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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
4章:街立魔法学院
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4-27.ゾンビ男追跡

 黒い魔力の渦を纏ったハゲの両腕が俺の胴体を捉え、その威力を解放する。


「プギャぐっばァァァァァァ!!」


 その直前。後方から飛来した紅蓮の炎がハゲを飲み込み、吹き飛ばした。


「龍人君、油断は禁物よ。」

「あ、あぁ。ありがと。」

「それにルーチェも。危ないって叫ぶ前に魔法を使って攻撃すべきだったわ。戦いの場では行動こそが結果を変えるのよ。」

「すみません…。」


 何故か火乃花のプチ説教を受けていると、クレアも瓦礫の陰から姿を現した。


「怖かった…。」


 とか言ってる割に無傷なんですが。


「グギャぁぁ!!」

「プギャァァ!!」

「ウギョォぉオン!」

「フジャァァハザカ!!」


 ……はい?

 ハゲが4人に増えたんですけど。つまり、アレか?

 ハゲは「仲間を呼ぶ」を使った!…的な?

 そして、4人のハゲは俺達が戸惑っている隙に襲いかかってきた。

 俺は魔法壁を展開してハゲの攻撃を防ぐが、横から別のハゲが魔力の爪で斬りかかってきやがった。


「くそっ!」


 夢幻で受け止めつつ皆の様子を確認する。

 ルーチェと火乃花は難なく戦えてるな。

 クレアは…こちらも善戦してる。無詠唱魔法による身体能力強化を軸とした格闘術…相当凄いな。黒い魔力を弾いてるし。しかも、戦いながら治癒魔法を併用しているから、生半可なダメージじゃクレアを止める事は出来なさそうだ。うん、強いね。

 となると…俺も負けてはいられないか。


「つっても…隙がねぇ!」


 龍刀と夢幻の連撃でハゲを斬りつけるけど、ダメージが通ってるから微妙だ。まるで痛みを感じないかのように、血を流しながらも怯まずに攻撃してきやがる。

 …黒い靄を出せれば。でも、こうも止めどない攻撃を捌きながらだと怒りとか憎しみの感情を増幅させるのが難しい。正直厳しいな。

 てゆーか、あの黒い靄を発動するのに…感情以外のトリガーって無いのかね。アレをスキルって考えるなら、感情とか必要ない筈なんだけど。


「ブシャァぁ!!」


 ハゲが雄叫びを上げ、噴出した黒い魔力が雪崩のように降り注ぐ。

 マズい。この規模だと魔法壁でも防ぎきれないぞ。


「龍人君!」


 クレアの声が横から聞こえたと思うと、トンっと俺の腕に何かが触れる。


「クレア。」

「大丈夫!私が防ぐから攻撃をお願い!」


 クレアは両手を前に魔法障を展開…いや、魔法障壁か!

 黒い暴力が怒涛のように魔法障壁へ降り注ぐ。けど、凄い…!全部防いでんぞ。

 このタイミングで1人でも倒さないと。今、この状況で有効な攻撃は…。


「いい加減にして欲しいですの!」


 怒った様子のルーチェが叫び、両手に光の球を生成する。

 そして、光の球から乱反射するかのように数多の光が放たれた。

 マジか…ルーチェ、攻撃力高いじゃん。


「グブゥゥゥンあぁぁ!???」

「ボギョエエエェェェ!??」


 乱反射する光の直撃を受けて2人のハゲが白目を剥いて倒れる。


「やるわね。それじゃぁ、私も…!」


 ルーチェの攻撃に感化されてやる気を上げた火乃花は、焔鞭剣を生成する。

 そして、ハゲに接近しつつ、鞭刃状にした刀身を振り回してハゲの体を斬りつけていく。刀身が焔に包まれているから、斬撃と焔の同時ダメージか。

 こりゃぁ益々もって俺の攻撃力不足が際立ってる気がする。


「とは言っても、負けてはいられないか!」


 火日人さんと戦った時の感覚を思い出す。

 怒りを、憎しみを…。

 …よし!僅かだけど黒い靄を出す事に成功した俺は、最後のハゲへ接近し2つの刀を閃かせた。


「ブギョアァエボホホ!??」


 演劇で悪者役がやられた時みたいなオーバーリアクションをしながら、ラストハゲは膝を地面に突いて崩れ落ちた。


「皆…凄いね!」


 クレアが目をキラキラさせて褒めてくれる。


「いやいや、俺はクレアが時間を作ってくれたからだよ。」

「ううん。それでもあの人達を倒せる攻撃が出来るのが凄いと思うよ。」


 お、おぉ。そこまで褒められると照れちゃうぞ?


「クレア、龍人君を褒めすぎるのは良くないわ。またお父様と戦った時みたいに調子に乗るから。」

「そうですわね。程々に褒めつつ、ダメ出し8割位が良いと思いますの。」

「お前らなぁ…スパルタすぎんだろ。」

「ともかく、一旦ラルフ先生に報告しましょ。ここ迄の襲撃があったって事は、他の製造者の所も襲われている可能性が高いわ。状況確認をした方が良いと思うの。」

「だな。ラルフ先生は通行所の前にいるんだっけ?」

「そう言ってたと思うよ。…他の皆も無事か心配だね。」


 クレアはクラスメイトの安否が心配なのか、視線を空に向けていた。…なんて優しい子なんだ!


「ぐるぅあ?」


 おいおい。こんな時にハゲの声真似をしなくても…。


「ぐるぅあ?」


 いや、男の声か。流石にルーチェ、火乃花、クレアがこういう声を出すのは…ないな。

 となると。

 …やっぱり。通路の曲がり角から、おじさんが俺たちの事を観察していた。今回は髪の毛フサフサだ。でも、目は瞳孔が完全に開いていて、口からは涎が垂れている。言っちゃえばゾンビっぽい雰囲気あるよな。


「ぐひっ!?」


 俺と目が合ったゾンビ?男は…逃げた。


「え…。逃げたんだけど。」

「追うわよ。」

「ラルフ先生のトコに戻らないの?」

「戻りたいけど、追う方が優先だと思うわ。追い詰められれば、アウェイク暴走者がどこから来たのかが分かるかもしれないわ。そうすれば、必然的にアウェイク製造者の所在地がわかるかも。とにかく、今は気付かれないように追跡するべきよ。」


 ルーチェとクレアも異存はないらしく、火乃花の目線に首肯していた。

 しゃーない。やりますか。


 こうして、俺達のゾンビ男ストーキング作戦が幕を開けた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ふむ。今の戦い…中々に興味深い。あの女の力…僕の研究に役立つかもしれないな。」


 龍人達がゾンビ男を追いかけるのを見届けたサタナスは、顎に手を当てて思案する。


「これまで街立魔法学院1年生の戦いや動きを観察していたが、1番の収穫はあの女。ならば…。」


 ニンマリと、口が横に裂ける笑みを浮かべる。


「セフが目を付けた彼を中心に観察していた甲斐があるというものだな。さぁ、君達の運命に、僕達が介入するよ?君達は、どこまで己が運命を守る事が出来るか。」


 狂気の笑みは建物の影に消えていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ゾンビ男から一定の距離を保ちつつ、俺達は追跡劇を継続していた。

 緊迫した追跡劇…なんてことは無いんだけどね。ゾンビ男は全然振り返ったり、周囲を気にせずに、一心不乱にどこかを目指して走り続けていた。


「龍人君。」

「ん?なんだ?」


 俺の横に並んだルーチェが、比較的真剣な顔で俺に話しかけてきた。


「ちょっと気になることがありまして。」

「気になる事?」

「えぇ。」

「龍人君のあの黒い靄…ですの?あの力はどうやって発現していますの?」

「あぁ、アレは怒りとか憎しみの感情を高めると使えるんだ。」

「怒り…憎しみ…。これは私の主観なのですが、その感情を根源にした力の使い方は間違っている気がしますの。」

「そうか…?」

「はいですの。なんというか…あの靄は本来もっと研ぎ澄まされた力がボヤけている結果。という気がしますの。それは、もしかしたら負の感情をトリガーにした使い方をしているからではないかと。」


 …そんな事考えた事なかったな。

 黒い靄の力を使った時もセフにレフナンティの皆を殺されて、それで怒りとか憎しみの感情が高まってたし。てっきりそれが力を使う為に必要なものだと思っていた。

 …いや、待てよ。そう言えば、初めて力を使った時に声が聞こえたような。確か「ならば、力を使うが良い。だが、心せよ。力に呑まれる者に、力を使う資格はないと。」ってな感じだっけ?

 それに、てっきり忘れてたけど、俺に話かけてきた声って聖龍に仕える龍の1体なんだっけ。

 となると…あの黒い靄の力は龍を起源とする力って事か。

 ん〜龍の力が怒りとかの感情がないと使えないってのは、確かに違和感があるな。

 あの黒い靄を使った時の力の上昇具合は相当なもんだから、基本的にこの世界の理に則れば、あれはスキルであるべきだよな。つまり、スキル名が分かれば毎回変に感情を高める必要がない…と。

 …あれ?


「龍人君、考え込んでどうしましたの?」

「あのさ、黒い靄ってきっとスキルだよな?」

「はい。そう思いますの。」

「スキルってどうやって習得すんだっけ?」

「…?基本的には1つの魔法等を繰り返し使う事で熟練度が上がり、結果としてスキル名が天啓のように閃くと言われていますわ。」

「だよな。でもさ、あの黒い靄を使いまくるって結構無理があるんだよ。」

「言われてみればそうですわね。…というよりも、龍人君。あの黒い靄はスキルじゃないのですか?」

「ん?あ、あぁそうだよ。」

「それは…由々しき事態ですの。」


 ルーチェは顎に手を当てて考え込む。こういう美少女探偵助手とかいそうだよね。「閃きましたの!」とか言っちゃう感じ?


「あれ程のバフ効果がある黒い靄をスキルじゃなくて使うというのは、相当な魔力を必要とする最後の手段ですの。でも、龍人君にはその徴候がありませんわ。となると、特別な職業『龍人』が関係しているかも知れません。スキル習得に必要な条件…みたいなものが違うのかも知れません。」

「条件…ね。」


 結構難しい話になっちまったな。

 つまり、俺が黒い靄をちゃんと扱えるようになるためには、スキル名が必要な可能性があるって事だろ。それは、あの黒い靄をスキルとして扱える程に熟練する必要があるわけで。

 でも、毎回負の感情を高めて発動しまくってたら、俺の精神が保たない可能性もある。

 あの力を使ってる時、体の内側から膨れ上がる破壊衝動は相当なもんだからな。

 ルーチェが言うスキル習得の別条件ってのがあるんだとしたら、それを見つける事が出来れば…俺はもっと強くなれる可能性が高い。

 問題は…どうやってその条件を見つけるのか。だよな。


「2人共、話している所悪いんだけど、ゾンビ男が空き地に入っていったわよ。」

「あ、悪いな。にしても、空き地ってどういう事だ。」

「分からないわ。私達の尾行に気づいたのかもしれないから、注意していきましょ。」

「オッケー。」


 建物の陰からゾンビ男の様子を伺うと、空き地の端にある木の根本でゴソゴソと何かを漁っているように見える。

 何をやってるんだ?もしかして、あそこに殺した人を隠していて、今…食べてるとか?

 ファンタジーな雰囲気だったのに、ここからスプラッターとかホラー系の展開ですかいな。ちょっとそれは…勘弁だな。映像とかで見るのはまだ大丈夫だけど、直接そういうのを見るのって絶対気持ち悪いと思うんだよね。


「あ、消えたよ?」

「えっ?」


 クレアの声に反応して見ると…マジだ。ゾンビ男の姿が消えてる。


「…私が様子を見てきますの。」

「1人で大丈夫?私も行くわよ。」

「いえ、ここは私が斥候の役目をしますので、火乃花さんと龍人君はサポートを。クレアさんは周囲の状況把握と私達全員に対する攻撃へ備えてください。」


 ルーチェは的確な指示を出すと、ササササーっと忍者のように空き地の端へ駆けていく。

 …あれ?俺の方が忍者っぽい格好してるよな。やばい。このままだと「格好だけ忍者っぽい人」になっちまう。…いや、違うか。既に「忍者の格好をしているだけ」の地位を確立してるから、今のこの状況になってんのか。

 …無念。

 あ、ルーチェが手招きしてるって事は、何か見つけたのか?

 近くへ駆け寄ると、探偵助手風なポーズを取ったルーチェが困り顔で木の根元を指差した。


「隠し扉がありますの。」


 おぉ。マジですね。根本にピッタシハマる形でドアがあるわ。つまり、ゾンビ男はこの扉か地下?に潜ったって事になるな。


「…簡単に中の様子を探りましょう。とは言っても、危険地帯だと思われますので、軽く捜索したら引き返します。あと、ラルフ先生には私が簡単な報告を入れておきますわ。…はい、これで良いですの。」

「え、もう伝えたの?」

「はい。秘密の技ですわ。」


 前から思ってたけど、ルーチェって実はとても凄い奴なのでは?


「それでは行きましょう。万全の陣形で進むべきですので、龍人君と火乃花さんが先頭、中間に私、最後尾をクレアさんで行きましょう。いつ奇襲されるとも分かりませんので、常に周囲の状況には気を配ってくださいね。」


 俺達は頷き合うと、木の根元にあるドアを開けて…中へと侵入していった。

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