3-12.入学準備は大変
困ったな……。
俺、いま何処にいるんだ?
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魔法街南区。それが俺が今いる場所だ。
魔法街は5つの円形浮島で構成されてるらしい。
1つの浮島を中心にして東西南北に各浮島が接地しているんだとか。中心の浮島を中央区、その周りに東区、西区、南区、北区なんだって。街立魔法学院があるのは南区だ。
でだ。1週間後に控えた街立魔法学院入学式に備えて中央区に買い物に来てるんだよね。
買わなきゃいけないのは教科書、各種道具。
南区にも書店とか雑貨屋はあるんだけど、今の時期は品切れの可能性が高いから、大型店がある中央区に買いに行くのがスタンダード。…ってアドバイスを火乃花に教えてもらった。
てかさ、学院で用意してくれれば良くない!?なんて思うんだけど…それは甘え過ぎかな?
「先ずは教科書だな…。」
因みに遼はお腹が痛いらしく、入学が決まった学院生に宛てがわれた学院生寮で寝てる。
本人曰く「昨日緊張しすぎた反動かも…」らしい。
どんだけプレッシャーに弱いんだよ…とは思うけど、可哀想だったから何も言わなかった。
つーか、広くて何処に書店があるのか分からないんだよね。迷いそう。
…あ、雑貨屋発見!
先に教科書買おうと思ってたけど、まぁいっか。
「こんにち……は?」
挨拶をしながら雑貨屋に入ろうとして…挨拶が途中から疑問形になっちまった。
雑貨屋って…こんなに広いもんなのか?
森林街のこじんまりした店を想像してたからビビっちまった。
えーと、俺が欲しい雑貨は……。探すの時間かかりそー。
俺が途方に暮れて入り口に立ち尽くしてた時だった。救世主が現れたのは。
「あ、あの、え、えっと、何か探してますか?」
「あ、はい。」
俺に声をかけてくれたのは心優しき店員さんだった。
…店員さんだよな?
……どう見てもニートでオンラインゲーム浸りの毎日を過ごすデブにしか見えないんだが。
「あ、え、えっと…オラが手伝いましょう……か?」
キョドッテルヨオニイサン。
いや、でも親切に声を掛けてくれたんだ。気持ち悪いからといって無下に断るのは悪いよな。
「えーっと、お願いしても良いですか?」
「は、はいっ!勿論です!な、何を探してるんで、すか?」
「これなんですけど……。」
メモを見せると、オニイサンは目を通してニッコリ笑う。
笑顔!笑顔引きつってますよ!?
「え、えっと…全部あると思うので、あ、案内します。」
「お願いします。」
のしのしと歩き出すオニイサンの後ろを歩きながら、俺は一抹の不安を覚えていた。
あ、誤解ないように言うと、オニイサンがちゃんと案内してくれるのかっていう不安じゃなくて、お金が足りるのかって心配ね。森林街と魔法街のギルド口座が共通だったお陰で、教材関連購入の資金はあったんたけと、ゴブリン討伐報酬を含めて20万円しか無かったんだよね。
足りなかったらどうすっかね…。
てかさ、ギルドでお金を下ろした時に思ったけど、お金の通貨が円って違和感なくて良いんだけど…違和感なんだよなー。
普通異世界転生だったらさ、ガルドとか、ペソとか、ドルとか…いや、違うか?……ともかく外国っぽい通貨が定番じゃん?それが円って…。
「あ…!!」
「えっ?」
オニイサンがいきなり声を上げて止まる。
なんだよ。何なんだ!?事件かいな!?
「オ、オラの名前は…サタナス……です。名前名乗るのわ、忘れてたです。」
「……あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
「あ、お、お客さんのな、名前は言わなくてよ、良いです。こ、個人情報ですから。」
「はい。じゃあ商品の案内お願いします。」
「わ、分かりました!」
店員サタナス…何故名乗っただけでそんなに嬉しそうなんだ?
……世の中には理解出来ない人種って居るんだな。
それから俺は店員サタナスの案内で必要な道具を全て買い揃えた。
合計12万円もしたんですが。
…やばくね?
人生初の消費者金融かもしれない。
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その後、教科書に関しては問題なく買うことが出来た。
まぁ…全部で7万円くらいかかったんだけどね!高いんだよ。マジで。7万って人気のスマホ廉価版位はする値段だし。
残金1万円なんですが……。
そして、金が無くなったショックてふらふらーと歩いてた俺は…迷子になった。
この歳で迷子なんて恥ずかしい…んだけど、こればっかりはどうにもならない。
周りにあるのは…10階建位のビル群。
マジで何処が北なのかも分からないし。迷ったなーと何となく考えて適当にグルグル歩いたのが更に良くなかった。
困ったな……。
俺、いま何処にいるんだ?
こうなったら……恥ずかしさを押し殺して道を聞くしかないか?でもなー、何故かこの辺りはスーツ姿の人ばっかで話しかけずらいんだよな。
でも……。
「しゃーないか。」
俺は諦めた。見栄を張るよりも、無事に帰ることの方が重要だ。お金も1万円くらいしか無いし。
横にあるビルを見上げる。…税務庁か。お堅いイメージはあるけど、入口の奥に見える受付のお姉さんに聞けば…きぅと優しく教えてくれるはず!
あわよくば連絡先も聞ければなお良し!
と、意気込んで税務庁なるビルの正面玄関に足を踏み入れる。
…静かだな。
中を歩いてる人達は忙しそうに歩いてるけど、無駄口叩きませんオーラが激しいぞ?
うわー。入るビル間違えたなコレ。
「ちょっと君…こんな所で何をしているんだ?」
うぉっ。警備員か?摘み出されるのか俺!?
「あ、すいません。道に迷っちゃって。……うぉっ。」
振り向いた俺は思わず一歩引いてしまう。金髪オールバックにグラサンを掛けたスーツ姿の男性がが、怪訝そうな表情で俺を睨みつけてんだってばよ!
え、もしかして税務庁はヤクザ系の人が牛耳ってるのでしょうか?
「うぉっとは失礼だな。……いや私の見た目が良くないのか。しかしコレばかりは直しようが無いからな。」
その男は顎に手を当てて少し考え込むと肩を竦めながら首を横に振る。
「つまらない事を考えてもしょうがないか。迷子と言ったね。それなら私が行きたい場所まで案内してあげよう。幸い、今日の仕事は終わったからね。」
「えっと…良いんですか?」
いやいや!良くないでしょ!
明らかに一般人とは違う雰囲気感じますから!
ついて行って気付いたら臓器を取り出されてたなんてオチが待ってた日には……成仏できないよ!?
けど、俺のそんな気持ちに気付くはずもなく…。
「勿論だよ。さて、行くか。あぁ…そうだ。私の名前はラスターだ。君は?」
「えぇっと……高嶺龍人です。」
苗字を言わない辺り怪しいな。もしかしたら、暗殺者とか…?
確かに影に潜んで人の首を掻っ切りそうな気もしなくはないな。
「龍人君か。それでは行こう。私の事は気軽にラスターと呼び捨てで構わないよ。」
ラスターはそのまま歩き始めてしまう。
マジで一緒に行くの?
しかも、何故か受付嬢が引きつった顔をしてるんですが……。
でも、逃げ場ないし…最悪派手に魔法をぶっ放して逃げるか。
と言う訳で、俺はラスターに案内してもらう事にした。
結論から言おう。
ラスターはヤクザ。…なんて事はなく、とても気の良いおっさんだった。
見た目がインテリヤクザ系だから良く間違われるらしい。
「第一印象が最悪な状態から入るから、その後のギャップ萌えが激しいらしいな。はっはっはっ!」
と、本人は楽しんでいるみたいだったけど。
何より驚いたのはラスターが元街立魔法学院教師だったって事だ。
「じゃあヘヴィー学院長とかと知り合いなんですか?」
「勿論だよ。学院長には大変世話になったな。私が調子に乗った生徒を半殺しにする度に上手く収めてくれてたよ。学院長が居なかったら私は1日で首になっていたな。」
「そ、そうなんですね。」
この人が教師の時に街立魔法学院に入らなくて良かった……。
……あれ?
「どれくらい教師をしてたんですか?」
「5年前迄だな。」
「へぇ。それで教師を辞めて税務庁で働いてるんですね。」
「む…?もしかして龍人君は魔法学院に今年入学するのかな?」
「はい。そうです。良く分かりますね。」
「まぁ魔法街にいれば、それ位はね。」
…なんか含んだ言い方だな。
って違う。俺が気になったのは…。
「5年前だと何年だろ…えっと……。」
「龍人君…今が何年なのか位は覚えておきたまえ。今が2026年なのだから、2021年だろう?」
「あぁそうでした。時々2026年だから2025年だから謎に分からなくなるんですよね。そーゆーのありません?」
「私はないな。」
「……すんません。」
マジか。2026年なのか。森林街は西暦の感覚が全くなかったんだよな。のんびりした星だったからそんなん…ほぼ関係無かったし。
てかさ、俺がColony Worldで遊び始めたのが2025年の8月だろ?で、2025年の3月に聖龍に挑んで、そこで多分異世界転生したんだよな。
…今は2026年4月。
普通に考えたら1年も記憶を失ってたのか。
でも、俺、この世界の記憶…1年以上前のもあるんだけど。
どういう事だ?
平行世界かあって、その世界の高嶺龍人に俺が乗り移ったとか?
…なんか記憶を取り戻してから謎がとんどん増えてくな。
「どうしたのかな?そんなにショックか?」
あ、やべ。
考え込んでたのが顔に出てしまっていたらしい。
ラスターが俺の顔を覗き込んでる。
「いえ。税務庁で働くのって大変そうだなーと妄想してました。」
「そうか?魔法使いとして生きる方が遥かに大変だと思うが。」
顎に人差し指と親指を当てながら話すラスターは…中々様になっていた。
この人、インテリヤクザっぽいけど、グラサン外せばめっちゃモテるんじゃないか?
「私は全く苦労しなかったが。まぁ人によって適性があるからな。……見えてきたな。この道をまっすぐ進めば南区への通行所が見えて来るよ。」
「おぉ。ありがとうございます。」
俺は立ち止まるとラスターに頭を下げて感謝の気持ちを伝える。親しき中にも礼儀あり。ってね。
いや、親しくはないか。
…あれ?何故かラスターが俺の事をジッと見つめてくるんですが。
いや、いやよ!私にそんな趣味なんて無いんだから!興味もな、ないんだからね!
「龍人君。」
「はい。」
「君は面白い力を持っているようだね。」
「…そっすか?」
雰囲気怖いですよ?
「…自覚は薄いか。ならば、敢えて言っておこう。珍しい力は時に助けに、時に災厄ともなる。恐らく君はその歩みを踏み出したばかりなのだろう。恐れるな。警戒し、信じるが良い。」
「…どういう意味ですか?」
「いずれ分かる。その時、私が近くにいたならば力になろう。それでは、追っ手が来たようなので、私は失礼するよっ!」
追っ手?
ラスターは手でピッと敬礼のようなポーズを取ると、颯爽と走り去って行った。
「見つけた!ラスターさん!!仕事を放り出して帰るのは許しませんよ!!」
ドタドタドタドタとスーツを着た複数人の男達が俺の横を通り過ぎていく。
……え?そんな大人数で追いかける程の仕事を投げ出してきたのか。受付嬢が引き攣った笑いをしてた理由はコレね。
てかさ、追い掛けられるって事は…そこそこの役職なんじゃないかねー。他の人が代わりにできない仕事を持ってるって事だろうし。課長さん的な立場なのかな?
「そっちに行った!フォーメーションBで挟撃するぞ!」
「はいっ!」
…うん。大変そうだ。
その後、俺は無事に南区へ戻る事が出来た。
…なんかさ、魔法街に来てから謎がどんどん増えてないか?
ラスターも意味深な事言ってたし。
今度整理でもしてみるかな。
ま、最優先課題は残り1万円ってゆー貧乏生活真っしぐらな状況をどうやって解決するのか。だな。
…毎日カップラーメンなんて耐えられない!
カップラーメンがあるかなんて知らないけどね!!
この話必要なの?って思われるかも知れませんが…必要なのです!
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