2-2.武器選び
ギルド加盟式を終えた俺と遼は、翌日にギルドで初クエストを受ける約束を交わして別れた。
遼は疲れたから家に帰るらしい。レフナンティから少し離れた所に家があるんだから、少し遊んだりして気晴らしでもすれば良いのにって思うんだけど…ま、そーゆーのは個人の自由だしね。
って訳で、1人になった俺はギルドの近くにある喫茶店に行く事にした。
ここの喫茶店はちょっとお洒落な内装をしていて、俺のお気に入りなんだよね。コーヒーも美味しいし。
そして何よりも…。
「いらっしゃいませ〜!あ、こんにちは!お久しぶりですねっ。」
店内に入った俺を明るい声で迎えてくれたのは、店主の娘さんだ。元気溌剌な性格に、人懐っこい性格。そして何よりも笑った時の笑窪がとびきり可愛いんだよな。
…ん?惚れてるだろって?
あぁ惚れてるさ!だって可愛いしドストライクだし会うだけで元気になれるんだからな!
つっても、恋愛経験が豊富な訳でもない俺は、デートにも誘えず店に通う事しか出来てないんだけど。
「あぁ、久しぶりだな。1ヶ月ぶりくらいかな?」
「ホントですよぉ。前は週に1回はきてくれてたのにっ。」
「ごめんごめん!今日のギルド加盟試験に向けて特訓してて、中々来る時間が取れなかったんだよ。」
「えっ!?じゃぁ今日ギルド加盟試験受けたの!?凄いっ!」
「ははっ。そんなに凄くはないって。一応合格したけど、結構ギリギリだったし。」
「ううん。ちゃんと誇らなきゃっ。だって、努力して掴み取ったんでしょ?私、そういう人…好きだよ?」
「お、あ、ありがとう。」
なんか…照れるな。それに可愛い!可愛すぎる!胸がキュンキュンしちまうぜ。好きだよ…だなんてキラーワード過ぎる!!
まぁ…実際にギルド加盟が凄いかっていうのは、マジで微妙なんだけどね。
一定以上の実力があれば、基本的に誰でも加盟は出来るわけだし。
どっちかっていうとギルド加盟者も含めた実力者から選ばれる警護団に所属してる方がステータスな気がするな。
でだ、俺の胸がキュンキュンする幸せタイムは…邪魔者の出現によって速攻終わりを迎える事となる。
「おぅおぅおぅ!龍人!お前ぇまた俺の娘に手を出しに来たのか!」
ズンズンと俺と娘さんの間に入ってきた巨漢は…所謂、娘さんのお父さんだ。ぱっと見は熊とか野獣にしか見えないこのお父さんは、この喫茶店の店主な訳で…常連の俺を可愛がってくれてはいる。
ただ、娘さんと話してると何故か不機嫌になるんだよな。
ほんと、何がどうなったらこの野獣から可愛い娘さんが生まれるのか。遺伝子って不思議だ。
「おっさん…俺は普通の客だぞ?んで、看板娘のお嬢様と軽い談笑してただけだって。」
「いんや。俺には分かる。お前ぇの眼には情欲が潜んでるってな!」
情欲って…やめてくれよ恥ずかしい。
「だから…。」
更なる反論をすべく、俺は口を開く。
そんな俺とおっさんの口喧嘩を、娘さんはニコニコと眺めてるのだった。
なんかさ。俺ってこの店に来た時、毎回おっさんと喧嘩して終わってるんだけど。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
喫茶店のおっさんと口論をして、その後におっさんが淹れた美味しい珈琲を飲んでほっこりした俺は、娘さんの笑顔に名残惜しさを感じつつ店を出た。
もう少しのんびりしたかったけど、娘さんと話すとおっさんの視線が気になるし、話してなくても娘さんが可愛くて気になるしで…全く心が休まらないんだ。
それに、今日は他に行きたいところもあったしね
で、今向かってるのが武器屋だ。
明日からギルドで活動するってなると、ちゃんとした武器があった方が良いと思うんだ。
今俺が持ってる剣は本当に普通の鉄剣。まぁ一般的には十分だとは思うんだけど、これからギルドクエストで魔獣と戦うかもしれないって考えると…若干不安なんだよね。
てな訳で武器屋に入った俺は、剣が並ぶコーナーの前で両腕を組んで悩んでいた。
何を悩んでるのかって?
まず、本当に剣でいいのか?ってゆー悩みだ。
この店には剣の他にも槍、弓、斧、刀等の武器が所狭しと並んでいる。これを見た時に、今まで無自覚で剣を選んでた事に気付いたんだよね。
剣で戦うのが本当にベストなのか。それとも、俺の戦闘スタイルに合う武器が他にあるのか。
…やべぇ。全然分からない。
店の人に頼んで、試しに振らせてもらおうかな。
「君…。何を悩んでいる?」
「うぉっ。…ビックリした。……てか、誰?」
俺に話しかけてきたのは、灰色のフードを被った男だった。声からするに男だと…思う。フードの隙間から見える髪は…銀髪なのか?銀髪の男って居るのかな?実は女とか?
まぁ、ともかく見た目怪しい人物が話しかけてきた訳だ。
取り敢えず…フードの男と仮称するか。
そのフードの男は俺と同じく武器を探しているようだった。
陳列されている剣の一つを手に取りながら、顔だけこっちに向けている。
「誰…と言われても答えに困るな。ただの武器屋を物色している通りすがりとしか言いようが無い。」
「まぁ…そうかもだけど、何で俺に声掛けるんだよ。それに、フードで顔を隠してるのとか怪しすぎるんだよな。」
うっし。ズバッと言ったぜ。怪しい奴に弱腰だと付け入られるからな。
「そうか。だが、訳あって顔は晒せない。お前に声をかけたのは、そうだな…武器種に悩んでいるように、見えたからだ。」
「…マジか。よく分かったな。」
「そんなもの、視線を見ていれば簡単に分かる。各武器を視線が彷徨っていたからな。」
「なるほど…視線ね。」
うん。勉強になるな。視線を観察するってのは、対人戦とかでも役に立つ気がするぞ。メモメモ。
「それよりも俺が気になったのは、何故、お前みたいな一定以上の実力者が武器に悩むのかという事だ。」
「ん?俺、そんなに強くはないぞ?」
「それについて議論する気はない。」
フードの男は手に持った刀をクルクルと回しながら肩を竦めて見せた。…なんかさり気ない仕草の癖に、スッゲェカッコイイ雰囲気なんですけど。
「俺の見立てでは、お前は少なくともギルドに加盟する位の実力はある。その実力を持つ者は己の戦い方の型は決まっているはずだ。つまり、扱う武器も決まっていて然るべき。それなのに武器種で悩むというのは、普通に考えておかしな話という事だ。」
「そう言われてもなぁ。別に決まってない訳じゃないぞ?普通に剣を使ってるし。ただ…。」
「ただ…なんだ?言ってみるが良い。力になれるかも知れないぞ?」
…どうするか。別に話しても良いんだけど…そうすると俺の魔法についても話さなきゃなんだよな。
それが普通なら良いんだけど、俺の場合はちょっと勝手が違うんだ。
一般的に人がが使える魔法の属性は3つが上限なんだよね。勿論、人によっては1つの属性しか使えない人もいる。あくまでも上限だから、そこに至るかは才能と努力次第って感じかな。
けど…さっきのギルド加盟試験の通り、俺は4属性を使えるんだ。
何か特別な事をしたってのは無い。
強いて言うなら、気付いた時には魔法陣を展開発動出来るっていう、珍しい力があるってくらいか。まぁ…だから多くの属性を扱えるって理由にはならないんだよね。
簡単に言えば、原因不明って訳。
んでもって、この魔法陣を展開発動出来る力と、4属性使えるっていう…所謂特異な能力を持っている上で、それを最大限に活かす武器が剣で良いのかって悩んでる訳なんだけど…。
レフナンティにも俺の魔法陣と属性について知ってる人はいるけど、それを会ったばかりの…しかも顔も隠してる不審人物に話すのはちょっと気が引けるんだよな。
んー、本題に触れず悩んでる部分だけ話すか?
「それじゃぁ…簡単に言うと、小さい時から特に何かを考える事なく剣を使ってたんだよ。で、今回ギルドに所属するに至ったんだけど、実はもっと才能がある武器があるんじゃね?って思ったんだよね。」
「何か根拠はあるのか?」
「いや、無い。直感だよ。そーゆーのって大事だろ?」
…ちょっと強引だっか?
「そうか…。まぁそういう事もあるか。」
お?案外納得してくれたのね。
「そ。ってな訳だから、お構いなく。」
「いや、それなら俺が適正を見てやろう。」
「……へ?」
コイツ…俺の話聞いてたのか?俺、言い間違いじゃなかったら「お構いなく」って言ったよな。
フードの男からの嬉しくない提案に俺が頭を悩ませていると、思わぬところから援護射撃がやってきた。
射撃主はこの店の店主だ。因みに、武器屋の店主って言うと太っちょのちょいヒゲなイメージがあると思うけど、この店主はその真逆。ガリガリのドクロみたいなおっちゃんだ。ま、性格は優しいんだけどね。
「おぅ!龍人!このお客さん、さっきから色々な武器を持ったりしてたけど、俺の見立てでは相当な手練れだぞ。ギルドの依頼で魔獣と戦うこともあるかも知れないし、見てもらったらどうだ?損はないと思うよ。」
援護射撃といっても、俺側ではなく…フードの男側だったんだけどね。んで、この余計な援護射撃のせいで余計に断り難くなっちまった。
「…だそうだが?」
フードの男も何故か店主の援護射撃に便乗してるし…!
店主にはちょくちょくお世話になってるし…ここで断ったらただの恩知らずじゃないですか。
…観念するか。てか、それしか選択肢が無い。
「じゃあ…お願いします。」
「頼まれた。店主、場所を貸してくれるか?武器を振り回せる広さがあれば1番良いのだが。」
「それなら店の裏にある広場を自由に使ってくれ。武器は使ってみてナンボだからな。」
「そうか。では…龍人だったかな?裏手に向かおう。店主、一通りの武器を借りていくぞ。」
「おうよ。好きに使ってくれ。」
という訳で、意図せぬ武器選別会が始まるのだった。
武器屋の裏にある広場へ移動しすると、フード男が武器を投げて寄越した。
「うぉっ!?危ねっ!」
投げてきたのは槍だ。しかも槍先を俺の方に向けて投げやがった。これじゃぁパスっていうより…投擲だろ。
ともかく、俺は槍先を避けつつ横からパシッと掴み取る。
「先ずはそれを使ってみるが良い。」
それを使ってみろって…今まで俺は剣しか使った事無いっての。
…つーか、俺の反応とか無視してるし。フードの男のやつ、武器屋から借りた武器の中から剣を持つと無言で構えやがった。
「…扱いに慣れてないから、怪我するかもしれないぞ?」
「心配は無用。慣れぬ武器を全力で使うからこそ見えるものがある。」
「そういう事なら…!」
俺は槍を構えて前に出る。
因みに、広場への道中で魔法の使用は無しと言われているので、純粋な武力が試される感じだね。
まぁ良い機会だし、思いっきりやってみるか。
「はっ…!」
気合の声を出しつつ槍を横に薙ぐ。
フードの男が軽快なステップで避けた瞬間に更に距離を詰め、渾身のひと突きを放った。槍先は吸い込まれるようにフードの男の胴体へ伸びていき…。
キィィィン!……とフードの男の剣に上へ弾かれてしまう。
「うぉっ…!?マジか。」
「左手の握りが甘い。攻撃の軸にするイメージで、全ての動きの基点を作るつもりで左手を使え。」
「難しい事言うよな…。えぇっと、こうか?」
俺はフードの男のアドバイスを実行に移してみる。
右手ではなく、左手で攻撃の方向と強さをコントロールするイメージで…連続突きを放つ。
キィィィン!
またしても弾かれてしまった。
「いってぇぇぇ!」
弾かれた衝撃で手首を痛めた俺が右手を振っていると、フードの男は首を傾げた。
「…槍の才能は無いな。次の武器にいこうか。」
「うげぇ。マジか。」
一瞬で槍の適性を見極めたフードの男…凄いな。
「何がだ?才能がない物を扱い続ける事程、無駄な時間はない。武器というのは弛まぬ鍛錬の先に、その真価を発揮する。故に、己の手先と同じ感覚で扱える武器でなければならない。今の槍捌きは、薙ぎ払いは良かったが…突きに関しては全く鋭さが無かった。つまり、突きよりも斬撃に適性がある可能性が高い。さぁ、時間は有限だ。次の武器を持て。」
…な、なんなんだこの人?
そんな簡単に適正とか分かるもんなのか?
もしかしたら、どこかの剣聖的な超人系の人なのかも知れない。
だとしたら…こうして武器の選定を手伝ってもらってる事自体が奇跡じゃないか。
「何を呆けている?次は斧を持ってみるんだ。」
俺は静かに斧を持つと、ゆっくりと構え…。
リスペクトの念を込めて叫んだ。
「いきます!!師匠!!」
「……む?」
それから小1時間。俺は師匠と武器の選定作業に没頭したのだった。