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5-4.夏合宿準備

 それは唐突に始まった。

 教室に入ってきたラルフ先生が、バツが悪そうに後頭部を掻きながら言ったんだ。


「あーっと……いや、本当に俺も時々は反省するんだけどよ。」


 ……どうしたんだ?こんな歯切れの悪いラルフ先生ってかなり珍しいな。

 教室中の視線が集中する中、ラルフ先生は……開き直った。


「やめだやめ。俺が悪いが、今更それを言ってもしょうがねぇ。来週の月曜から夏合宿やるぞ!」


 …え?今日って金曜日だよな。2日間しか準備出来ないじゃん。てか、何を準備すりゃいいんだし。


「差し当たって準備するものはない。…って言いたいんだけどよ、残念ながらあるんだよ。用意するもの。」


 教室中から非難の視線が浴びせられる中、それを意に介さないラルフ先生はプリントを配り始めた。

 どれどれ…。


◆用意する物(任意…無くても死にはしない)

・調味料

・テント

・調理器具

・魔力補充石

・ポーション


◆用意する必要がない物

・金銭


 …ふむふむ。

 内容的にサバイバル感が半端ないんですけど!?


「つー訳で、今日含めて3日間しか時間がないから、各自確りと準備をする事。あ、言うのが遅いってクレームは受け付けねぇからな。いきなり戦争が始まった時に、いきなり始まるなって文句言ってもしょうがねぇだろ?そーゆー感覚で頼む。」


 えぇ…完全に自分は悪くない的なスタンスじゃん。つーか、さっき「俺も時々は反省する」って言ってたじゃん。それって、伝えるの忘れてたって事だよな?

 それに、用意するもの…結構金が掛かるんだけど。魔力補充石は3万するし、ポーションだって1万する。5個ずつ揃えても20万だよ。いやぁ…貯金ってどれだけあったっけ?

 確認してみるか。


ギルドカード

・氏名:高嶺龍人

・ランク:Dランク

・クエスト達成数:C-8 D-12 E-26

・ランクアップ条件:魔獣Cランク討伐 10/50達成

・貯金額:316,000円


 …だよなぁ。テントだってそこそこの値段するだろうし、全部揃えたらかなりの出費なんですが!?


 そこからの授業はお金のやり繰りをどうするかっていう難題が思考回路を埋め尽くしたせいで、さっぱり頭に入って来なかった。

 なんでこう一定周期で俺は金に困らないといけないのでしょうかね?!


 午前と午後の授業をなんとなしに過ごした俺は、遼と中央区の商業地域に来ていた。色々な店が集中してるから、比較的安くて良いものが見つかりやすいんだよね。…ってクレアが教えてくれた。

 俺も遼もテント、ポーション、魔力補充石を持ってないから、そこを優先的に揃えなきゃならない。

 …って思ってたんだけどさ!?


「おい、遼。なんでポーションと魔力補充石持ってんのさ。」

「ええっ!?なんでそんな喧嘩腰!?」

「だってさ、そんなにギルドクエストやってたっけ?」

「あー…龍人よりはやってないと思うけど、報酬が高いクエスト中心にやってたからね。そこそこ稼いでたんだよ。」


 …はっ。そう言うことか!

 つまり、遼は金儲けを目的にギルドクエストをやっていて、俺は強くなる事を目的にやっていた訳か!

 けど、俺の強くなる目的は長期的に見れば…そっちの方が金に繋がるはず!

 …ん?お前も金目的でギルドクエストやってただろうって?……はて?何のことでしょう?


「じゃあ遼はテントを買うだけか。」

「んー。でもさ、テントって必要かな?」

「なんで?どう考えてもサバイバルっぽいじゃん。」

「そうなんだけど…寝泊まりする所を全く用意しないとか考えられなくない?テントがある人はそこで寝泊まりしても良いよ的な話じゃないかなって思うんだよね。」

「いやぁ…俺にはそうは思えないんだけどなぁ。」

「そうかなぁ…?」


 ここで俺達は悩んでしまう。

 確かに配られたプリントには「無くても死にはしない」って書いてあったけど…死にはしないって言葉、裏を返せば「死に掛けるかもしれない」って事だよな?

 いやー、俺は何も準備しないのは怖くて出来ないな。

 テントよりポーションとか魔力補充石の方が自然回復するから不必要だと思う。


 よし。決めた。テントと調味料、調理器具だけ持っていこう。


「え、じゃあ俺はテントとか要らないや。最悪龍人に泊めてもらおうかな。」


 と、遼は魔力補充石とポーションだけを持っていく事にしたらしい。


 この俺たちの選択が吉と出るか凶と出るか…。

 金曜日の夜に合宿に必要なものを揃えた俺と遼は、土日は街立魔法学院の修練場で特訓をして過ごした。

 俺は魔法陣剣士の更なる高みを目指して。

 遼は魔弾の使い方を変えたいらしく試行錯誤していた。手伝おうかって言ったんだけど、遼の中でもまだ目標の形が見えていないらしく、「もう少し現実的になったらお願いするよ」と断られてしまった。

 ふと気付いたんだけど、夏合宿で何をするのか聞いてないよね?


 そして月曜日…やや不安な気持ちを抱えたまま、夏合宿当日を迎えたのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 修練場に集まった1年生を眺めながら腕を組んで立っていたラルフ先生は、キャサリン先生が校舎から出てきたのを見るとブンブンと手を振った。


「お〜い!キャサリン!こっちだ!」

「あら。全員で私を待ってたの?集合時間は…うん、丁度よね。もしかして…全員で私の事を視姦プレイするつもりなのかしら?あぁん。そんなに見られたら…ジュンってしちゃうじゃないの。」


 両腕で胸を抱え上げて身悶えするキャサリン先生…本当にブレないなこの先生は。

 つーか胸もデカイし、スタイル良いし…このエロポーズ取られるとマジで目線が離せないんだが。しかも、見てると火乃花とクレアがジト目で俺の事見てくるし。

 他の男も見てるからな!?特にバルクなんて目をかっ開いてんのに!

 そうこうしている内にキャサリン先生がラルフ先生の隣に立つ。


「みんな…お、ま、た、せっ!皆に穴が開くほど見られて興奮しちゃったわ。」

「おし。じゃぁ夏合宿に行くぞ。」

「先生!質問がありますの。」


 手を挙げたのはルーチェだ。最近の立ち位置がクラス委員長みたいで頼もしいな。


「なんだ?」

「夏合宿で何をするのかを教えて欲しいですの。」

「あ〜、ひと言で言えば全員に強くなってもらう。その為にスペシャルコースを考えてあるからな。楽しみにしてろ。」

「ラルフ先生…もう少し具体的におし」

「おっし行くか!」


 ルーチェの追及を強引にぶった切ったラルフ先生がパチンと指を鳴らす。


「ほっほっほっほ。皆の衆、元気かの?」


 ボフンという紫色の煙が立ち込め、その中から出てきたのはヘヴィー学院長だった。


「お主らに少しだけ言いたい事があって来たのである。全員覚えているかと思うのじゃが、アウェイク事件では多少なりとも犠牲者が出たのである。」


 おふざけ調子の話かと思ったら…真面目な話っぽいぞ。アウェイク事件の単語を聞いた途端に、ざわついていた1年生全員が静かになった。


「正直に言うと、今のお主らでは実力不足じゃ。これからどんな事件が起きるのか分からない。アウェイク事件の様な問題がいつ起きるとも限らん。その時に、1年生のお主らが戦力となる事を期待するのである。力無き者を前線には立たせないのである。故に、この夏合宿は良い機会じゃ。儂もメニューを見たのじゃが…おぇっなのであるからして、頑張るのである!アデュー。」


 最後にめっちゃ不穏な事を言いやがったぞ!?と思ったのも束の間、ヘヴィー学院長の指に嵌められた指輪が虹色に輝く。


「学院長…登場しないって言ってたじゃないっすか。」

「あらぁん?私は学院長の話が聞けて良かったわよ?」

「ほっほっほっ。すまんのぉ。夏合宿に全力で取り組んで欲しくての。」


 と言うような会話が聞こえつつ、俺の視界は地面から湧き上がる眩い光によって真っ白に染められた。これは…転移の光か?それにしてはちょっと違うような。

 と、思ったら…。


「うわぁ…キレイ。」


 というクレアの声につられて目を開けると、そこには絶景が広がっていた。


 真っ白な砂浜。青く澄んだ海。後ろには木々が生い茂っている。なんつーか、海外のプライベートビーチにいるみたいだ。

 これからこの場所で合宿をするのか。楽しみだな。

 けど、俺が興味あるのは…そこじゃない。

 宿泊施設だ。これだけ素敵な場所で合宿をするんだから、おしゃれなコテージ…いや、グレード的にはロッジかな?が、あるはず。

 ロッジの前でバーベキューとか楽しいじゃん。ちょっと女の子とドキドキイベントとか楽しいじゃん!花火もいいね。いやいや、グランピングみたいな事も出来るんじゃない?夜には星空を眺めてリラックスといいねぇ!

 ヤバいテンション上がってきたぞ。


「ねぇ龍人…俺、凄い嫌な予感がするんだけど。」

「こんな景色が良いのに?」

「うん。だってさ、見る限り住環境皆無だし。」

「えっ…!?」


 遼に言われて慌てて周囲を確認すると…無い。見える範囲では無いね。いや、まだ期待を捨てるには早すぎる!


「おーい。周りの景色に浮かれんのは良いんだが、ここに来た目的は強くなる事だ。まぁ合宿期間の真ん中くらいでイベントは用意してっから、頭を切り替えろ。これからやんのは…。」


 ラルフ先生は木々が生い茂る先に見える山の天辺をビシッと指差す。


「サバイバルレースだ。」


 げ。マジか。


「ふふっ。私が詳細を説明するわねぇ?」


 そう言ってラルフ先生の前に出たキャサリン先生は、某怪盗マジシャンの如くババァーン!と服を脱いだ。男達の「おおっ!」と言う声が低く漏れる。

 そこに立っていたのは黒のビキニを装着したボンッキュッボンのグラビアアイドルだった。やべぇ、なんだあの谷間。30代手前くらいだと思ってたけど、瑞々しい肌に引き締まったウエスト、それでいて女性らしさを感じさせる健康的な膨よかさ。これは…凶器だろ。キャサリン先生がサキュバスだつたら、一瞬で堕ちる男が続出だろうな。


「ルールは簡単よ。この場所から山頂に向かってもらうわ。注意点は…そうねぇ。基本的に1人で頂上を目指す事。生徒同士の対立は自由にどうぞ。イチャイチャは禁止よ?ヤリたい人は私に言ってね?」


 おいおい。それで良いのか教師よ。


「後は…このサバイバルレース期間だけ森区間の空間を歪曲させているから、見ている以上に距離があるわよぉ。」


 それは…キツイな。となると、名前の通り数日間サバイバルで過ごすのか。


「それで、これだけだとモチベーション上がらないわよねぇ?なので、ご褒美があるわ。それは…私のスペシャルマッサージ。」


 ギィィィン!と、男連中の目が血走る。


「……ってしたかったんだけどぉ、ラルフからふざけるなって言われたのよねぇ。という訳で、上位5人にはコテージ。6位から10位にはロッジを用意してあげるわ。後は…それなりに豪華な食材もあるわ。過酷な夏合宿をどれだけ快適に過ごすか…それを決める大事なレースって事ね。コテージにはお風呂、ロッジにはシャワーがあるから…女性陣には死活問題ね。ふふっ。」


 ギィィィィン!と、女連中の目が血走る。

 男連中もキャサリン先生のスペシャルマッサージ程ではないけど、目が血走ってるね。

 俺?そりゃあ勿論…血走るでしょう。

 テント生活とか無理だし!つーか、上位に入ったらテント買ったお金無駄じゃん!って思うけど、そんなのどうでも良い。最悪テントを持って来てない人に売るからね!


「さぁ…皆準備良いかしらぁ?」


 キャサリン先生が胸を両腕で寄せつつ前屈みになる。わーぉ、強調されて深い谷間がコンニチワ。


「じゃあ…始めぇん!」


 イマイチ気合いの入らない掛け声だったけど、全員が走り出す。


「おい!ちゃんと全部説明しろよ!」

「えぇ?何か忘れてたかしらぁ?」

「ったく…。」


 走り出す全員の足元が光り…全員が転移魔法の光に包まれた。

 えーっと、スタート地点をばらけさせる転移って事かな?

 転移が終わると、崖の上だった。案外高いんですけど!後ろ見たら絶壁だし。タマヒュンという言葉を思い出しました。


「あーっと…聞こえてっか?今の転移はお前らを均等に島の外周に転移した。これから山頂目指して頑張れ。戦闘不能者はこっちで回収するから安心しろ。あとは…命に関わる戦闘行為には関与するからそのつもりで。じゃ、俺とキャサリンは酒でも飲んで待ってっから。まぁなんとかなんだろ。頭使えよ?勝手に頑張れ。」


 最後の飲酒宣言必要か?

 つーか、酒を飲みながら危険な戦闘行為がないか監視するとか…嫌な予感しかしない。予感で終わる事を祈ろう。


「んじゃ」

「スタートよんっ。」


 如何にも軽い感じでサバイバルレースの火蓋が切って落とされた。


「さて…どーすっかね。」


 俺が今いる所は崖だから、取り敢えず前に進む事は確定なんだけど…丁度脇を流れている川沿いを進むか、森の中を進むかだな。

 コテージに住みたいから5位以内を目指すのは当然として、どうやったら早く着けるのか。だよね。

 森の空間が歪曲されているって言ってたけど、それがどの程度なのかによって行動方針が変わるんだよなー。

 1日で走破出来る程度の距離なら、突っ走った方が良いし、数日掛かるのなら一定の体力は保持しつつ進まないと戦闘になった時に負けちまう。

 ラルフ先生も「頭使えよ?」って言ってたし、無計画に突っ込むのは危険かな。無用な戦闘は避けつつ…が無難か。

 まずは様子見で魔法を使わないで移動してみるか。襲撃は…あるかも知れないよなぁ。皆目が血走ってたし。となると、武器を持たずにいるのは危険か。

 いつも魔法陣から取り出してるから違和感はあるけど、背中に装着しますかね。左右どちらの手でも刀を持てるように背中で交差して…よし。右手が龍刀、左手が夢幻かな。

 準備を整え、川沿いを進むとクラスメイトに見つかる可能性が高いと想定し、森の中を進むコースを歩こうと思って…俺は重大な事実に気が付いてしまった。


「そういやご飯ってどうすんだ…?」


 そうだよ。持ち物に食料って書いてなかったから持って来てないぞ…。もしかして現地調達ってやつ?

 ガチのサバイバルじゃん。

 つまり、前に進む事だけじゃなくて食料確保も視野に入れなきゃいけないのか。魔法陣に物を収納できるだけ他の人たちよりは条件は良さそうだけどね。

 ……普通に考えて、こういうサバイバルレースは前半はちょっとした小競り合い程度の戦いが続いて、後半に向かうにつれて戦いが激しくなるよね。皆が1箇所に向けて進む訳だから、必然的に接敵する確率は上がるし。

 つまり、今優先すべきなのは……。


「食料確保だな。」


 収納魔法陣内が時間経過がなかったら色々と集められたんだけど…果物と小動物でも狙うか。

 森林街の時に動物を捕まえて焼いて食べたりしてた経験が魔法街でも役立つとはね。そういった意味では遼も食料には困らなそうだな。

 心配なのは女性陣だけど…女の人って準備が良いから、意外に食べ物持ち込んでたりするんだろうな。まぁ何日分も持って来てるとは思えないけどね。


「よし。数日分の食料を一気に集めるか。」


 狩猟生活の始まりだ!そんな謳い文句のゲームがあった気もするけど、気のせいだろう。


 肉ー!

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