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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
4章:街立魔法学院
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4-12.転売屋

今回は導入編となりますので、やや短いです。

 転売屋。

 それは誰しもが一度は副業として考えた事のある職業ではないだろうか。

 ある物品を購入し、それを購入金額よりも高い金額で販売して利益を得る行為が転売である。転売ルートによっては手数料が発生する為、手数料を考慮して転売金額を決めるのが通例である。

 今後希少価値が高まるであろう商品を購入しておき、プレミアム価格が付いた時点で転売をする。という行為が、一般的には有名であろう。つまり、各商品に対する先見の明に優れている人ほど利益を得る事が出来る。とも言える。

 しかし、転売とはそれだけではない。需要が高まるであろう商品を買い占め、必要とする者へ定価以上の高額転売を行うという違法行為も存在するのだ。

 例えば、行く気がないチケットを購入して定価以上で転売をする。そもそもチケットを定価以上で転売する事自体が違法行為となる。本当に行きたい人の心と財布を踏み躙る卑劣な行為とも言えなくはない。

 例えば、ブランド品の偽物を本物と偽って転売する行為。

 こういった不当に利益を得るための違法な転売は、どんなに取締りを厳しくしたとしても無くならない。要はイタチの追いかけっこなのである。


 そして、この魔法街にも同じく転売屋は多数存在している。

 その転売屋の1人が今、隠れ家にて喉からか細い息を漏らしていた。


「アガ……ゔ……。」


 転売屋の体は右手一本に持ち上げられ、指が首に減り込んでいる。指先は容赦なく気道を圧迫し、息をする事さえ困難な状況に陥っていた。

 必死に抵抗して自身の首を絞める手を外そうとするが、効果は皆無。指一本外す事さえ叶わない。まるで鋼鉄の指が如く、ピクリとも動かない。

 酸素が欠乏し、視界が周囲から黒く染まっていく。狭まっていく景色が明滅し、最早目に映るのが何なのかも分からなくなっていた。


(俺は…このまま殺されるのか。こんな所で…。)


 抵抗が無駄だと悟った転売屋は死を悟る。諦めて手をダランと投げ出す。体が意思とは無関係にピクピクと痙攣を始めるが、どうする事も出来ない。

 死を待つだけの状態。

 生と死の狭間に立つ転売屋は、思考だけが加速していた。死の間際に訪れる…引き延ばされた時間の中で、疑問が脳内を駆け巡る。


(何を間違ったんだ。俺は…ただ儲けようとしていただけなのに。)


 訳が分からなかった。目の前の自分を殺そうとしている人物は、いきなり現れたかと思うと「調子に乗って広め過ぎだ。」と言って首を絞めてきたのだ。

 命を狙われる程までに恨まれる行為をした記憶が無かった。確かに転売という方法で高額な利益を搾取していた。しかし、それは買う側が納得して支払う事で成り立つもの。

 決して強要をした事はない。

 そんな危ない橋を渡るつもりはさらさら無いのだ。安全に、確実に、法が許すギリギリの範囲内で儲ける。それが転売屋としての心得だった。

 だからこそ、恨まれないように気を付けて立ち回ってきた。だからこそ、今の状況が理解出来ないのだ。

 それとも、最近取り扱った商品に目の前の人物の怒りの琴線に触れる商品があったのだろうか。

 そんな違法な商品を扱った覚えが無かった。

 身に覚えのない死の到来。だからこそ、理不尽さを感じる事も出来ずに…戸惑いの中で死が訪れるのを受け入れるしか出来なかった。

 このまま死を迎えていれば…後の転売屋はそう感じただろう。

 だが、首から指は…離れた。

 締め付けられていた気道が広がり、全身が酸素を求めて呼吸を開始する。口腔内から気道、そして肺へと新鮮な空気が通り抜け…転売屋は「生きている」事の素晴らしさを体感してしまう。


「さて、僕の話を聞いてもらおうか。」

「は…はぁっ…はぁっ……お、お前は誰だ…よっ!」

「僕の事はどうでも良いんだ。問題は君が転売した魔力補充石だよ。」

「…な、何が問題なんだ…!俺は、最近新しく出た魔力補充石を少しばかし買い占めて、市場を品薄にして…少し高く売っただけだろ!」

「そう。それが問題なんだ。」

「ど、どこが問題なんだよ。確かにグレーゾーンなやり方だけど、違法と言い切れるものでは無いはずだ!そんな事で俺が責められるなら…死ぬべき転売屋なんてそこらにゴロゴロいるだろうが!」


 己の正当性を叫ぶ転売屋は、目の前に立つ者の眼を見てハッと息を飲む。

 全てを見透かしているかのような、ある意味で透き通った瞳は…怒りに任せて叫ぶ転売屋を前にしても、一切感情で揺れる事が無かった。

 我慢しているのか?いや、違う。感情に揺れる必要が無いのだ。目の前に立つ者にとって…恐らく転売屋は虫けらに過ぎないのだから。

 それを知覚した途端、転売屋の心に「恐怖」が忍び寄った。

 怒りで忘れそうになっていたが、つい先程…転売屋は目の前に立つ者に命を奪われそうになっていたのだ。


(くそっ。くそっ…!なんでこうもツイてねぇんだ。)


 無意識に手が自身の金髪へ伸び、ガシガシと頭を掻く。

 耳のピアスを弄り、恐怖から必死に意識を逸らそうとする。


「ふふ…。僕は君を殺しに来たわけじゃない。」

「じゃ、じゃあ何で俺の首を…」

「アレはお灸を添えたんだよ。君が勝手に高額で売り捌いたお陰で、注目されてしまった。これは僕の計画には無いんだよ。だから、首を絞めた。僕の邪魔をしたらどうなるのかを知ってもらいたくてね。」


 デタラメだった。つまり、気に食わなかったから…この場にやってきたという事。

 転売屋には理解が出来ない。理解したくも無かった。

 だが、言えない。自身の命を守る為に。保身こそが最良の選択だと、直感が叫んでいた。


「分かった。もう魔力補充石には手を出さない!と、とにかくこれで許してくれ!」

「誰が許すって言った?」

「…え?」


 魔力補充石を今後取り扱わない。それで目の前の脅威が去る。…その解釈は、都合が良すぎたのか。


「言った筈。注目されてしまったと。通常の魔力補充石よりも安価で、魔力の補充効率が良いから、一部の人達がこっそり使う。そんなのが僕の計画だったんだ。つまり…一部の一般人だけが知っていれば良かったんだ。それなのに、君が市場価値を引き上げて価格を釣り上げた事で、余計な奴らが目を付けた。最早、皆が求める商品になってしまった。品薄で高額で、皆が在庫の入荷を心待ちにしている現状…君はこの計画のズレをどうやって責任取るのかな?」

「そ、そんな事…注目されればたくさん売れる。儲かる!それの何がいけないんだよ…!?」

「僕が、何故、君に、そこ迄、事細かに…説明しなければならない?モルモットの同類の癖して、生意気だな。」


 転売屋の前に立つ者は、殺気を込めて睨み付けた後…薄く微笑む。

 殺気を受けた転売屋は天と地がひっくり返るような錯覚を覚える。全身の細胞が恐怖に震えていた。


「だが、僕は寛大だ。1つの条件を守れば許してあげるよ。」

「……じ、条件?」


 突如差し出された生への道筋。それに転売屋は縋らざるを得ない。他に打ち上げられた魚が酸素を求めて口をパクパクさせるが如く、転売屋は眼を見開く。


「そう。君は受け入れざるを得ない。」


 その条件を聞いた転売屋は驚きに眼を見開いた。


「そ、そんな…。それじゃあ俺はどうなるんだよ…!」

「さぁ?それこそ僕には関係の無い話だ。精々足掻くが良いよ。」


 そう言い放つと、その者は転売屋の前から姿を消してしまった。


「くそ…。くそ…!!クソクソクソ!!!クソガァぁぁぁ!!」


 怒りに身を任せ、壁に拳を叩きつけながら叫ぶ転売屋は虚空を見つめる。

 これから始まる…地獄の日々に想いを巡らせながら。


 この1ヶ月後、龍人と遼、クレアの3人がクエスト『不法転売屋の逮捕』を受注する事となる。

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