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5-17.BBQ

 夏合宿を行っているビーチ。燦々と輝く太陽がジリジリと砂浜を焦がし、打ち寄せる波がその熱を奪っていく。

 そんな真夏の風景が広がるビーチに歓声が響き渡る。


「右だ!右右!!」

「2歩前だ!」

「もう少し左!」


 砂浜の中央付近に置かれているのは西瓜。夏と言ったらこれだよね。

 スイカ割りの棒を持っているのはバルク。上段に棒を構え、皆の声を頼りにスイカとの距離を確実に縮めている。


「いけー!全力で行っちまえー!」

「ムガ…モガがが!?」

「もう少し右ダァ!!」

「むぐグググ!?」


 そして、このスイカ割りが異常に熱を帯びているのにはスイカの横に置かれたもうひとつのスイカにあった。

 それはスイカ書かれた鉢巻を巻いた頭だけを出す形で埋められたルフトだ。


「ムゴムグゴゴゴゴムゴムググガゴ!!」


 壊れたロボットみたいな声を漏らして必死に抵抗するルフト。アレ…絶対怖いよな。力馬鹿のバルクが棒を持ってんだもん。クリーンヒットしたら脳天カチ割れるだろ。

 けど、皆の狙いはスイカっていうよりもルフトだ。一部女子が可哀想だからってスイカへの誘導を試みているけど、多勢に無勢だな。

 因みに、ルフトがスイカ役をさせられた理由は単純。バーベキュー用に準備されていた霜降り肉を全てひっくり返して砂浜に落としたから。

 ひと言でいってギルティだよね。タムが緻密な水魔法で肉は綺麗にして食べられるようになったんだけと、それだけで皆の怒りが収まるはずもなく…結果的にスイカの横に並べられた。

 そして…まさに今、バルクが握りしめた棒による渾身の一撃が放たれようとしている。って訳だ。

 うん。助けようって気は流石に起きないから、俺は静かに見守るぞ。


「ウラァァ!スイカ割ったる!!」


 バルクの両腕の筋肉がメキメキっと盛り上がり、残像を発生させながら棒が振り下ろされた。


 スパァァァァァァァァァァン!!!


 心地良い音が響き、パカッと割れて中から赤い…果肉が零れ落ちる。

 目隠しを取ったバルクは、自分が作り出して結果を見て叫んだ。


「うっしゃぁぁぁ!スイカ、1発だぜぇ!!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 シャリシャリとスイカを齧りながら海を眺めていると、グラスを持った火乃花が隣にやってきた。

 あら?心無しか顔が赤い気がすんな。


「さっきのスイカ割り盛り上がったわね。」

「だな。ルフトが無傷だったのはちょっと納得がいかないけど。」

「流石にバルク君の一撃が当たったら無事じゃ済まないわよ?」

「大丈夫。魔法っていう素晴らしいものがあるから。」

「それはそうかも知れないけど、どんな傷も治せるってわけじゃないからね。」

「え、そんなレベルの打撃か?」

「外傷なら良いけど、例えば脳組織が破壊された…なんていったら魔法でも厳しいわ。」

「あーそっか。それは考えてなかった。」


 魔法ならなんとかなりそうなもんだけどね。まぁ、仮にできたとしても相当レベルが高い魔法なのは間違いないだろうけど。

 少しの沈黙の後、火乃花がグイッとグラスを突き出してきた。


「龍人君も飲も?」


 えっ、間接キスですか!?なんて一瞬ドキッとしたけど、自分のグラスも持ってた。てゆーか、いつの間にもう一個のグラスを取り出したんだ?さっきは一個しか持ってなかったような。

 グラスを受け取る。中身はオレンジジュースかな。


「グイッといきましょっ。」


 グラスの縁同士を軽く触れ合わせて乾杯をした俺達はグイッと中身を飲み干す。


「!?…ゴホッ!ゴホッ…!」


 ……ビックリしたぁ。酒じゃん!

 火乃花は咽せた俺を見てキョトンと目を丸くしている。


「あれ…龍人君ってお酒ダメだった?」

「い、いや。オレンジジュースだと思っていっきに飲んだから…ギャップにやられた。」

「ぷっ…!」

「あ、笑うなし!」

「だって…龍人君お間抜け過ぎるでしょ!」


 柔らかい表現の「おまぬけ」なのに、すごい馬鹿にされてる気がする!

 その後もわちゃわちゃと騒いでいると、火乃花にいきなりガシッと肩を掴まれた。何事?

 真剣な火乃花の顔が近付いてくる。


「龍人君。この前の答えを聞かせて欲しいの。」

「え…。」


 この前?あれ?俺って火乃花に告白されたりしたっけ?

 そんな記憶はないんだが…。


「え…じゃないわよ。私は真剣よ。天地を止める為に1人で戦うなんて無謀すぎるもの。」


 あ、その話か。

 そう言えばちゃんと返事してなかったっけ。


「気持ちは嬉しいんだけどさ…。」


 断るべき…だと思う。

 危険すぎる。俺1人じゃどうにもならなそうなのは理解してる。でも、火乃花を巻き込みたくはない。


「龍人君。天地の被害者は、龍人君達だけじゃないと思うの。」

「…どゆ事?」

「あの魔法街戦争が、天地による裏工作だったとしたら私達皆が被害者よ。アウェイク事件だって、サタナスって奴が天地の仲間だったら?」

「……。」


 可能性として考えた事はある。ありえない話ではない。…いや、あり得る話ってのが正確か。


「私はそんな事実があるって知っていて見過ごすなんて出来ないわ。龍人君に可否を聞いてるんじゃないの。私は私の意思で一緒に戦う事を決めたのよ。」

「……分かった。」


 ここまで覚悟を示されて拒否なんて出来るわけがない。


「死ぬかも知れない。それだけは理解しとけよ。」

「もちろん。」


 火乃花が右手を差し出してくる。俺は迷わずその手を握り返した。

 手を離すと、何故か頬を赤らめた火乃花は空を見上げなが言う。


「仲間…増やしたいね。」

「まぁ2人だけで天地に対抗出来るとは思えないしな。」


 そう。これも俺が密かに頭を悩ませていた問題だ。

 天地っていう組織の規模が分からないんだよね。ただ、どんな規模だとしても少人数で勝てるとは思えない。大人数でも勝てるか分からないもんな。なんたって強すぎる。

 天地に対抗する為に重要になってくるのは如何に強い仲間を集めていくのか。って事だと思う。

 でも、仲間に誘えばそれ相応の危険が付き纏う訳で…。

 という悩みのループだ。


「私、思うんだけど…あまり人数が膨れ上がるのは良くないんじゃないかしら。」

「どして?」

「スパイが潜り込む可能性もあるし、規模が大きいほどつけいられる隙は大きくなる気がするのよね。」


 なるほどねー。一理ある。そうなると少数精鋭が理想かな?


「確かにな。まぁそこは追々考えていこう。今は…皆とバーベキューを楽しんだ方が良くないか?」

「それもそうね。美味しい肉でも焼こうかしら。」


 火系統魔法のスペシャリストの火乃花が肉を焼くとか最高だな。火乃花は結構料理も出来るし、何よりも火加減の調整は1年生の中でも指折りの実力者だ。

 きっと肉汁滴る最高の肉を仕上げてくれるだろ。

 俺は火乃花が焼いた肉を食べに行くことを約束して、ビーチの中央に置かれたドリンク置き場でグラスに注いだビールを持って遼を探してふらふらと歩き始めた。

 火乃花と話して思ったんだけど、遼ともこれからをどうするのかってのをちゃんと話さないといけないと思ったんだ。


「…ん?」


 少し歩いたところで、ビーチから離れた岩場にワイングラスを片手に物思いの耽っているキャサリン先生を見つけた。

 …ちょっと意外だな。こういうバーベキューみたいなイベントの時には男漁りでもしそうなもんだけど。ちょっと話しかけてみるか。

 俺は脅かさないように静かにキャサリン先生に近寄っていく。


「あらぁ?もしかして、こんな日中に夜這い…いえ、昼這いかしらぁ?」

「キャサリン先生、なんでそうなるんすか。」

「ふふっ。男の下心っていうのは分かりやすいものなのよ。」


 え…。俺、そんなつもり無かったんだけど、無意識に下心を発動してたのか?…いや、無い無い。


「先生、茶化さないでいいですよ。ていうか、何を考え込んでたんです?珍しいなと思って。」

「あらぁ、そんな優しい所を見せてくるなんて、益々私の貞操も危機かしら?」

「…いや、忘れてください。俺の気のせいです。」


 駄目だ。これ以上話しても下ネタ風にしか話がならないや。

 さっさと別れを切り出して、別のところに行こう。…と思ったタイミングで、キャサリン先生は真面目な声を出した。


「そうね。強いていうなら、ちゃんとは言えないけど…私は生徒の貴方達を大切に思ってるのよ?それと同じくらい、魔法街も好きね。」

「…はぁ。」

「だから、龍人君の初めて…私に頂戴?」


 いや、だからどうしてそういう話になるんだよ!っていうか、初めてって。

 …ん?でも、この世界で俺って初めてなのか?いや、でも肉体は現実世界と同じ?となると…。


「どうする…?」


 気づけばキャサリン先生の顔が数センチ先まで迫っていた。

 瑞々しい唇がチュパッと開かれ…。


「お、お邪魔しましたぁ!」


 俺は飛んで逃げた。

 危なかった。アレが夜で、個室だったらきっと俺は押し倒されてた。

 マジでキャサリン先生が本気を出した時は凄いからな。擽りだけで全身を骨抜きにされたあの日の夜が思い出される…。


「残念ねぇ。」


 どこか名残惜しそうなキャサリン先生を尻目に、俺はスタコラサッサと別の場所へ走り去ったのだった。

 ある程度走ったところで息を吐く。


「…危なかった。」

「どうしたの?」

「うわっ!?」


 クレアが隣に立っていた。

 いつの間に!?


「ん?凄いビックリな顔してるね。ふふっ。龍人君が私の隣に来て止まったんだよ?」


 肩を揺らして楽しそうに笑うクレアを見ていたら、キャサリン先生に襲われそうで感じていた焦燥感がスッと消えていった。


「いや、キャサリン先生が考え込んでるみたいだったから声を掛けてみたらさ、いきなり襲われそうになって逃げてきたんよ。」

「キャサリン先生…凄いね。私も…。」

「ん?」

「あっ、なんでもない!」


 何故か顔を赤らめたクレアはそっぽを向いてしまう。

 …なんなんだ今日は。

 まぁ、少し休むか。

 トスっとクレアの隣に座った俺は、話題を振る事にした。


「クレアはさ、この夏合宿で強くなれた気はしてる?」


 俺の質問に目をパチクリして、唇をとんがらせながら考えたクレアは俺の隣に静かに座る。お、ちょっとだけ良い香りがしたような。


「ん〜正直ね、ちょっとは強くなれた気がするかな。サバイバルレースでは地形を利用した戦い方が大切なのも分かったし、サーフィンでは魔力を爆発させるコツも分かったし。」

「凄いな。因みに肝試しでは?」

「肝試しは…皆のサポートがメインだったから、ん〜〜…どうだろ?でも、私の得意な回復魔法って皆の命を繋ぐっていう視点では本当に重要な役割なのかなって思ったよ。」


 クレアって真面目に色々と考えてるんだな。

 …って、肝試しといえば。……ヤバい。思い出してしまった。

 スッと視線をクレアの方に向けると、俺の方をちょっとだけ潤んだ目で見つめていた。もしかして、同じ事を思い出してる?


「あぁっと、えっと、あの時は…ごめんな?」

「え?あ、う、うん。私の方こそ…。」

「……。」

「……。」


 嫌な沈黙が流れる。やばい。このままだと気まずくなっちまう。


「で、でも…クレアは凄いよな。夏合宿で成長出来てて。」


 話が強引すぎたか?

 でも、流石に「キス」って単語は出せないだろ!俺とクレアが付き合ってるならまだしも。


「そ、そうかな?龍人君って十分強くない?」


 …話に乗ってくれた。キスの話は有耶無耶になっちまうけど、しょうがない。…ん?しょうがない?

 忘れろ俺!


「いや、そんなに強いとは思えないんだよね。なんていうか、俺さ…魔法陣剣士ってのが理想の戦い方かなって思いついて試してたんだけど、イマイチしっくり来ないんだよね。」

「そっか…。でも、何となく分かるかも。」

「えっ。マジで?」

「うん。龍人君の魔法陣魔法って凄い便利なんだけど、なんていうか…主役を彩る脇役みたいな感じがあるよね。…あっ、ごめん。そういう意味じゃないの。」


 …大丈夫。俺が脇役レベルって言っているんじゃ無いことは分かってる。深く傷付いた事は悟られないようにしないと。


「いや、大丈夫だよ。俺もそう思ってるんだよね。なんつーか、本質的じゃ無いっていうか。」

「…ごめんね?でも、私は龍人君の本当の強さって別のところにあるんじゃないかなって思うんだ。」


 やっぱりそうか。

 俺と同じ事を他人が感じてるってことは、間違いでは無さそうだな。

 ミラージュに教えてもらった纏魔が足掛かりになるかもしれない。あの戦い方は、これまでの俺の戦い方とは全然違ったからな。

 フワッと俺の手が温かいものに包まれる。


「龍人君…。」


 クレアが俺の手を握って、俺の目を真っ直ぐに見つめていた。


「私ね、出来る限り力になるよ?龍人君…色々抱えてそうだから。」

「………。」


 驚きに返事をする事が出来なかった。

 魔法学院の生活は普通に楽しいし、楽しく過ごしてたつもりだ。

 友達にも恵まれてるし、日々の生活で悩んでる雰囲気は全く出してるつもりは無かったんだけど…。


「ありがと。」


 この言葉を言うだけで精一杯だった、

 それ以上言ったら…泣いてしまいそうだったから。

 俺はこの世界で、ある意味1人だ。だって、地球の記憶を持ってるのは俺だけだから。だから、無意識にこの世界の人と深く関わりすぎないようにしようと考えていたのかもしれない。

 だってさ、そうしないと…いつか別れの時が来たから悲しいだろ?

 でも、そんな俺の事を本気で心配してくれる人がいる。それだけで心の底から嬉しかった。同時に思う。もっと向き合わなきゃ駄目だって。本気でこの世界を生きていかなきゃ駄目だって。


「今度、話すよ。俺が戦っているものについて。」

「うん。待ってるね。」


 ニコッと微笑むクレア。

 こういう時に、受け入れて、待つって選択を出来るのが凄いと思う。俺はせっかち気味だから、早く答えを求めたくなっちゃうからな。


「あー、龍人ちゃんとクレアちゃんがちょっといい感じなんだよっ!」


 クルクルーっと回りながらミラージュが俺とクレアを指差して叫ぶ。


「あっ。」

「…あ。」


 手を握り合って見つめ合う。

 そんな恥ずかしいポーズを取っている事に今更気付いた俺達は慌てて手を離した。


「ちょっとちょっと〜!何を話してたのか教えて欲しいんだよっ。」

「それは言えない。」

「えー!?ずる〜い!……ニシシ、教えてくれないんなら、皆に言いふらしちゃうんだからねっ!」

「ちょっ!?それは待て!人権侵害だからな!」

「私、難しい言葉分からなーい!」


 クルクル回るミラージュを追い掛ける。

 それを見ながらクレアは笑ってるし。つーか、絶対に言いふらせないからな!断固阻止だ!

 最後までクレアとちゃんと話せなかったけど、気持ちを伝えてくれたの嬉しかったな。


 因みに、結局ミラージュが皆に言いふらして誤解を解くのに時間が掛かったり、火乃花が焦げた肉しか食べさせてくれなかったり、破廉恥とプラムに追い掛けられたり、バルクとルフトのバトルに巻き込まれたりと、かなり充実した時間を過ごしたのは…また別の話って事にしよっと。

 結局、遼とこれからの事について話し合う時間は取れなかった。同じ森林街の生き残りとして、真剣に話し合う必要があるよね。

 合宿中か、その後にはちゃんと話そう。


 そう言えば、ルーチェがガブガブとお酒を飲んでたけど…ストレスでも溜まってんのかね?

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