサバイバルバトルでは龍人化【破龍】を使わないつもりだった龍人は、追い詰められた状況で考えを改める。

 龍人化は龍人の中で切り札的な感覚が強いのだが…そうも言ってられないのだ。つまり、今の実力で実戦に放り込まれたのなら、龍人化は切り札になり得ない。むしろメイン戦力となるスキルとして使わなければならない。


「…俺を狙った事、後悔しろよ。……ぐぶぅぅぅおぉ!?ぬぁっ!?」


 スキル名を唱えようとした龍人は腹部に衝撃を受けて上空に吹き飛ばされたのだった。

 龍人が立っていた場所に右手を上空に向けて突き出して仁王立ちするのは、チャン=シャオロン。


「龍人をぶっ飛ばすのはミーアル!!」


 最悪なサバイバルバトルがここから始まった。

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