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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-35.紫電

 徳川舞頼の母であるチヨばぁちゃんから「娘を守って欲しい」という依頼を受け、俺はチヨばぁちゃんと一緒に娘の徳川忍者舞頼の所へ向かっていた。


「ほれっ急ぐんじゃのぅ。」

「わーってるって。変な所を触られなければ、もう少しスピード出せるからなっ!?」

「むぅ?人は本能には逆らえんのじゃのぅ。」

「理性で本能を抑えろし!」

「もう年老いたからのぉ。本能には勝てんのじゃなぁ。」

「んなアホな!」


 と、漫才みたいなやり取りを繰り返しながら大通りを進んでいると、脇道から見知った集団がゾロゾロと出てきた。


「お?…!?おっす!龍人さん!!お久しぶりです!」


 その中の1人が俺に気付いて大きな声を出すと、道着を着た他の面々も次々と挨拶を始めた。


「うっす!」

「おす!」

「ちわっす!」

「最近来てくれないから、心配しておりました!」

「や、やぁ。」


 こんなに慕われる感じだったっけ…?

 確かに一時期はちょいちょい関わってたけど。

 何を隠そう、彼らは道場破りの設定で何度か戦った道場の面々だ。

 こいつら、毎回容赦なく襲ってくるから…本当に毎回の依頼で戦うのが大変だった…!依頼の後も修行の名目で何回か手伝ってもらったっけか。

 こいつらのお陰で、剣術のレベルを上げられたのは間違いないから、感謝しても仕切れない奴らだ。


「龍人、元気してたんですかな!?」


 最初に俺へ声を掛けた紺の武道着に赤いマフラー。いや、布?を首に巻いた男…ビスト=ブルートが、手をブンブンしながら近寄ってくる。相変わらずの暑苦しいテンション…久々だと逆に心地よいかも!この独特?特徴的?な語尾も懐かしく感じるぜ!


「ビスト!久しぶりじゃん!元気だったか?」

「勿論ですな。龍人に教わった考え方を取り入れて、師範として皆の武力向上に日々努めているんですな。」


 俺の考え方…あぁ、技の練習だけしていてもしょうがなくて、実戦を意識した修行。的な話だっけ?

 そもそも、あの時は全員と戦っていたら体が保たないから、全力で各部屋で待ち構えていた武道家達を無視して走り抜けただけなんだけどね…。その行動を「実践重視」と解釈するってのは、相当な向上心の持ち主だよビストは。


「はは…。そりゃあ良かった。あの後も何度か道場の皆と手合わせをさせてもらって、感謝してるよ。」

「うむうむ。ですな。いずれオラも龍人と手合わせをしてみたいものですな。」

「そういや…俺とビストで試合をした事無かったな。」

「そうなんですな。どちらが強いか試してみたいんですな!」


 ニカっと笑うビストの笑顔が眩しい…!

 実際問題、俺とビストはどっちが強いんだろう。ビストの弟子達と戦ってギリ勝てる程度だから…、そう考えるとビストの方が強そうな気もするなぁ。

 服装的には疾風怒濤の格闘家!みたいな雰囲気あるし。でも、剣術と格闘家だと俺の方が得物を使う分…リーチ的には有利なのかな。

 シュシュシュッとシャドーパンチをしてみせたビストが、ハッと首を傾げた。


「ところで、これからどこに行くんですな?」

「ん?ミューチュエルの依頼でチヨばぁちゃんのお守りだ。」

「それは大変なんですな。そう言えば…この前、龍人がそちらのご老人と大量の荷物を運んでいるのを見たのですな。」

「だろ?まぁポジティブに考えれば良い筋トレにはなるけどね。」

「なんじゃぁ?それじゃぁアタシが龍人ちゃんを虐めているみたいじゃのぉ。それに、アタシはまだまだピチピチなんじゃぁよ?」

「いやいや。依頼だから虐めだなんてとんでもない。」


 ピチピチの部分は全力スルーだ!!


「ほほぅ…?本音は?」

「ちょっとだけ、今回も来たか荷物持ち!とは思うかな。」

「ふむ。なら、今日はいつもの倍は働いてもらわんとのぉ。」

「…うへぇ。」

「ははは!ひぃっ〜!面白いんですな!」


 ビストの奴、涙目で笑ってやがるし。


「ったく。てか、ビスト達はこれからどこに行くんだ?」

「うむ。これから白金シティの広場で選挙前日の最終演説があるから、皆とそれを聞きに行くんですな。織田家の一員としては、徳川家がどんな話をするのかも気になるんですな。」

「えっ、ビストって織田家の家臣だったの?」

「あれ?言ってなかったんですかな?家臣と言っても、週に1回武術を教えているだけなんですな。」

「へぇ。すげぇじゃん。」


 …マジか。織田家家臣って事は、徳川家の対抗勢力…つまり、俺達の敵になるかもしれないのか。


「明日が投票日だもんな。」

「そうなんですな!ついさっきも、織田家のテーマパーク事業の素晴らしさを道場の皆に話していた所なんですな!子供達の遊ぶ場所が増えて、観光客も増えて、尚且つ綺麗な紅葉原の風景も残る!最高なんですな!」

「そ、そうだな。」

「またビスト師範が織田政権の布教を始めましたね。」

「ビスト師範がこの話をすると長いですからねぇ。」

「でも、熱意は伝わります!お陰様で俺達、すっかり織田政権推しになりましたし。」


 道場の皆はビストを見ながら微笑ましい顔をしていた。

 きっと、毎回熱く語ってるんだろうな。

 でも、広場か…。

 いや……考えるのはよそう。


「しまったんですなっ。ついつい熱くなりかけたんですな。因みに…龍人はもうどちらに投票するか決めたんですな?」

「いやぁまだだな。今日一日、ギリギリまで考えようかなって思ってるよ。なんたってこの星に来てからそんなに経ってないから、そこまで詳しくもないし。」

「そうだったんですな。もし、織田家の話を聞きたかったら、いつでもオラの所に来るんですな!」

「龍人さん!来たら帰れなくなりますよ!」


 囃し立てた弟子を見たビストがニヤリと笑う。


「その時は一緒に聞かせてあげるんですな。」

「えっ!?遠慮…」

「問答無用なんですな。」

「そ、そんなぁ。」


 がっくしと肩を落とす弟子を見て皆がケラケラと笑う。

 本当に仲が良いな。互いに信頼関係で結ばれているのがよく分かる。


「はっ。そろそろ広場に行かないと、良い席が取れないんですな!じゃあ龍人、また今度道場へ遊びに来るんですな!」


 ニカっと笑うと、ビストは手をブンブン振りながら広場の方へ駆け足で去って行った。連れの弟子達もドタドタと追いかけていく。


「嵐のように落ち着きがない男じゃのぅ。じゃが…あやつ、強いのぅ。」

「だろうな。あんなに気さくなのに隙が無いもんな。」

「……して、広場に行かせてよいんかのぅ?」

「それな。でもさ、行くのを止めたら不自然だろ。」

「うむ。じゃが、事と次第によっては酷な現実が待っておるのぉ。」

「あぁ、分かってる。分かってるさ。」


 そうなんだよな。俺は舞頼の所へ、ミリアは秘宝を入手しに、クルルは……広場へ。その目的が。


「龍人ちゃん、急ぐのじゃよぉ。」

「お、そうだった。少し時間取られちまったし、走るか!」


 チヨばぁちゃん抱っこで走る!


 走る!


 走る!


 …遠いぜ!!!


 走る!変なところを触られる!走る!!!


 ………………。


「はぁっ…はぁっ…!はぁっ…!」


 久々に必死の全力ダッシュをした気がする。

 チヨばぁちゃんが途中で「スピードを落としたらお嫁に行けなくしてあげるわぁ」とか言うもんだから、そりゃぁもう死に物狂いでしたとも!!

 俺のそんな心情を知ってか知らずしてか、抱っこ終了のチヨばぁちゃんは真剣な顔で徳川家の屋敷を見ていた。


「これは不味いんじゃのぉ。」

「はぁ、はぁ…な、なにが?」

「これから投票日前日の最終演説が広場で行われる。両陣営とも、そこの演説でどれだけの民衆の心を動かせるかが重要なんじゃよぉ。必然、広場の選挙へ咲く人員は増えるんじゃぁ。」

「あら?ってなると、舞頼も広場か?」

「それは無いはずじゃぁ。演説前半は陣営の者達が話し、最後に両家当主が登場するのが習わしなんじゃぁ。」

「…つまり、今、徳川家の警備は手薄。そこを狙われると。」

「うむ。正確には…もう織田家の者が侵入しているんじゃぁ。手遅れの可能性も…あるんじゃのぅ。」


 おいおい。必死の思いでたどり着いて間に合わないとか…認められねぇぞ。必死の方面が違ったのには蓋をするべし!


「チヨばぁちゃん、行くぞ!」

「うむ、頼んだんじゃぁ。」


 ピョンっとチヨばぁちゃんが飛んで背中にしがみついた。…最初からそうしろし!今は突っ込まないけれども!


「道案内頼む!」

「任せるんじゃぁ。即死トラップ多数じゃからのぉ。」


 かくして、俺とチヨばぁちゃんは徳川家内へ突入した。

 徳川家内のトラップは、エグかった。チヨばぁちゃんが居なかったら…この世とおさらばしていたかも知れない。忍者って怖い。

 つーか、徳川家…どんだけ凶悪なトラップを仕掛けてんだし!この前俺達が通った通路もトラップだらけだったし。


 とにもかくにも、俺たちは無事に目的地へ到達する。


「…!着いたぞ!」


 舞頼がいるであろう部屋へ到着した俺たちが見たのは…。


 背後から忍者が舞頼を突き刺そうとしている光景。

 背中のチヨばぁちゃんがすかさず叫ぶ。


「龍人ちゃん、頼むんじゃのぅ!」

「……おう!!」


 忍者の刀が背後から舞頼の胸に突き立つのを阻止すべく、これまで培ったものをフル活用する。


 無詠唱魔法による身体能力強化、木刀を右手に構え…これは?


「やるっきゃねぇ!!龍劔術【牙突閃】!」


 頭にふと浮かんだスキル名を叫ぶ。

 体が自然と動き、刺突を放った木刀から魔力刃の刺突が尾を引いて飛翔、舞頼に突き刺さる筈だった忍者の刀を弾き飛ばした。


「ぐぬぅ!隠していたのは互い様ということか!」

「…ふむ。これは妾の想定外。しかし、助かった。」


 動揺を露わにする徳川忍者を一瞥した舞頼の右手が紫の残像を描く。


「かはっ…!」


 胸元を斬り裂かれた徳川忍者が血飛沫を上げながら倒れた。

 マジで間一髪のタイミングだったな!てか、今の斬撃…全く目で追えなかったんだが。徳川家当主の実力は相当なもんだな。


「龍人ちゃん、よくやったんじゃのぉ。」

「ほぅ、母殿がここに来るとは。どんな気紛れだ?」

「おいおい。チヨばぁちゃんは舞頼…あんたを心配してミューチュエルへ依頼したってのに、その言い方はないだろ。」

「徳川家当主の妾にその物言い…む?そもそも、そなたは誰だ。」

「誰だって…つい最近この場所であったんだけど…。」


 目を細めた舞頼は俺の顔をじっと見つめると、薄く笑う。


「冗談だ。我は一度会った者の顔と名前は忘れぬ。それにしてもお主…この短期間で纏う雰囲気が変わったな。何か覚悟をしたか、力を得たか。何れにしても少しは役に立ちそうだな。」

「役に立つって…俺に何かさせるつもりなのか?」

「うむ。これから織田家への報復を行う。手伝え。」

「はぁ!?」

「舞頼……それは認められないんじゃぁ。徳川家当主として違う戦い方があるじゃろぉ。」

「母殿とは話しておらぬ。妾が助力を請うているのは龍人殿。引退した老人は黙っておれ。」

「舞頼…….主は……何を求めておる。」

「無論、この星の平和。民が幸せに過ごせるように。その為にも、悪は断たねばならぬ。」

「それは……あの一家を」

「口を慎め。妾の母殿と言えども、無駄口は許さぬ。して龍人殿、妾の為に動くか?」

「むぅ………」


 今の話…きっと舞頼なりの考え、信念があるんだろうな。チヨばぁちゃんはそれを知っているみたいだけど。


 でも。


 だからと言って、報復に力を貸して良いのだろうか。


「どうした?何を悩む。選挙という公平な手段を軽視し、妾を暗殺しようとする織田家…そのような悪を見逃す事こそが罪だと思わぬか?」


 揺るがぬ眼差しが俺を射抜く。

 舞頼の言っていることは間違っていない。


「決めた。」

「うむ。なら、早速妾と織田家に乗り込もうぞ。」

「俺は舞頼、お前を止める。」

「ほぅ…?」


 視線が鋭くなり、空間の温度が下がる。ビリビリと放たれるプレッシャーが、溜められた電気が放電されたかのようにバチバチと襲ってくる。

 ……怖っ!けど、ダメだ。これだけは譲れない。


「俺は、全てを護る。甘いかも知れない。けど、そこだけは譲れない。敵を殺す方がきっと、ずっと楽だ。それでも、俺は困難な道を進むって決めた。誰かを犠牲にする事なく、全てを護って全てを倒してやる。」

「なら…。」


 舞頼の持つ白銀の刀身。その切先が俺へと向けられた。


「妾に力添えが出来ないという事だな?」

「あぁ。少なくとも、織田家へ復讐をするってんなら…俺は止める立場だ。」

「ふん…。不器用な生き方よ。ならば、お主の信念を実力にて証明するが良い。出来ぬのなら妾は織田家に向かう迄。お主の信念が妾の行動を変えるに足るものか、見せてみよ。」


 バチィッ!!と紫電が空間を駆け巡り、舞頼の姿が消える。

 空間中からバチィ!という電気が爆ぜる音だけが聞こえる。これは、一瞬でも気を抜いたら負ける。


…………。


「…ここだ!」


 真横から感じた殺気に反応して、両手で握った木刀を水平に振り抜いた。


 カンッ!


 と、ぶつかる感触が手に伝わる。ビンゴ!

 …いや、感触が軽すぎないか?

 そう思った直後、俺の顔を影が覆った。正体は弧を描くように体をしならせながら、俺の上を飛び越える舞頼。

 その手に持った刀の峰部分が俺の木刀に触れていた。


「…まじかよ。」


 つまり、舞頼は俺の横から殺気を放って攻撃を誘導し、斬撃に対して刀の峰を当てて…俺が攻撃を防いだと誤認するように誘導。

 そして、今、俺の上にいる。無防備な俺の上に。

 あ、これ…真上から叩っ斬られるやつじゃん。


 ドゴォッ!


「かふっ…!?」


 脇腹から響いた衝撃に吹き飛ばされる。想定外の方向から与えられた衝撃が体を突き抜けた。

 ドン!と背中が何かにぶつかって動きが止まった。

 何が起きた?今、俺は確かに負けを確信した筈なのに。真上から斬られるはずだったんじゃないのか。


 受けた衝撃で視界と思考が判然としない中、コツコツと近寄る足音が聞こえた。


「龍人殿よ。大した魔力も使わずに先の反応。中々の素質だ。今の蹴りはその素質を見込んでの恩赦。潔く妾に抗するのを諦めよ。」


 蹴りでこの衝撃かよ…。つーか、あの体勢から蹴りを放てるのか。


「寧ろ、助力すれば織田家を潰した後、稽古をつけてやっても良い。どうだ。このような好条件、武を嗜むものなら受けるべきだろう。」

「ぐ…それと……これとは…別だ。」

「ここまで力の差を見せつけられても揺るがぬか。…惜しい男よ。ならば、望み通り妾を阻めぬようにしてやろう。」


 舞頼の表情が一瞬だけ曇った…?気のせいか?

 感情が読み取れない冷たい目線で俺を睥睨して刀を納めると、手のひらを俺へと翳す。

 強力な魔力圧が発せられて、紫電が舞頼の掌に集まっていく。

 マズい。この紫電…ヤバいぞ。

 どうにか動いて避けるなり、防ぐなりしないと…!


「さぁ、眠るが良い。お主が起きた時には全てが終わっているだろう。」


 ギュン!

 ギュンギュンギュン!


 耳慣れない音が聞こえた。

 そして、白い光が………舞頼の胸を突き抜けた。

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