5-9.コテージ生活を満喫する
翌朝。俺は誰よりも早起きして台所に立っていた。
タムとルフトは爆睡中だ。火乃花とクレアもロフトで寝ている。多分。だってさ、覗いたら後で怖いじゃん?だから、予想するしかないんだな。
タムもルフトも朝早く起きるのが嫌らしく、正々堂々とジャンケンをして…俺が負けた。
さて…どうするかな。
今手元にある材料は、今朝河原で取った魚と森で採取した果物、野菜位か。キノコもあったんだけど、毒キノコなのかがサッパリ判別できなかったので朝食に使うのは控えておいた。
収納魔法陣に入れた調味料は…うん。これで決まりだな。
先ずはほうれん草を洗い、手頃な大きさに切る。次に人参を短冊切り。んで、持ってきた鰹節と昆布を両方使った出し汁に入れて…煮込む。
煮込んでいる間に魚だ。先ずは鱗を包丁で削ぎ落として3枚下ろし…いや、ここはコテージらしく丸焼きにしよう。となると…塩を振って串で一本刺し。魔法陣で弱火を出して、鉄の棒を2本並べた所に魚をおいてじんわりと焼いていく。
後は…ご飯は米を持って来たから、鍋を使って炊く。
さぁて、ここで美味しい白米の鍋炊き方法の紹介だ。
前にキャンプでやった事があるから、大体覚えてるんだよね。
①お米はしっかり給水させる。大体の目安は、夏は30分くらいかな。冬だと1時間くらいって聞いた事がある。
②鍋を火にかける。最初は中火だ。因みに、火が鍋の中央に当たるように位置をちゃんとセッティングする事が重要だ。米が鍋の中でクルクル均等に回るようにする為だな。
③沸騰したら、中火、ちょっと弱火、弱火と火力調整していく。
④10分ちょっと炊いたところで蓋を少しズラして水気がなくなっている事を確認したら、蓋を戻して5秒位加熱して…10分程度蒸らす。
さ、これでご飯は完成だ。
後は野菜を煮たところに味噌を溶く。
魚も…そろそろ良い感じに焼けたか。
朝から良いご飯が食べれるな!焼き魚定食完成だぜ!
カンカンカンカンカンカン!!!
「はーい、朝ですよー!皆さん起きてくださーい!ご飯出来てますよー!」
フライパンをオタマで叩きながら皆を起こす。
タムとルフトは眠そうにフラフラと起きてくる。
火乃花は「喧しいわね」と顰めっ面でロフトから降りて来て、クレアはロフトからテーブルの上を覗いて「焼き魚定食だ!」と顔を輝かせていた。
クレアみたいな反応だと、作りがいがあるよね。
それからは皆揃っての朝食タイム。無言だったらどうしようかなって思ってたんだけど、クラスメイトって事だけあって、色々な話題で盛り上がった。ラルフ先生に対する愚痴とか、互いの魔法の長所や短所についてとか、1番戦いたく無い相手とか、ラルフ先生のセクハラに対する問題提起とか。
意外だったのは、全員が戦いたくない相手に俺を選んだ事だな。多種多様な属性を操るし、龍人化を使う事でステータスが一気に向上するしで戦いにくいって思われてるらしい。ん?俺?俺はもちろん火乃花を選んだよ。魔法の操作能力も攻撃力も高いし、何より頭が回るからな。相手が自分より弱いとしても全然手を抜かないし。ある意味鬼畜だけど、油断を狙った攻撃が出来ないからね。
そんなこんなで朝食を終えた後に俺が食器を片付けていると、火乃花が声を掛けてきた。
「龍人君。明後日の9時に南の砂浜集合って事は、今日と明日の2日間丸々空いてるけど…何をする予定かしら?」
それな。俺もどうしようか悩んでたんだよね。
タムが教えてくれた主属性の魔力を練り上げる練習もしたいし。でも、極端な話それって1人でも出来るんだよね。コテージ生活をゲットしたお陰で生活基盤も整ってるし。
折角の共同生活だから…この状況を活かして何か出来ればとは思ってるんだけど。
そんな感じの内容を伝えると、火乃花はクレアと目線を合わせて頷き合う。
そして、タムとルフトにも同じ質問をしていた。
因みにタムの返事は…。
「俺はなんでもいいっす。あ、でも龍人さんに主属性の魔力を操る練習を昨日教えてるっすから、その続きでも良いっすね。もしアレだったら皆でやるのも良いと思うっすよ。」
と、至って普通の内容だった。
そして期待のルフトは…。
「俺っちは強くなる為に新しいスキルを覚える予定かなっ!広範囲をババァンって攻撃出来るようになりたいんだよねっ!それが出来るなら何でもよいかなっ!」
という、戦う事しか考えていない内容だった。
けど、この返答内容にも火乃花は満足したらしく「うんうん」と笑みを浮かべて聞いていた。
で、全員の話を聞き終わった後に1つの提案をしてきた。
「今日と明日なんだけど、特訓はしないで普通にキャンプを楽しむのはどうかしら?」
…はい?まさかのエンジョイ勢ですかい?
「賛成っす!休憩も大事だと思うっす!」
えぇ?タム、心変わり早すぎるだろ。
「俺っちはキャンプしながら魔法をぶっ放して良いならオッケー。」
ルフト…。
「龍人君…どうかな?」
俺の近くに寄ってきたクレアが首を傾げて聞いてくる。
いや、確かにエンジョイするのは良いんだけど…なんというか、そんなに気を抜いて良いのか?っていう葛藤が。
「あ、因みに言っておくけど、普通にキャンプをするだけじゃないわよ?」
「どゆ事?」
「簡単に言うと、私のお父様が最近教えてくれた魔力強化方法を皆でやりたいのよ。多分…相当効果があると思うわ。」
その内容は、言うのは簡単なんだけど…良く良く考えればかなりハードな内容だった。
まず、使って良い魔法は自分の主属性の魔力のみ。しかも、媒体を使って属性化させてはいけないらしい。魔力が媒体を介して属性化する直前の状態で保つのがコツだとか。因みに媒体って言うのは魔具の事な。
んで、この属性魔法発動直前の魔力を全身に張り巡らせた状態で日常生活を送るんだって。これをする事で魔力の維持力、操作能力、出力が大幅に強化されるんだとか。
火乃花は属性【焔】、ルフトは属性【疾風】、タムは属性【瀑布】、クレアは属性【治癒】の魔力を常時張り巡らせる事になるらしい。
俺?俺は…どうしたら良いんだろうな。ここにきて主属性不明問題が一気に顕在化してきた気がするよ。
けど、この点に関しても火乃花には考えがあった。
「龍人君は無属性の魔法を張り巡らせれば良いわ。魔力を常時待機状態にしておくと、自然に主属性の性質に魔力が変わっていくらしいから、それで感覚を掴めるかも知れないわね。」
という事らしい。
正直、それで感覚を掴めるのか不安だけど、やってみる価値はあるかも知れないからやってみることにした。
さて、魔力を常時張り巡らせた状態で過ごしたキャンプシーンをダイジェストでお送りしよう。
☆☆☆☆シーン1☆☆☆☆
トントントントン。
包丁がまな板を叩く軽快な音がキッチンで踊る。音が鳴る度に輪切りのニンジンが量産されていく。ボールには玉ねぎやら茄子やらカボチャやらがカットされた状態で入っている。
全てのニンジンを切り終え、次に登場するのは串だ。火乃花は串に野菜と肉を突き刺していく。瞬く間に串刺しが終わり、後は焼くだけ。今日の昼食は皆でバーベキュー。
おいしく焼いて、おいしく食べよう!
そんな時、事件は起きた。
ゴォォォオオオ!!
串焼きを作るための火がいきなり火力を上げたのだ。
火はすぐに鎮火されたが…後に残ったのは串に刺さった炭。
「魔力を発動直前の状態にしておくと調整が難しいわね…。」
眉根を寄せた火乃花は燃えかすとなった食材を眺めて首を傾げてしまう。
「火乃花が暴発させるとか珍しいな。」
そんな感想を言う龍人を見て火乃花は肩を竦める。
「魔力を常時張り巡らせておくから、魔力の発動までは早いんだけど…必要分の魔力を練り上げるのとは感覚が違うのよね。お昼どうしようかしら。」
そんな事を言いながらも、火乃花はバーベキューの肉焼きに再トライし…再び野菜の形をした炭を作り上げた。
「………。」
無言の火乃花。
そして、それを横で見つめる龍人。他のメンバーは夜ご飯調達メンバーとして遠征に出ており、この場にはいない。
遠征メンバーが帰って来た時に待っているものが…焼け焦げた肉と野菜だったらどうだろうか。
その事態を想像した火乃花は目線を逸らし、龍人は身を震わせる。
「火乃花…火力調節は俺がやろっか?魔法陣だと暴発も何も無いし。」
「龍人君ありがと。…まさかこんな所で躓くとは思わなかったわ。」
「気にしない気にしない!主属性が分かってるだだって。」
「龍人君も早く分かると良いわね。今のところ変化は無し?」
「んー、無いね。残念ながら。」
「そっか…。」
火乃花はちょっとだけ残念そうな顔をした後に、手をポンっと叩く。
「とにかく、美味しいお昼作ろっ。」
「おうよ!」
こうして龍人と火乃花は協力してお昼ご飯を作る事になったのだった。
因みに、本日の龍人の仕事は夜ご飯係。午前中はオフで、昼以降に翌朝の食材調達をする予定だったのだが…。気付かず1日動き回る事になったのだった。
☆☆☆☆シーン2☆☆☆☆
夜。
コテージ住まいの5人は魔法を使った遊びを行っていた。名付けてクレート射撃。いや、そのまんまなのだが。
クレアだけ遠距離攻撃が出来ないのでは…という懸念があったのだが、最近遠当てを習得したらしく問題無かった。
さて、射撃の的となるクレートを射出する役が必要である。当初は順番に投げる。という手法が検討されていたのだが…ここでタムが気付いてしまう。
「アレ?龍人さんの魔法陣を使って、ランダム射出出来ないっすか?」
この提案に皆の頭の上にビックリマークが浮かび、龍人の頭の上にはビックリマークとクエスチョンマークが浮かぶ。
「えぇっと……俺がやるの?誰かが投げたりするんじゃなくて?」
「魔法陣なら発動のタイミングをランダムに出来るから簡単だと思ってたんすけど、難しいっすか?」
これを言われては、魔法陣をメインに使って戦うものとして「出来ない」とは言えない。
つまり、持続型魔法陣にランダムな間隔でクレートを射出するようにすれば良いだけで…言うは易し、行うは難しである。
「多分出来るかな。準備してくるから、ちょいと待ってて。」
ここから約20分。龍人が全力で試行錯誤したのは言うまでも無い。
クレートを射出するのは圧縮した風。
クレートの設置はバネのような機構を発射台に設置し、前のクレートが発射されたら下のクレートが押し上げられる仕組みに。
特に苦慮したのが魔法陣の単発発動時間をランダムにする事だ。これは魔法陣の発動毎に次の発動迄の時間をランダムに変更する構造を取り入れる事でなんとか実現した。詳細は省くが…相当な努力をした事は想像に難く無いだろう。
この魔法陣を完成させたときに龍人が人知れずガッツポーズをした事は言うまでもない。
そして、このクレート射撃ゲームであるが…全員が全的中をさせてしまうというまさかの結末に、1回こっきりでお開きとなったのだった。
☆☆☆☆シーン3☆☆☆☆
事件は突然起きた。
翌日に夏合宿2つ目の特訓が島南端の砂浜で始まることを踏まえ、前日は全員がのんびり過ごすという話で纏まったのだ。
5人はコテージの軒先にハンモックを設置し、そよ風に肌を撫でられながらリラックスした時間を過ごしていた。
「ぬわ!?やっちまったかも!?」
ルフトが突然叫んだのだ。
「どうしたんだ…って…え?マジで?」
何か緊急事態が起きたと察知してハンモックから飛び起きた龍人は、目の前に広がるあり得ない光景に口元を引くつかせた。
そこには、20個ばかしの竜巻がその猛威を奮っていたのだ。
「いや…意味が分かんないんだけど。何をどうしたらこんな事態になるんだよ。天変地異?」
「ははっ。ごめん!新しいスキルの試作で風魔法を同時に大量発現させてみたらさ、魔力操作が思ったより難しくて暴走しちゃったよっ。」
竜巻は轟々と音を立てながら周囲の地面を削り、木を薙ぎ倒していく。高威力、広範囲。由々しき事態であった。
問題はその軌道だ。
「なぁ、竜巻全部がコテージに向かってんのは…気のせいか?」
「いや、気のせいじゃないと思うよっ!」
「そんなに溌剌と言うなし!止めるぞ!」
「おっけっ!」
ルフトと龍人はコテージを守るべく魔法を発動する。
因みに…火乃花、タム、クレアはいつの間にか消えていた。と言うよりも、ハンモックごと消えているため、竜巻の影響を受けて吹き飛ばされたと考えるのが妥当だろう。
龍人は竜巻の進路を遮るように地面を隆起させて壁を作る。
「おし!これで少しは耐えられる!ルフト、竜巻を風魔法で相殺できるか!?」
ルフトが竜巻を相殺すれば、これで問題解決。…となる筈だった。
「あぁっと、ははっ。俺、魔力が暴走した時に魔力の殆どを出し切っちゃったみたい。ごめんっ!全然魔法使えないかもっ。」
まさかのルフト魔力切れ宣言に龍人の頭が真っ白になる。
今向かっているのが普通の竜巻ならまだしも、ルフトが作り出した魔力による竜巻だ。つまり、そう簡単に消えてはくれない。
これが意味するところ…それはつまり…。
「やば…そろそろ壁が削り切られる。」
もし、このまま竜巻の進行を許せば…コテージは木っ端微塵に破壊されるだろう。
もし、そうなった場合…どんなことが予想されるだろうか。
テントなどを使って新しい生活基盤を構築しなければならない。
…そんな事はどうでも良かった。問題は、コテージを失ったクレアと火乃花の反応だ。きっとクレアは涙目で悲しむだろうし、火乃花は烈火の如く怒るだろう。その矛先がルフトに向くのは勿論の事、一緒にいた龍人に向く事も容易に想像できる。
そうなったら…夏合宿で寝たきりとなる重傷を負う可能性も否定できなかった。
つまり、このコテージを守れるか否かで…今後の安否に大きく関わる…可能性があるのだ。
故に、龍人は自然と追い込まれていた。「どうにかして竜巻を消さなければ」という一心で、無意識に龍刀を握っていた。
「やるしか…ないだろ!」
全身に張り巡らせていた無詠唱魔力が自然と龍刀へ集まっていく。
魔力が研ぎ澄まされた感覚が手元から全身へ広がっていく。
(この感覚…クレアを岩の檻から助けた時もこんな感じだったかも。)
「うわっ。龍人…その魔力凄いねっ!」
魔力切れで隣に立つルフトが目を輝かせる。
その目は、龍人の握る龍刀へと注がれていた。黒い魔力が刀身を覆い、赤い稲妻が走っている…ある意味で禍々しい刀へと。
「…斬る!」
龍人にはルフトの賞賛の声が聞こえていなかった。
研ぎ澄まされた感覚の中で、見えるのは地面を隆起させて作った壁を壊して迫る竜巻。感じるのは龍刀から感じる力強い魔力。
無意識に…体が動いていた。
龍刀を脇へ動かし、居合斬りを放つが如く動作で振り抜かれる。
黒い斬撃が飛翔する。それは…広範囲に広がる斬撃となり、向かいくる竜巻全てを迎え撃った。
パァァン!という音が響き渡り、竜巻が次々と弾け飛んでいく。
そして…後に残ったのは、静かな青空と竜巻によって抉られた地面、倒れた木々だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
…うわっ。無我夢中で龍刀を振り抜いたら、なんか黒い斬撃が飛んで竜巻を弾き飛ばしたんですが。
ほぼ無意識で使ったから、どうやって発動したのかすら分からん。
「龍人凄いじゃん!ちょっと今の攻撃、俺にも撃ってみてよ!」
「え…ほぼ無意識で撃ったから出来ないよ。それに、魔力切れの状態でやったら大怪我するでしょ。」
「…確かにっ!自分の魔力切れ忘れてたっ!」
ルフト…。
それにしても今の斬撃、何かを掴めそうな感じがしたんだけどな。ん〜意識して使っていなかった事が悔やまれる。
「ちょっと、これ、どういう事かしら?いきなり吹き飛ばされてかなり迷惑したんだけど。」
お〜ぅ。怒り心頭の言葉を言いながら近寄ってきたのは火乃花だ。
「ごめんっ!魔力が暴走しちゃったんだよね!」
「ごめんじゃないでしょ!?準備していた夜ご飯の食材が全部吹き飛ばされたのよ!?」
「マジ…?」
慌てて食材を置いていた棚を探すけど…無い。
「ルフト君…今日の夜ご飯どうしよう。」
本日の夜ご飯係のクレアが涙目で訴えかける。
「えっと…どうしよっか?」
「今から食材を集めてきなさい!」
「はっ、はい!!!」
ルフトは文字通り風の如く走り去っていった。
…てか、風のように走り去る魔力あったんかい。
そんなこんなで、2つ目の夏合宿特訓前日は過ぎ去っていった。
結局ゆっくり出来た気がしないのは気のせいだろうか。




