4-4.学院長室にて
あけましておめでとうございます。
新年1/1(金)から1日ズレての投稿です。
本年も本作品を宜しくお願い致します。
ラルフ先生に連れられて俺がやってきたのは学院長室だった。
俺、なんか悪い事したっけ?もしかして授業後に修練場を使うのって規則違反だったのか?
「そこに座れ。」
部屋に入ると、ラルフ先生が高級そうな革張りのソファーを顎で示す。
「はい。」
なんか高圧的な雰囲気で怖いんですが。
部屋の奥で静かに座るヘヴィー学院長も目付き怖いし。気付けばドアの陰からキャサリン先生も出てくるし。
これから始まるのは…誰にも言えない拷問。
高まる緊張感の中、ヘヴィー学院長は俺の前に移動して、向かいのソファーに座る。
「よく来たの。その表情…覚悟は出来ているようなのである。」
…え、マジで…マジで停学的な雰囲気じゃんか。
修練場使っちゃいけないって先に教えてくれれば良かったのに…!もしかしたら当たり前のルールなのかもしれないけど、俺はそんなの知らなかったぞ!理不尽だ。理不尽極まり無い!これはアレか。退学になって、人生廃れた俺が世界に復讐すべく強力な力を手に入れるためのフラグなのか!?そうだとしたらこの展開を避ける事は出来ないか。強くなる為には一度どん底に落とされるのが定番だからな。過去を後悔しても……何も変わらない。それなら、未来に向けて………!
「それでは…これより職業鑑定を行うのである。」
はい。終わった。どん底世界へようこそ俺。
………。
「……え?」
「……む?」
「…職業鑑定ですか?」
「そうじゃが。」
「てっきり停学にされるのかと。」
「……ラルフ。説明しとらんのか?」
「……ププッ!はーはっはっはっ!!あぁーウケた。」
ラルフ先生は目に涙を浮かべて笑っていた。
「いやぁー!龍人の学院生活これまでか…。的な絶望の表情と、ヘヴィー学院長が言った内容のチグハグ感とか…ウケる。ウケるわー。」
…性格悪いぞオイ。
つまりアレか。理由はよく分からないけど、職業鑑定をする為に俺を呼んだのに、悪い事をした学院生を連行した的な演出を勝手にやってた訳だな。
もう一度言ってやる。性格悪いぞオイ。
「ラルフよ。学院生をあまり虐めるようであれば…儂も容赦せぬぞ?娯楽の虐めと、特訓の虐めは似て非なるものなのである。」
「げ…。」
ヘヴィー学院長に睨まれた事で、ラルフ先生は表情を強張らせる。そして…。
「すんませんっしたっ!」
ものの数秒で自分の非を認めたラルフ先生だった。
ヘヴィー学院長…今の一瞬で見せたプレッシャー凄かったな。
話し方が独特な爺さんだけど、その実力は本物って事か。
…馬鹿にはしてないからな?
「話が脱線してしまったの。ともかく、龍人の職業鑑定を行うのである。」
「分かりましたけど…何で俺だけなんですか?」
「うむ…。」
思案顔を見せたヘヴィー学院長が、キャサリン先生とラルフ先生に視線を送ると…2人は真面目な顔で頷いた。さっきまでの茶番劇なんだったんだし。
「何から説明しようかの…。まず、儂が魔法街に行った目的じゃな。」
思ったのと違う切り口で話が始まるな。
けど、俺は余計に口を挟む事はせず、真剣な表情でヘヴィー学院長を見ていた。
先ずは知る事。何かを聞くにしても、それは後だ。
「森林街を襲撃したセフとその従者は…天地という組織に所属する者じゃ。この天地という組織は、世界の悪意に関わる者達という表現が適切…かの。目的は分からぬが…特別な力を持つ者を狙い、勧誘し、時には拉致しておる。その彼らから森林街にいる特別な力を持つ者を守る為…儂が派遣されたのじゃ。」
「特別な力…。」
「そうじゃ。それがお主…だろうと考えているのである。心当たりはあるかの?」
「…なくは無い。ですかね。」
「うむ。キャサリンからも聞いたが、魔法陣展開魔法という特殊なスキル。枠組みを外れた数多の属性を操る力。普通と考えるには、特別な力が多数備わっておる。」
スキル…。スキル?
「あの、スキルって普通スキル名を言うんですよね?」
「うむ。そうじゃ。」
「だとすると、俺の魔法陣展開魔法はスキルじゃないかもしれません。」
「……なんと。もしや、自然と使用できるという事かの?」
「はい。」
「一応聞くが、スキルは何が使えるのじゃ?」
「いや、使えないです。」
「……これは。想定外過ぎるのう。」
あら?ヘヴィー学院長が困った顔をしてる。
もしかして、スキルが使えないのって問題なのかね?
「龍人よ、お主の話が本当だとすると魔法陣展開魔法はパッシブスキルという特殊なスキルに該当するのじゃ。」
「パッシブスキル…。」
それって、ゲームとかだと常時発動するスキルの事だよな?状態異常無効とか、数秒毎に体力を継続回復とか、速度%上昇とか。
魔法陣展開魔法がパッシブスキルねぇ。確かにスキル名の詠唱が必要無くいつでも発動出来るって考えれば…常時発動型とも言えるか。正確には常時発動可能型だと思うけど。
この世界ではスキル名の詠唱不要で発動できるスキルがパッシブスキルって事なんだろう。その定義でいけば、魔法陣展開魔法はパッシブスキルに該当するか。
「益々不思議じゃのう。龍人の力について気になる所は多々あるが…今は話を戻すのである。儂の役目は、天地から特別な力を持つお主を守る事。そして、お主自身が守られなくても良いくらいに強くなるよう導く事じゃ。」
「どうして…そこまでしてくれるんですか?」
「お主が強くなる事で、良くも悪くも…お主等を守る事に繋がるからなのである。」
「俺を守る…。」
「うむ。細かい事は追々話すのである。先ずは魔導具で職業鑑定をするのである。」
そう言って立ち上がったヘヴィー学院長が指をパチンと鳴らすと、透明な珠が現れた。大きさは直径20cm位で、占いで使う水晶みたいなイメージかね。
「この職業鑑定珠に手を翳し、魔力を籠めるのである。」
「分かりました。」
それだけで職業が鑑定出来るのか。凄いな。Colony Worldだとゲームを始める前に職業が決まってたから、こーゆーのは無かったな。
職業鑑定珠に手を翳すと…澄んだような神聖な雰囲気を感じた。きっとこの魔導具…レアなアイテムなんだろうな。
さて…ちょいと緊張の瞬間だね。この世界で俺の職業が何になっているのか。
ゆっくりと魔力を籠める。すると、俺の魔力が職業鑑定珠にじんわりと浸透していくのが分かった。
そして、珠の中にゆらゆらと文字が現れた。
そこに浮かんでいた文字は。
「うむ。…これは初めてなのである。」
「マジかよ。」
「凄いわね。」
教師3人は驚きの表情を浮かべ、俺は「やっぱり」という納得感に小さく頷く。
そう。浮かんでいた職業名は【龍人】という文字だった。
俺からすればColony Worldの時から同じ職業なわけで違和感は無いんだけど…やっぱりこの世界でも特殊な職業に該当すんのかな?
「龍人や…これはどういう事じゃの?龍人…りゅうじんと読むのであるな?だとすると…奇妙なのである。」
「え…?」
ヘヴィー学院長は神妙な顔で頷く。
「うむ。普通、職業にというのは剣士、闘士といったものが表示されるのである。じゃが、龍人というのは職業というよりも…生物としての種別を表しているのである。」
「あ…確かに。」
「つまり、そういう事じゃ。奇妙なのである。それこそ儂が職業鑑定をした時に人間と表示されるのと同じなのである。」
こりゃあ困ったね。まさか職業『龍人』が職業扱いされないとはな…。
「でも…職業鑑定珠で表示されたって事は、これが職業で間違い無いんですよね?」
「そうなるのである。」
「……。」
「………。」
「………。」
沈黙。この場にいる全員が想定外過ぎる事態に何も言えないでいた。
「ヘヴィー学院長。いいかしらぁ?」
「うむ。キャサリン。言ってみるのである。」
ヘヴィーが先を促すと、キャサリン先生は俺の近くまで来て指先を俺の耳に絡める。
ゾクぅ!という感覚に思わず体が跳ねるが、キャサリン先生はそんなのにお構いなしで俺の耳を弄り回す。
「龍人君が特別な職業である事は変わらないわ。そこについて議論するよりも、今後の対応について考える必要があると思います。」
「ふむ。言う通りなのである。具体的には?」
「そうですねぇ。職業『龍人』である事を…隠すか否か。じゃないかしらぁ。」
「うむ。それについては…儂は龍人に任せるつもりなのである。2人はどう思うかの?」
「私もそれで良いと思います。」
キャサリン先生は同意を示し、ラルフ先生は肩を竦める。
「俺もどっちでもいいですね。隠そうが隠さまいが、どちらにせよ希少な職業持ちは苦労するんで。まぁ、龍人がどこまでの覚悟を持っているのか。じゃないですかね。」
「うむ。」
2人の教師の意思を確認したヘヴィー学院長は、俺の目を真っ直ぐ見つめた。
「龍人よ。」
「はい。」
「お主の特別な職業を隠すのか、隠さないのか。自身で決めるのである。」
「んー。」
俺は顎に手を当てて考える。…考える人みたいなポーズになってる気がして恥ずかしいけど、今更ポーズを変える方が恥ずかしい。このまま貫くんだからな!
…と、冗談はさて置き。
職業『龍人』を隠さないデメリットは、特別な職業って事で目立つのが1番だよな。下手すりゃ、変な奴らに狙われる可能性だってある。仲間が巻き添えをくらう可能性だって否定出来ない。
メリットは…堂々とその職業の力を使えるから、成長し易いとかかね。
んで、隠すメリットは目立たないって事。デメリットは職業『龍人』に繋がる力を人目のある場所で使えないって位か。
でも、職業『龍人』の力って魔法陣展開魔法と、属性数に縛られないって事くらいだよな。それはもう1年生の皆は知ってるし。寧ろ、入学試験で見てる人も沢山いるだろうから、ある程度は認知されてるだろ。そうすると隠す意味は無いか?
……いや、そうでもないか。
これから先、俺が今の魔法陣展開魔法以上の力…スキルを使えるようになる可能性だってある。それが更に稀有な力だった時、どんな反応が起きるか分からない。
下手をすれば森林街の二の舞だって….あり得る。
セフ=スロイ。あの男が魔法街に攻めてきたら…。しかも、ヘヴィー学院長はセフは天地って組織に所属してるみたいに言ってた。
つまり、あいつみたいな化け物が他にも居るって事だろ。
もし、セフが、天地が俺を狙って森林街を襲ったのだとしたら、いつか…また俺は狙われる。
その時に、また、俺の大切な人達が殺されたら……。
ヘヴィー学院長、ラルフ先生、キャサリン先生は、何も言わずに待っていてくれた。
きっと、俺の葛藤が分かるんだろう。何も言わず、静かに待ってくれた。
相談……しても良かったのかな。襲われるかもしれない。仲間を、大切な人を失った後悔、再び同じ事が繰り返されるかもしれないという…恐怖を。
でも、思うんだ。
これは、俺が自分で決めなければいけない事だって。
俺は後悔…したくない。
……数分の後、1つの結論に辿り着いた俺は、それを口にする。
3人の教師は其々違う表情で聞き入れ、頷いた。
ヘヴィー学院長は微笑みと共に。
キャサリン先生は眉を顰めながら。
ラルフ先生はニタリ…という悪魔のような笑みを浮かべながら。
そして翌日。
街立魔法学院1年生は職業鑑定を行う為、修練場に集まっていた。




