5-15.雷猿
雷猿の拳が地面を抉り、接地点を中心に雷が破裂するように広がる。
「ぐ…くそ!」
拳の打撃は避けられるのに、雷猿が纏っている雷のダメージが厳しいな。普通に龍刀で防いでも金属部分を伝って感電するし、魔法壁とか物理壁の結界魔法で防いでも雷猿の動きが速くて反撃に転じにくい。
当初は俺が相手をしている隙にミラージュの魔法でダメージを蓄積する作戦だったんだけど、雷猿は遠距離の相手には落雷を放ってくるんだよね。
お陰様でミラージュも攻撃に専念することが出来ないでいる。
とは言え、1番の問題は俺だろうな。近接攻撃をする度に感電リスクがあるから、全然攻撃が出来ない。纏雷っていうらしいんだけど、甘く見てた。
回避を中心に立ち回り、隙を見ての反撃っていう今の戦闘スタイルだと…Cランクの雷猿を倒すのは厳しい気がする。
何処かに突破口を見つけないと…!
「きゃぁっ!」
ミラージュの悲鳴に振り向くと、煙をあげて抉れた地面の近くに倒れていた。落雷が直撃したのか!?
「大丈夫か!?」
助けに寄ろうとした俺にミラージュが手を突き出して制止をかけた。
「駄目…!2人とも距離を取ったら落雷に狙い撃ちされるだけだよ!」
「…くそ!」
ミラージュの言う通りだ。
雷猿は杖を装備している事を考えても、魔法攻撃が主体の魔獣って考えるのが妥当。つまり、俺が近距離に陣取っているから雷猿は近接攻撃を放つ必要がある訳で…もし離れたら得意な魔法攻撃の嵐になって雷猿の独壇場になる可能性もある。
…どっちにしろ、俺が近接戦闘で互角レベルの戦いが出来ないと駄目って事だ。
動きが止まった俺に雷猿の拳が迫る。回避行動で拳を避けるが、腕に纏う雷が俺の体を走り抜けた。
「ぐぁぁぁあ……!」
……威力が高すぎる。
ブスブスと煙を上げて崩れ落ちた俺に、雷猿が更に拳を振り上げる。やべっ…。
「龍人ちゃん!」
光星の奔流が雷猿の拳と俺の間に入り込み、直撃を受けた雷猿がたたらを踏む。
今の内に逃げないと…!
なんとか体を起こしてミラージュのいる方向に退避すると、服の一部が焦げたミラージュはアイドルスマイルで仁王立ちしていた。
「大丈夫っ?雷猿…思ったよりも強いんだよ。」
「なんとかね。感電をどうにか防がないと、攻めきれないな。」
「そうだよねっ。魔力の膜を突き抜けるくらいに纏雷が強いとは思わなかったんだよっ。」
「……ん?」
「どうしたの?」
「魔力の膜って?」
「えっ……?」
「え、何その反応。」
「龍人ちゃん…もしかして、魔力を武器に纏わせてないのっ!?」
「はい?何それ。」
「ええぇぇぇっ!?ビックリだよぉっ!!!」
ミラージュの絶叫と共に雷猿の雷撃が連続で迸る。
俺とミラージュは魔法壁で雷撃を防ぎつつ、話を続ける。
「え、それって常識?」
「うんっ!っていうか、1年生の授業の最初にでラルフちゃんが説明してたよっ?」
…え?やべ。全く覚えていないんですが。
授業の最初の方って言うと、属性魔法とか無詠唱魔法の発動方法の基本原理的な話をしていたような。
その時に話してたのかな。
「ごめん。全然覚えてない。」
「うっそぉぉ…。龍人ちゃんは魔法陣魔法を基本に使ってるから、属性魔法の発動をする前の魔力循環とかの理論は必要ないかもだけど。っていうか、龍人ちゃん!」
ビシィっと指を差される。
「そんな基本的な事が出来ていないのにその強さは反則だからねっ!」
うぉ…。褒められたような。盛大に貶されたような。複雑な気分だ。
ちょっとプリプリ怒った様子のミラージュは、雷猿が放った雨のような雷撃を杖の一振りで発動した流星群で弾き返す。
え?さっきより魔法の出力上がってない?
「龍人ちゃんが雷猿があまり強くないから遊んでるのかと思って合わせてたんだけど、そうじゃないなら…方針転換だよ!」
…衝撃の事実。手を抜いてたって事か。
「私が纏魔のやり方を教えるから、龍人ちゃん1人で雷猿を倒す事!いいねっ!?」
「へっ?」
Cランクの魔獣相手に1人で倒せとか…結構無茶振りじゃない?いや、出来なくはないだろうけど。
「ボアボアボアボアボア!!!!」
完全に無視されている雷猿が怒り狂ったのか、複数の落雷を発生させた。…ヤバくね?
「あぁもう!ちょっと静かにしててねっ!プンプン!」
クルッと回転したミラージュは、落雷に向けて光星を放ち相殺。更に光の柱を上空から発生さえて雷猿の周りに突き刺して特性の檻を作り上げた。
てか、語尾にプンプンって。
「はいっ!纏魔は基本的な技術だからすぐに覚えられる筈だよ!今から練習ね!」
「は、はいっ!」
こうして、まさかの実戦現場での臨時授業が開講したのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
街立魔法学院の1年生達がリモキと雷猿の群れに翻弄される様子を眺めていたラルフは、面倒くさそうにため息を吐くと転移を発動させる。
「よぉ。首尾はどうだ?」
「あらぁん。ラルフ…もしかして私を夜這いにきたのかしらぁ?今日は勝負下着じゃないから…いつもより興奮しないかもしれないけど…いいかしら?」
クネクエと体をしならせるキャサリンを見てラルフは盛大にため息を吐いた。
「はぁぁぁ…勘弁してくれ。その台詞じゃぁ、俺が毎回お前を夜這いしてるみたいじゃねぇか。」
「あれぇ?違ったかしら。あなたと過ごした熱い夜は忘れないわよぉ?」
「はいはい。いい加減にしろよ?」
ラルフからブワッと殺気が迸るのを感知したキャサリンは肩を竦める。
「つれないのねぇん。首尾は…だったかしら。まぁ上々よ。っていうか、リモキは良いにしても雷猿を4体も放つ必要があったのかしら?大分危ないわよ?」
「なぁに言ってんだ。こーゆー危機を乗り越えてこそ、得るものもあるだろ?ぬるま湯に浸かって育った魔法使いなんて、いざと言う時に役に立たねぇんだ。これ位がちょうど良いんだよ。寧ろまだまだ甘いくらいだ。」
「はぁ。あなたが担任で1年生の子達は可哀想ねぇ。」
「はん!ついて来れないなら辞めればいい。こちらとら遊びで魔法使いの育成に携わってんじゃねぇんだからな。…お前も聞いたんだろ?ヘヴィー学院長から。」
「魔導師団の話ね。」
キャサリンは眉を顰めた。どうやら彼女に取っては好ましい話では無いのだろう。
「私は…正直、反対なのよねぇ。魔導師団で各魔法学院から6人の魔法使いを選抜するって言うことは、要はエリートエリート魔法使いを選出して魔法街が認定するって事よね?それって、下手すると魔導師団が権力争いに利用されるわ。それに…今は沈静化している至上派が活発化するきっかけになりかねないわ。」
「あぁ。だからだよ。エリート魔法使いになる魔導師団。そいつらが暴走した時に防ぐ奴らが必要だろ?」
穏やかではないラルフの発言。
キャサリンは思わず隣に立つラルフの顔を見上げていた。
「もしかして…街立魔法学院の1年生を抑止力にするつもりなの?」
「あわよくば…な。尤も、1年生の中から魔導師団が選抜される可能性もあるから、全てが上手くいくとは思わねぇが。」
「…ホント、そういう所は変わらないわよね。」
「うるせぇ。だからこそ、今、この夏合宿の手を抜くわけにはいかねぇんだよ。魔導師団の発表があるのは9月。恐らく10月には発足か選抜が始まるだろ。今しかねぇんだよ。」
「…分かったわよ。一応1年生の子達は健闘しているわ。あなたが気にしている龍人君も魔法陣に頼らない戦い方を掴みそうよ。」
「やっとか。あいつは恵まれた能力に頼って基本を疎かにしてるからな。能力をベースに戦うんじゃなくて、能力を補助的に使う戦い方を覚えてもらわないとな。」
「…ふふっ。本当にスパルタねぇ。私がココでシコシコっと発散させてあげるわよぉ?」
人差し指と親指で輪っかを作ったキャサリンが妖艶な笑みを浮かべるが、ラルフはその顔を見ることすらしなかった。
「適当に頼むわ。」
「えっ…?」
まさかの承諾に狼狽えるキャサリンを見て、ラルフはニヤリと笑う。
「バーカ。冗談だよ。……そろそろ各所で決着が付きそうだ。事故が無いように頼むぜ。」
「ホント…そう言う所が魅力的なのよ。あなたは。じゃぁ…最後まで楽しみましょぅ。」
ラルフは再び転移で元いた場所へ移動し、残されたキャサリンは眼下の様子を眺める。
襲い来る魔獣に対して真剣に戦う学院生を観察しながら、小さく囁いたのだった。
「私の…希望となってくれるのかしら?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ミラージュから纏魔のやり方を教わった俺は、緊張の面持ちで雷猿の前に立っていた。
現在、雷猿はルーチェが作った光檻に閉じ込められて、怒り狂ったように内側から檻を叩きまくっている。猛獣の前に放り出された兎みたいな気持ちなんですが。
後ろを振り返ると、ミラージュが真剣な顔でガッツポーズをしていた。
纏魔の臨時授業が終わった時に「私は手を出さないから、龍人ちゃんが1人で倒す事っ!教えた事を忠実に守って戦えば余裕だからねっ。」って言ってたから…きっと助けてはくれないんだろうなぁ。
魔獣に襲われた系のシチュエーションの筈なのに、なんで強化合宿みたいになってんだろ。
思わず夜空を見上げてしまう。あー星空が綺麗だ。
「龍人ちゃーん!檻を解除するよっ!」
うわっ。きた!
…よし。気を引き締めて頑張るか。
俺は龍刀を正面に構えて纏魔を発動する。
イメージは俺の中に循環する魔力の経路が龍刀と接続する形。龍刀の中を通って再び俺の中に魔力が戻ってくるように。龍刀が体の一部になったようなイメージを。
「ボァァァァアアアアアアアア!!!!!」
光檻から解放された雷猿が怒りの咆哮を轟かせる。
そりゃあ長い時間放置されてたもんな。怒ってもしょうがないよ。
怒り狂った雷猿は、巨大に似合わない俊敏な動作で俺へ飛びかかってきた。あら?まさかの近距離攻撃。遠距離で雷を放ちまくってくると思ってたから意外だ。
全身には纏雷による雷がバチバチと踊っている。これに感電したら…相当なダメージを受けるだろうけど、今の俺なら!!
「ボァア!!」
短い咆哮と共に巨腕が空気を突き抜けて俺へと迫る。
俺は龍刀を巨腕の軌道を逸らすように、そっと添えながら受け流す。そして、纏雷が俺に感電!!……しない。
おぉ。これが纏魔の力か。魔力の強さが優っていれば、相手の纏魔の属性効果も防げるってミラージュが言ってたのは本当だったみたいだ。えぇ、正直な所めっちゃ疑ってました。
でも、これで対等に戦える!
雷猿の突きを受け流した俺は、そのままの勢いで懐に入り込み…魔法陣を直列励起で発動…………あれ?これって魔法陣を発動する意味あんのか?属性魔法は使えないけど、魔力で龍刀が強化されてるんだから、そのまま魔力の質を高めて斬った方が純粋な威力は高くなるような気がする。
…試してみるか。
龍刀に纏う魔力を、より鋭く強固な物にするイメージをしながら、俺は雷猿の腹部を横一文字に斬り裂いた。
「グボァ……!?」
初ダメージに雷猿が苦悶の声を漏らして後ずさる。
「逃がすか!」
数多の雷撃が雷猿の錫杖から放たれるが、今なら…イケる!
俺は収納魔法陣から夢幻を取り出し、纏魔を発動。龍刀との2刀流で雷撃を弾きながら雷猿との距離を詰める。
「ボァア!!」
至近距離に迫った俺へ雷猿の双拳が組み合わさって振り下ろされるが、俺は双刀を交差するように斬り上げて拳を弾いた。
雷猿は両拳を弾かれた衝撃でバンザイポーズを取ってしまう。こうなれば胴体はガラ空きだ。
「これで最後だ!」
双刀に魔法陣を展開し、火を発現させる。
これまでの火とは違う。火を纏うのではなく、火のエネルギーを纏わせる、つまり…纏火だ。
「うらぁぁ!!」
気合いの声を上げながら、俺は雷猿の胴体へ連続斬りを放った。
火の斬撃が踊り、雷猿は断末魔の声を上げながら燃え盛る体をゆっくりと後ろへ倒していった。
「うしっ!」
俺はミラージュの方を向くとガッツポーズを決める。
何故かポカンとした顔をしていたミラージュは、俺のガッツポーズを見ると体をクルクルと回転させると、満面の笑みで決めポーズを披露した。
「龍人ちゃん!お疲れ様だよっ。るるるん!」
こうして、纏魔を覚えた俺は無事に雷猿を倒し、ミラージュと共に別の魔獣を倒すべく駆け出した。
先ずは残り3方向から攻めてきてる雷猿の対処。次に残るリモキの群れ…だな。
魔獣討伐経験の無いクラスメイト達がちょっと不安だけど、ルーチェが付いてるから…多分大丈夫だろ。
よし。この勢いで一気に終わらせてやる!!




