6-36.刺客との戦い
久々の更新でございます
胸を貫かれた舞頼が蹌踉めく。胸を押さえ苦悶の表情を浮かべた舞頼は、それでも冷静に胸を貫いたものが飛来した方向へ視線を向けた。
「むぅ…!これは、まさか奴らか。」
ドォン!と部屋の入口を蹴飛ばして入って来たのは、長ラン姿のリーゼント男達。手には銃みたいな武器を持ち、長ランの背中には愛蘇栗威夢の漢字が。
あれ、なんて読むんだ?あいす…あいすくりいむ。え、アイスクリーム?ヤンキーなのにアイスクリーム!?
いや、ヤンキーだってアイスが好きだろ。偏見は良くない。ヤンキーだって猫が好きかもしんない。可愛いものが好きなヤンキーだって沢山いる!その逆もまた然り!!
シリアスシーンに思考暴走。俺の良くない癖だなコレ。
「ひゃっはぁぁぁあああ!!良いねぇ!背後からぶち抜く、最高だねぇ!」
うわぁ…、典型的な悪者ヤンキー感がプンプンする。
「妾をこの程度で………倒せると思ったか?」
貫かれた胸を押さえながらも凛とした佇まいで立ち続ける舞頼。すっげー精神力だな…。
「うっるせぇ!俺達は、徳川舞頼…てめぇを殺せりゃぁなんでも良いんだよ!」
「ふん…あやつの犬が何を吠えようとも、取り合うつもりはないぞ。」
あやつ…織田重光の手先って事か。
「ヒャハハ!犬に噛まれて命を落とす阿呆も沢山いんだよ!高飛車女さんよぉ!?てめぇら、やっちまえ!」
「「「ヒャッハーーー!!!!」」」
ノリが、ノリが世紀末なのは気のせいか!?
ヤンキー達は銃からレーザーを乱射し始めた。レーサー銃って…なんでそんないきなり近代的な武器が!?
兎にも角にも、ここで舞頼を死なせるわけにはいかない。ならば、やる事はひとつだ。
「龍人化【護龍】!」
内側から力が溢れ、白い輝きが周囲に浮かぶ。
あら、なんか前よりもパワーアップしている気がする。白い輝きの他に赤い稲妻も俺の周りに発生してるんだが。
…って、余計な事を考えてる隙はないか!護龍障壁で舞頼を守らないと。
「………!?」
ギィィン!!!
真上から感じた殺気に反応して突き出した木刀に硬い感触が伝わる。
「くそっ!舞頼…!」
ヤンキー達のレーザーが舞頼を蜂の巣のように滅多刺しにする。
「ふっ。俺の相手をしながら舞頼を守るのかい?そんな健気な意気込み…俺の右手が疼いて仕方がない。これより始まる暗黒ショー。その主役である俺から逃れられると思うなよ?」
上から降ってくる台詞。…なんか、聞いた事ある言い回しのような。
「……なにぃ!?」
ヤンキーのリーダーっぽい奴が口から唾を飛ばしまくりながら叫ぶ。
「言っただろう。取り合わないと。」
ボロボロに身体を貫かれまくった舞頼の体が…紫電となって消えていく。
声が聞こえたのはそれまでいた場所の反対側。舞頼が面会者と会う時に座る椅子。
そこに、頬杖をつきながら、舞頼が冷めた表情で俺達を睥睨していた。
舞頼は大丈夫そうか。そんなら…。
「くっ……らぁ!!」
もう1本の木刀で俺の上にいる奴へ突きを繰り出す。
「おっと…!そんな単調な攻撃で俺を倒せるとは思うなよ。」
木刀に掛かっていた圧がフワッと消え、ヤンキー達の前に1人の男が舞い降りた。
あら?舞い降りたとか…ちょっと表現があれか?
気付かぬ間に相手の雰囲気に巻き込まれてる!?俺も厨二病ちっくになっちまうのか!?
って、アイツは。
「……香橋光秀!」
「ちゃんと俺の名前を覚えていたか。」
フッと遠い目をしながら謎のポーズをとる光秀。
右足をチョイっと前に出して、両手を頭の後ろに持っていって腰をクネッと…なんて香ばしいポーズなんだ!!
「龍人…俺とお前は縁があるようだ。運命の悪戯か、必然か。いずれにせよ、赤火と雨の都で出会ったのを発端に、黒水と雪の都では格闘技場で会い、怪盗アーベルハイトとしても戦い…ある意味で俺たちは好敵手と言えるだろうな。」
……え。今、なんて言った?
「おい、お前が……怪盗だったのか?」
「そうだ。」
「まじかよ。」
確かに怪盗アーベルハイトの言動は変だなと思った記憶はあるけど、まさか光秀だったとは。
「その反応…気づいていなかったのか!?」
「あぁ。」
「そうか。俺の実力もまだまだ及ばぬな。」
なんの実力だし。
「まぁ良いか。そんな話題に付き合うつもりはない。」
いや、俺も無いし。ってか光秀が勝手に話進めてるし。
「改めて自己紹介をさせてもらおうか。深淵の闇が、その牙を剥く前にな。」
意味わからんし。
「俺の名は香橋光秀。織田家暗部にして暗殺のスペシャリスト。深淵を覗く時、闇もまた俺を覗いている。俺は闇の力を受け継ぎし物にして、封印せし右腕を護る者。俺の右腕が如何に渦こうとも、解放する事は無い。故に安心せよ。時にナゾの仮面格闘者、時に怪盗として世を渡り歩く。それこそが俺の宿命にして運命。この道を阻む者、お前達をこの場にて深淵の闇へと落としてみせよう!!」
……………はい?
「……つまり?」
ジャッキィン!と香ばしいポーズが決まる。右手を後ろへ反らせ、左手で顔を隠し、疾走前の体勢みたいな感じ?
「俺が勝つ!」
…えぇ。
「うむ。龍人、そこの香ばしい奴は任せよう。妾は素行の悪い輩共を徹底的に叩き潰す。」
「えぇ…?」
「不服か?」
うわっ。めっちゃ視線が怖いんですが。
「龍人ちゃん、頑張るんじゃのう。」
チヨばぁちゃんまで!?……しゃーないか。
「分かったよ分かりましたよ。」
「うむ。それでこそ、この場にいる意味があるというもの。」
「そうか。龍人が俺の相手をするか。もしや…これは前世からの因縁か?俺と龍人の間には、誰にも知られぬ残酷な運命の糸が張り巡らされているのかも知れないな。」
「そうかもな。なので、お前と運命の糸で結ばれるのは嫌なんで、引きちぎらせてもらう。」
「ははっ!それでこそ運命の宿敵!その風貌も俺が見た事の無い力。宿敵にして難敵。俺の封印されし力を、解放させられるか試してみるが良い!」
「んっと、うん。」
「はははっ!俺に封印されし力に畏怖を感じたか!?戦う前から感じるとは…お前にも古の力が宿っているのかもしれないな!?」
俺が畏怖を感じたのは、光秀の思考力…妄想力?だ。決して封印されし力に畏怖なんて感じていない。
つーか、光秀と話していると、その独特過ぎる最悪な世界観に思考が少しずつ飲み込まれていくんだが。
「はははっ!思考が歪み始めたな!?それこそ、俺と同じ領域に足を踏み入れている証拠!恐れるな。受け入れろ!それこそが封印されし力と向き合い、己が命を賭して宿命に立ち向かう前提となる!」
もう、いいかな?
「そして、深淵の闇から奴らがその力の一端を覗かせ、お前の足を絡め取った時こそが好機!闇を覗き返し、力を己が物として取り込むのだ!そうする事で、我らが宿願は果たされる!」
よし。
「故に…」
「龍人化【護龍】。」
「我が疼く右眼を…。」
「龍劔術【双刀6連閃】!」
ズガガガガガン!っと、連撃を光秀の胴体へ叩き込む。
「ぐっはぁっ!?不意打ちは卑怯だぞ!?」
「いや、敵だし。」
「くっ…その潔さ。我がライバルに相応しいかも知れないな。ならば、俺と死のロンドを踊ろうでは…」
「龍劔術【双刀6連閃】!」
ズガガガガガン!っと、再び叩き込む。
……つーか、2回とも全ての攻撃がクリーンヒットしてんのに、タフすぎねぇか?
「っはっはっはぁ!効かないな。」
光秀が再び香ばしいポーズを披露する。腰をクイッと入れながら、俺を指差しつつ…反対側の手は肘を後ろに引きつつ指先を喉元に添えている。
「では、演ろうか。死の演目を。」
光秀の雰囲気が変わった。
香ばしいポーズの中に、狂気的な鋭さが混ざったぞ。
「まずは小手調べといこう。」
光秀の姿が…ブレた。速い!
キィンキィンキィン!!
真横からの斬撃を魔力刃を纏わせた木刀で防ぎつつ、回し蹴りを光秀に叩き込んで距離を取る。
「良い反応だ。」
両手に持った黒い短刀をクルクル回した光秀がニタリと笑う。
いつの間に短刀を取り出したんだ…?一瞬で俺の側面に移動しつつ、両手に武器を取り出した?
「深淵の襲撃を受けてみるが良い!」
光秀が何かを投げる。
黒い投擲物は弧を描くようにして飛んでくる。この程度なら全然余裕で弾けそうだ。
「うらっ!」
両手の木刀で投擲物を薙ぎ払い、光秀への距離を詰める。必中のタイミング!
「ははっ!そう簡単に攻撃が終わるとでも?」
「あ?」
斬撃を繰り出そうと木刀を振りかぶった耳に微かな飛翔音が飛び込んできた。まさか…!
バッと後ろを見ると、俺が弾いたはずの黒い投擲物がすぐそこまで迫っていた。
「ぐっ…!」
無理やり体を捻って回避する。
「常闇は常にお前の命を狙う!」
ギリギリのタイミングで回避に成功…した俺の脇腹に光秀の蹴りが突き刺さった。物凄い威力に視界が回転する。
どーなってんだ。動きが全く予測できない。
「俺の能力を捉えられぬ限り、お前は闇を統べる俺と同列に立つ事は出来ない。」
悠然と蟷螂みたいなポーズを取る光秀…なんかすっげぇ悔しいんだが!
いやいや…落ち着け俺。今大事なのは、光秀の能力を把握する事だ。あの黒い投擲物の正体が分からないと、対策の立てようも無いよな。
防御だけしていても、光秀が有利に立ち回るだけだから…一旦攻めてみるか。
「んじゃぁ、行くぞ!」
「はははっ!かかって来い!」
木刀を抜刀術のように振り抜く。魔力を纏わせて…飛ばすイメージ!前に赤火と雨の都で使った技だ。
空気を切り裂いて飛翔する魔力刃を見ても、光秀から余裕の表情は消えないか。
「その技は把握済みだ!」
ヒラリと宙を舞うような動きで魔力刃を避けた光秀は、右腕を素早く動かした。…また黒い投擲物か!
避ける…じゃぁ駄目だ。攻める!
投擲物に向けて走り、激突する直前で護龍障壁を展開する。
「これは…石?」
護龍障壁に激突して動きを止めた黒くてゴツゴツしたそれは、どう見ても石にしか見えなかった。石を投げてるのか?徳川家の屋敷内で石。しかも真っ黒。違和感しかない。
「速度を上げるか。」
光秀を防戦に追い込めれば…余裕が無くなれば、能力を隠し切ることも出来ないはず。
魔力による身体能力強化。速度寄りで調整。
ギュンッ!と体感速度が一気に変化する。
光秀へ魔力刃を纏わせた木刀の連続攻撃を放つ。
「中々の速度。だか…!」
言動は変でも織田家に暗殺者として雇われるだけはある。いつの間にか両手に持った短刀で俺の攻撃を難なく捌きやがる。
そんなら…!
「らぁっ!」
足元で魔力を爆発させるようにして、瞬間的な突撃速度を上げる。その速度に乗せて突き!!
「ぬぉっ!」
直撃!となる予定だったけど、光秀はグネンっと体を折り曲げで突きを避ける。
またしても攻撃が外された。
でも…。
「これだ!」
「なっ…しまっ…!?」
突きと同時に光秀の横を通り過ぎた俺の目の前に出現したのは、護龍障壁。それを足場に強引に軌道変更をして光秀の懐へ潜り込む。
「龍劔術【双刀6連閃】!
至近距離からのスキル連撃。
ガガガガガガ!と、硬いものに斬撃が阻まれた。
「…ふむ。こうもあっさりと能力をバラす事になるとは。」
木刀6連撃を防いだのは、黒い防御結界?
結界にしては…斬撃が当たった所からパラパラと砂みたいなのが落ちてんだよな。
この結界が能力のバラす…?つまり、これが能力。砂……。もしかして。
「お前の能力…砂鉄か。」
「我が宿敵よ。良い洞察力だ。だが、少し違う。それでは封印されし深淵の王へお目通りは叶わない。」
「あん?」
光秀の結界を迂回しつつ、刺突を連続で打ち込む。攻撃が線の斬撃よりも、点の刺突の方が防ぎにくいはず!
「おっと…考えたな!」
幾つかの刺突が結界を避けて光秀へ迫る。が、ヒラリと躱されてしまう。
つーか、今…刺突に対して結界ってか黒い皿みたいになって防がれたな。
砂鉄を操る能力…強い。要は自由自在に砂鉄を操って、自由な形状に変化して攻撃も防御も出来るってわけだ。
ブリティの属性【砂】とだいぶ似てるな。つーか、ほぼ一緒?砂じゃなくて砂鉄だから…硬度はこっちの方が高い気もするけど。
でも、砂鉄が能力ってのに「少し違う」って言ってたって事は、まだ把握出来ていない能力があるって前提で戦った方が良いか。
「さぁて、守ってばかりでも面白くない。闇の暗殺術を披露しよう。」
砂鉄が光秀の両手へ集まり、短刀を形作った。つーか、砂鉄の集まりってか普通に黒い鉄に見えるのは気のせいか?
「お前の双刀術と、俺の短刀二刀流。どちらが上かな?」
スッと光秀の姿が消える。
…ここだ!振り上げた右手の木刀へ強い衝撃が加わった。
カァン!
金属を叩く甲高い音が伸び…って、
「いってぇ!?」
めっちゃくちゃ硬いものを叩いたみたいな衝撃に手が痺れたんだが!?
見ると、俺の木刀が叩いたのは光秀に似た鉄人形だった。もしかして…。
「さて、そろそろ気付いたか?」
声が聞こえたのは…上。降り注ぐは短剣の嵐。
咄嗟に横っ飛びで回避するも、左肩に短剣が突き刺さってしまう。
「ぐ……。」
くそ。痛みに視界がチカチカする。
砂鉄…が鉄になった?砂鉄を凝縮したのか…でも、そんな簡単に細かい砂鉄を大きな鉄塊に出来るとは思えない。
「ははっ!ヌルいぞ龍人。」
ズッキュゥン!みたいなポーズを取った光秀が肩を揺らして笑う。周りに浮かんでいる鉄塊が物騒極まりない。
「深淵に立ち向かう者は、深淵に覗かれている事を理解しなければならない。故に、深淵を飲み込む闇をその身に纏う必要があるわけだ。」
相変わらず何を言っているか良く分からないけど…強いのは確かだ。なんか悔しい。
「さて、龍人。お前は真の闇を手に入れるにはまだまだ未熟。従って、ここで闇の試練を与える。俺の攻撃を、生き延びてみせろ!」
「試練って…。」
「問答無用!」
光秀の周りに浮かんでいた幾つかの鉄塊が、グニャリとその姿を変えた。