5-19.緊急クエスト
夏合宿が終わってから2週間は授業が一切ない期間になった。
9月からまたハードな授業をするって息巻いてたから、覚悟はしておかないとだけど。
この空いた2週間をどう使うか…って考えたんだけど、夏合宿で決まった「天地に対抗する」目的の仲間達と方針をちゃんと決める事にした。
つっても、俺と火乃花と遼の3人だけなんだけどね。他の候補にルーチェもいるんだけど、タイミングが合わなくてまだ話せてない。それに、火乃花の意見も聞いてから話した方が良いってのもあるかな。
んで、今はその3人で喫茶店の奥まった席で話し合いをしている最中だ。
「そっか…そうすると、天地の実態は本当に掴めてないのね。」
「うん。分かっているのはセフって奴とその部下の黒装束の女だけだね。いかれ科学者のサタナスが一員って話もあるけど、未確認かな。」
今は火乃花と遼が情報交換をしている最中だ。
俺も特に知ってる事はないからな。捕捉する事もなく美味しいコーヒーを味わっている。
「想像以上に情報が少ないわね。」
「んー…あ、龍人、セフが言ってた因子の話はした?」
「因子…?……あぁ、してないな。」
「自分の話でしょ?もう。…えっとね、セフが龍人の事を里因子所有者って言ったんだって。」
「里因子所有者…聞いた事ないわね。」
「だよねぇ。それが天地の目的だとしたら、そこから何か分かるかもしれないんだけど。」
「それなら、伝説の星圏である里圏と関係しているかも知れませんわ。」
へっ?
声のした方を見ると、呆れ顔のルーチェが立っていた。
「あら?何でルーチェがいるんだ?」
遼と火乃花の方を見るが、2人共首を横に振っている。って事は誰かが呼んだ訳じゃなさそう。とかると…尾行された?
「はぁ…あなた達3人とも危機意識が薄いですの。大事な話をする時は、閉鎖空間か遮音系の魔法を使うのが常識ですわ。隣の席に座っていた私に丸聞こえでしたの。」
「………。」
俺達3人は苦笑いをする事しか出来ない。
一応気にして奥の席を使ってたんだけど…そりゃぁそうだよね。
ルーチェはビシッと人差し指を立てて、俺達を鋭い目付きで睨み付ける。
「話は全て聞こえちゃった…ですの、結論から言いますが…私も参加しますわ。」
…はい?
「理由は単純。その様な組織を放っておくのは危険である事。そして、現状で雲の様な存在である天地の尻尾を捕まえるには、情報網が鍵となる事。…私はその点で役に立ちますの。」
「えっと、さっきまでの話を聞いてたらそうなるかも知れないけれどもですね、とってーも危険なんですよ?」
びっくり展開で思わず敬語になってしまった。
「分かっていますの。そもそも、その天地という組織が魔法街を狙っていたとしたら、結局戦うことになるのですわ。早いか遅いかの違いだけですの。そして、狙っていなかったとしても、知っていて知らぬふりは出来ませんの。」
「死ぬかもしれなくても?」
「人はいつかは死にますの。裏切ることだってありますの。だから…私はまっすぐ進みたいと思っていますわ。」
こりゃぁ…決意は固そうだな。
火乃花と遼を見ると、2人とも同じ意見みたいだ。
「分かった。じゃあ、一緒に戦おう。」
「ありがとうですの。」
そう言ってニコッと笑ってルーチェは、貴族みたいなお辞儀をすると隣のテーブルからコーヒーカップを移動させて火乃花の隣に座った。
「質問なのですが、パーティの名前はありますの?」
…ん?名前?
「名前ってどういう事だ?」
「あら?私達はパーティで活動していくので良いのですよね?」
「そうだよ。」
「それでしたら、ギルドにパーティ登録しませんの?」
なにっ?そこ迄は考えていなかった。
でも…ギルドに登録するメリット…
「まず、ギルドにチームを登録するメリットがいくつ有りますの。1つはパーティ限定情報の公開ですわ。パーティ限定クエストなどが受けられる様になるので、クエストの選択肢が広がりますの。もうひとつがギルド内での買い物がパーティのギルド貢献度によって割引になるという事ですわね。」
ふむふむ。その情報が本当ならパーティ登録をするメリットはあるね。
「逆にデメリットもありますの。それは、パーティ名とパーティメンバーが基本的にギルド加盟者全員に晒されるという事ですわ。」
「え、それって晒さないって選択肢はないのか?」
俺の質問にルーチェは首を傾げ、代わりに隣で静かに話を聞いていた火乃花が答えてくれた。
「無いと思うわ。それらを隠して活動する場合は非公認のパーティとして、ギルドに未登録の状態で活動をするしかないわね。ただ、そうなると非公認だから…ギルドのバックアップは全く受けられなくなるわ。」
「なるほどねぇ。」
「例えばなんだけどさ…。」
そう言って手を挙げたのは遼だ。
「何人かでパーティを結成して、その裏で動く秘密メンバーってやり方もありなのかな?」
確かにそれはアリかも。と、思ったんだけど…ルーチェが首を横に振った。
「もし、その秘密メンバーがバレた時点で、パーティはギルドから除名ですの。それに関わったメインメンバーは全員がパーティ活動を禁止されますわ。」
「リスクは大きそうだな。秘密組織みたいなのと戦うんだから、表の組織から干されたら意味がない気がする。」
「ですわね。」
「じゃぁさ、パーティの所在地って誰でも分かるのか?」
「それは…どうなのでしょう?」
「確かだけど、パーティメンバーは公開だけど、パーティの所在地とか現在どこで活動しているかは非公開だったと思うわ。なんでそんな事気にするの?」
あら?俺がセフに狙われたって話はした筈なんだけど…やっぱり当事者じゃないとそこ迄の危機意識を最初から持つのは難しいのかな。
「前にも言ったと思うけど、俺は里因子所有者ってのでセフに狙われたんだ。今後も狙われる可能性があるから、現在地がバレるのは好ましくないと思うんだよね。」
「あ、そっか。」
「あ、そうそう。その話でしたわ。」
納得する火乃花と、ポンっと手を叩くルーチェ。
そう言えばルーチェは里因子所有者の話をしてる時に割り込んできたんだっけ。
「その里因子所有者なんですが、里圏に関係しているかと思いますの。」
「里圏?」
「えぇ。私達の居る魔法街は街圏という星のグループに所属していますわ。その星のグループで存在が確かでは無いにしろ、伝説とも言われる里圏がありますの。」
里圏…Colony Worldをプレイしてた時にはそんな名前は聞いた事が……。
………あるな。里圏って名前じゃなかったけど、里って名前の付く星に行った事あるよ。
その名も龍の里。ブレイブインパクトの皆と挑戦して、変遷に巻き込まれた場所じゃないか。…ちょっと待て。確か他にも里の名前がつく星があったような。高難易度ダンジョンだからあまり意識してなかったけど…龍の里、獣の里、神の里、魔の里、神鳥の里だったっけな。全て高難易度ダンジョンで、そんな簡単に攻略できるレベルじゃ無かったはず。
「以前、古文書みたいなものを暇つぶしに読んでいた程度ですので、詳しくは知らないのですが…龍、獣、神、魔、神鳥の里だった気がしますの。ただ、これらの里は卑怯とされていて、封印されている…みたいに書いてあったような、なかったような…感じですわ。」
おぉ。一致した。
つまり、その各里に関連する何かしらが里因子って事になるのか。
単純に考えれば俺は職業『龍人』だから龍の里に関係がありそうだよね。
他の3人も同じ考えなのかな?俺の事をじっと見ている。
「ぷっ。」
そして、何故か火乃花が吹き出した。
「へっ?なんで笑うんだし?」
「だって…名前が龍人で職業が龍人で里因子も龍に関連するとか…龍だらけ過ぎない?」
「それは…そうだけど、不可抗力だろ?」
「まぁまぁお二方とも落ち着きますの。あくまでも私がいったのは1つの可能性に過ぎませんわ。考慮に留めておく程度で良いと思いますの。それよりも今話すべきなのは、どういう活動をしていくか。ですの。」
お、真面目な話に戻ったぞ。よし、ここは俺も真面目に話して龍尽くし問題は宇宙の果てまで飛ばしてやる!
「それなんだけどさ、まだ明確な方針は決まってないんだよね。そもそもどうやって天地に対抗するのかが決まってないし。今言えるのは、もっと強くならなきゃいけないって事と、天地に関する情報が全く足りていないって事かな。」
改めて言ってみると、雲を掴むみたいな話だな。
「むむぅですの。それなら、天地に関係する情報は私と火乃花さんがネットワークを使って調べるのが良いと思いますわ。勿論、天地に悟られないようにこっそりですから…時間は掛かりますの。そして実力については龍人君と遼君が4人で挑むべきクエストを見つけてきて欲しいですの。」
良い役割分担だな。
「良いと思う。今Cランクだから、Bランク迄しか受注出来ないけど良いか?」
「良いですの。と言っても、Bランクの魔獣はどれも凶暴ですから、Cランクの魔獣がメインで良いと思いますの。」
「オッケー。ずっとここで話していてもアレだし、ちょっくら探してくるよ。」
「お願いしますの。私はお父様の知り合いに少し探りを入れてみますわ。」
そう言えば今の魔獣討伐数ってどうなってたっけ?
確かCランクの魔獣を50体討伐したらBランクだった気がするんだけど。
と思ってギルドカードを確認する。
・氏名:高嶺龍人
・ランク:Cランク
・クエスト達成数:C-16 D-20 E-26
・ランクアップ条件:魔獣Cランク討伐 23/50達成
あれ?
……なんだこれ?
「ねぇねぇ。ギルドカードに『緊急クエスト』って表示されてるんだけど、何か知ってる?」
「緊急クエスト?」
遼のギルドカードにも同じ文字が表示されていた。
「そんな事がある訳ないじゃ…。」
と言いながら自分のギルドカードを取り出した火乃花の動きが止まる。どうやら表示されているみたいだな。
「あら。本当ですの。私達全員に表示されているとなると、よっぽどの緊急事態ですの。」
「この緊急クエスト、4人で受けてみない?」
積極的な発言をしたのは遼だ。珍しいな。いつもなら様子見しそうなもんだけど。
「俺達4人のパーティなんだけど、多分バランスは良いと思うんだよね。ルーチェは中距離、火乃花が近距離〜中距離、龍人は近距離メインのオールラウンダー、俺は遠距離でしょ。ただ、それぞれの戦い方にクセもあるだろうし、その辺りが連携取れないと…いざという時に困ると思うんだ。だから、今回の緊急クエストを課題の洗い出しに使うのは良いんじゃないかな。」
なんて素晴らしい意見なんだ…!
「俺も賛成。皆で行ってみる?」
「良いですの。」
「良いと思うわ。夏合宿の成果を試したかったし。」
すんなりと緊急クエストを受ける事が決まった。
後で考えると、別に緊急クエストじゃなくても良かったのでは…とは思う。
あんなに破茶滅茶なクエストになるなんて想像してなかったもん。




