4-18.ヤンキー暴走
緑のモヒカンヤンキー率いるヤンキー軍団は、魔力補充石の使用後に頭を抱えて苦しみ始めた。
「グアァァァァァァああ!?」
様子が尋常じゃないな…。何がどうなってんだ?
全員が同じように苦しんでるって事は、あの魔力補充石の使用が4回目だったって事か?
30分以内に4個使用すると全身に激痛って話だった筈だから…。でも、そこ迄してサラサラヘアー君を倒そうと思うかな?ちょっと違和感があるんだよなー。
「うわぁぁあああ!?」
異変が加速する。
ヤンキー達の体から…黒い魔力が出現した。魔力…魔力だよな。多分。ゆらゆらと煙のように、ヤンキー達を包み込むように広がっていく黒い魔力。
こりゃぁ何なんだ?
信じられない光景だわ。
ゲームで言うと、魔力の暴走的な雰囲気だけど。…いや、これってその魔力の暴走そのものなんじゃないか?
他のヤンキー全員の魔力が1つに纏まってるし。
定番の展開で言うと…巨大なモンスターみたいになって攻撃してくる。的な感じか。
…ほーら。定番の展開来た。
「やべぇな。」
「龍人…行く?」
双銃を構えた遼を手で制する。
行きたい気持ちは山々だけど、あの黒い魔力の正体が分からない以上、無闇に突っ込むのは危険すぎる。
それに、サラサラヘアー君が全く動じていないのも気になる。
「うぉぉおおおおお!」
1つに纏まった黒い魔力は巨大な人型を形成し、野太い雄叫びを上げながら太い腕をサラサラヘアー君に向けて振り下ろした。
大木並みの太さがあるんですが…。あれ、直撃したらヤバいぞ。
「ふん!俺を甘くみるなよ!そんな纏りのない塊、敵にすらならないね!」
サラサラヘアー君はニカっと笑みを浮かべると棍を持った右手を振り上げる。
ブゥンッ!!
という音と共に太い魔力の腕が……吹き飛んだ。
何アレ。反則的に強いんですけど。何も見えなかったし。何したんだし。
「グルゥぅあああ!?」
たたらを踏んだ魔力の人型は身体を震わせ、サラサラヘアー君へ向けて魔力弾を連射する。
1発が巨大なスイカサイズの特大魔力弾だ。
「…ウザイな。俺、そんな我慢強くないんだよね?」
…何かがサラサラヘアー君の右手に持つ棍へ収束していく。
そして、棍のひと突きでそれは放たれた。
あまりの威力に景色が歪む。
あの景色のブレ方……なんだ?ブゥゥゥゥンって音もするし、もしかして振動系の魔法なのか?
そんな魔法があるなんて聞いた事ないよな。でも、ダーク魔法学院は特殊な属性持ちが入る所だって考えれば、俺が知らない属性所有者がいてもおかしくないか。
「グルゥルゥゥゥアアア……。」
サラサラヘアー君の魔法に晒された魔力の巨人は、最初は抵抗の意思を見せたが…最後には魔力に翻弄されるまま体を消滅させていった。
強い。学ランサラサラヘアーと言ったら、クールでスカしてて超強いみたいなイメージがあるけど…性格以外はそのまんまだ。
黒い魔力の噴出が止まったヤンキー達は、騒ぎを聞きつけて駆けつけた警察官に取り押さえられている。ありゃあ相当危ない行為だったから、コッテリ絞られるんだろうね。
…あ、サラサラヘアー君率いる学ラン軍団がこっち歩いてくるぞ。警察官とはちょびっと話しただけで解放されてたから、顔が効くのかも。
そして、彼らは俺達の目の前で立ち止まると「君達は街立魔法学院の者かい?これが俺達と君達の差だよ。悔しかったら、俺達より強くなってみるんだな。」と、挑発の言葉を掛けてくる。
…なんていうドラマチックな展開はなく、サラサラヘアー君は俺達の横を何事もなかったかのように通り過ぎて行ったのだった。
通り際に学ラン軍団の言葉がチラッと聞こえる。
「アイツらが使ったアレ、アウェイクだろうな。」
「どうすんだよ。うちの魔法学院は…のか?」
「いや……役わ……だろ。」
アウェイク?アレって魔力補充石の事だよな…?
あーゆー会話をしてるって事は、ヤンキー達の魔力が暴走した原因を知ってるって事だよな。
話しかけてみるか?
この前のランクアップクエストの魔力補充石に関係ある話かも知れないし。まぁ悩むくらいだったら行動しちまった方が後悔は無いわな。
…と思ったら、火乃花に口を塞がれてしまった。
何をする!と、手を退けようとするが…思いの外、抵抗が強い。そうこうしている内にサラサラヘアー君達は通りを曲がって立ち去ってしまった。
彼らの姿が見えなくなってから火乃花の手がやっと離れる。
「火乃花、何で話し掛けるのを止めたんだよ。」
「あのね…魔法街にある3つの魔法学院は、そこまで仲良くないのよ。ここで変に話しかけて、揉め事の火種になるのは避けた方が良いわ。」
仲が悪いとか…勿体無いな。魔法学院同士の交流があれば、色々と刺激があると思うんだけど。
「そうですわね。過去にも理念の違いが原因で魔法街戦争が起きていますの。その時は学院の対立というよりも、派閥の対立でしたが…大枠では変わっていません。」
ルーチェさんや。今、戦争と仰いましたか??
「戦争って…ホント?」
「えぇ、5年前ですわ。」
遼が目を見開いて驚いている。そりゃそうだよな。戦争があったなんて中々信じられないよ。
にしても、5年前か。そんなワードを聞いたことあるような、無いような。
「ルーチェ。その話は今はやめましょ。楽しい話でも無いし。グルメツアーには合わないと思うわ。」
「…それもそうですわ。ついつい失礼しました。それでは皆さん!行きましょうっ。…あれ?どこに向かってるんでしたっけ?」
うわー。出た。ルーチェって天然か?
バルクが鼻の穴を大きくしながら、腕を組みながら、仁王立ちをしながら、偉そうに口を開く。
「フフン。ルーチェ。頭が良いみたいだけど、グルメに関する執念は俺の方が上みたいだな!これから食べにいくのは、餃子で包んだ中華まんだ!」
そうそう。……ん?
皆が同じ違和感に辿り着いたのだろう。誰が正すのか…的な探り合いが無言の内に始まっていた。
そして、その役回りを引き受けたのは意外な人物だった。
「ラルフ君…。自信満々に言ってくれた所で悪いんだけど……逆じゃないかな?中華まんで包んだ餃子だと思うよ。」
「お……?おぉ!ホントだ!ハッハッ!悪い悪い。ついウッカリ間違っちまった!じゃ、クレアの言ったソレ、食べに行こうぜ!」
えぇー。恥ずかしさ皆無ですかー?
凄い精神力だな。…いや、単細胞という可能性も否めないぞ。
「全く…。バルク君ってバカだけど、あの能天気な所は長所ね。龍人君、行きましょ?」
「はは…んだな。」
こうして、俺達はグルメツアーを再開したのだった。
因みに、遼が言っていたのは餃子ドッグだった。
ネズミの海に似たようなお店があった気がする。今もあるのかは分からんけど。
それからは歩きながら色々なお店を物色し、気になったものを食べるという自由気ままな時間を過ごしたのだった。
いやー、お腹いっぱいだ〜。もうこれ以上食べる事は出来ません。
今回の発見は、地球にあったのと殆ど同じ種類のグルメが魔法街にはあるって事だな。
転生物の小説とかを読むと、地球にある食材が無くて、苦労を重ねた先に食べて感動。みたいな定番の展開があるけど、現実はそんな事無かった。
まぁ…森林街で過ごしていた間は、魔法街程のお洒落な料理はなかった気もするけど…。それでと硬いパンを毎日齧る。なんて事は無かったしな。
明日以降も何か頑張ったら美味しいものを食べるっていう目標が立てられるから、やる気を継続出来そうだ!
一緒にいて楽しい仲間…友達?も出来たし。魔法街生活、順調だな。
夕方頃に皆と別れた俺は、学院生寮の自室に戻り、布団に包まって幸せな睡眠を貪ったのだった。




