4-11.新装備
『アナタの心にピットイン』を訪れてから1週間後。
俺と遼、クレアの3人は再び同店を訪れていた。目的は完成した装備品の受取りだ。
「まぁずはクレアさぁんから説明するわん。中に入りなさい。」
工房前の部屋で待っていると、最初に呼ばれたのはクレアだった。
クレアは工房に入って数分すると、何事もなかったかのように戻ってきた。何も変わってないんだが…いや、胸元にピンクのリボンが付いてるな。
「どうだった?もしかしてそのリボンがドレッサーさんが作ってくれた装備?」
「うん。詳しい事は言えないんだけど、治癒魔法を使ってみたら凄いしっくりきたんだっ。これで私も頑張って強くなれるかも。」
ニコニコ顔のクレア。
前に色々な魔具を試したけど、どれもしっくりこなかったって言ってたっけ。
やっぱり苦労すればした分だけ、その苦労が報われた時は嬉しいよな。
次に呼ばれたのは遼だ。
今回は装備品の受け渡しだけだから、前回みたいな事は無いだろうし安心だわ。クレアも何もされなかったみたいだしな。
「えっ!????そんなっ!!また!???う、う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」
……嘘だろおい。装備品を受け取るだけなのに、そんなにアレやコレをする必要あるのか?
はっ…!?もしや、作った装備品のフィット具合を調べるとか、そんな理由でまた…!?
5分後、やけにカッコ良い服装になった遼が工房から帰還する。多分かなり良い装備を作ってもらったっぽいけど…本人の表情が全く優れないのが、可哀想すぎる。
麻の服を着ていた遼は、暗藍黒色を基調とした服に変わっていた。服の下側が3つに分かれててオシャレだな。服の先には白い紋様が描かれているし。白いパンツに暗藍黒色のブーツっていうコントラストもセンスが良すぎる。ブーツの赤い紐もポイントなんだろうな。
田舎っぺ小僧が一瞬でシティボーイに変身したから…なんか違和感抜群だけど、でも…これで遼も強くなるんだろうな。装備変わって強くならないとか恥ずかしすぎるし。
あ、しかも武器も作ってもらってんじゃん。黒の銃と青の銃か。魔具…なんだろうな。でも、属性魔法が使えない遼に属性付きの魔具ってのは、ちっと違和感があるよな。基本的に潜在属性は調べられないって授業で言ってたし。
そうなると、ドレッサーさんは遼が使えるようになる属性魔法を予想したのか?気になる…。
「次はぁ龍人くぅんよ〜。さっさと入ってらっしゃぁい。アナタぁは確認する事が沢山あるんだぁからねん。」
はぅっ!?今、遠回しな死刑宣告を聞いたような気がする。
俺がカクカクと首を回して遼とクレアを見ると、2人からは諦めと憐れみの目線を向けられた。
…はい。そうですよね。この状況で逃げるっていう選択肢はないもんな。
行くか…!
俺は勇気を出して踏み出す。この先に待っているであろう多大なる困難を乗り越えて、更なる力を手に入れるために!…なんてカッコ良い事をいってみる。
「失礼します。」
工房に入ると、椅子に座ったドレッサーさんがヒラヒラと手を振っていた。
「待ってたわぁよん。アナタには服と、刀を用意したわぁん。」
「え?刀もですか?」
「そうよぉん。ワタシの予想だと、龍人くぅんの力はいずれ強大なものになるわぁん。最悪の場合、制御が出来なくなる可能性もあるわぁね。その時にアナタぁの力を使わずに戦えるように、属性の影響を受けにくい武器を作ったぁわ。理想は、あなたの力と普通の力を2つの刀で分けて使用することねぇん。」
「はい…?」
えっと、つまり、この人は俺の職業『龍人』を知ってるんだろうな。この前は俺の属性を知ってるみたいな事も言ってたし。属性【鑑定】だっけ?もはやチートレベルじゃん。
刀を受け取って持ってみるけど、特に凄い何かってのは感じないな…。
「あとはぁ、この装備ねぇん。ちょっと着てみなさぁい。」
そういって差し出されたのは、和風?な洋服だった。
「おぉ。」
カッコ良いなと思って眺めると、ドレッサーさんがペロリと舌舐めずりをする。
「早く着替えなぁいと、ワタシがやるわぁよん?」
ひぃぃぃ!?
「はい!すぐに!」
光速で着替える。これ以上、俺は大切なものを失いたくない!!
しかし…。
おい、どうやって着るんだ!?ここがこうで…あれ?でもこれだとフィット感が悪いな…ん?
…このもたつきが致命的だった。
「あらぁ。着方が分からなぁいのかしらん?それじゃぁ…ワタシが手伝ってあげるわぁん!!!」
「ぬはっ!!????」
ドレッサーさんの手が俺の体に伸び…以下、割愛。
1分後。俺はドレッサーさんの手によって着替えが完了していた。俺、もうお嫁にいけないんじゃね?
「見なさい。」
そういってドレッサーさんが姿見を俺の前に置いてくれる。
「おぉ…!」
「ふふっ。似合うじゃぁないの。言ってみれば忍風イケメンね。」
何を言ってるんだこの人は…とも思うが、確かに服装は忍びっぽい。
服は全体的に白を基調としていて、インナーが黒。外側が白、裏地が赤のマントも付いてるし。んで、パンツは黒なんだけど、白の布が交差するように巻かれている。
なんつーか、忍だな。うん。見れば見るほど忍にしか見えなくなってきた。
もう忍びでいっか。
「ありがとうございます。」
「良いのよぉ。装備品が壊れたりした時はいつでも持っていらっしゃぁい。魔法学院に在籍している限り、無料で直してあげるわぁん。あと、アナタの装備についてだぁけど、刀の名前は夢幻。服の名前は龍忍装束よ。夢幻はアナタが使う魔法に呼応して、その力を引き出すわぁん。龍忍装束は龍魔力のコントロールを強化するわねん。まぁ、聞いただけじゃぁいまいちピンとこないと思うけどぉ、力を発揮して使った時には分かると思うわぁん。」
一通りの説明をすると、ドレッサーさんはバチンと強烈なウインクを炸裂させる。
龍魔力…俺の職業が龍人だから違和感は無いか。普通の魔力と何が違うのかって聞かれたらサッパリだけど。
「わかりました。後で色々試してみます。」
「ふふっ。頑張ってぇねぇん。もし良かったらぁ、ワタシが夜通しでマンツーマンレッスンをするわぁよん?」
「え、遠慮しておきます!!!ありがとうございました!!」
夜通しなんて…メンタルが保たないんだからね!!!
俺は全力で工房から逃げ出したのだった。
「ふぅ。これで一先ずのワタシの仕事はぁ終わりねん。後は、あの子達がぁ自身の力と向き合えるか次第…といった所かしらぁねん。楽しみねぇん。」
ドレッサーさんが逃げる俺の背中を見つめながら、憂いた溜息を漏らした事には気付かなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ドレッサーさんから装備品を受取り、『アナタの心にピットイン』を後にした俺達は魔法協会ギルドに来ていた。
折角だから新しい装備をギルドクエストで試してみようっていう魂胆だ。
遼もクレアもギルドへの登録は終わっているらしく、既に何個かのクエストも達成しているらしい。っていうか、遼は属性魔法の練習してたんじゃなかったっけ?いつの間に…!
「どのクエストにしよっかね。」
「ん〜折角だし、ランクアップクエスト受けたくない?」
お、遼がやる気だな。
「私もそれが良いと思うな。3人で受けるんだったら、ちょっと安心だし。」
クレアもか…。じゃぁそれで良いかな。俺もEランククエストを18個クリアしてるから、そろそろランクアップクエストは紹介してもらえそうだし。
えぇっと…ランクアップクエストはどれだ?
「龍人君、ランクアップクエストは受付のみで紹介してるんだよ。」
ギルドの掲示板を眺めて首を捻っている俺にクレアが優しく声をかけてくれる。
「そんなの事も知らないの?」的なアプローチじゃない優しさ…素敵です!
クレアに続いてギルドの受付に行くと、受付のお姉さんが出迎えてくれた。今日の受付のお姉さんはクールな秘書みたいな人だな。メガネをクイっと持ち上げる動作が凄く似合いそう。
「あの、ランクアップクエストを受けたいんですけど…。」
ちょっと不安そうに言うクレアを見て、受付のお姉さんはクイっとメガネを持ち上げた。出た!期待通りの動作ありがとうございます!
「はい。わかりました。そうしましたら、皆さんのギルドカードを確認させて頂けますか?」
俺達3人は言われた通りにギルドカードを差し出す。
「確認しますね。クエストの達成数は…。はい。ありがとうございます。皆様の実績状況であればランクアップクエストの紹介が可能です。」
そう言って受付の下から取り出した冊子をパラパラと捲るお姉さん。
「えっと…申し訳ないのですが…」
「えっ!?受けられるクエストが無いんですか!?」
受付のお姉さんの言葉に被せるようにして遼が失望の声をあげる。
おいおい。最後まで話を聞けって。受付のお姉さんが驚いてるじゃんか。
「い、いえ。紹介出来るクエストはありますが…やや難度の高いクエストになってしまいます。先日、ランクアップクエスト対象になるクエストを別のギルドメンバーが軒並み達成してしまいまして。」
難度の高いという言葉に俺達は顔を見合わせる。
どうすっかな。無理に危険を冒す必要は無いとは思うけど…。ちょっと聞いてみるか。
「あの、ランクアップクエストってどのランク相当のクエストになるんですか?」
「皆様はEランクですので、Dランク相当になります。ただ、各ランクの中でもクエストの難度には差がありまして、今回紹介出来るのはDランクの中でもやや難しい部類に入るかと。」
「そうですか。因みにどんな内容のクエストですか?」
「ちょっと待ってくださいね。」
受付のお姉さんは冊子から1枚の紙を抜き出すと、俺達に見せる。
なになに。
『不法転売屋の逮捕』
・魔法街内で不法な金額での転売が繰り返されている。主犯が中央区に潜んでいるとの情報あり。詳細はクエスト受注時に伝達。尚、過去3回のクエスト失敗有。負傷者多数。要注意案件。
…うん。不穏な気配しか感じないんだが。
「どうする?ちょっと危ない気がするけど…。」
「ん〜…。」
遼も腕を組んで考え込んでしまう。そりゃそうだよな。過去に失敗してて、負傷者有りってのが危ない匂いがプンプンするよ。
「こちらのクエストですが、このまま失敗が続けば受注ランクの繰り上げもあるクエストです。無理する必要は無いと思いますよ。1週間もすれば、新しいランクアップクエストが出てくると思いますので、そちらを待って頂いた方が…。」
「私…受けたいな。」
「クレア。いいのか?危ないかもしれないんだぞ?」
「うん。でもね、私…私は強くなりたいんだ。だって、強くないと何も守れないんだよ。だからね、私は挑戦したいの。」
…芯がある眼差しだ。クレアがどうして強くなりたいって思っているのかは分からない。けど、彼女のその想いは…なんとなく理解出来た気がする。
強くなるためには、強くなれる環境に身を置かなきゃいけない。それがギルドのEランクとDランクだったらどちらが適しているか…なんていうのは明白だ。
「そうだよな…俺、少し弱気になってたかもしんない。ありがとうクレア。俺もやるよ。」
クレアの想いを受け止めよう。俺の目的は天地を止めるために強くなることだ。1つ上のランククエストに尻込みしているようじゃ、話にならない。
「うわっ…。2人で意気投合しないでよ。これで俺だけクエスト受けないって言ったら完全にビビりじゃん。」
「いや、遼がビビりなのは知ってるから無理しなくてイイぞ?」
「なにそれ…!?そんな事言うと、龍人の恥ずかしストーリーをクレアに…」
「あ!それは反則だろ!プライバシーの侵害だかんな!」
「だったら俺も…!!」
やんややんやと騒ぐ俺と遼を見てクレアはクスクスと笑う。
その可愛らしい様子に思わず動きを止めると…。
「龍人君と遼君って仲が良いんだね。」
と、ほっぺたが赤くなりそうな感想を言われてしまった。
「いやいや。コイツが俺に頼りきりで…」
「それは龍人でしょ?ちょっと前だってお金がなくて…」
「あの…。」
盛り上がる俺達に戸惑いを隠せない受付のお姉さんを放置しながら、俺と遼は楽しく言い合いを続けたのだった。
最終的に…痺れを切らした受付のお姉さんにコッテリと怒られ、シュンとしながらランクアップクエストの受注を受けた俺達なのであった。
◆ギルドカード
・氏名:高嶺龍人
・ランク:Eランク
・クエスト達成数:E-18
・ランクアップ条件:ランクアップクエスト0/1達成
・貯金額:125,000円
・現在のクエスト
『不法転売屋の逮捕』Dランク 報酬8万円
→不法転売屋0/?




