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3-4.街立魔法学院入学試験 霧崎火乃花

 俺と向かい合って立った火乃花は、腕を組みながら話しかけてきた。


「あなた…高嶺龍人君だっけ?珍しい魔法を使うのね。」

「らしいね。俺もさっき知った。」

「何よそれ。自覚無しでここまで来た…とでも言うつもり?」

「そうだ。」

「…自信満々に言うのね。」

「そりゃあ、本当の事だからな。」

「特別な力があっても尚、自由…。羨ましいわね。」


 目を伏せた火乃花は、どこか哀愁の感を漂わせていた。

 なんだ…?俺の知ってる火乃花はもっと明るくて気が強いんだけど。

 もしかしたら別人なのか。

 …なんていう俺の考えは即座に否定される。


「まぁ良いわ。私は私。貴方を否定する必要はないわね。」

「そりゃどうも…。」


 直前の様子が嘘みたいだ。

 まるで別人のように雰囲気を切り替えた火乃花からは、研ぎ澄まされた刃を首筋に突き付けられているかのような、ピリピリした戦意を感じる。


「私は強いわよ?」


 おぉ。強いわよ宣言きたね。

 やっぱり俺の知ってる火乃花だわ。

 俺の事覚えててくれたら嬉しいんだけどな。

 今のところ初めまして的なノリだけど。


「俺は…強いかは分かんないけど、簡単に負けるつもりは無い。」

「そうこなくっちゃ。」


 ここで俺と火乃花は口を閉ざす。

 最早これ以上この場で話す事は無いからな。

 後は戦うだけだ。


「2人とも準備は良さそうだな。」


 金髪プロレスラーがニヤリと笑いながら言う。


「試験参加の奴ら、よく聞け。」


 あれ?試合開始の合図をするのかと思ったら、偉そうに話し始めたぞ。


「お前らは甘ちゃんだ。魔法使いってのは魔法を使えれば魔法使いって呼ばれる。けどな、街立魔法学院では魔法が使えるだけの奴なんて…魔法使いじゃぁ無い。魔法を生きる手段に使う奴が魔法使いだ。その視点で見た時、お前らの戦いは1部の奴らを除いて不合格レベル。」


 どよめきが生まれる。

 そりゃそうだよな。まだ3つ目の試験が残ってるってのに。

 てかさ、俺達以外の模擬戦全部終わってんじゃん。

 うわー。全員に見られるやつじゃん。


「だから、今回の模擬戦はこの2人を最後にさせてもらった。見て学べ。違いを理解しろ。ま、こいつらを選んだからって、こいつら2人が合格とは限らないけどな。最後の試験が全てを決める。そこでは、その前2つの試験内容なんて何も参考にはしない。ま、その2つの試験で落ちる奴らも沢山いるけどな。」


 おぉ。厳しいこった。

 てか、火乃花…すっげーつまんなそう。「早く模擬戦始めさせろ。」みたいな表情で金髪プロレスラーの事睨んでるよ。


「おし。余談は以上。霧崎火乃花、高嶺龍人、楽しませろよ?」


 金髪プロレスラーと目があっと俺と火乃花は無言で頷く。


「よーし。……………………始め!!」


 溜め過ぎじゃね?

 と思った瞬間、前方から中々に鋭い魔力反応が……。


「うわっち……!?」


 火矢が頬を掠めて飛んでいった。


「油断してると、すぐに負けるわよ?」


 火乃花は片手を俺に向けると、火渦を放ってくる。

 ヤバイな。初っ端から飛ばしてくんじゃん!

 俺は魔法壁で火渦を防ぎ、龍刀を取り出すと駆け出した。

 牽制とばかしに火刃が連続で飛んでくるが、水刃を放って空中で相殺させる。


「ちっ…!」


 火乃花は舌打ちしながら俺と距離を取るべく炎壁を出現させる。

 このまま突っ込んだら火ダルマだわな。何もしなければ…な!

 龍刀に水を纏わせ、斜めに斬り下ろす。

 水属性の斬撃は炎壁を簡単に斬り裂き、その隙間から火乃花の驚いた顔が覗く。

 そして、俺は魔法陣を2つ展開しながら、横一文字に斬撃を放ち炎壁を霧散させて火乃花へ斬撃を見舞う。


「甘いわ!」


 刃が届いた。かと思ったタイミングで火乃花はいつの間にか手に持っていた剣で受け止めていた。

 ギリギリと刀と剣の刃が鬩ぎ合う。


「やるね。」

「そっちも。」


 刃の向こうに見える顔を見て、互いに小さく笑う。

 こりゃあ強いな。真っ当に戦って勝てるか怪しいレベルの強さだ。

 それに、火乃花の使うこの武器って確か…。


「はぁっ!」


 火乃花は剣をグイッと押し込むと、俺の龍刀を斜め上に弾き上げた。なんつー馬鹿力だよ…!

 しかも、刀身から巨大な炎を噴き出しながら振り下ろしてきやがった。

 このままじゃ丸焼け龍人君の完成じゃねぇか!!!


「間に合え…!」


 2つの魔法陣を縦に重ねて発動させる。魔法陣直列励起によって威力を向上させた水流を炎に向けて撃つ。

 けど、まさかの事態が起きる。


「蒸発してる…?」


 そう。水流が炎に触れた場所から物凄い勢いで水蒸気化していくんだ。どんだけの熱量なんだよ!しかも、このままだと…。


「ここ!」


 火乃花が叫ぶと、彼女が持つ剣がグニャリと曲がる。熱と水による温度の急激な変化で刀身が歪んだ。…のでは無い。

 俺は…知ってる。何度もColony Worldで見たからな。

 あの武器は刃を鞭のように振るう事が出来るんだ。名前は…確か「焔鞭剣」だったか。鞭のようにしなる刃を振り回す攻撃は、回避するのが難しい。避けた先を狙って曲がってくるからな。

 そして、その通りに鞭状となった刃が水流を迂回して俺の脇腹へ突き刺さる。


「が…!?」


 致命傷に火乃花は勝ち誇った顔をし、周りで見ている試験参加者達からは悲鳴が幾つかあがる。

 激痛に顔を歪め、俺は地面に倒れる。


 …って見えるだろ?


 俺は倒れながら笑みを浮かべると…事前に展開していた魔法陣を発動させる。

 ピシャァン!という音と共に、電撃が火乃花の体を貫いた。


「きゃぁっ…!?」


 可愛い声を出すじゃないか。へっへっへ。拙者がもっと虐めてやろうではないか。

 なんてな。俺にイメプレ趣味はありません。

 今のはちょっとしたトリックを使ったんだ。

 火乃花の剣が鞭のようにしなるのを知っていたからこその戦法だったけどな。

 カラクリは単純。俺はColony Worldで火乃花と戦った時の経験から、脇腹辺りを狙われると予測して服の中に小さめの物理壁を展開する魔法陣を用意してたんだ。

 んで、刃が突き刺さる瞬間に防いだって訳だ。

 更に火乃花が油断した所でもう1つの魔法陣から電気を発生…と。

 予想が外れてたら見事に串刺しになってたけど。ま、その時は必死に避けてただろうね。今回は予想通りだったから敢えて攻撃を受けた訳だし。

 戦いは最後まで気を抜いちゃいけないね。


「う…うぅ…。」


 ガックリと膝をついた火乃花は、体から煙を上げながらも倒れる事は無かった。目も死んでない。また戦うつもりだ。

 …まじかよ。電撃の直撃食らっても戦えるのかい。


「まだ…よ。」

「……。」


 俺は倒れた振りを止めて起き上がると、無言で龍刀を構える。

 窮鼠猫を噛むって諺がある通り、追い詰められた時に何をしでかすかは分からない。

 油断なく、勝負を決める必要があるみたいだ。


「私は…負けられない!」


 短く叫んだ火乃花は焔鞭剣を投げ付けてくる。

 俺は龍刀で弾きながらも、違和感しか感じなかった。火乃花がこんな無様な戦い方を、何の策も無しに行うのか?という違和感。

 そして、その違和感は大当たりだった。


「真焔【戦神ノ業焔】。」


 立ち上がった火乃花が…スキルを使ったんだ。

 この世界ってスキルあったのかよ。

 しかもこのスキルって…。


「はぁぁぁあ!」


 火乃花の体に真紅の焔が纏わり付く。

 そして、俺の体は鳩尾に突き刺さった火乃花の拳によってくの字に折れ曲がっていた。

 あぁ…服の合間から見える谷間、くびれたウエスト、スラッと伸びた足……素敵だぜ!!

 吹っ飛ぶ直前、俺はそんな事を考えて現実逃避をしたのだった。

 だってよ…俺、これから壁に突き刺さるんだろうし。


 ほら。


 ドガァァン!!


 という激しい音を立てながら、校舎の壁に突き刺さった俺は意識を途切れさせたのだった。

 真っ暗になる直前に「やっぱり火乃花だ」なんて思って、ちょっと嬉しい気持ちになったのは秘密だ。だってさ、殴られて喜んでるドMみたいじゃん?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 入学試験の模擬戦が全て終わった事を確認すると、金髪プロレスラーは笑いたくなる衝動を抑えるのに必死だった。


(おいおい。あの女…霧崎火乃花だったか?…やるじやねぇか。2年か3年に迫る実力かもな。それに霧崎と言ったら「あの家系」だろう。となると、単純に強いだけじゃなくて、厄介事もあるか?今年の1年担当で良かったぜ。退屈しなさそうだわ。)


 勿論、霧崎火乃花1人だけで笑みが溢れそうなのではない。


(あの格闘野郎も根性ありそうだし、双銃を使う奴も中々の魔力操作だった。光魔法を使う女も派手じゃないが強い。なによりも…。)


 金髪プロレスラーは試験の様子を反芻する。


(高嶺龍人…。本人に自覚は薄そうだが、魔法陣を展開する魔法は聞いた事がねぇ。あーゆー特殊な奴が学院に入ると、問題が多発すんだよな。本人の意思を問わず。だが、それでこそ良い。生温い魔法学院生活なんて意味がない。良いじゃねぇか今年の受験生達!)


 火乃花との模擬戦で吹き飛ばされて壁に埋まった龍人が、担架で搬送されるのを確認すると金髪プロレスラーは隠す事なく、ニヤリと笑う。


「うっし。お疲れ様。これで2つ目までの試験は終了だ。今日行った魔力操作試験を合格出来なかった奴は、もう退場してもらった通り…不合格だ。んで、模擬戦では技術ではなく意志を見させてもらった。」


 受験生が騒めく。試験前に言われた内容と、食い違いがあると判断したからこその戸惑いだ。

 だが、金髪プロレスラーはその反応を鼻で笑う。


「お前ら…何を勘違いしてんだ?俺達は一切の嘘は言ってないぞ?戦闘内容を重視するとは言ったが、技術を見るとは言ってねぇ。勝手に誤った解釈をして、勝手に騒めくとか魔法使いの風上にも置けねぇな。街立魔法学院で学ぶつもりなら、幅広い視野を持て。」


 正論。

 故に受験生達は静まさるを得なかった。


「理解できたか?よし。3つ目の試験だが、今日の試験で全員が万全を期して臨めるよう、2日後に行う。各自抜かりなく準備しろよ。じゃあ解散!」


 金髪プロレスラーはそのまま校舎の方へ立ち去ろうとし、ピタリと足を止める。


「あ、そーいや自己紹介してなかったか?まぁ知ってる奴もいるとは思うが…、俺はラルフ=ローゼス。よろしくな。」


 そう言うと金髪プロレスラー…ラルフはニタリと笑ったのだった。

続きが気になった方は…

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