4-2.魔法学
ラルフ先生が教室からいなくなった後、教科書やらを机の上に出した俺達はキャサリン先生が話すのを静かに待っていた。
そのキャサリン先生は何故か教卓に付いた両腕で胸を挟んで強調するポーズを取りながら…俺たちの事を無言で観察している。
妖艶な目付き…なんだけど、その奥に別の意思がありそうな雰囲気。
暫くすると、キャサリン先生は色っぽい声を出す。
「はぁん。そろそろ良いかしらね。焦らし過ぎも良く無いと思うしぃ。」
…なんのこっちゃ。
という俺達の視線をスルーして、キャサリン先生は講義を開始した。
「先ずは魔法の基礎知識から話すわね。最初は魔力、属性魔法の発動、スキル、職業について…ね。」
結構多いな。でも…今まで魔法に関連する話をちゃんと聞いた事は無い。
この世界の魔法のシステムを理解する事は…重要な筈だから、ちゃんと覚えないとな。
「先ずは魔力についてね。魔力というのは当たり前だけど、魔法を使うための力。これは体の内側にある限り、見えないものよ。つまり、体から放出するという場合において可視化する場合もあるわね。まぁそれは余談として…重要なのは、生命力が魔力と同義であるという点ね。この意味が分かる人、いるかしらぁ?」
生命力と同義…。魔力が無くなると死ぬって事か?
おっ。迷いなく手を挙げた奴がいんな。
「あなたはぁ…ルーチェ=ブラウニーちゃんねぇん。可憐で可愛いお顔をしてるじゃないの。ふふっ。抱き寄せた時の折れそうな細さと、女性特有の柔らかさが殿方を魅力的にしそうね?」
「キャサリン先生。私はまだ殿方とはそのような経験はありませんので…恥ずかしいのでおやめ頂けると嬉しいですの。」
「あらっ。初心で可愛いわねん。その正直さに免じて、普通に答えることを許してあげるわ。」
おいおい。毎回下ネタを含ませたやり取りしなきゃなんないのか?
「えぇと…私が知っているのは、魔力欠乏が最悪死に至るという事ですの。」
「その通りね。他にはあるかしら?」
「そうですわね…。」
少しの逡巡の後、ルーチェは再び口を開く。
…あ。この娘ってテロ対策試験の時に遼の出番をなくした人じゃない?光魔法使いで、結構強いって言ってたっけ。話し方がお嬢様っぽいから、良い家柄なのかねー。
「これをこの場で言って良いのか分からないのですが、生命力を魔力に変換する方法があると聞いた事がありますの。」
…そんな事が出来るのか。
首を傾げてる面々も多いから、メジャーな情報じゃないのかな?
あ、でもキャサリン先生は満足そうに頷いてんな。
「よく知ってたわね。ルーチェちゃんは流石あの家出身ということかしら。今の話、全員覚えておきなさいよ?激しい戦闘の末に魔力が尽き、それでも戦わなければならない時、生命力を魔力に変える禁術が存在するわ。まぁ…今のあなた達がそんな状況になるとは思えないし、それに気軽に使って良いものでもないから。今はそういうものがあるっていう認識だけで良いわよ。」
「質問良いですか?」
そう言って手を挙げたのはテロ対策試験で共闘した学ランヘッドホン君だ。
「ふふっ。積極的な子は好きよ。優しく耳元で囁きながら、ふっと息を掛けると積極さの中に優しい猛獣のようなエロスを感じさせるわ。」
「いや、俺、そーゆー事を聞きたいんじゃなくて…。」
「冗談よ。顔を赤くしちゃって…可愛いんだからっ。」
「う……。」
「まだまだねぇ。それでルフト=レーレ君は何を聞きたいのかしら?私のスリーサイズ?」
「聞きたいのは、その禁術が何故禁術なのかって事ですね。命のリスクがあるのか、それとも…魔力回路に異常をきたすのか。」
…魔力回路?また知らないワードが出てきたな。
あいつの名前はルフトってのか。覚えとこっと。
因みにスリーサイズをスルーされたキャサリン先生は、何故か頬っぺたを膨らませている。何それ可愛いんですけど。
「良い質問ね。禁術指定されているのは、ルフト君の言っていた魔術回路に異常をきたすから…ではないわ。禁術を使った後に魔力と生命力の回復速度が著しく遅くなる事、そしてどんな回復アイテムを使っても回復効果を得られなくなる。この2つが理由で禁術指定されているわ。」
…うわぁ。それってヤバいじゃん。下手に使ったら、その場は凌げたとしても、その後使い物にならなくなるのか。
「まぁそういう訳だから、使わないのをお勧めするわ。教えるつもりも今のところは無いしね。もし使ったら…私が体を使って心と体を癒すくらいはしてあげるわぁ。」
…流石に慣れてきたな。キャサリン先生はこーゆー人なんだろう。毎回色気が反則レベルだけど。
「魔力については理解出来たかしら?因みに、魔力量を増やしたいって思ってる人も多いと思うけど、これは一朝一夕ではどうにもならないわ。基本的には魔力を限界まで使う。しっかり休んで魔力を全快させる。この繰り返しで少しずつ増やせるわ。魔力欠乏状態にならないように気をつけるのが原則になるけどね。毎年1年生は魔力欠乏で保健室送りになる子が多くて困るのよねぇ。」
なるほどね。
そもそも俺って魔力量はどれくらいあるんだ?
測定する道具とかあったら良いのにな。
「余りにも保健室送りばっかやってたら、お姉さんが寝てる間に悪戯しちゃうんだからねっ。」
身をくねらせて胸を寄せる決めポーズを取ったキャサリン先生。
あ、何人かの男がモゾっと前屈みに…。恐るべし大人の魅力。
「それじゃあ次にいきましょう。えっとぉ…属性魔法の発動についてね。自信を持って詳細の説明が出来る子いるかしら?」
キャサリン先生が周りを見回すけど、手を挙げる人は誰もいなかった。
俺?俺は今まで感覚で魔法使ってきてるから、そーゆー知識はさっぱりだよね。
それこそ「属性魔法の発動?魔法陣展開すれば発動するでしょ。」程度の認識しかない。
流石に答える人はいないかな。…と思ったら。
「あら。あなたは霧崎火乃花ちゃんね。分かるの?」
手を挙げたのは火乃花だった。
少し小難しそうな顔をしてるものの、自信はありそうだな。
「大体分かると思います。意識して練習してたから。」
「あらあら。優秀ね。ふふっ…じゃあ言ってみて。」
妖艶な目付きで火乃花を見たキャサリン先生は、ニッコリ微笑んで火乃花を促す。
「属性魔法はそれを発動する為の媒体が必要になります。噛み砕いて言うと媒体を介さないと属性魔法は発動が出来ないです。それで媒体が何かって事になるんですが、魔法街では魔具を媒体として属性魔法を発動する魔具魔法が主流です。他にも媒体はあるらしいけど…私はその辺りは詳しくないので分からないです。」
「ふふっ模範的な回答ね。全て火乃花ちゃんが言った通りよ。補足するとしたら…魔具魔法以外で有名な属性魔法は詠唱魔法があるわ。詠唱の言葉自体が媒体となる魔法ね。他にも色々とあるけれど…大切なのはそこではないの。」
キャサリン先生は黒板に丸を描き、中に魔力と書く。そしてその丸から矢印を描き、その先に媒体と書いて四角で囲んだ。更に、四角から螺旋状の線を描く。
「これがイメージよ。魔力は媒体という存在を活性させ、その媒体が持つ属性効果によって属性魔法へと昇華するの。魔法街でメジャーな魔具にも属性があるのはそういう事よ。」
…ん?そうなると、疑問がありますね。
「あら、龍人君。やる気なさそうだなって思ってたけど、案外ちゃんと話を聞いてるのね。」
「勿論ですよ。これでも自分に知識が無いことは弁えてるんで。実は必死です。」
「ふふっ。そういう子が頑張ってるの、好きよ。」
「どうも。で、質問良いですか?」
「えぇ勿論。」
「魔具に属性があるってのは良いんですが、どんな属性でも使用可能になる魔具とかって無いんですか?」
「それ、気になるわよね。私も調べた事があるんだけど、結果としては…存在しない。ってなってるわ。」
「……。」
「あ、龍人君納得出来ないって顔してるわね。でも、実際にそういう魔具があったって記録は無いのよ。もしあったとしても…希少価値が凄く高いから秘匿されている可能性は高いと思うわ。そもそも属性魔法は1人3属性までしか使えないから、極端な話…全属性対応の魔具がある必要はないんだけどね。」
…なるほどね。でも、そうなると…3属性以上使える俺はどうなるんだ?魔具も持ってないし。龍刀が魔具って考え方もあるけど、あれを手に入れる前から4属性は使えたもんな。
俺が釈然としない表情をしている理由に気づいたのか、キャサリン先生はポンっと手の平を合わせる。
「あぁっ。そうだったわね。龍人君は使える属性魔法が3種類以上あるのよね。」
「そうなんですよね。」
俺とキャサリン先生とのやり取りを聞いた他の学院生達がどよめく。そりゃそうだ。ある意味世界の法則に当てはまらない奴がいるんだもんな。驚くのは当たり前だよ。
「さっきの質問をしたって事は、龍人君は全属性対応の魔具を持ってるって事かしら?」
悪戯っ子の様な瞳で尋ねるキャサリン先生である。
まぁ、普通にそう聞かれたら…困るよな。持ってるなんて言ったら色んな人に狙われそうだし。
でも、俺は困らないんだよね。残念ながら。
「いや、そもそも魔具自体持ってないですよ。」
この瞬間、教室が静まり返った。
「………えぇっ?」
キャサリン先生の惚けた疑問の言葉だけが静かに教室の中に広がり…。
そこから先は想像に任せる。
言えることは……皆が落ち着くまで本当に大変だったって事かね。
ちっとばかし言うタイミングを間違ったっぽいな。俺。




