4-8.金髪お嬢様
目の前に立つ金髪の女性は怒りの形相で俺を睨み付けていた。縦ロールの金髪を揺らし、紫と青が綺麗に編み込まれたドレスのような服を着こなし、胸元は白い布で寄せるという巨乳アピールなその女性は、俺に対して大変ご立腹だ。
悩ましいのは、美女であるという事か。怒った美女は美しい。…怖いけど。
「あなた…私に言う事があると思いますわ!」
いやいや、そう言うけど…俺、膝蹴りをくらって意識飛んでんだけど…。しかも、意識を失った俺の顔をペチペチ叩きまくって無理やり起こして、無理やり座らせたのは誰ですか!?
…まぁ、俺の負傷に気付いて数本のポーションを飲ませてくれたお陰で、何本か折れてたであろう肋骨が治ったのも事実なんだけどね。
…とりあえず、謝罪と感謝の意を伝えるか。
「ポーションで傷を治してくれてありがと。あと、セクハラしてごめんなさい。」
ボンっ。という感じに顔を赤くした金髪の女性は、俺の脳天に拳骨を叩き込む。
ぐっ…!まさかここで追撃を叩き込まれるとは…!?
「そっ…その話はもう良いのですわ!いえ、良くないけど…。それよりも、私に命を助けられたも同然というのは理解してるのかしら?」
「そりゃもう。歩けるかどうかギリギリのラインだったので。感謝しても仕切れないよ。」
「それなら…。」
そこで言葉を区切ると、俺の全身を舐め回すように観察する。
そして、ニヤリと笑みを浮かべる。うわー嫌な予感しかしないんだけどー。
「うん。良いですわ。私の従者として今後、共に行動しなさい。」
「え、お断りします。」
「なっ……!?」
「ん?」
何故か俺に断られた事に対して「信じられない」ばりに目を見開いてるんですけど。
え?俺の返答って普通だよな?
「この私が誰だか知っていてそんな事を言うのですか!?信じられませんわ。」
「誰だかって…名前も聞いてないのに知ってるわけないよね?」
「そんな…こんな事が。私の常識が間違って…いや、この男が非常識という線も。……いえ、それよりも名前を聞けば私の凄さを理解して土下座するかもしれませんわね。ふふふ…そうなれば良いのですわ。そうして差し上げるしかないのですわ。」
おいおい。何か物騒な事を言ってんだけど。
「耳をかっぽじって聞きなさい!私の名は…。何者!?」
金髪の女性が展開した魔法壁に木々の間から飛来した水砲と火球が激突する。
この攻撃って…。
「グルルルルル…。」
低い唸り声と共に木の陰からエレメンタルウルフが次々と出てくる。
「やべぇな。こいつら、案外連携してくるから気をつけろ。」
「甘いですわ。そんな事百も承知ですのよ。」
警戒する俺を横目に超余裕顔。
1人より2人で戦った方が、敵の攻撃も分散するし、こっちの手数も単純計算2倍になるけど…油断は禁物だと思うんだが。
「私が屈辱を受けた時に現れたのが運の尽きですわね。」
いやいや。余裕ぶっこいてる間にすげぇ数のエレメンタルウルフが出てきてんですけど。一難去ってまた一難とはまさしくこの事。
「一撃の元に吹き飛びなさい。」
女性は凛とした声を発し、白い弓を手に出現させる。
矢の無い弓を構えると、手元に光が収縮し、光の矢が出現した。
「閃突【彗星】!」
その攻撃はスキル名の通り…彗星の如き光の矢が弓から放たれた。一直線に光の尾を引きながら複数体のエレメンタルウルフを貫き、着弾と同時に光が弾け、周囲のエレメンタルウルフにダメージを与える。
「キャウン…!」
圧倒的な一撃にエレメンタルの大半が倒れ、残った個体は尻尾を巻いて逃走を開始する。すげー強いんですけどこの人。
「逃しませんわ!貴方も手伝いなさい!」
「え?…あ、はい。」
負傷から回復したばかりの俺をこき使うとは!容赦なく膝蹴りを叩き込むだけの事はあるね。
つっても、ここで逃げた後に増援を呼ばれるよりは、多少無理をしてでも追撃かけた方が良いのも間違いない…か。
「私は奥のエレメンタルウルフを集中的に狙いますわ。手前からやる事!」
「…的確だな。わかった。膝蹴りのダメージが抜け切ってないけど、任せとけ。」
「…!?それは貴方が変な所を触る……って同じ話をぶり返すんじゃありませんの!!」
「ははっ。よし。やるか。」
ほんのりと頬を染めた金髪の女性は釈然としない顔でぶつぶつ言いながらも矢を放ち、行動を開始する。
俺もちゃんとやらないとな。助けてもらったのは事実だし。
龍刀を片手に、近くのエレメンタルウルフへ駆け出す。
金髪の女性が使う属性に合わせて、光刃を中心とした魔法構成での組み立てでの追撃だ。
西区の森地帯に光魔法が乱れ飛んだのは言うまでもない。
それから10分後。
全ての魔獣を討伐した俺は再び金髪女性に謝っていた。
確りと正座をして怒られる体勢も完璧だぜ。
「ほんとうにごめんなさい。」
「心の籠らない台詞ですわね!」
「…だってさ、俺、悪いことしてないよね?」
「してますわ!淑女を…う、後ろから抱きしめるなんて…しかも本人の同意なく!!許し難い行為に違いありませんわ。」
彼女が言う事は…残念ながら事実だ。勿論故意にやった訳じゃない。…確かに後ろから抱きしめたよ。でもさ、最後の1体を倒してバックステップを踏んだ先に同じくバックステップをした彼女が俺の足に引っ掛かり、転倒しかけたんだよね。
それを見て咄嗟に手を伸ばして彼女を受け止めようとしたら俺もバランスを崩してっていう…。これって不可抗力だよね?
けど、何故か「幾ら私が魅力的だからといって…いきなり抱き締めるのは許せませんわ!せめて先に一言…って違いますわ!そもそも抱きしめる事自体が問題ですわ!そこに正座しなさい!!」…って言われたんだよね。
それで素直に正座する俺って、偉くない?
「ともかくですわ!私に対する不埒な行為…従者として償いなさい!」
おーう。まさかの従者トーク復活。そんなら返答は決まってる。
「お断りします。」
「何故ですの!?」
「だから…どこの誰かも知らない人に従者になれって言われて、はい従者になりますっておかしいだろ?」
「……!?……そうでしたわ。貴方は私の事を知らないトンチンカンでしたの。」
うわー。トンチンカンとか…久々に聞いたよ。
「改めて名乗りましょう。私の名は…」
ガサガサ
…なんだ、今の音。
「何者!?またエレメンタルウルフですの!?」
「こっちから声が聞こえたぞ!!お嬢様ーー!!勝手に単独行動するのはダメだと何度も言ったはずですぞー!!!」
「…ぬぬ。もう少し自由に行動したかったのに…。貴方!!次会った時、私の従者になる覚悟を決めるのですわ!私の名を忘れないように!」
そう言うと…金髪の女性は走り去っていった。
いやいや、結局名前聞いてないから忘れるも何も無くない?
でも、彼女を探してる風の声は「お嬢様」って言ってたし、良い家柄なのかな?まー話し方も良いトコ育ちな感じはあったし。
そのお嬢様を探してる風の声も、姿を表す前に遠ざかって行ったから…真実は闇の中。ってな。
…いきなり静かになったな。
何となしにギルドカードを確認すると表示内容が変わっていた。
・氏名:高嶺龍人
・ランク:Eランク
・クエスト達成数:E-1
・ランクアップ条件:ランクアップクエスト0/1未達成
・貯金額:0円
・現在のクエスト
『エレメンタルウルフ討伐』Eランク 報酬2万
→エレメンタルウルフ30/30体
おっ。クエスト項目達成してるじゃん!結果的にお嬢様に助けてもらわなかったらヤバかったよな。今度会ったらお礼は言わないと。
そして何より…報酬2万!!!
1日千円の出費をしても20日間は食い扶持に困らないぞ。
当たり前に食べ物を食べれるって考えるだけでこんなに幸せな気持ちになるなんて…。
日常の大切さって、本当に身に染みるね。うんうん。
よし。帰ろう。
そしてお金をもらおう。
そんで…今日は腹一杯食うぞ!!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
龍人はクエスト報酬に胸を躍らせて南区管理小屋に向かう。スキップ気味に見えるのは間違いではない。
禁区という危険地帯を進むには緊張感のない姿。
それを遠くから観察していたものは、小さなため息をついてしまう。
「…遂に里因子所有者がこの禁区に現れたか。かの者が有するのはどの因子であろうか。」
そのものは金の瞳を細めると空を仰ぐ。
「期限が刻一刻と迫っているのかも知れぬ。しかし、すべき事は変わらぬ…か。かの力は強大にして制御不能。術を見つけずして進む事は断じて阻止せねばなるまい。」
自らに課せられた使命。
それはそのものにとって、存在理由。だが、それは時として枷である。
そのものは鋭い歯が並ぶ口から溜息を漏らさずを得ない。
力はある。だが、その力は発揮する場も、理由も無い。世界という視点で理由があったとしても、世界の為に使う事を許されない。
故に、そのものは待つ事を選ぶ。選ばざるを得ない。
「全ては運命の流れ次第…か。私の出番が来る迄は静かに見守る………のみ。」
迷い。苦渋。決して割り切れない感情が、僅かな間から滲み出ていた。
しかし、これは変わらない、変えられない運命。
そのものはいるべき場所へ向かう為、身を翻す。
冷たい風が鬣を揺らした。銀の毛並みが足取りに合わせて揺れる。
そのものの名は…魔獣フェンリル。
Sランクに分類される、災害レベルと認定される力を持ち、討伐には100人以上の討伐隊を組む必要があると言われる…恐るべき魔獣だ。
フェンリルは表舞台に立つ日を待ち、静かにいるべき場所へと歩みを進めるのだった。
主要キャラ登場しましたね。
名前は後程までお楽しみ。でお願いします。
ブクマ、評価等お願いします!




