4-20.動物
ラルフ先生によって任務のチームが発表されて、午前中の授業を受けた俺達は…中央区の喫茶店でお洒落にお茶をしていた。
「はぁ…まさかのチーム分けだよ。」
チームを勝手に組まれるとは思ってなかったよね。
俺としては、これまで一緒に過ごしてきた遼とチームを組む事で、戦闘になった時にも連携をとっていける…と考えてたんだけど。
「まさか…と言いましても、ラルフ先生の決めたチーム分けだからしょうがないですわ。」
「そうよ。それに良いじゃない、男1人で。他の男からしたら羨ましいんじゃない?」
「私は…龍人君と一緒で嬉しいよ。頑張ろうねっ。」
大人な返答をしたのがルーチェ。
ちょっと小馬鹿にした返答をしたのが火乃花。
俺の気持ちを気遣ってくれたのがクレア。
そう。俺はこの3人とチームを組む事になった。
普通に考えたら仲が良い人をくっつけた方が連携力が取れると思うんだけどなぁ…、きっとラルフ先生にも何かの考えがあっての事だろうから、文句を言うつもりはないんだけど。
「あら。クレアって龍人君に優しいのね。」
「火乃花さんはもう少し優しくしてあげても良いんじゃないかな?」
2人は…さっきからこの調子だ。火乃花が挑発的な言葉を投げ、キョトンとした顔でクレアが返事をしている。横で見ている側からすると、いつ喧嘩に発展するか分からなくてハラハラドキドキものなんですが。
「まぁまぁお2人共。これから私達はチームで動くのですわ。仲良くなるのがオススメです。それに、そろそろこれからの行動方針について話し合ったほうが良いと思いますの。」
唯一の救いは、ルーチェがやや空気を読まないで場の雰囲気をコントロールしているところかな。多分…意図的にっていうよりも、天然的な性格の結果なんだとは思うけど。
「ルーチェの言う通りだな。まず、全員が知っている事があれば共有しよう。」
「龍人君。あなたが余計な事を言ったのが原因じゃない。それなのに部外者みたいなスタンスはおかしくないかしら?」
「えっ?」
なんか火乃花が凄い機嫌悪いんだけど。これってクレアとあれこれ言い合ってるのが原因なのかな?いつもはもう少し穏やかな気がするんだけど。
「火乃花さん。どうして怒ってるの?」
そしてクレアのドストレートクエスチョンきたー。可愛く首を傾げるおまけ付きだぜ!
つーか、只ならぬ雰囲気に周りの席に座ってる客達が、俺達のことを見てヒソヒソ話してるんだけど…。このままじゃ街立魔法学院の変な噂が広がりますよー。
「…はぁ。まぁイイわ。ここで言い争ってもしょうがないものね。情報共有…しましょ。」
お、いきなり落ち着いたぞ。火乃花…情緒不安定なのか?
この流れを掴まずして、いつ掴むのか!今でしょ!
「じゃぁ俺の知ってる情報なんだけど…。前に遼とクレアの3人でランクアップクエストを受けて…。」
俺は転売屋と魔力補充石、魔法を使う動物について伝えていく。
ルーチェと火乃花は特に魔法を使う動物の部分に驚いていた。
「そんな事があったのね。それにしても動物が魔法を使うとか…かなり奇妙ね。」
「そうですわね…。常識的にはありえない事ですわ。」
という考察タイムが入った後、ルーチェが情報を話す。
「私はこの件について知っている事は少ないですわ。ただ…前に雑貨店で魔力補充石を眺めていた時に、何個か変な感じがしましたの。もしかしたら、それがアウェイクだったのかもしれません。」
「変な感じ…か。それじゃぁ雑貨店に行ってみるか?その変な感じがする魔力補充石を見つけられれば、仕入れ元から犯人に繋がる何かの情報を掴めるかもしれないし。」
「そうですわね。龍人君の言っていた転売屋の言葉通り受け取るなら、魔力補充石を広めている犯人がどこかに居るはずですの。」
「私もその案良いと思う。」
「……。」
…ん?火乃花が静かだな。怒っている感じはしない。真剣な顔で…悩んでるのか?
「火乃花さん。どうしましたの?」
ルーチェが薄青の髪を揺らしながら首を傾げる。可憐なお嬢様の首傾げポーズ…地球のオタクが見たら鼻血垂らしそうだな。ん?俺?俺は残念ながらお嬢様フェチではありません。
「…ちょっと調べたい事があるんだけど、良いかしら?」
珍しいな。火乃花がこんな真剣な顔で言うのは、本気で何かをしようとしてる時だ。この本気度合いの高い火乃花には、Colony Worldで遊んでる時は何度も助けられたもんだ。
「良いと思いますわ。何を調べますの?」
俺とクレアも首肯する。手掛かりが少ない以上、拒否する理由は無い。
「何を…については、事前に言うのはちょっと。それと、この調べ物は私ひと…」
ドォドォン!
バアァァァン!
火乃花の奴、1人で行くって言おうとしたか?チームで動くんだから、そーゆー考え方は感心できないな。
つーか、この爆発音はなんだし!?
「うわぁぁぁ!?」
「逃げろ!魔獣が出たぞ!!」
通りを叫びながら人々が走り惑う。
魔獣…?魔獣って中央区には出てこないんじゃないのか?魔法街の魔獣は西区だけに出現するって聞いたけど。そんで、時々各区に繋がる管理小屋を襲撃する事があって、その守りを突破されると管理小屋の転送魔法陣を使って各区に魔獣が侵入するとかなんとか。
でも、魔獣の大量発生とかは聞いてないし、それに…中央区ってギルドが無いから、西区に繋がる転送魔法陣は無い筈。なにがどうなってんだ…?
「火乃花、ルーチェ、クレア。一旦様子を確認しよう。必要なら魔獣と戦うぞ。」
「えぇ。」
「勿論ですわ。」
「うん!頑張るよっ!」
俺達は頷き合うと、逃げる人々の流れに逆らう形で走り始め、足を止めた。
何故止まったのかって?そりゃぁ…俺達の上空にぽっかりと空間の穴が空いて、そこから多数の魔獣が姿を表したからだ。
「マジかよ。クレアとルーチェは後衛、火乃花と俺が前衛で動こう。…来るぞ!」
俺達の前に降り立った魔獣は、兎に良く似た造形をしていた。
こんな魔獣見た事ないんだけど。新種の魔獣か?
考える時間もなく、兎型魔獣が俺達に向けて跳躍を開始。空中から魔力の刃を連射してきやがった。容赦ない攻撃だな。しかも黒い魔力の刃だ。
…待て。これって。
俺は龍刀で魔力刃を弾き、風刃を射出して応戦する。火乃花も俺の動きに合わせて火矢を連射し、1匹ずつ確実に仕留めている。
戦いながら思考が回転を始めていた。だってさ、この魔法…転売屋が使役していた魔法を使う犬と同じ魔法じゃないか?
「もしかして…。動物?」
疑念の呟きが思わず口から漏れ、それを聞いた火乃花が「信じられない」という顔をする。
「龍人君。もしかして、転売屋を捕まえた時と同じ…?」
「…あぁ。多分そうだ。」
「そんな。どうしたら魔法を使う動物が現れるのよ…。」
ホントだよ。話が急展開すぎる。
しかも、この兎達が出て来た空間の穴は、きっと…というか恐らくは魔法だ。誰かが空間魔法で中央区に魔法を使う動物を送り込んできたってのか?こりゃぁテロと同じじゃんか。
少し離れた場所ででも戦闘音が聞こえる事を考えると、中央区内で同時多発的に魔法を使う動物が出現したと見て間違いないだろうな。
くそっ。意味がわからねぇ。…とにかく、今はこの場を切り抜ける事に集中しないと。
「火乃花、少し陣形を乱してもイイ?」
「もしかして、突撃するつもり?」
「あぁ。このまま安全マージンを確保して戦ってると、被害が増えそうな気がするんだよね。少し本気で行こうかなと。」
「…ふふっ。良いわね。私も付き合うわ。」
「へっ?いいの?」
「勿論よ。ルーチェ、クレア!フォローお願いね!」
「分かりましたわ!」
「任せて!」
はは。こりゃぁ、火乃花の事を勘違いしてたかもな。さっき、「私1人で調べ物をする」みたいに言うのかと思ったけど、違いそうだ。チームって事を意識して、それを優先した選択をしてくれてる。
我儘を言ってる自分が恥ずかしいな。
けど、照れてる暇はない。
「火乃花、俺が先頭で行くから、討ち漏らしよろしく。」
「分かったわ。」
火乃花に軽く笑みを送ると、俺は最大同時展開数である6つの魔法陣を展開する。使用属性は【風】。移動力と斬撃力を強化した状態での突貫だ。
「いくぞぉぉぉ!!」
力を込めて地を蹴る。同時に脚へ纏った風が爆発するようにして、俺へ強力な推進力を与える。更に、身に纏う風が空気抵抗を減らし、体勢維持を行い、目標へ文字通り風の如く接近する事を可能とした。
兎の集団に飛び込み、龍刀を閃かせる。
肉を断つ感触が刀身を伝わってくるが、怯みはしない。龍刀を振り抜き、刃を返し、更に斬り裂く。
「龍人君後ろ!」
10匹程倒した所で、斜め横で焼き兎を完成させた火乃花が鋭い声を発した。
その声に反応して後ろを見ると、6体の兎が6つの闇弾を融合させて発射していた。しかも、俺は目の前にいた最後の1匹を叩き伏せたばかりで、闇弾の速度から考えて対応が間に合わない。
…マズい!……なんだ?何か変な感触が。
魔法陣の中に仕舞っている何かが激しく反応している気がする。
……もしかして。
俺は体を無理矢理捻りながら左手先に展開した魔法陣からある物を取り出す。
「これなら…間に合う!」
柄を握りしめ、光魔法を纏わせた刀で闇弾を斬り裂く。
まさか今の攻撃が防がれるとは思って無かったんだろう。兎達は戸惑うように右往左往している。普通なら「可愛い兎じゃないか!」なんて思うのかもしれないけど、今は只々憎らしいだけだ。
「…にしても、魔力の伝導率がかなり良いな。龍刀と同じ位じゃん。ドレッサーさん、凄いな。」
そう。俺が咄嗟に思い出して取り出したのは夢幻…ドレッサーさんが作ってくれた刀だ。見た目は普通の銀色の刀なんだけど、なんつーか凄い手に馴染む。
きっとドレッサーさんが俺に合わせて作ってくれたからこそなんだろうな。ちゃんと感謝しないと。…ま、貰うまでに多大なる犠牲を払ってるけどな。俺のから…ゲフンゲフン。
「よし。残るは30体位か?油断せずいこう。」
「龍人君…刀の二刀流なんて珍しいわね。」
「だな。俺も今始めてだ。」
「え…?」
「大丈夫!なんとかなるだろ。」
「その能天気さが羨ましいわ。…まぁいいわ。やるわよ。」
「勿論!」
俺と火乃花はタイミングを合わせて左右に分かれる。
2人で同じ方向に攻撃を仕掛けるよりも、別々の方向で撃破数を稼いだ方が…今この場面ではベターだろ。
初めての二刀流だけど、何故か体が自然と動いた。まるで前から二刀流の戦い方を知っていて、その動きを当然のように再現するかの如く。誰かが俺の体を操ってるんですか?ってくらいスムーズで、怖いな。もしかして、俺って天才?なんつってね。
そんな馬鹿げた事を考えている間にも、舞踏のように舞いながら兎を斬り伏せていく。斬撃の合間に攻撃魔法を発動し、離れた位置の兎への攻撃も忘れない。
それに、兎が俺の隙を突こうとするタイミングで光矢が飛来して兎を貫いてくれるから、安心して戦えるってのも大きいな。ルーチェの戦局を把握する力…凄いな。
「これで…最後だ!」
左手に持つ夢幻で斜め下からの斬り上げを放って浮かせた兎を、体を回転させながら軸を45度ズラす事で斬り下ろしに変化させた龍刀を叩き込む。
体を2つに裂かれた兎は血を撒き散らして地面に落ち、切断面から広がる赤い液体が広がっていった。
「ふぅ…。」
「終わったわね。」
「あぁ。思ったより時間掛かっちまったな。」
「火乃花さん!龍人君!お疲れ様ですの!」
ルーチェとクレアが駆け寄ってくる。
「今治癒魔法掛けるね!怪我はしてなさそうだけど、疲労の回復にもなるから。」
到着するなりクレアが俺と火乃花に治癒魔法をかけてくれる。
ほんわりと温かい光が俺たちを包み込み、緊張状態だった筋肉がゆっくりと癒やされていく。
治癒魔法って…凄いな。俺も使えるようになりたい。
「他の場所の戦闘も終わったみたいですわ。戦闘音がしませんの。」
「…本当だな。じゃぁ、これでひと段落って事か。」
「そうなるわね。それにしても…この動物達、誰が送り込んだのかしら。」
どうやら火乃花の中では誰か黒幕がいるという事が決定事項となっているみたいだ。
空間魔法で現れたし、魔法を使えない動物が属性【闇】を操っている訳だし…そう考えるのは当然だわな。
ただ、中央区の各所に同時多発的に動物を送り込んできた事を考えると、相当な手練れだよね。並の魔法使いには出来ない芸当だと思う。
街は完全に混乱状態に陥ってるし…これからどう動くのが良いのかね。
今更遅れてやって来た警察官達が周辺住民や、商店の人々を非難させてるけど…ちょっと動きが遅すぎないか?
「誰かが画策した事だとしても、黒幕を見つけるのってかなり厳しくないか?」
「龍人君の言う通りですわね。手掛かりが無さすぎますの。」
手詰まり。空間魔法の使い手が僅か数人…とかなら調べようもあるのかもしれないけど、多分そこ迄希少な属性でもない気がする。
となると、次に打つべき手は…。
「ちょっと良いかしら。さっき言おうと思ってたんだけど、心当たりがあるのよね。もしかしたら、そこで犯人に繋がる何かを掴めるかもしれないわ。」
「マジか。その心当たりってなんなんだ?」
けれど、火乃花は苦い顔をする。
「それは…到着するまで聞かないで欲しいわ。私1人で行くのは心細いから、一緒に来て欲しいんだけど…口出しはしないって約束して欲しいの。」
口出しはしないって…その心当たりにはよっぽどの何かがあるのか?
「…分かった。約束する。出来る限り守る。」
「その返事、信憑性薄いわね。…ま、龍人君らしいと言えばらしいかしら。ルーチェとクレアも良い?」
「勿論ですわ。」
「うんっ。」
「じゃあ…行きましょ。」
火乃花は決意を秘めたような顔で歩き出した。
これから向かう先で何が待ってるのかは分からないけど…俺はその場で最善の選択をするぞ。
口出しはしない。…きっとね。




