5-8.サバイバルレース順位発表
ふと目が覚める。
……俺、何やってたんだっけ。あぁ…そっか。サバイバルレースで魔力が切れて気を失っちゃったんだっけ。俺って良く気を失ってるような気がする。流石にカッコ悪いな。
それにしても後頭部に感じるこの感触……。ゆっくり瞼を開けると、ぼやけた視界に何かが映る。
人の顔…?金髪の……。
「あ、龍人君!目が覚めたんだねっ!良かったぁ。」
あ、クレアか。下から眺めるクレアは強烈だな。胸の盛り上がりが…。
「……あ、そう言えばレースってどうなったんだ?クレアはゴール出来た?」
「それがね、私と龍人君2人ともゴール出来たんだよっ。」
「えっ?」
まさかの予想外な展開だった。石礫で囲んだクレアはゴール出来てたかなとは思ってたけど…。
話を聞くと、俺が背後から受けた衝撃は複数の雷撃に抵抗したバルクが地面に突き刺さった物だったらしい。その衝撃に吹き飛ばされ、意識を失いながらもゴール出来たんだとか。
なんつーか、バルクのせいで最後はギリギリな展開になったけど、最終的にバルクのお陰でゴール出来たとか…なんとも微妙だな。
そのバルクは地面に突き刺さった衝撃で意識を失ったらしく、10位以内には入れなかったんだとか。
そんな風に話を聞いていると、
「龍人君、いつまでクレアの膝を堪能してるのよ。」
と、火乃花に非難されてしまった。
べ、別に意図的に堪能してた訳じゃないんだからな!
因みに、魔力切れで魔力虚脱状態に陥ってた俺に魔力補充石を使ってくれたのは、5位でゴールしたタム=スロットルらしい。
誰それ?って感じだよね。そうなんだよ。実は俺も殆ど話した事が無かったんだよね。
そんな訳で、クレアの太腿に名残惜しさを感じつつ、少し離れて場所で頭の後ろで手を組んで空を眺めつつ寝転がっているタムへ近寄る。
「おっ?目が覚めたっすか?」
「あぁ。ありがとな。貴重な魔力補充石を使ってもらっちゃったみたいで。もし良かったら、お金払うよ。」
タムの外見…近くで見ると凄いな。
髪型はモヒカン。しかもモヒカン部分だけ金髪だし。そんだけとんがったヘアスタイルをしてるのに、服装は緑のジャージっていう…ややダサイファッション。一応上下ともにサイドに黒いラインが入っていて、その上に変な赤い模様があるから…お洒落?なのか?
ちょっと俺には分からない世界観だな。
「あぁ、いいっすいいっす!お金なんていらないっすよ。これから仲良くしてくれたらそれだけで十分っす。」
「…?そっか。分かった。じゃぁこれからよろしくな。」
「勿論っす!」
俺がタムに手を差し出すと、寝転がっていたタムはピョンっと飛び起きて握手に応じてくれた。
見た目は奇抜だけど、人としては良い人っぽい気がするね。
その後、他愛もない話をタムとしていると、ラルフ先生とキャサリン先生が他の生徒達を連れて山頂にやってきた。
「うっし。それじゃぁ今回のレース結果を発表するぞ。まずは順位だが…。」
ラルフ先生が発表した順位は、ちょっぴり意外な内容だった。
1位 霧崎火乃花
2位 ルフト=レーレ
3位 クレア=ライカス
4位 高嶺龍人
5位 タム=スロットル
ここまでがコテージ生活ゲット組だ。
次からがロッジ生活ゲット組。
6位 ミラージュ=ステラ
7位 オルム=ヴァッサー
8位 チャン=シャオロン
9位 草神天ニ
10位 藤崎遼
遼がギリギリ10位にランクインなんだよね。
他のメンバーは授業を見る限りは強いんだろうなぁとは思ってたけど、そこまで関わりがないというか…。今更だけど俺って交友関係狭いね。せめてクラスメイト全員と話せるくらいにはなった方が良い気がする。
簡単に説明すると、ミラージュは魔法少女って感じの女の子。オルムは…着流しを着た侍みたいな男。チャンは中華少女。草神天ニ(そうしんてんじ)は…やる気のない感じでダボっとしたパーカーを着てる男の子だ。
皆がどんな魔法を使うのかについては追々紹介するとして…。
あ、そうそう。バルクがどうなったかって言うと、完全にノックアウトで途中棄権って扱いになってしまったんだとか。まぁ…ドンマイとしか言いようが無いよね。
「さぁてとん、じゃぁ1位から5位の子達は島の東にあるコテージで生活するのよ?6位から10位の子は西にあるロッジね。あとはぁ…ロッジは小さめのものだから個別に用意したけど、コテージは1つしか無いわよ。異性不純行為のお祭りとかしないようにしてねん。あ、本当にムラムラしちゃった時は、私を呼んでくれれば…ふふっ…快楽の世界に導いてあげるわ。」
まぁたキャサリン先生が変なこと言ってるよ。舌なめずりまでしてるし。ムラムラしてるのは先生の方じゃん!…とは言えない。
てゆーか、コテージで火乃花、ルフト、タム、クレアとの共同生活をするのか。ちょっと予想外の展開だ。…緊張するな。
「うっし。そういう訳で解散だ。宿泊施設を手に入れられなかった奴らは、各々好きな所で生活基盤を整えるんだな。基本的には海とか川の近くが良いと思うぞ。あとは…次の特訓内容か。次は3日後の朝9時に南の砂浜に集合な。最初に転移した場所だから分かるだろ。特訓の詳細はその日に教えるから、それまでは頑張って生き延びろ。じゃぁな。」
ヒラヒラと手を振ったラルフ先生は、キャサリン先生と転移で消えてしまう。質問を受け付けませんみたいなスタンス…あれはわざとなのかね?素でやってたとしたら、ちょっと教師としてどうかと思ってしまう。
「ラルフ先生…本当に適当ね。はぁ…取り敢えず皆でコテージに行ってみる?」
「でもでもさっ、ちょっと楽しそうだよね。コテージ生活!」
真面目な火乃花と、とにかく楽しそうなルフト。この2人…良く手を組んだよな。
「だな。移動しよっか。」
「龍人君魔力大丈夫なの?」
「まぁ…多分?普通に移動するだけなら大丈夫だと思うよ。」
「そっか。無理しないでね?」
「うん。ありがと。」
…!?何故か火乃花の視線が痛いんですが。
「おっし!それじゃぁ行くっす!確か東っすよ!」
音符が見えそうなレベルでルンルンするタムが先行で歩き出し、残りの4人が後を追いかける形で移動を開始した。
道中、火乃花に話を聞いたんだけど、ルフトと手を組んだのは偶然近くに転移させられたのがきっかけらしい。
それにしても、俺とクレアとか、火乃花とルフトみたいに手を組んだ人達もいたと思うけど…そこに対する先生からの指摘は無かった。だとすると、今回の夏合宿の目的は…総合的に力を付ける事っぽいな。
言葉で伝えられた内容をそのまま受け止めるのではなくて、その裏にある真意とか、抜け穴を見つけるとかの思考力ってのも求められてるって考えた方が良さそうだ。
そんなこんなで5人でのんびり歩いていると小一時間程でコテージが建つ東の丘に到着した。
屋根が藍色に塗られている外観は、緑と青空とのコントラストが良い感じだ。
「可愛い建物ね。」
丘の上に建つコテージを見ながら言う火乃花の目が…キラキラしてる!確かに映画で出てきそうな雰囲気で、ちょっと憧れを感じるのは分かるかも。
「いいねぇ!これだけコテージの周りが広いと、建物の事を気にしないで魔法の練習が出来そうだよっ。」
ルフトは変わらず戦うことしか考えてないのね。
「ねぇねぇっ、早く中を見てみようよ!」
クレアが楽しそうに走り出す。
鬼特訓のサバイバルレースがあったとは思えないのほほんとした光景だ。…上位に入れて本当に良かった。コテージとかロッジに住めない人達は、今からテントを張ったりして住む場所を確保しなきゃなんないんだもんな。
クレアを追いかけてコテージの中に入ると…。
「うわぁぁ可愛いっ。」
両手を頬っぺたに当てたクレアがハートマークを浮かべている。
女の子ってやっぱりこういうの好きなんだな。
とは言え、コテージの中は確かに可愛い内装だった。入り口をはいるとすぐにリビングがあり、テーブルの奥には広いキッチンが併設されている。
そのすぐ横には階段があって天井は1階と同じ2階部分が…これってなんて言うんだっけ。
えぇっと中2階的な………。
「おっ!俺ロフトがイイっす!」
あぁそうそう!ロフトね。丁度今思い出したところなんだよね。先にタムに言われちゃったけど、まぁいっか。
「俺っちもロフト希望っ!って…ベッドが2つしかないよ!?」
「え、じゃぁ男が下にするしかなくない?」
ロフトの下にはベッドが3つあるしね。
「えぇっ?龍人、ロフトに憧れないの!?」
「いや、無くは無いけど…下に女性2人と男1人で寝るの?」
「うっ。それは…良く無いと思うっ!」
「でしょ?」
「じゃぁ遠慮なく私達は上にいかせてもらうわね。クレア、行きましょ。」
「うんっ。」
女性陣2人は楽しそうにロフトに上がっていってしまった。
ヒョイっと火乃花がロフトから顔を覗かせる。
「男性陣、上に上がってきたら…覚悟してね?」
おぉ怖っ!顔は穏やかだったけど、目は笑ってなかったぞ。てか、言われなくても上がっていかないし。それ位の分別はありますよ。
「俺っち真ん中〜!」
「俺はどっちでもイイっす。」
「じゃぁ…俺は入り口側にしようかな。」
「オッケ〜っす!」
「俺っちは少し寝て魔力を回復させるから!おやすみぃっ。」
ボフっと布団にダイビングしたルフトはそのまま寝息を立て始めた。…自由だ。
じゃぁ俺もやりたいことやるかな。
「タム。俺もちょっと外で魔法の練習してくるよ。」
「分かったっす!俺も気が向いたら行くっす!」
「はいはい〜。」
コテージの外に出ると、俺は少し離れた場所に移動した。
やりたい事は、魔法陣剣士の戦い方をもう少し確立させる事だ。
なんていうか…イマイチしっくり来ないんだよね。思いついた時は良い案だって思ったんだけど、何かが違う。
刀に魔法陣付与展開して適宜発動する事で、剣技と魔法を組み合わせた戦い方が出来る気がしたんだけどねぇ。いや、そんな戦い方は出来てるんだけど、なんとなく別個になっちゃってる気がする。
なので、この魔法陣と剣技を合わせた使い方を研究しようかなと思ってる訳だ。
魔法陣を展開して発動するって言うステップが普通の魔法使いよりワンステップ多いんだよね。
事前に展開しておけばそのデメリットは解消出来るんだけど、どうしても魔法陣の補充は必要になる訳で。この辺りをどうにか改善したい。
とにかく色々な魔法陣の展開と発動方法を試してみよう。
それから色々と試行錯誤をしていると、眠そうに欠伸をしながらタムがやって来た。
気付けば空が綺麗な夕焼けになってる。小1時間くらい集中してたかな?
「龍人さん、何してるっすか?」
「魔法陣と剣技を合わせた戦い方がイマイチしっくりこなくてさ。どうしたら良いかを色々試してたんだ。」
「ふぅーん…俺の見た感じ、龍人さんは普通に強いと思うっす。」
クラスメイトからはそう見えるんだね。
「んー、でも、俺はもっと強くなりたいんだよね。」
「そっすか。ちっと見せてもらう事出来るっすか?」
「いいけど、どんなのを見せたら良いんだ?」
「んー…そしたら、俺に向かって剣技と魔法を合わせた攻撃をして欲しいっす。」
「良いのか?」
「もちっす!俺、そんな簡単に倒れないから心配無用っす!」
「じゃぁ…遠慮無くいくよ?」
「カモンっす!」
さて…どんな攻撃にしよっかね。タムは確か…水系統の魔法を使うはずだから、同じ系統でやってみるか。
んー………よし、決めた!
収納魔法陣から取り出した龍刀の刀身が魔法陣の中心を通るように2つの魔法陣を直列励起の形で展開する。更に、その両サイドに並列励起で魔法陣を展開。これで直列励起と並列励起の同時発動だ。後は斬撃に合わせて…!
「はっ!」
タムに接近して気合を入れつつ攻撃を放つ。龍刀を覆うようにして水刃が3本形成される。直列励起で水刃の斬撃力を上げ、並列励起で合計3本の刃にした。
「うぇっ!?マジっすか!?」
慌てた様子のタムだったが…攻撃は止めない。そんな簡単には倒れないって言ってたし。その言葉を信じる!
「ちょちょちょっ!?」
タムが物理壁を張るが、一瞬の均衡の内に破砕し水刃はタムの胸元へ迫る。タム的に絶体絶命の状況…な筈なのに、その口元は笑っていた。
「属性【瀑布】の力を見せるっす!」
次の瞬間、タムと俺の間に水の壁が迫り上がった。地上から天に向かって滝が流れ落ちるかのような迫力だ。
俺の水刃は水の壁を斬り裂き、タムに斬撃を叩き込む…事が出来なかった。切り裂かれた次の瞬間には迫り上がる水が刀を押し上げて斬撃の軌道をズラしやがった。タムが使った魔法って…多分攻撃魔法だよな。それを防御に使うとか、魔法の使い方が巧みだ。
因みに、俺の攻撃を防いだタムは首を傾げていた。
「龍人さん…今、手を抜いたっすか?」
「いや全然。どして?」
「んーなんか思った程威力が高くなかったっす。」
がびーん。地味にショックな言葉。
「あ…悪気はないっすよ?ただ…感覚的に言うと、副属性で戦ってるイメージっす。確か前に3種類以上の属性魔法が使えるって言ってたっすよね?」
「あぁ。んだな。」
「もし聞いて良いなら教えて欲しいっすけど…龍人さんの主属性って何っすか?」
「げっ。それきたか。」
「もしかして…分からないっすか?」
「そうなんだよね。」
タムは更に首を傾げる。
「そうっすか…。確か職業【龍人】っすよね?それに関連した主属性を持ってる筈なんすけど。心当たりは無いっすか?」
「んー……龍人化【破龍】で黒い輝きが出る事くらいしか…。」
「それっす!その黒い輝きが主属性に違いないっす!」
「黒い輝きが?」
「そっす。黒い輝きだけを操るとどうなるっすか?」
黒い輝きだけを操る…?そんなのやった事ないな。てゆーか、あの輝きは魔法なのか?龍人化のエフェクトだと思ってたぞ。
俺が首を傾げると、タムは「なるほど」とばかりに手をポンっと叩いた。
「そゆ事っすね。となると…先ずは自分の主属性の魔力を練り上げる練習をする事がおすすめっす!」
「なんとなくその大切さは分かるんだけど…それってどうやるんだ?」
「ふふふ…俺に任せるっす!先ずは…。」
と、こんな経緯で、俺はタムに主属性の魔力を練り上げる方法について伝授を受けるのだった。
因みに…タムと練習に明け暮れている間に女性陣が夕食の準備をしてくれたのは言うまでもない。そして、男性陣が好き勝手に行動していた事を指摘され、翌日の朝昼夜ご飯は全て男性陣の役割となったのだった。
よし。明日から魔法の練習と家事に勤しむぞ!
…って、夏合宿これで良いのか?




