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3-13.空腹との戦い

間話です。

 街立魔法学院入学式前日。

 俺はあまりのひもじさに項垂れていた。

 場所は街立魔法学院学院生寮にある、俺の部屋。個室だから俺しかいないのが救いだな。

 何故ひもじいのかって?そりゃあお金が無いからだな!人生最大級のピンチだよ。食生活が貧しいと、やる気って失われていくもんなんだね。マジでやる気ゼロなんてすが。

 入学準備を甘く見ておりましたよ。

 必要な物を買い揃えるだけで19万とか…最高だぜ!…はぁ。

 特にショックだったのは、俺と同じ境遇の遼が全くお金に困ってないって事だ。

 元々ある程度の貯金はしてたらしく、森林街のギルドに加盟した時にギルド口座へ貯金を移してたんだと。

 こんな所で日頃の行いの差が付くとは思いませんでしたっ!


「あーあ。今日は普通にご飯食べるかな。」


 学院生寮には一応学食がある。値段も良心的でモーニングが300円、ランチとディナーが500円だ。

 魅力的でしょ?

 そうなんだけどさ…、入学に必要なものを買い揃えた6日前で残金約1万円。これで毎食で学食を利用したら9日間で金無し太郎ですから!

 自慢じゃないけど、必死に節約して生きてる訳ですよ。

 そして、努力の甲斐あって残金が…7000円。いや、マジでヒモじいから。1日500円って。

 料理が出来りゃ話は別なんだけどねぇ…。

 流石に精神的に耐えるのが辛くなってきた訳ですよ。入学式前日の今日くらい…1日1000円の散財しても良いかなっていう誘惑に駆られている訳ですよ。

 遼は「南区の美味しい店を開拓しとくね!」って言って俺を置き去りにするし。ま、お情けで奢られるよりは良いのかもしれないけど。


「ダメだ。思考回路がまともに動いてない。美味しいものを食べて、先ずは精神的安定を…!」


 行くぞ。ランチで500円払うという恐怖感に…俺は負けない!!負けたくない!!


 10分後…。俺は学食の入口で口の中に止めどなく湧く涎を飲み込んでいた。

 美味そう。やばい。全ての食べ物がキラキラ輝いて見えるぜ!!

 日本語おかしいかもしれないけど、その表現が適切だ!人生でこんなに食べ物を前にしてときめいた事があっただろうか。…渋谷の高級フレンチに行った時くらいかな。あ、つまり…ときめいた事あるじゃん俺。やばいな。思考回路がグルグル迷走してる。

 さて、俺が釘付けになっているのは…担々麺ライスセットだ。ミニサラダボウルも付いてるとか神だろ。

 これを食べずして、何を食べれば良いってんだ!

 食べるぞ。俺は…食べる!


「お、見っけた。龍人!」


 …誰だ。俺の至福の時間を邪魔しようとする奴は!

 ギギギ…とホラーゲームで異形の存在が振り向くように後ろを見ると、ラルフ先生が「よっ」と片手を上げていた。

 何故教師が入学前の俺に声を掛ける?

 という疑問が湧き上がるが、相手は教師。ここで反抗する訳にはいかないよな…。


「ラルフ先生。どうしたんですか?」

「おう。ちっと話があるんだ。こっち来い。」

「話?」

「そうだ。」


 大仰に頷いたラルフ先生は俺の返答を待たずに歩き始める。

 …マジかよ。

 どうにも逆らって良いのか分からなかった俺は、トボトボとラルフ先生の後を追いかけざるを得なかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ラルフ先生に連れてこられたのは、街立魔法学院にある一室。


「いきなり悪かったな。」

「いえ。」

「ちんたら話してもしょうがないから、本題言うぞ?」

「はい。お願いします。」


 馬鹿丁寧な俺の態度に調子が狂うのか、ラルフは天井を見上げて頭をポリポリする。

 いや、マジで俺はこのお腹を満たしたいんだよ。さっさと話を終わらせてくれ!!


「あー、なんだ。お前の使う魔法なんだが、どこで教わった?」


…ん?質問の意図が分からないな。


「どこでって言われても…最初からアレしか使えなかったんですよね。」

「最初から……。そんな事があんのか?いや…でも…。」


 ラルフ先生は顎に手を当ててブツブツと呟きながら考え込んでしまう。

 …どうすっかな。取り敢えず黙ってるか。


「………しゃーないか。龍人。」

「はい。」

「お前の使う魔法…名前はあるのか?」

「俺は魔法陣展開魔法って呼んでます。」

「分かった。その魔法陣展開魔法だが、珍しい魔法って認識は捨てろ。」

「はいっ?」


 どーゆー事だ?珍しくないって事なのか?もしかしたら、魔法街以外ではメジャーでした。的な感じかね?

 けど、ラルフが話した内容は俺の想像を超えるものだった。


「恐らく…にはなるが、魔法陣展開魔法を使えるのはお前だけだ。」

「…そんな事あります?」

「あるんだよコレが。良いか。だからこそ、色々と面倒な事に巻き込まれるかも知れん。その時は周りを頼れ。仲間でも、ヘヴィー学院長でも、俺でも。」

「つまり、珍しいってレベルを超えてるって事ですか?」

「そうだ。固有スキルだろうな。」

「マジすか…分かりました。」

「以上!」


 おぉ。簡潔だな。

 てか、俺の使う魔法ってそんなに珍しいのか。


「因みになんですけど、使える属性魔法が3種類超えてんのも、珍しいですよね?」

「はあっ!?」


 椅子から立ち上がろうとしていたラルフ先生は、ガタッと椅子に足を引っ掛けて倒してしまう。

 …え?そんなに驚く事ですかいな?


「おいおい。入学試験の時からちっとばかしオカシイかなとは思ってたが、それ…本当なのか?」

「はい。普通に使えます。」

「はぁぁぁ…。想定以上じゃねぇか。因みに何種類使える?」

「いやー試した事無いからイマイチ分からないんですけど、基本的な属性は…多分全部。」

「…マジかよ。」


 額に手を当てて天井を仰ぐラルフ先生を見ながら、俺は首を傾げる。


「そんなに珍しいんですか?」

「いやいや!珍しいとかそーゆーんじゃねぇからな!魔法陣展開魔法は譲歩して珍しいでも良いかも知れないけど、属性に関しては…あり得ない。と言って良い。」

「……あり得ない?」

「そうだ。昔から…少なくとも記録の残る歴史上で、人が使える最大3属性の枠組みを外れた奴はいない。居たとしても、記録には残されていない。これがどういう事だか分かるか?」

「…俺が歴史上初。もしくは……何かしらの理由で3属性以上使える人達が…隠匿されてきた?」

「そうだ。どちらにせよ、お前は目立つ。目立つだけなら良いが、狙われる。」

「…え、それはちょっと勘弁。」

「それはこっちの台詞だよ…。面白い奴が入学したと思ったら、面白い通り越して厄介じゃねぇか。」

「すんません。」

「まぁ……一旦学院長と相談するわ。無理に隠そうとはしなくて良いぞ。どーせ、どっかでバレるんだ。だったら堂々としていた方が良い。」

「分かりました。」

「じゃあ…話は終わりだな。また呼ぶ事になると思うから、そん時はちゃんと来いよ。」

「はい。」


 こうして俺はラルフとの会話を終えて街立魔法学院の廊下を歩いていた。

 俺、どうやら普通では無いみたいだな。

 魔法陣展開魔法に、数多の属性を扱う魔法使い。…ワードだけだと中二病が爆発しそうだな。

 やっぱColony Worldの記憶を持ってる事が、原因なのかね。ただ、使える属性が一気に増えたのって黒い靄が出てからだった気が…。となると、聖龍とかが関係してんのかな?

 ホント…謎が増えてくよ。


 ラルフから教えられた新事実に考えを巡らせていた俺は、この時…まだ気付いてなかった。

 この後に最大の悲劇が待ち構えている事に。


「え………。」


 ラルフと別れて学食に戻ってきた俺は、目の前に広がる光景に絶句するしか出来ない。

 手が震える。

 頭が真っ白になる。

 場所は…学食。

 胃が悲鳴を上げる。


「売り切れ……。」


 ショーケースに並んだ本日のランチは…全て売り切れ札が置かれていた。

 俺の、俺の昼ご飯返せ!!

 ガックシと膝を付いた俺は、絶望に打ちひしがれるのだった。


 因みに、偶然通り掛かった火乃花が、何故かご飯を恵んでくれた。

 お金はある!って言い張ったんだけど、「この前の試験のお礼よ」とか言って強引にご馳走されちまった。

 てか、俺…何か試験で火乃花にしたっけね?全然記憶にないんですが。そんな優しくしてもらう理由が思いつかないんだけど…。後で高額の利子付きで請求されたりして。

 …なんて考えるのは捻くれてるのか?


 それにしても、魔法学院での生活が明日から始まることを踏まえても…稼ぐ手段を見つけないとヤバいな。

 明日あたりに遼と相談してみるか。



 そして翌日。


 俺の街立魔法学院における学院生活が始まる。

 ラノベだったら異世界転生物の学園編ってやつだな。


 ウキウキワクワクー。

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