4-6.魔法街ギルド
2026年4月に魔法学院に入学してから1ヶ月が経った。
その間、街立魔法学院での学びは順調だ。
魔法学の授業は知らない事が多いから毎回勉強になるし、実技では魔法の基礎力を中心に授業が進んでいる。魔獣講座も結構楽しいんだよな。他には魔力のコントロール方法やら、質の高い魔力を練り上げる方法だったりとかかな。
あとは…そうそう。実践形式の授業もあるんだよね。これは単純にクラスメイトとの対人戦だ。んで、この中で俺の弱点というか課題みたいなのも明確になってきた。
まぁこの辺りの話は追々するとして…何よりも深刻な問題が、金欠だ。恥ずかしいけど…こればっかりはどうにもならはい。
とにかく金が無い。4月の中旬から極貧生活だよ。マジで。ホントやばい。
という訳で…やや軽率な気もするけど、満を持して俺はギルドで稼ぐ事にした。森林街でゴブリンを倒した事もあるし、Eランククエストなら出来るだろうっていう算段なんだぜ。
本当はもう少し早く始めたかったんだけど、魔法学院の生活とか、授業の予習復習とか…上手く時間が取れなかったんだよね。
因みに…俺の極貧生活を不憫に思ったのか、遼とか火乃花がご飯を奢ってくれるって言い出したんだよね。流石にそれはさ…。てか、遼が全然俺より貯金があるのが本当に悔しい。
こんな背景から、俺は南区最北端にある魔法街ギルドを訪れていた。石造の四角い建物は地球で言う市役所みたいな感じだ。
俺の隣には遼。……が居ない。
着いてきてくれると思ってたのに、「ちょっと属性魔法使えるようになりたいからゴメン。」と断られてしまった。
まぁ…遼としても属性魔法をクラスで1人だけ使えないってのは死活問題なんだろうね。
心細いけど、勇気を振り絞って俺は受付のお姉さんに声を掛けた。
「こんにちは。」
「はい。こんにちは。」
「クエストを受けたいんですけど、魔法街ギルドでクエスト受けるの初めてで色々教えて欲しいんですが…。」
「勿論大丈夫ですよ。」
ニッコリ微笑むお姉さん。
やっぱり受付嬢ってのは可愛いんだね。手を握ってデートに誘いたいわ。
そんな邪な事を考えてたら受付のお姉さんに睨まれた。調子に乗りましたすいません。
「それではギルドカードを見せてもらえますか?」
「はい。」
俺は魔法陣に手を突っ込んで、収納空間の中からギルドカードを取り出して受付のお姉さんに渡す。
ギルドカードは金枠の白いカードでシンプルなデザインだけど、ちょっとだけ高級感があるから…持ってると少しだけ誇らしい気持ちになれるのが良いよな。…なんて思ってるのは俺だけかな?
「情報を確認しますね。」
受付のお姉さんは俺のギルドカードを確認する。
因みに、ギルドカードに表示されているのは以下の内容だ。
・氏名:高嶺龍人
・ランク:Eランク
・クエスト達成数:E-1
・ランクアップ条件:ランクアップクエスト0/1達成
・貯金額:0円
まぁまぁ分かりやすい内容だよな。クエスト達成数は過去に達成したクエストの回数で、ランクアップ条件はランクアップに必要な条件をどの程度達成したのかって内容だ。
悲劇なのは貯金額0円ってトコだね。受付のお姉さんに見られるのが恥ずかしいっす。
カネヲクレー。
「はい。ありがとうございます。失礼ですが、クエスト達成状況を見るに…龍人さんはギルド初心者ですか?」
「そう…ですね。」
「分かりました。念のため確認しますが、ギルドシステムはもう理解されてますか?」
「はい。前に聞いたので大丈夫だと思います。」
「そうですか…もし、分からない事とか疑問があったらすぐに聞いて下さいね。それではあちらの掲示板にクエストが掲示されてますので、受注したいものを選んだら受付でお伝え下さい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
…なんかバカ丁寧だな。
いや、これだけ大きい星のギルドだから、そういう教育が行き届いてるって事なのかな。色々な人がギルドに訪れそうだし、接客のレベルが低かったら揉め事が多発しそうだし。
そんな事を考えながらも、受付のお姉さんが教えてくれた掲示板の前に行き、クエストを確認する。
んー、絶妙だな。俺はEランクだから受けられるのは1つ上のDランクまでだろ。
Eランクのクエストは…「お買い物」「屋根の修理」「素材調達」といったお使い系のクエストから、「ゴブリン討伐」「エレメンタルウルフ討伐」って感じのクエストになるのか。
そういえば、1つ上のランククエストは受けられるけど、同じランクのクエストを受けるのが基本だって授業で言ってたあな。
…んー。どうすっかな。
これでいっか。
「すいません。エレメンタルウルフ討伐クエストを受注したいんですけど、大丈夫ですか?」
「エレメンタルウルフですね…はい、大丈夫です。属性は関係無く30体討伐で報酬が2万円、場所は西区ですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。…あ、初歩的な事なんですけど、討伐数って確認方法あるんですか?」
「それならギルドカードで確認出来ますよ。討伐系は自動でギルドカードにカウントされます。お使い系のクエストは依頼主に対象物を渡すと自動カウントされます。」
「へぇぇ。ギルドカードって凄いんですね。どーゆー仕組みなんですか?」
「それは…企業秘密ですね。結構複雑な仕組みらしいですよ。良く聞かれるんですけど私も詳細は分かりません。便利な高機能カード…と割り切って頂けると。」
「そっか。分かりました。」
「頑張って下さいね。」
はぅぅっ!?受付のお姉さんの笑顔…ヤベェぜ!
ホワホワした気持ちになりながら、俺は受付嬢の案内に促され、受付隣の部屋にある転送魔法陣で西区へと転送されていったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
転送魔法陣の光が消えると、木造の部屋だった。
確か授業で習った内容は…。
①各区魔法陣は管理小屋に繋がっていて、管理小屋(木造…転送室、ロビー、寝室、食堂)にはギルドから派遣された管理人が在中。
②小屋の周りには壁と門、魔獣の侵入を防ぐ結界が張られている。門番にギルドカードを見せると結界を開けてくれる。
…って感じだったかな?あまり詳しい事は教えてもらってないからな。
寝室もあるって事は、1日じゃ終わらないクエストをここで寝泊まりしながらやるって事だよな。そこまでのクエストは…もう少し慣れてからにしよう。どのランククエストからそうなるのかは分からないけど…。
食堂は金が無いから使えないし…取り敢えずロビーに行ってみるか。
俺は転送されてきた転送室のドアを開ける。と、そこはすぐにロビーだった。どうやらロビーを中心に各部屋が繋がってるみたいだな。
ロビーには20人くらいの人が居た。…なんつーか、皆カッコいいな。装備が整ってるってやつだ。
ほけーっと眺めていると、1人の女性が俺に話しかけてきた。胸の谷間を強調したカウボーイスタイルの金髪美人だ。
「あら、君、ギルドクエストで来たの?」
「あ…はい。」
「ふふっ。その見た目だと初心者ね。西区…皆が禁区って呼んでるこの場所は、ちょっとした気の緩みで命を落とすわよ。無謀な行動は慎む事。分かったかしら?」
「はい。大丈夫です。」
「よしよし。いい子だね。じゃ、頑張って。……あ、お金が貯まったら装備を整えなさいよ。そんな麻の服じゃあ攻撃受けたら即致命傷よ。」
「……やっぱそうですよね。ありがとうございます。」
「ふふっ。ファイトー。」
そう言うとお姉さんは仲間らしき人達のところに戻って会話に混ざる。
……てか、やっぱりそうだよね。うすうす気付いてたんよ。俺…とか遼の服装が結構レベルが低いって言うか…ダサいのには。一応森林街でメジャーな麻の服なんだぞ?
ただ、魔法街と森林街では文化レベルが違うのか、魔法学院の皆は、もっとまともな服装してるんだよな。
よし。決めた。衣食住を安定させよう。
住居は学院生寮があるから、次は食事だ。クエストをこなして金を貯めて、毎回満腹まで食べれる様にしたら、装備を整えるぞ。
そうなると、今から良い装備を手に入れられる場所も探しとかないとな。
目標が出来たら俄然やる気が出てきた!よし、行くか。
ロビーから外に出ると、小屋の周りを壁が囲んでいた。成る程ね。魔獣がいるから、侵入を防いでいるのかな。
で、外に出るには…あぁアレか。ちょうど小屋の入口正面方向に門があるわ。
門に近づくと、門番のおじちゃんが声をかけてきた。
「よぅ。クエストか?初めて見る顔だな。」
「はい。今回初クエストですね。」
「ほぅ…初めてで単独か。中々に度胸があるな。」
「まぁEランクのクエストなんで。」
「Eランククエストだからといって侮るなかれ。だぞ?ほら、ギルドカードを見せてみ。」
「はい。」
門番のおじちゃんにギルドカードを見せる。
…お、カードの表示が増えてるな。
・氏名:高嶺龍人
・ランク:Eランク
・クエスト達成数:E-1
・ランクアップ条件:ランクアップクエスト0/1達成
・貯金額:0円
・現在のクエスト
『エレメンタルウルフ討伐』Eランク 報酬2万
→エレメンタルウルフ0/30体
おぉーー。クエストの進捗状況が分かるのか。すげー便利。
…あれ?森林街の時、ゴブリンの耳を切り落としてクエスト達成の証明にした気がするんだけど…。
もしかして、不要だったのか?確かに俺がゴブリンの耳を魔法陣から取り出した時にギルドの受付の人が「え?」って顔はしてたけど…。あれはゴブリンを倒した事に驚いたんじゃなくて、耳を持ってきた事に対してドン引きしてたのか。無知って…怖いね。
「うん。オッケーだな。つーか…貯金額位は非表示にしとけな?」
…今なんて言った?非表示?
俺の疑問符が浮かびまくっている顔を見て察したのか、門番のおじちゃんは「あちゃー」とばかりに、額へ手を当てた。
「普通ギルドで教えてくれるんだけどな。ちゃんと受付嬢の説明聞いたか?」
「……あ、大丈夫って言ったかも…。」
「それだな。ギルドで活動するなら、情報は最重要項目だぞ?気をつけるんだな。」
「……うぅ。はい。」
「でだ、ギルドカードは3回タッチする事で表示、非表示を選択するモードになるんだ。んで、項目を2回タッチで切替だな。やってみ。」
「はいっ。」
おぉ。おぉ。切り替えられる。まさかこんな機能があったとは。貯金額がずっと表示されてるの少し嫌だなって思ってたんだけど…、疑問をそのまま放置するのは悪だね。つーか、地球のタブレットみたいだな。
「出来ました!」
「ははっ!良かった良かった!個人情報には気をつけろよ!」
「ホントっすね…。情けないです。」
「まー初めての頃は誰にでもある話よ!んで…確かエレメンタルウルフ討伐だったか。基本的に群れで活動してるから、囲まれないように気をつけるんだぞ。他には…体の色で使う属性が分かるから、1つの目安にすると良い。ま、個体自体はそんなに強くないはずだから、焦らなければ大丈夫だ。頑張れ!」
「はい!ありがとうございます。」
「おぅおぅ!健闘を祈るぜ!」
こうして俺は気前の良い門番のおじちゃんに見送られて初クエストに出陣したのである。
…出発する前から無知が露呈して、非常に心配なんですけどね!




