5-5.協力者
森の中を自力で歩くのは想像以上に疲れる。
無詠唱魔法で身体能力強化を使っていれば、今の10倍は進めてるんじゃないかって位に進むスピードが遅い。
けど、俺の予想は見事的中した。クラスメイト達は探知魔法で「魔力」を探知しているらしく、生体反応に関してはスルーしている。ま、森にいる動物にイチイチ反応してたら気がもたないからなり魔力探知で索敵するのは合理的だ。
お陰で何度か接敵しそうになったけど、向こうが気付かずに通り過ぎていった。
魔法って便利だけど、過信は禁物だね。改めて学んだわ。
因みに…食料集めは無事に完了している。ざっと3日分はあるかな。果物も肉を入手し、さっき食べた昼ごはんには川で捕まえた魚を調理した。
味付け以外の調理工程は全て魔法で行えるから、一般的なサバイバルクッキングよりは大分楽だ。
後は隙間を見て腹を満たしつつ、進むだけだから気分は楽かな。
ドォゴォン!
この森の空間を歪めているって話に関しては、想像以上に森が広い。
外から見た感じでは3時間程度あれば抜けられそうな気がしたんだけど、さっき木の上から見た感じだと10分の1進んだかどうか。
食料を集め終わって歩き始めてから3時間だから……残り27時間必要ってことになる。つまり、1日に8時間進んだとして4日はかかる計算だ。つーか、後5時間警戒しながら進むとか結構神経使うな。
ドォォンー!
今更気付いたけど、この合宿…相当実践的だぞ。
ゴールまでのルート決め、進み方の選択、接敵時の対応、早く着く必要がある状況下での体力配分…戦争とかでゲリラ作戦をすることになったら、ほぼ同じ条件を突きつけられるよな。
この世界で戦争とかゲリラ作戦とかをするハメにならない事が1番ではあるけど。
ドガァン!ガン!ガン!ガガガがガンガン!!!
ただ、気になるのがサバイバルの経験を積むだけじゃ…単純に強くはならないって事だ。
つまり、このサバイバルレースにはもっと別の目的があるはずだよね。それが何なのかを把握するのも必要な気がする。
まぁ生徒全員合同でやってるから、その目的と俺に必要な強化項目が合致するとも限らないんだけど。
ガガガガガガン!!バァン!「ぐわっ!?」「きゃっ!?」
ん?周りの音がうるさいって?
あぁ、そう言えば言ってなかったか。
今俺がいるのは木の上だ。そう。俺は猿になってしまった。ウキキッ。……違う違う。
実は少し離れた所でバルクとクレアが戦ってるんだよね。
2人共格闘がメインだからなのか、戦いが派手なんだよな。
バルクは石を集めて作った巨大な石腕を振り回してクレアを吹き飛ばそうとしていて、クレアはその石腕と無詠唱魔法のみで渡り合っている。
さっきのガガガガン!みたいな音は、バルクの石腕が地面に突き刺さった所に、石腕を破壊すべくクレアの拳が連続で叩きつけられた音だ。
普通あれだけ激しい格闘をしてたら体を痛めるはずなんだけど…クレアは治癒魔法の使い手。つまり、痛めた体を治癒しながら戦えるって事になる。
「うぅっ。バルク君強いよぉ。」
バッチリ善戦してるんだけど、何故かクレアは涙目だったりする。
「まだまだぁ!俺は筋トレの汗を流す風呂の為に!全力でクレア、お前を倒していく!」
やる気の大元は筋トレの汗を流すとか…本当に人によって動機が違うな。レースの景品を使用用途が多岐にわたるロッジとコテージにしたのも、これが目的なんだろうね。
「私だって…!お風呂に入りたいもん!」
クレアもお風呂目的!?
バルクが石腕を1本追加して、合計2本の石腕をクレアに向けて叩き付け、横に薙ぎ払う。
その攻撃を最小限で躱しつつ、石腕の上を駆けたクレアの足刀蹴りがバルクの顎に突き刺さった。
「ぐあぁっ!?」
駒のように横回転をしながらバルクが吹き飛んでいく。…やっぱりクレアって強いよな。
あんなに可愛い顔をしながら、やってる攻撃はエゲツない。それに、胸の揺れ方もエゲツない。戦闘を見学しながら、半分はそっちを見ている気がする。
…ゲフンゲフン。今の発言は忘れてくれ。
吹き飛んだバルクは大木に激突し、ズリズリと落下した。…と思いきや、ダンっという足音を響かせてクレアに向けて猛進。
「バルク君タフすぎだよ…!」
と焦った顔で言いながらも、クレアが迎え撃とうと回し蹴りをバルクの顔面に叩き込む。
スカッ
「…え!?」
まさかの空振りにクレアが動揺する。それもその筈、誰がどう見てもバルクの顔にクリーンヒットするジャストタイミングの回し蹴りだったもんな。
けど、バルクはその一歩上をいっていた。クレアの攻撃が当たる直前に岩腕を近くの木に引っ掛けて突進する軌道を強制的に変えたんだ。そうやってクレアの回し蹴りを避けたバルクは、今…クレアの後ろで構えを取っていた。
「オラァあああ!」
バルクの正拳突きがクレアの足下に突き刺さり、土が爆ぜた。
「っし!!そんじゃぁ俺は先に行くぜ!おらよっと!」
爆ぜた土と一緒に飛ばされたクレアは、バルクの魔力操作によって周囲の土が形作った檻の中に閉じ込められてしまう。
それを確認したバルクはニカっと勝利の笑みを浮かべると「お風呂は渡さねぇぇえ!!」と叫びながら山頂方面へと姿を消したのだった。
「そんな…。」
土の檻に閉じ込められたクレアはペタンと座り込んでしまう。今にも涙が瞳からこぼれ落ちそうに見えるのは…気のせいじゃないはずだ。
さて、見学をしていた俺はどうしようかな。
選択肢は3つ…かな?クレアを助ける。クレアを見捨てる。クレアにトドメを刺す。
いやぁ…普通に俺が鬼畜だったらトドメを刺すんだろうけど、流石に鬼畜じゃないもんね。ん〜…助けるか。この先の合宿でどんな内容のメニューが待っているか分からないから、精神的な仲間は多い方が良いと思うんだよね。それに、クレアはクラスでも仲良い方だし。可愛いし。いや、見た目で判断しているわけじゃぁないんだからな?
という訳で、木から飛び降りた俺は周囲を警戒しながらクレアの近くへ忍び寄る。
「あ、龍人君!」
「よっ。見事にやられたな。」
「…もしかして、見てたの?」
「あぁ。バルクの方が戦いに慣れたって感じだな。」
「そうだよね…。私、最後の回し蹴りの時に勝ったって思って油断しちゃったんだ…。」
目を伏せてショボンとするクレア。
「提案なんだけどさ、手を組まない?」
「…えっ?」
俺の提案に驚いたのか、クレアは目をパチクリさせる。
「でも、キャサリン先生が基本的には1人で頂上を目指す事。って言ってたよ?」
「うん。でもさ、生徒同士で手を組む事は禁止してなかったんだよね。」
「あ…ホントだね。」
「それに、このサバイバルレースの目的が実際にサバイバルになる事を想定してたとしたら、生存とか目的達成とかの為に手段を自分で狭めるのは良くないと思うんだ。」
「そうだけど…大丈夫かな?ズルとか言われない?」
クレア…素直で健気なんだな。なんか俺がセコい人みたいじゃん。
「大丈夫。もし手を組んで頂上に到着する事を目指すのが駄目なら、手を組んで頂上の手前10メートル付近を目指そう。」
「…っ?…ふふっ。龍人君って面白いね。」
「…そうか?普通にルールの抜け穴を使おうとしてるだけだよ。」
「ううん。でも、それ位の柔軟な発想が必要なんだと思う。ありがと。一緒にいこっ。」
「おっし。じゃぁ檻を壊すぞ。」
俺は夢幻を背中から抜き放つと、魔力を込めて横に一閃する。
キィィィィン!
という金属音が響き、クレアを閉じ込めていた檻の上部がずり落ちていった。
…ん?なんか今の、ちょっと新しい感覚だったような?
「ありがと。どうやって頂上手前を目指すの?」
恥ずかしそうに檻から出てきたクレアは俺の隣に移動すると振り向き、木々の間から姿を覗かせる…遠くに聳え立つ山の頂上へ視線を向けた。
「先ずは少し休もう。俺の予想だと、そんな簡単に森を抜けられない気がするんだよね。急いでも良い事は無いと思うんだ。」
「え…そうなの?私、早く前に進まなきゃって思ってたよ。」
「まぁアレだけ早くついた人はコテージに住める。とか言われたらそうなるよね。でもさ、なんつーか…それがわざとっぽい気がするんだよなー。」
「わざと?やる気を出させる為にロッジとかを用意したんじゃないの?」
「それもあると思う。後はこのサバイバルレースの目的って、さっきも言ったけど…実際にサバイバル環境に置かれた時を想定してだと思うんだけど、他にも目的がある気がするんだよね。」
「他にも…?」
「うん。例えば…なんだけど、スパイ的な活動でもサバイバルみたいな事ってあると思わない?」
「…?龍人君、ちょっと待ってね。」
あれ?俺の例えが分かりにくかったのかな。クレアは顎に手を当てて探偵みたいに考え込んでしまった。
そして、たっぷり十数秒考えた後に、ピン!と人差し指を立てた。
「あっ。分かったかもっ!目標が山頂にあって、そこへ辿り着くまでに沢山の敵とか障害があって、それでも時間制限がある状況って感じかな?」
伝わったのか…な?うん。伝わったっていう事にしておこう。
「でも、そうすると…あ、そっか。早く山頂を目指すのはリスクが高くなっちゃうんだね。如何に早くリスクを減らして山頂に着くのか…が大事なんだ。」
「そゆ事。」
おぉ…伝わってたよ。只今猛烈にホッとしております。
「んで、これが本当に山頂へ早く到着しなければならない状況だとしたら…誰かと手を組む事が本当に駄目なのか?って話なんだよね。実際に景品も1位から5位が同じ内容じゃん?」
「でも、そうしたら先生が1人で行動するようにって言ったのは…。」
「恐らくだけど、競争を煽るのが目的だね。上司とか誰かしらの命令に忠実に動くだけじゃぁ、最適解に辿り着けるとは限らない……的な?」
「うわぁ…そこまで考えられてたとしたら、凄いね。」
「まぁラルフ先生もキャサリン先生も普段はふざけてるけど、本気出したら相当強そうだし。それ位の事を考えた環境設定はしてそうじゃない?」
「うん。私もそう思う。」
「てな訳だから、一緒に頑張ろうぜ。んで、コテージ生活ゲットしよう。」
「うんっ!」
なんとか話がまとまった俺とクレアは、俺が予め収穫していた果物と焼いた兎肉を食べて空腹を満たし、頂上に向けて歩き始めた。
「あ…。」
「どしたの?」
両手を口に当てたクレアがすぐに動きを止めた。もしかして…襲撃か?
「あの…コテージって5つあるのかな?」
「いやぁ、流石に1つじゃない……か……な?」
俺も動きを止める。
クレアが気付いた内容に俺も気付いてしまったからだ。
「1つだと…。え、もしかして龍人君、私と?」
「え、いや、…え?」
そう。コテージが5つ用意されているなら、問題ない。
けど、もし1つしか用意されていなかったら…上位5人が1つのコテージで生活する事になる。それって、つまり…俺、さっき「一緒にコテージ生活ゲットしよう」みたいに言ったよな?それって、つまり…「一緒に住もう」って言った事になるのか?他にも3人いるから同棲とまではならないけど、共同生活的な?
クレアのパジャマ姿とか、寝癖がピンと立ってる寝起きの顔とか…見れちゃうの?お風呂上がりにタオルを巻いてるセクシーショットとか、エプロンをして料理している家庭的な姿とか?
想像すればする程、最高にヤバいんですが!?どうしよう。男が俺1人だけだったら。それこそハーレム共同生活になるのか!?
はっ…!?
クレアと目が合ってしまう。照れているのか頬がほんのりと赤く染まっていて…可愛いんですが。
顔が熱い。
「…。」
「…。」
俺とクレアはそのまま1分くらい見つめ合い…。ぎこちなく話し始めた。
「えっと、いや、そんなつもりはなくて…。」
「あ、うん。ごめんね。私が変な風に考えちゃって…。」
「いや、俺の言い方が悪かったよ。」
「でも、私も…。もしかしたらそんな事だったら嬉し…」
「えっ!?」
「あっ…えっ?ううん。なんでもないの!あ、そ、そうだ。す、進もう?」
「お、おう。行こう。」
両手でほっぺを包み込んで「イヤイヤ」みたいな動作をするクレア。
と、とにかく進むか。歩きながらでも話は出来るし。
「えぇっと、先ずは山頂方面に川沿いから少し離れた位置を進もう。」
「うん…!」
こうして、ぎこちない雰囲気のまま、俺とクレアは共にゴールである山頂を目指す事にしたのだった。
一応、改めて弁明しとくけど、本当にクレアと一緒に住もうと思って手を組む提案したんじゃないんだからな!?
確かにクレアは可愛い。けど、まだ一緒に住みたいだなんて思ってないんだよ。
……ん?まだ?……まだなのか?
いや、深く考えるのはやめておこう。
世の中には知らない方が良い事が山程あるってね!
こうしてあたふたしつつも、俺達は山頂に向かって進んでいった。川沿いの近くを進めたお陰で、魚が常にご飯のメニューに合ったのは良かったよね。
あぁそうそう。クレアがテントを持ってきてなかったので、2人で俺が持ってきたテントを使って寝たのは…他のクラスメイトには秘密だ。
間違いが起きないように俺とクレアの間に物理壁を張ったのは言うまでもない。テント自体が見つかって襲撃を受けるか心配だったんだけど、特にそういう事は起きなかった。ゆっくりめのペースで進んでたから、他の皆の方が先に進んでたのかね。ちょっと焦る気持ちもあるけど、焦って失敗するのは避けないといけないから…落ち着いて進む事を心懸けた。
こうしてクレアと共に進む。
2日間は…特に誰とも遭遇せずに進む事が出来た。
そして…3日目の昼。
俺とクレアは遂に襲撃を受ける事となってしまう。




