5-6.襲撃
先に進むにつれて木が高くなってきた。スタート地点の森は木々の間から山頂が見えてきたけど、今は全く見えない。
途中で先頭にもならないで順調に進んで来れたから、後1日くらいで森を抜けられると思うんだけどなぁ。
「ちょっと木の上から先の様子を見てくるよ。どの位で森を抜けられるか知りたいし。」
「うん。気をつけてね。」
「ありがと。」
クレアに向かって親指を立て、俺は木の上へ登っていく。
周囲の様子も確認しながら登らないとな。どこで誰が見てるか分からないし。つーか…木が高い!
やっとの事で天辺に到着した俺は、木々の間から頭を出して周りを確認する。
うわー…緑。葉っぱの絨毯が延々と続いているが如く光景に思わず見惚れてしまう。
さてさて山頂は…大分近くなったかな?感覚的には4〜5時間位歩けば抜けられそうな気がする。そうなると、そろそろ他のクラスメイトとの距離も近づいてるはずだから、接敵には注意した方が良さそうだな。
俺はスルスルっと猿みたいに木を降りると、今見た内容をクレアに伝えた。
「頑張ろうねっ。」
と気合を入れるクレアを見て、何故か微笑ましい気持ちになったのは秘密だ。
それから約4時間。俺とクレアは黙々と進んだ。探知魔法を使って周囲の状況を散発的に調べたり、物音が聞こえた時には時折立ち止まって辺りの様子を伺ったりしてたから、結構精神的に疲れてしまった。
流石にお喋りしながら進む事は出来なかった。話し声が原因で相手に位置がバレて、襲撃を受けたら洒落になんないもんな。
「ふぅ…少し休むか?向こう側に岩肌っぽいのが見えるし。」
「えっ。本当?」
クレアは目を凝らして木々の向こうを真剣に見つめると、岩肌を確認したのか嬉そうに笑う。
「やったね龍人君!やっと森を抜けられるよっ。」
「だな。ここからが本番だぞ?」
「うん。頑張ろうね。」
「うし。果物と水を飲んで軽く休んだら、一気に山頂を目指そう。」
「うんっ。」
俺は収納魔法陣から果物を取り出し…クレアを押し倒した。ふわっとクレアの
「きゃっ!?えっ?り、龍人君!?」
「しっ!」
ヒュンヒュンと空を切る音が鼓膜を刺激し、俺達がいた空間を何かが通り過ぎて行った。
…一応言っておくけど、クレアを襲おうとしたんじゃないからな?普通に敵の攻撃を察知してそれを避けるための行動だ。
俺は周りに魔法壁を張って追撃に備える。
ガガガン!
まただ。小さい何かが飛んできてる。つーか、木が至る所に生えたこの森で遠距離攻撃とか…中々だな。
「龍人君…。」
「まだ誰が相手か分からない。俺が先に動くから、クレアは相手を見つけ次第動いてくれ。」
クレアが頷いたのを確認してすぐ、俺は夢幻を抜き放ち…攻撃が飛んできた方向へ歩く。魔法陣は展開状態だから、攻撃を察知してすぐに防御も反撃も出来る。
魔法陣と剣技…魔法陣剣士の戦い方を練習してきたんだ。その成果をここで出してやるさ。
ヒュン!
聞こえた!俺は右方向に魔法壁を張り、同方向に向けて光矢を連射する。風矢と光矢で悩んだんだけど、魔法の発動音が静かで貫通力に長けた光の方が合ってるかなと思い、光矢を採用した。…うん。正解だな。自分の攻撃で相手の攻撃を見逃す事が無さそうだ。
…当たったかな?反撃が来ない。
ヒュン!
なっ…!?今度は左から?
慌てて魔法壁を張った瞬間にガガガっと何かが魔法壁の表面を削り取る。
さっきは右側から攻撃してきてたのに、今度は左かよ。高速で移動してるのか…それとも俺とクレアみたいに2人組なのかな。もしくは、遅延型で発動する魔法を使ってきているか?
ヒュンヒュンヒュン!ガガガガガガ!
…次は前後左右からの同時攻撃。つーか、これって…魔弾じゃないかな。となると、相手は遼か?こんな攻撃出来たっけ。
てか、攻撃が止めどないんですが。このままだと押し切られちまうな。
相手の居場所が掴めない状況…どうする。
範囲魔法を使うと悪目立ちするよな。最悪、他の生徒が乱入するかもしれないし。だとすると、範囲魔法は使わない方が良い。的確に相手の居場所を割り出して反撃するには。
………………これだ。ちょっとリスキーだけど、上手くいけばクレアが相手の居場所を見つける可能性もあるかな。この森の中だ。そう遠い場所にはいないはず。なら、やってみる価値はあるか。それに、この地形を上手く使わない手もないしな。
「やるか。」
小さく気合いを込めて呟き、走り出す。
使用する魔法は…全方位型の探知魔法陣のみ。あ、無詠唱魔法の身体能力強化は勿論使ってるよ?
ヒュン!
右だ!
グイッと体をズラすと、俺が居た位置を小さい球状の物が貫いた。やっぱり弾っぽいな。
そこから、俺は森の中を駆け回る。地を蹴り、木々の幹を使って移動方向を不規則に変え、木を登り、飛んで跳ねて…と、猿みたいに動き回る。
その間も相手の攻撃は飛んでくるけど、探知魔法を使ってギリギリで避けていく。
「いつっ!?」
くそっ。肩を掠ったんですが!
でも…大体の居場所は掴めたぞ。相手がいそうな場所の候補は3箇所。もう少し接近して攻撃の軌道を観察すれば……えっ?
「龍人君!任せて!」
ビュゥゥン!と、クレアが俺の横を通り過ぎて行った。迷いなく、木々の幹を使って俺がやった猿みたいな動きで。クレア…こんな動き出来たのか。バルクと戦っている時もこういう動きが出来てたら、勝ててたんじゃないか?
「テェェェイ!」
なんともちょびっとだけ気が抜ける気合いの声を出しながら、クレアが1本の大木に向かって回し蹴りを叩き込む。
ドォン!と、短い打撃音が響き、次にメリメリメリ…という音がして、大木が折れた。すっげー威力…。
「…!みっけた!」
大木の上部から飛び出す人影を見つけた俺は、光刃で逃走路を潰し込みながら接近戦を仕掛ける。
「…やっぱり遼か!」
「うわっ!ヤバっ!」
俺の接近に焦った表情を見せつつも、遼は俺に向かって紫色の魔弾を撃ってきた。…重力弾か!
「くっ…!」
スレスレで重力弾を避ける。触れた瞬間に加重効果が発生するから、剣とかで下手に防御出来ないのが厄介だ。
こうなったら…!
両手両足に魔法陣を展開、同時に探知魔法を解除。これで魔法陣の使用残数は2個。間髪入れずに両手両足の魔法陣を発動して風魔法を付与。両足は風の力を利用した高速移動。両手は龍刀と夢幻に風魔法を付与した魔法剣士としての攻撃だ。
クレアが木を倒した時点で目立たないように戦う選択肢は無くなった。それなら、最速で倒す!
グンッと重力に引っ張られる感覚と共に、遼との距離が一気縮まる。
「シッ!」
鋭い息を吐きつつ、双刀の斬撃を叩き込む。
…上手い!遼の奴、物理壁を斬撃の軌道にピンポイントで張って、更に自分に加重効果を掛けて体勢を一瞬で低くして避けやがった。
「ここまで来たら全力だよ!」
俺と距離を取った遼が双銃を連射してくる。
「……!?そういう事か!」
遼の攻撃を見て、襲撃された時に狙撃位置を把握出来なかった理由が分かった。
魔弾の軌道が弧を描いてるんだ。上下左右様々な方向から。単発なら避けるのも楽だけど…ここまで連写されると軌道が読み切れない。しかも、紫色の魔弾…重力弾も混ざってやがる。
ここは全方位型の魔法壁で攻撃を防いで……いや、駄目だ。足を止めて防御に徹したら、距離を取られて不利になる。
…あー、出来るかな。魔力消費激しそうだけど…それしかないか。命に関わる戦闘には介入するって言ってたし。
「…龍人化【破龍】。魔法陣並列展開。」
9つの魔法陣を正方形の配置で並列展開する。
属性は【風】。攻撃力は無し。範囲最大。風力最大!
「吹っ飛べ!!」
魔法陣が光り輝き、暴風が如き突風が遼へ襲い掛かった。
「えっ!?うそっ!?」
遼は慌てて近くの木に掴まるが、抵抗虚しく風に吹かれるゴミ袋のように遥か彼方へ吹き飛んでいった。
「うわぁぁぁぁぁぁ……!?」
うんうん。良い叫びっぷりですな。効果音で表すならヒュゥゥゥン…キランっ。って感じ。
よし。取り敢えずこれで遼は撃退したな。
…あ、遼が吹き飛んでいった方向って山頂方面じゃん。
これってもしかして遼のサバイバルレースに手助けした形になんのかな。これはマズッたかもしれない。
「龍人君!大丈夫!?」
少し息を切らしながらクレアが駆け寄ってきた。
「大丈夫だよ。遼を山頂の方向に吹き飛ばしたから…レース的にはちょいやばいかもだけど。」
「あ、そっか…。じゃぁ私達も急がないとねっ。」
「だな。」
俺とクレアはすぐに移動を開始する。今の戦闘で周りにいたクラスメイトには戦闘地点周辺に誰かしらがいるって気付かれてる筈だし。戦闘終了後の疲弊した所を狙う人も出てくるだろうし、ゴールに向けて進む速度を上げる人もいるだろうからな。ここから山頂まではノンストップで行く覚悟が必要な気がする。
「あ、そうだ。さっきの遼が隠れている木への接近と攻撃…凄かったな。」
「…えへへ。」
何その照れ笑い。可愛いんですが。
「実はね、龍人君の動きを見ていて真似したんだ。」
あ、俺の猿紛いな動きの事か。
「龍人君の動きが地形を上手く使ってるなって思って。私って戦うのにそんなに慣れてないから、地形を利用した戦い方って全然考えてなかったんだ。」
「なるほどね。最後の蹴りは?」
「アレは特に…前と変わらないよ。木が太かったから、いつもよりは気合い入れたけど。」
となると、クレアの打撃力は普通にあのレベルが出せるのか。確か無詠唱魔法の身体能力強化しか使ってないはずだから…凄いな。俺には出来ない芸当だ。
「クレアの格闘術?っていうのかな。あれって誰に教わったんだ?」
「それは…お父さんだよ。私のお父さんね、格闘術が凄かったんだ。小さい時に護身用で教えてもらったの。」
凄かった?…過去形なのか。
「そっか。もしかしてお父さんって…。」
「うん。あ、気にしなくて大丈夫だよ。お父さんとお母さんが亡くなったのは随分前だから…もう大丈夫。」
お母さんも亡くなってんのか…。
それに、最後の大丈夫の言葉は自分に言い聞かせている感じがあった。あんまり深く聞くのは良くないか。
「なんか…悲しい事を思い出させちゃってごめんな。」
「ホントに大丈夫だよ。気を遣わせちゃってごめんね。」
「でも、お父さんは本当に強かったんだな。俺、格闘でクレアに勝てる気がしないよ。」
「ふふっ。でも、龍人君は魔法陣魔法と剣術が強いよね。普通に戦ったら私は龍人君に勝てないよ。」
「ん〜どうだろ。戦いって総合力じゃん?如何に自分の得意な状況に持ち込むかだと思うんだよね。」
「あ、それ前にラルフ先生も言ってたよね。相手を不得意な状況に、自分を得意な状況に持ち込めるかが戦いの肝だ。だっけ?」
「そんなんだった気がする。その点で考えるとさっきの遼は上手かったよな。最初は本当にどこにいるか分からなかったし。」
「うん。最後は飛んでっちゃったけどね。ふふっ。」
「ははっ。後でネタに出来るな。」
「あっ龍人君意地悪い顔してるよ?」
「バレた?」
俺達は軽口を叩いて笑いながら走り続ける。
もうすぐ森と山頂へ続く岩肌の境目だ。この森を抜けた瞬間に皆が牽制し合いながら山頂を目指す戦いが始まるかな?既に其処彼処から戦闘音が聞こえ始めてるし。
ポイントは、俺達みたいに手を組んでる奴がどれだけいるか…だな。この森を抜けてから手を組む話をするのはタイムロスになるから、基本的には無いと思う。つまり、森の中で何人がルールの抜け穴に気付いて協力関係を築いているか。その人数によっては、相当な混戦が予想される。もしかしたら5人組なんてのもいるかもしれないし。皆でコテージに住むぞ同盟的なね。
この先に求められるのは…恐らく速度と突破力。
「クレア…そろそろ森を抜けるぞ。多分山頂まで荒れると思うから、足を止めずに行くよ。」
「うん。私は龍人君のサポートをしながら、チャンスがあれば横から攻撃していくね。」
「オッケー。気を抜かずに行こう。」
「うんっ!」
そして、遂に森を抜けると…。
「こりゃぁ…凄いな。」
「どうして…あの2人が戦ってるの?」
「まぁ大方最後の障壁ってとこじゃない?」
足を止めずに行くと言っていたのに、俺とクレアは既に足を止めていた。
なんでかって?そりゃぁ…山頂のゴールを守るようにラルフ先生とキャサリン先生が立ってクラスメイト達を迎撃していたからだ。
教師2人の顔が完全に悪役のソレなんですが。
さて…どうやってゴールまで行こうかね。




