4-17.グルメツアー
美味い。美味すぎる!!何だこれ!?
「美味しい……!」
俺とクレアはケーゼクライナーというホットドッグみたいなものを手に感激していた。
パンは外がカリカリサクサクに焼かれていて、中にはチーズソーセージが挟まれている。シンプル…しかし、故に口の中に広がるパンとジューシーなソーセージの絶妙なバランスが最高だった。
「ヤバイな…。中央区のグルメを舐めてた。」
いや、そもそもお金が無くて外で食べる余裕が無かったってのもあるけど。
ギルドで稼げるようになってからも学食で3食は済ませてるしね。
「龍人君。次は餡蜜を食べに行くわよ。」
「おぉ。あんみつ。マジか。」
「知ってるの?結構珍しい筈なんだけど。」
はっ!?まさか餡蜜がそんな立ち位置とは。
地球で時々食べてたとかは言えないし…。
「前に誰かが餡蜜の話をしてるのを聞いた事あんだよね。甘そうな名前だなーって思った記憶があってさ。」
「なるほどね。…甘いの嫌い?」
「いや、俺は普通かな。ギトギトに甘いだけの食べ物はちょっと苦手だけど。クレアは?」
片手を頬に当てて幸せそうにケーゼクライナーを頬張っていたクレアは、首をコテンと傾げる。
「私は甘いもの好きだよ?餡蜜は食べた事無いけど。」
「……。」
おいおい。火乃花さんや。何故無言になるし。そんなにあんみつを食べた事が無いのが信じられないのかね?
「ねぇねぇ、皆様。餡蜜の後はどうするつもりですの?」
アイスクリーム片手に小走りで寄ってきたのはルーチェだ。
少しずつ溶けるアイスクリームをペロペロ舌を出して舐める姿は、無邪気な雰囲気だけに見ていて背徳感が…。
「あ、それなら俺…行ってみたい店があるんだよね。」
そして遼も何故か積極的にグルメツアーを楽しんでいた。事前に色々調べていたのか、行きたい店をどんどん言ってるし。
「東区側に餃子を中華まんの皮で包んだ。みたいな食べ物があるんだって。美味しそうじゃない?」
「良いですわね。そうしたら、火乃花さんおすすめの餡蜜を食べて、食休みを挟んだらそれを食べに行きましょう。楽しみですね〜!」
おうおう。次々と予定が決まってくね。週末明けに皆プクプクに太ってたりして。
「龍人君、行きましょ。餡蜜のおすすめトッピングを教えてあげるわ。」
「お、そりゃいいね。是非サッパリ風味なトッピングで。」
「任せて。」
俺と火乃花は連れだって歩き始めた。
皆も美味しいものを食べて楽しそうだし…たまにはこーゆー風にリフレッシュする時間も大切だね。
その後に食べた餡蜜は…言葉で言い表せない感動に包まれた。
餡子、白玉、黒蜜、杏子、寒天、えんどう豆…王道な具材なのに、口の中に広がるハーモニーは俺の心を鷲掴みにしたのだった。トッピングには蜜柑を選んだんだけど、餡蜜と蜜柑って合うのね!地球では蜜柑が乗ってるのは見た事あるけど、食べた事は無かったから新しい発見だわさ。
「いやー美味かった。火乃花のグルメ知識すげーな。」
「他にも色々知ってるから、聞いてくれればいつでも教えるわよ。」
「おっ。いいねー。よろしく!」
中華まんの皮で餃子を包んだ食べ物を食べる為、俺達は中央区を練り歩く。東区側にあるらしいから、少し距離があるな。
ま、食べてばっかだから少し運動してカロリー消費しないと、お腹が一杯で食べれなくなりそうだから丁度良いかな。
「そー言えばさ、火乃花の親って警察庁の執行部長官なんだろ!?すげーよな!」
露店で買ったポップコーンを食べながら言うバルクを見て、火乃花は肩を竦めた。
「就いてる役職は凄いかもしれないけど、それだけよ。」
「そうか?人格者で部下からの信頼も厚いって聞いたことあるけどな?」
「それは1つの側面……なんでもないわ。バルク君は警察庁に入りたいの?」
「あー、それはなんともだな。強くて街の皆を守るってのには憧れる気持ちもなくは無いけど、そこら辺は分からねぇ。まぁまだ魔法学院生だからなっ!すぐに決める必要も無いしよ。」
「それはそうね。でも、私は警察庁はオススメしないわ。」
「あんでだよ?」
「そうね…バルク君は強くなる為に大切なものを切り捨てられる?」
「ん?そりゃぁどういう意味だ?」
口を挟まずに話を聞いてるけど、火乃花って時々悲しそうな顔をするんだよね。なにか抱えてんのかな。地球で一緒にColony Worldをプレイしていた時の火乃花は、気が強めで明るい普通の女の子だった筈なんだけど。
やっぱり同じ容姿でも…この世界で俺と出会うまでの経緯が違うから、内に秘めるものは変わっちまうのか。
けど、それは当たり前…だよな。俺が「地球の火乃花は」なんて考えるんじゃなくて、今ここにいる火乃花と向き合っていかないと。
これは他のメンバーも一緒だ。
…遼だって、姉の茜を失ってるんだ。魔法街に来てから茜の話は一回もしてないから、どう考えているかは分からないけど、強い想いは持ってるはず。
「あら、何かしらアレ。」
バルクとの会話中に何かに気づいたのか、火乃花が十字路の角辺りを指し示す。
あれは…。
「若者が集まって…喧嘩か?」
いや、俺も十分に若者かも知れないけど。
「んー…そうね、喧嘩になりそう。…巻き込まれると厄介だし、道の反対側を通りましょ。」
火乃花の意見に従い、俺達は道の反対側へ移動して遠巻きに様子を観察しつつ通り過ぎることにした。折角のグルメツアーが喧嘩に巻き込まれて台無しとかになったら堪んないもんな。
…その筈だったんだけど。
俺達が思わず足を止めるレベルで喧嘩がヒートアップしたんだ。
「はぁ!?そっちが勝手に因縁付けてきたんだろ!?」
怒りの形相でサラサラヘアー君が怒鳴る。
「あぁん?てめぇよぉ。俺らのよぉ、事をよぉ、知ってんのかぁ?」
「知るか!さっさとどけ!勝手にぶつかってきて勝手に喧嘩売るとか、勘弁しろっての!」
あのサラサラヘアー君、見た目は良いとこ育ちに見えるけど、言葉遣いは案外そうでも無いな。人を見かけで判断してはいけないってのまさしくこの事。
対するヤンキーっぽい緑色のモヒカン君は両手をポケットに突っ込み、目をひん剥いて首を斜めに傾けながらメンチを切ってる。典型的なヤンキーだな。ヤンキーって根っこでは優しい人が多いって聞いた事があるんだけど、本当なのだろうか。
てか、良く良く見ると、優等生集団に絡むヤンキー集団って構図なのか。普通に考えたら優等生集団が戦力的に大ピンチ。ってなるんだろうけど、この場合はどうなんだろうね。
なんたって、魔法を使える人が多い訳で。魔法って点に関しては優等生集団の方が上手く使えそうな気もする。
…待て。待て待て待て。サラサラヘアー君達の服装…良く考えたら服装が学ランっておかしくない?地球では当たり前の光景だったから、何気なくスルーしてたけど、この世界にも学ランあんのか!!
あ…そういえばルフトも学ラン風か。この世界、地球の色々な文化がごちゃ混ぜになってんな。
「なぁ、ルーチェ。サラサラヘアー君たちの服装、アレ何?」
丁度隣にいたルーチェに聞いてみる。ルーチェって博識そうな感じがするから、聞いたら答えてくれそうな感じがするんだよね。
「あら?龍人君知らないですの?」
「いや、知ってるような、知らないような。」
「そういえば龍人君は森林街から来たんでしたわね。魔法学院の授業では当たり前の事は省く風潮がありますから、知らないのはしょうがないですの。」
え。もしかして、今さり気なくディスられた?当たり前すぎる事を知らないってディスられたのか!?
「あの服は学ランと言いまして、北区にあるダーク魔法学院の魔法学院生の制服ですの。特に学ランを着用した女性はカッコイイんですよ。」
「学ランか。ダーク魔法学院の人達って、中央区に来るの珍しいのか?」
「…?そんな事無いですの。良く見かけますよ。とは言っても、授業外で来る時は私服だと思うので、顔を覚えていないと見つけるのは難しいかも知れませんが。」
って事は、ルーチェはダーク魔法学院の人達の顔を少しは覚えてるって事か。すげぇな。
「あらあら。これは少し物騒な事になってきましたの。」
「あ、ホントだ。」
俺達を含めた通行人が遠巻きに眺める中、ダーク魔法学院の人達とヤンキー達の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。否、落とされた。ナウ。
「テメェラァぁぁ!!俺達に楯突いたことぉぉぉぉぉ後悔させてやる!」
緑のモヒカンが唾を撒き散らしながら叫び、それに呼応するかの様にヤンキー全員が魔法を発動する。しかも、全員が風魔法ときたもんだ。同じ属性魔法を使えるヤンキー仲間を集めるって…きっと苦労したんだろうな。なんて思うのは間違ってるかな?
…ともかく、物凄い数の風刃がダーク魔法学院勢に襲いかかった。流石にあれ、やりすぎじゃねぇか?普通に被弾したら病院で全治数ヶ月レベルだと思うんだけど。
「ふん!俺達に喧嘩を売った事を後悔させてやるよ!」
サラサラヘアー君は右手に棒を取り出すと、西遊記の孫悟空みたいに振り回した。アレは…棒っていうより棍かな?
ドン!ドドドドドドドン!!!
うぉっ。なんだあれ。棍が風刃に触れるたびに空間が爆ぜるみたいな音がして、風刃が木っ端微塵に砕かれてるんだけど。
サラサラヘアー君は棍でこじ開けた風刃の隙間に突っ込み、瞬く間にヤンキー集団の上空に飛び上がった。
「これでくたばれ。」
棍の先から見えない何かがヤンキー集団に降り注ぐ。
「ちっくしょぉぉぉ!!おらぁ!てめぇらぁ!全力で防げぇぇぇ!!!」
ヤンキー集団が魔法壁を張り巡らす。が、サラサラーヘアー君の魔法が相当に強いらしく、魔法壁が歪み、パキパキと割れていく。
ヤンキー達は必死の形相で魔法壁の維持に努めてるけど…こりゃぁ勝負あったな。
優等生って見た目だけで判断して喧嘩をうったヤンキーの落ち度ってとこか。
程なくして魔法壁は全て粉砕され、ヤンキー達は全員が上から降り注いだ何かの魔法によって地面へ這いつくばったのだった。
「あのサラサラヘアー君、強いな。」
「そうですわね。ダーク魔法学院は特殊な属性所有者のみが入学出来る所なので、基本的に属性特性として強い人が多いですの。」
「そうなのか。ダーク魔法学院ね…。凄いな。因みにもう1つのシャイン魔法学院は?」
「シャイン魔法学院は入学要件が不透明なのです。確か、学院長が認めた人だけが入れるとか…。」
「そりゃぁまた俗人的な基準だね。」
「そうなのです。ただ、回復や防御に特化した人が多いらしいですわ。それが条件だとは思いませんが。」
「成る程ねぇ。…ん?アイツら何か出したぞ。」
地面に這いつくばったヤンキー達に背を向けてダーク魔法学院の人達が立ち去ろうとしたら、ヤンキー達が懐から…結晶?みたいなのを取り出した。何かの魔導具かな?
「あ、アレって魔力補充石じゃない?」
確かに遼が言った通り魔力補充石っぽいな。うん。確かに5角のクリスタルに見える。
って事は、魔力を回復してまだ戦うつもりなのか?
1人2つずつ取り出してるか…?それでも最大魔力の40%しか回復しない訳だし。さっきの実力差から考えて、それじゃぁサラサラヘアー君には勝てない気がするんだけど…。
「ま、まてやぁコラァ!!まだ…まだ負けねぇぇぇ!!」
緑のモヒカン君が魔力補充石を使い、周りのヤンキー達も魔力補充石を上に掲げて使用する。
「懲りない奴らだな。いいさ。かかって来いよ。」
サラサラヘアー君は余裕の顔で棍を構える。…でもすっげーイライラしてそうな顔してんの。短気なのかね。
「ゔ…ヴああァァァァァァ?」
その時だった。ヤンキー達が漏らした苦悶の声と共に、異変が起きたのは。




