5-10.ビーチ!ビーチ!ビーチ!
2つ目の特訓を行う朝。
俺達コテージ組の5人は9時5分前に南の砂浜に到着していた。
なんつーか…人によってこの2日間の過ごし方が大分違ったみたいだ。
2日前と変わらず小綺麗な格好をしている人もいるし、人によっては過酷なサバイバル生活をしたんだろってひと目で分かる人もいる。例えば…上半身ボロボロのTシャツを着て、全身が泥だらけのバルクとかね。一体どんな生活をしたらあんな格好になるのやら。
ロッジ生活をした遼は比較的快適だったんだろう。顔色も良いし元気そうだ。
あ…そう言えば、プラムも実は10位以内に入ってなかったんだよな。完全に忘れてたけど……全然元気そうだ。寧ろ肌艶が良くなってるような。もしかして野生児なのか?
「おーし。全員集まってるみたいだな。今日やるのはスポーツ感覚のゲームだ。つっても、内容は魔力操作がかなり試されるもんだから気合入れろよ。」
競泳水着っぽいのを履いたラルフ先生がニヤニヤしながら転移魔法で現れた。つーか……海パンがもっこりでっせ?女性陣が顔背けてるし。自重しろ自重!
「ふふっ。更にぃ、皆には着替えてもらうわよん。はーい、男性女性分かれて左右のテントに入ってねぇー。」
ラルフ先生の後ろからひょこっと現れたキャサリン先生が移動と着替えを促す。……ってなんだあの水着。自重しろ自重!
胸を隠すのは紐の先に付けられた超極小の布。そして下も…紐!殆ど裸と一緒じゃんかよ。つーか、スーパーナイスバディだな。レースクイーン顔負けじゃないか。
……はっ!女性陣の方から殺気が!?
キリッと振り向いたけど…誰もこっちを見ていなかった。
怖い。
「ほーら。さっさと着替えろ。」
ラルフ先生は生徒陣の反応に興味がないのか、動かない生徒のお尻をぽんぽん叩き始める。男も女も容赦なく。
でも、女の尻を叩く時だけ指をムニッと動かしてるような……って、そんなとこを観察してたら俺も変態じゃんか。
さーて、着替えようかなっ。
「おぉ。普通の水着だな。」
テントの中に入ると、普通の水着が用意されていた。でも、何故か誰がどの水着を着るのか指定されてるんだけど。これ…変な水着を指定されてたら、俺泣くぞ?
「………セーフ。」
俺に指定されていたのは普通の黒い水着だった。良かったー。
「おい、これ着るのかよ!?」
声のした方を見るとバルクが青筋を浮かべていた。
その手に握られていたものは…。
全員が素知らぬふりをしたのは言うまでもない。もしここでバルクと共に異議を唱えたら、自分にも同じ水着をが充てがわれる可能性があるのだ。
ラルフ先生とは…そう言う人物なんだよね。
全員が着替え終わって砂浜に再集合すると……どよめきが広がる。
男性陣からは女性陣の水着を姿を見て。
火乃花は赤いビキニ。クレアは白。この2人はキャサリン先生にも劣らぬ素晴らしい水着姿で男性陣の目を惹きつけていた。勿論、巨乳でなくとも破壊力のある水着姿を披露する人物もいた。例えば水色のビキニを着るルーチェ。胸は控えめだけど細身で健康的な姿は…見る人が見れば鼻血ものだろう。
そんな細身な女性陣の中で一際異彩を放つ人物がいた。
白とピンクをメインカラーとし、薄ピンクのフリルが腰と胸元で揺れる水着を着たプラムだ。完全なロリっ娘体型を活かした水着だな。可憐というか、庇護欲を掻き立てられるというか。これ、プラムファンクラブとかその内設立されるんじゃないか?本人はキョトンとしてるけど。
そして、女性陣の方では悲鳴にも似たどよめきが広がっていた。その元凶は、拳を握りしめてプルプルと震えながら羞恥に耐えるバルクだ。その股間部分からはアヒルの顔が飛び出ていた。それはもう確りと。お笑いでこーゆーコスチューム流行ったような気がする。
バルクが自分で選んだ水着ではないけど…、誰がどう見てもただの変態。それも近寄ってはいけないレベルの。
「くくく……皆着替え終わったな!水着姿ってのは良いもんだなっ!」
目尻に涙を浮かべながら肩を震わせるラルフ先生。元凶はあんたかい。
「じゃあ今日の特訓内容を言うぞ。ひと言で言えばサーフィンバトルだ。」
ラルフ先生が指をパチンと鳴らすと、空中に大量のサーフィンボードが出現した。
「ルールは簡単だ。1時間後に全員が海の上にスタンバイ。互いのサーフボードを壊し合ってもらう。魔法の使用は移動と強化のみ。攻撃や防御を行う事は禁止だ。先ずは1時間以内に移動方法を確立しとけ、そうしないと何も出来ないで負けるぞ。」
魔法は移動と強化のみって結構シビアだな。てかサーフィンやるのに身体能力強化を使っても、効果が薄いような…。
キャサリン先生が追加で説明をしていく。
「それでね、今回の1位〜5位にはロッジをプレゼントするわ。もし、既にロッジとコテージに住んでる人だったら、希望する食材をプレゼントよ。因みに、私の胸はプレゼントで、き、な、い、わ、よ?」
いや、食べないだろ。
「ポイントの計算は簡単よぉ。1つサーフボードを壊すと1点。壊されるとマイナス1点ね。最下位の人にはきつ〜いお仕置きを用意してあるから…楽しみにね?」
うわっ。今、ゾワワワワワって背筋に寒気が走ったぞ。キャサリン先生のお仕置きとか嫌な予感しかしない。それも色々な意味で。下手した貞操の危…ゲフンゲフン。
「はぁい、始めぇぇ!」
何故かブリッ子ポーズで1時間の練習開始を合図したキャサリン先生は、ラルフ先生と一緒にビーチサイドでカクテルっぽいのを飲み始めた。
さて、サーフィンか。やった事ないから、ちゃんと練習しないと。
魔法を使って良いわけだから、波に乗る感覚を掴めれば…あとは魔法を使って自由自在に動けたりするのかね。そうなったらちょっとカッコいいかも。
ラルフ先生が出した大量のサーフボードの1つを取って、海の中に入っていく。先ずはサーフボードの上にうつ伏せになって漕いでみる。ん〜思ったより進まない。
だとすると、魔法で移動させちゃった方が早いよね。普通に水流を発生させれば良いから…後ろに水砲みたいなのを出す魔法陣を設置して。…と、おぉ!速い!いいねぇ楽チンだ。
「やっぱり属性の縛りがない龍人君は、こういう時に強いわね。」
おろ?声を掛けられた方を見ると、火乃花だった。
つーか…サーフボードの上にうつ伏せの姿勢マズいって!たわわなお胸がサーフボードに押し当てられて形が…マズい。これはマズい。「どこ見てるのよ!」って燃やされる!!
まさか、ラルフ先生が全員を水着にさせたのはこれが目的なのか!?人間の煩悩を刺激して、理性と欲情の狭間で葛藤させるつもりなのかあのオジサン!!
「…??龍人君どうしたの?固まっちゃって。」
「あ、あぁごめんごめん。」
…危ない。これ以上ない最高の景色に思考がトリップ&暴走してたぜ。
「いや、火乃花がもうこんな沖合までいるってのにビックリしてさ。普通に考えたら属性的に不利じゃん?」
「それね…。そうなのよ。私も普通なら不利になると思ったんだけど、お父様に教えてもらった方法を試したら上手くいっちゃったの。」
「やってみてすぐに出来るあたりが流石だよな。どうやったの??」
「それは…後でのお楽しみ。龍人君のサーフボードも壊しにいくからね?」
「へーい。一方的にやられないように、精進します。」
「ふふっ。じゃあまた後でね。」
そう言うと火乃花はサーフボードの上に立ち、波乗りをして砂浜の方へ移動していった。なにそれ波乗りの習得早くない?
…よし、俺もやってみよう。サーフボードの先を波の方向に向けて両足をつける。お、案外バランス取りやすいかも。
お、お、お?……おぉ!出来た!思ったよりも立つだけなら簡単だ。後は波の動きに合わせて…。
「うわっ!?」
バシァン。と落ちましたとさ。
これ、難しいな。少しの体重移動で、サーフボードがかなり動く。となると、サーフボードのどこに体重を掛けるとバランスを取りやすいかとか、向きを変える時にどこを重心にした方が良いのか…とかを研究しておかないと、魔法で移動出来てもサーフボードから落ちてすぐに壊されちまうな。
他の人達はどうなんだろ?
…まぁボチボチだね。上手く乗ってる人もいるし、全然立てない人もいるし。どんぐりの背比べだなこれ。
ん?待てよ。考え方を変えれば、要は自分のサーフボードを壊されないで、相手のサーフボードを壊せば良いんだよな。となると…最終手段としてはありかも。周りにバレないように研究してみるか。
「ひゃっは〜!!最高だぜ!」
少し離れた所ではバルクがハイテンションで叫んでいた。って、めっちゃ上手いな。プロサーファー顔負けの波乗り技術だ。股間から飛び出たアヒルの顔が無ければ、ちょみっと惚れちゃう女性もいるんだろうけど…。全てをアヒルの顔に台無しにされてんな。
おしっ。後40分位かな?ボチボチっと練習しますか。
そして練習開始から1時間後。全員が海の上でサーフボードに乗りながら待機していた。
全員の視線の先には、海の上でサーフボードに乗ったラルフ先生が仁王立ちで立っていた。
「おーし。そろそろやるか。最初に説明した通り、魔法は移動と強化以外で使ったらアウトだからな。」
ピョコタン!とキャサリン先生がラルフ先生の横に着水する。足元には…こちらもサーフボード。
「そ、し、てぇ…ビッグニュースよ。私達も今回は参戦するわ。私とラルフのサーフボードを壊したら10点あげるわ。私達に壊されてもマイナス1点で変わらないから安心してね。」
…はい?この先生2人が参加とかヤバいだろ。
「おーしやるぞ!3、2、1…」
うわっ。容赦無いな。先生の参加ってゆー余計なサプライズに全員が戸惑っているのを無視して始めようとしてやがる。
「始め!」
全員がわたわたと動き始めた。
俺も動かないとな。攻撃魔法を使えないから自分のサーフボードで攻撃するか、格闘攻撃で破壊しないといけない。
俺が使う魔法は最初に使った属性【水】で水流を操る移動方法と、属性風によるサーフボードの強化かな。後は…ちょいとズル技も。
「おっらぁ!龍人!覚悟しろや!」
ドバァん!と、バルクが近くに着水する。
「マジかよ。」
バルクが来た事じゃぁない。それ自体は良いんだけど、いや、良いかと言うよりも…バルクのサーフボーとが問題なんだ。
「どうだ!俺のサーフボード強化術は!コレは攻撃じゃぁない!強化という名のオシャレだ!」
うわぁ…言い切ったよ。
というのも、バルクのサーフボードは四隅にハンマーみたいなものが取り付けられていた。物理法則的にこれでサーフボードに乗れるって有り得るのか?って感じなんだけど…まぁ魔法だし、実際に乗れてるし。
「ぶっ叩く!」
そして、闘志満々で向かってきた。波に乗り、宙を舞い、体の軸を捻ってサーフボードを横に回転させる。高速で回るハンマーが海面を弾き飛ばしながら接近する。
「やばっ!?」
水流を発生させて必死にサーフボードを操って回避する。って…。
パァン!!
という打撃音が響き、俺のサーフボードは木っ端微塵に破壊されてしまった。
「はっはっは!参ったか龍人!これ以上お前のコテージ生活はグレードアップさせん!ついでにお仕置き受けさせてやっからな!」
一瞬でバルクにサーフボードを壊された衝撃で呆けていると、キィィンという音が聞こえて転移光が俺を包む。そして、目の前の景色が消え…空中にいた。
わぁお。高いねコレ。しかも足元には新しいサーフボードがあるし。
そいういうシステムか。サーフボードを壊されると転移でランダムに飛ばされて、そこから再開って事かな。
「よっと…!」
空中でサーフボードのバランスを取って着水すると、近くに遼がいた。
やべっ。また攻撃されっか!?
「あ、龍人お疲れ。さっきバルクに壊されたでしょ?」
あら?全然戦う素振りが見えないんですが。
「見事にやられたよ。ってか攻めないの?」
「あぁ…。」
俺の質問に遼は遠い目をする。
「俺、致命的に相性が悪いんだよね…。」
「はい…?」
「重力魔法じゃサーフィンに全く活かせないし、サーフボード乗るのも人並みだし。普通に考えて不利じゃない?」
「まぁ…そうだね。」
「うん。ってな訳で、逃げの一択かなって。」
なるるど。だからクラスメイト達がサーフボードの壊し合いをしている中心地から離れた場所に潜んでるのね。
「そんな訳だから、龍人も頑張って!」
ビシッと手を挙げた遼はビート版みたいにサーフボードを使いながら離れていった。
まぁ得手不得手は誰にでもあるよね。
でも…属性【重力】なら移動に関わる魔法の使い方があるような。
「って、そんな事を考えてのんびりしてるとマズいか。」
今マイナス1点だもんな。
攻めないとダメだ。
そして、こうなったら序盤だけど奥の手を使う!
狙うのは…乱闘してる4人だな。
魔法陣を発動して水流を発生し、移動を開始する。…よし、俺の接近にまだ気付いてない。
残り3メートルくらい。ここだ!
移動用の魔法を属性【氷】に切り替える。海面を凍らせてその上を滑る移動方法だ。
この移動の真髄はここから。俺は乱闘する4人の周りを迂回するようにサーフボードで滑る。こうする事で…水面が凍って単純なサーフボードの移動じゃ抜けられなくなる。
「もらった!」
4人が氷によって進路を絶たれた事に気付いて動揺した隙を狙って、俺は風を纏ったサーフボードを大剣のように振り回して撃破していく。4人は転移光によってどこかへ飛ばされていった。
よし。いっちょ上がりっと。
ん?サーフボードで攻撃したらアウトだろって?
いやいやいや。使って良いのは移動と強化の魔法。俺が使った魔法は属性【風】によるサーフボードの強化。この強化されたサーフボードを振り回して攻撃したんだから、魔法を攻撃には使っていない。…え、大丈夫だよな?大丈夫だと思って自信満々に今の行動をしたんだけど。
チラッとラルフ先生の方を見ると…目線が合った。あら?もしかしてダメだった?
と思ったら、ニヤッと笑って俺から視線を外し、近くの生徒に襲い掛かっていた。セーフ!!
よし。この調子でポイントを稼いでいこう。
4点を稼いでテンションが上がった俺は、次なる獲物を探そうとして…氷による移動を使って旋回行動をとりつつ後方へ飛び退いた。俺の軌道を塞ぐように、一陣の氷が通り過ぎる。
…やべ、コイツか。
「龍人。お主のサーフボードスタイル…拙者に酷似しているのでござる。同じ刀使いとして勝負を申し込むのでござる!」
そこには黒い袴に燻んだ薄青の羽織を着た…ぱっと見た感じでは「新撰組?」って勘違いしそうになる人物…オルム=ヴァッサーがサーフボードの上で仁王立ちをしていた。
つーか、みんな水着に着替えてたよな?何故その格好だし!つーか、サーフボードとミスマッチすぎてめちゃくちゃ浮いてるんですけど!?




