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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-34.襲撃

 絢爛豪華な造りが目を引く一室。

 その入口反対側の壁付近に設置された…これまた絢爛豪華な椅子に座る男は、部屋の中央にある台座の上にある物を見て笑みを浮かべた。


「そろそろ頃合いですかねぇ。」

「はっ。準備は整っています。」


 照明の影からユラリと姿を現したのは忍者装束に身を包んだ…男。

 この星に於いて忍者とは徳川家、織田家に属するどちらかの勢力である。

 そして、徳川家の忍者は女…つまりくノ一。通称で徳川忍者とよばれる事が殆どだが、徳川忍者と言えばくノ一。くノ一と言えば徳川忍者でる。


 逆もまた然り。男は織田忍者。

 何故、性別で両家の忍者勢力が分かれたのかは定かではない。しかし、それが現実であり、周知の事実。

 故に、疑問を持つ者がいない事もまた事実。


 さて、この事実から…男の忍者…つまり織田忍者が姿を現した相手の正体も自然と分かる。

 筋骨隆々の腕を組み、白髪の隙間から覗く眼光は冷徹。

 この男こそが織田家当主を務める織田重光である。縁が水色で彩られた白の羽織に金の羽衣。あんたは天女か!?と、突っ込まれそうな程度には優雅な見た目である。しかし、違和感が全くないのもまた事実。


「人数はどうするつもりですか?」

「はっ。精鋭を10名で予定しております。」

「そうですか。可もなく不可もなくな人数ですね。明日が選挙戦投票日。ここで徳川家を潰さなければ、奴らがどう出るか分かりませんからね。失敗は許されないのですよ。這いつくばってでも使命を全うしてもらいたいですね。」

「勿論でございます。この命に変えても。」

「ふんっ。命に変えても?そういう、自らの命を軽んじる者に限って失敗するんですよ。そのクソみたいな犠牲心はすぐに改める必要がありますね。」

「…!も、申し訳…」


 織田忍者は謝罪を最後まで続ける事が出来ない。風切り音に続き液体が溢れる音が奏でられたり


「これは…素晴らしい。」


 重光が握ったソレから滴る血液が床を濡らしていく。言葉を紡ぐ事も、命を紡ぐ事すらも奪われた織田忍者の体から流れ出る血液と混じり、床にドス黒い赤が広がっていく。

 部屋中央の台座に置かれていた筈のソレ…ギラギラと鈍く輝く刀を振って血液を飛ばすと、重光の瞳が暗く輝いた。


「この力…これは、勝利を齎しそうですねぇ。…お前ら。」

「「「はっ!!」」」


 部屋の入り口付近に控えていた9人の織田忍者達が、一糸乱れぬ動きで重光の声に反応した。俯き加減の顔から表情は窺えないが、全員の腕が、指先が恐怖によって小刻みに震えているのは致し方のない事であろう。

 部下達が恐怖に震えているという事実に興味がないのか、重光はうっとりと刀を眺める。


「今すぐ人員を20名確保して、任務に当たりなさい。」

「し、しかし重光様のごえっ…」


 意義を唱えた織田忍者の命が体と共に斬り裂かれた。


「あと、何人死ぬのでしょうかねぇ?」

「直ちに実行致します!!!」


 シュシュシュシュッ!と織田忍者達が、ある意味で逃げるように姿を消していった。


「さぁ…ここからが本番です。徳川家にも、奴らにも…そして、糞野郎どもにもこの星は渡しません。白金と紅葉の都を繁栄させるのは、織田家ですよ。」


 強い決心と共に呟いた言葉は、絢爛豪華な空間へ吸い込まれていった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「全く…難儀な依頼ですわね。」


 大きくため息を吐いて豊満な胸を揺らすマーガレットが居るのは、白金と紅葉の都の白金シティメイン通りにある雑貨店だ。

 可愛らしいキーホルダーを手に取って眺めながらも、本人は全く楽しそうではなかった。寧ろ、先の言葉通りに不満タラタラである。


「しかし、俺と雑貨探しデートを出来るのは嬉しい限りだろう?2人だけの幸せな時間を今は満喫しようじゃない….ぐはぁっ…!?」


 金髪を右手で掻き上げながら、色気たっぷりの流し目を送ったフルが店の外へ吹っ飛ばされた。異常者の行動だが一部の者からしたら「日常」の光景だったりもする。


「ガァッハッハ!良いエルボーだマーガレット。だが、ここで騒いでいると目を付けられて依頼遂行に害をきたすぞ?」


 2メートルはある巨躯を商品にぶつけないように注意しながら、オルゴールを眺めていたレオが笑う。


「レオ…貴方、今の状況を分かっていますの?」

「勿論。今回の依頼は難易度がかなり高い。目的以外の詳細はほぼ皆無だ。」

「そうですわ。自星ではなく、部外者である他星で…裏の情報を調べるのは正直無理に等しいのですわ。」

「だが、部外者だからこそ手に入れられる情報があるかもしれないだろう?それが故の依頼だと踏んでいる。」

「そうなのですけれど…。」

「ふふっ!大丈夫だ。この俺が最高の色気で女性を陥落させて情報を引き出してみせるよ。」

「貴方は自分の色気に疑問を持つべきですわ。」

「なんと!…そうか、マーガレット、君は嫉妬しているのだね。俺が他の女性に近づく事が嫌なのだね!?ふぐぅっ!?」


 フルが再び店の外へ吹っ飛んでいく。

 横に突き出した左脚を戻すとマーガレットは肩に掛かった髪を払う。


「…部外者だからこそ。というのは新しい視点ですわね。」

「ほう。何か思いついたか?」


 マーガレットはレオを見上げると、不敵な笑みを浮かべた。


「えぇ。DONに直接行きましょう。」

「…マジ?」

「大マジですわ。」


 金髪縦ロールを揺らしながら、マーガレットは迷いなき足取りで雑貨店を後にする。

 店の外では急所に打撃を受けたフルが蹲っていたが、安否を気にする事は無い。だって、いつも通りなのだから。


「フル。いつまで寝ているのですか。行きますわよ。」

「はぁぁ!圧倒的な暴力の後の、圧倒的な優しさ!これこそが飴と鞭…いや、鞭と雨の極地なのだね!?」

「うっさいぞお前。」

「がはっ!?」


 相変わらず気持ち悪い動きをするフルの鳩尾にレオの鉄拳がめり込んだ。

 容赦ない鉄拳によって意識を手放したフルは、口から半分だけ魂を出しながらレオの肩に担がれる。


「作戦は?」

「そうですわね…。道中で話しますわ。善は急げですわ。」


 マーガレット達は気付いていなかった。

 自分達の行動が悪い意味でとっても目立っている事を。

 魔法街では当たり前の行動が、他星では異常な行動となっている事に。


 唯一の救いは、これによって特に害となるデメリットが生じなかった事だろう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 チヨばぁちゃんの依頼について詳細を聞いた後、クルルから行動方針を聞いた俺たちはすぐに行動を開始した。

 俺は徳川家へ。ミリアは秘宝を手に入れる為に巨大紅葉へ。

 本当は2人で一緒に行動をしたかったんだけど、チヨばぁちゃんの依頼内容が急を要する内容だった為に…止むなく別行動になったんだよね。


「つーか…チヨばぁちゃんって舞頼のお母さんだったのかよ。」

「言ってなかったかのぉ?自慢の娘じゃよ。」

「そりゃぁ徳川家当主だもんな。」

「それはそれじゃのぉ。あの娘は、優しい子じゃてのぉ。それなのに当主として非情な選択もしておる。中々出来る事ではないんじゃのぉ。」

「当主ってそういうもんなのかねぇ…うわっ。」


 チヨばぁちゃんと徳川家へ向かうべく白金ストリートのメイン通りを歩いていると、雑貨店から金髪の男が吹っ飛んできた。えっなに?喧嘩か?


「うむ。中々に面白い者達が来ているみたいじゃのぉ。」

「面白いっていうか…。」


 遠巻きに見ていると、雑貨店から出てきた金髪縦ロールの女と背が高くてめっちゃガタイが良い男が金髪の男に一撃を叩き込んで担いで歩き出した。

 えぇっと…これは誘拐現場ではなくて、きっと仲間同士の喧嘩なんだろうね?

 にしてもあの金髪縦ロール女、めっちゃスタイル良いな。ザ・お嬢様って感じ。


「ん〜?」

「どうしたんじゃのぉ?」

「いや、なんかあの3人、見た事が…あるような無いような。……まぁ気のせいか。あんなに破天荒な行動をしてる奴らを忘れる訳ないもんな。」

「…ふむ。それはそうじゃのぉ。」


 ん?チヨばぁちゃんがジッと俺を見てくるんだが。


「どうした?」

「可能性は低いのかもしれないんじゃが、龍人ちゃんが失くした記憶の期間にいる人達かもしれないとは思わんかのぅ?」

「流石にそれは分からないな…。」

「話しかけてみるのはどうじゃのぉ?」

「ん〜…。」


 話しかけてみる。か。確かに俺の過去については全く分かっていない。今持っているのはギルドカードだけだもんな。これを見せて「俺のこと知ってる?」って聞くのはありかも。でも…。


「やめとく。」

「なんでじゃ?」

「今は舞頼の所に行く事を優先させよう。下手すると…数分が命取りになるぞ。」

「ごもっともじゃのぉ。ありがとうのぉ龍人ちゃん。」

「良いって事よ。じゃぁ、軽く走るか。」

「うむ。老体に走るのは酷じゃのぉ。体をサスサスして上げるから、おんぶしてほしいんじゃのぅ。」

「えっ。」

「おんぶするんじゃのぅ。」

「…お断りします。」

「なんでじゃのぅ?感じちゃうんかのぅ?」

「変な事言うなし!」


 結果的に、強制的におんぶをさせられ、腹筋あたりをずぅっとサスサスされたのは…若干快感を覚えた気がするのは…誰にも言えない秘密でございます。

 匠の技、恐るべし。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 徳川家当主である徳川舞頼。

 通り過ぎる人の殆どが振り向くであろう美貌を持つ彼女は、先だけを三つ編みのように結んだ薄紫の髪を弄りながら、美人と評される顔から感情を悟らせない。


「ふむ。選挙投票前日にこのような事態となるとは…。」


 想定していたあるべき道筋から外れた事態。それが進行中であるのにも関わらず、舞頼から焦りを感じ取ることは無い。

 それは、舞頼が数多の手を考察し、起こりうる可能性を把握しているからこその余裕。あるべき道筋から外れているだけで、想定内にある事は変わらないのだ。


「妾の想定では選挙当日。の可能性が高かったのだが。」


 今、彼女がいるのは徳川家の屋敷内。部外者と面会をする為に使用する大きな部屋だ。自身の椅子に腰掛け、頬杖を付く舞頼の周りに…家来達の姿は一切見受けられない。


「選挙の為に人員を一気に動かしすぎたかも知れぬ。なんという絶妙なタイミング…さぁて、妾の手腕が問われる場面と言えよう。」


 静寂。


 舞頼が自身の状況を考察し、誰へでもなく呟く言葉以外の物音は一切響かない。

 想定外のタイミング。だが、事態は想定済み。


 故に…。


「来るが良い。徳川忍者共め。」


 舞頼は間も無くやって来るであろう「敵」の名を紡ぐ。


 微かな…足音が鳴り始めた。

 忍者であれば消す筈の足音。通常ではならない音が聞こえるのは、徳川忍者…くノ一達による木遁トラップだ。

 忍者が舞頼を狙い侵入するであろうルートに、例え熟練の忍者でも足音を鳴らしてしまう床トラップを張り巡らせているのだ。徳川忍者の十八番が木遁であるが故に実現可能な芸当である。

 これを掻い潜って無音で舞頼へ近付けるのは、正確なルートを知る者のみ。

 屋敷に入ってから辿り着くまでに数百はある組み合わせのルートから、最適解を見つけ出すのは至難の業と言えよう。

 だからこそ、敵は舞頼が想定した通りのルートを通って侵入していた。


「……来たか。」


 舞頼の視線が静かに「部屋の正面扉」へ向けられる。忍者なのに入って来るのは正面扉。違和感しかないが、これこそが木遁トラップによる結果。

 姿を隠して接近する事が難しいと判断したのであれば、変なルートで接近するよりも正面から接近した方がリスクが少ないのだ。

 その判断を出来る時点で、織田忍者が生半可な実力者ではない事の証明になってしまうのだが…。


 ギィィィィ…


 木の軋む音を立てながら、両開きの扉が左右に開かれる。

 姿を現した者どもを認めた舞頼の目が細められる。


「…妾を討つための戦力が19名とは、舐められたものだな。侵入時点ではもう少しいたように感じたが。トラップで減ったのか?」

「徳川舞頼。そのお命…頂戴する。」


 会話不要。問答無用。織田忍者が散開した。


「爆遁【四方炎陣】!」


 部屋の四隅に散った4人の織田忍者を起点に結界が形成される。


「ほぅ。爆遁による結界。妾を逃すつもりが無いと、初手から示すとは中々に豪胆。」


 ジリ…と残りの織田忍者達が距離を詰める。一触即発。ほんの僅かなきっかけで開始されるであろう死闘を前にして、舞頼は悠然と笑みを湛え続ける。


「お主らは理解しているか?妾を閉じ込めたと同時に、お主らも妾から逃げられなくなった事を。」

「はっ!お前1人で我らに勝てるとでも?」

「さぁどうだろうか。だが、妾は妾であるが故に徳川家当主。過去の後悔を繰り返さぬ為に、妾は当主であり続ける。この…雷光尖刀と共に、全ての道を切り拓く覚悟がある。」


 舞頼が抜き放った雷光尖刀…黒い柄に一点の曇りもない白銀の刀身…が、部屋の照明を受けてギラギラと輝く。


「さぁ、挑むが良い。妾が返り討ちにしてくれよう。」

「…我らを侮った事を後悔させてやる!」


 4人が維持する爆遁【四方炎陣】の中にいる15人。が5人ずつに分かれて別の爆遁を発動させる。


「爆遁【炎閃乱破】!」

「爆遁【炎刺滅突】!」

「爆遁【炎壁圧打】!」


 炎の斬撃が乱れ飛び、炎の刺突が斬撃の隙間を縫うように飛翔し、それら全てを押し潰さんと四方に出現した炎の壁が舞頼へ迫る。

 線、点、面という3種の炎による攻撃は、舞頼の逃げ場を確実に塞いだ。

 常人であれば確実に仕留められる攻撃に晒されながらも、やはり舞頼から余裕は消えない。

 寧ろ。

 優雅さえ感じさせる動きで雷光尖刀が掲げられる。


「妾と戦える事を誇りに思うが良い。」


 紫電が空間を駆け巡った。

 雷光尖刀の動きに合わせて紫電の斬撃が空間を埋め尽くす。

 一瞬にして強撃。

 斬撃、電撃の2つの属性を持った攻撃に、なす術もなく身を晒した織田忍者全員が崩れ落ちる。


「織田重光は手を誤った。妾を倒したいのであれば、自身が討って出るべきだった。」


 織田忍者達が伏せた中心で雷光尖刀を鞘に納めた舞頼は、眉を隠す程度の前髪を静かに掻き上げた。

 色っぽさはなく、有るのは凛とした佇まい。


「さて…襲撃されたとなれば、すべき事は1つ………むっ!?」


 ブワッと舞頼の全身を怖気が襲う。

 叩き付けられた強烈な殺意に対して反射的に雷光尖刀を抜き放った舞頼は眉を顰めた。


「…これは、何故…無駄な足掻きを。」


 殺意の発信源は、倒れた織田忍者達。彼ら全てが憎悪対象として舞頼へ殺気を放っていた。動く事能わぬ体を必死に動かして、殺気のみを。

 その殺気自体に意味は無く。だが、それ故に舞頼の感覚を僅かに狂わせた。それ故に殺気自体に意味が生まれる。


「お命、頂戴!」


 その声が聞こえたのは…舞頼の真後ろ。

 誰もいなかった筈のそこに、無傷の…20人目の織田忍者が居た。刀の切先を舞頼の胸へ狙いを定めて。


 狂刃が舞頼の命を刈り取らんと突き出された。

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