3-1.魔法街
深い、深い夢を見ていた。登場するのはかつての仲間達。共に笑い、共に苦しみ、共に高みを目指して切磋琢磨していた。
Colony Worldというゲーム内での体験。仮想世界という電子世界にフルダイブして遊ぶゲーム。
ゲームかも知れない。…けど、本気だった。
ある意味で遊びの範疇を超えていたのかもしれない。
それでも。
楽しかった。
そう。
楽しかったんだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
目が覚めると、白い天井が見えた。
……どこだここ?
確か俺は銀髪のセフと戦っていた筈。
思い出した。
負けそうになった所に老人が助けに来たんだっけ。
それで、老人と一緒に行く覚悟をして…あれ?手を握ったのは覚えてるけど、そこから先を覚えてないな。
…まぁ気絶したんだろうな。凍り付いた後に受けたセフの攻撃は…今思い出してもブルッちまう。
さて…覚えてる状況から推察するに、老人が言ってた『魔法街』にいるのかな?
だとすると、レフナンティがどうなったのかも気になる。
先ずは話を聞ける誰かを探すしか無いか。
「いつつ……。」
ベッドから体を起こすも…全身が痛い。ホント良く生きてたよ。
ふと横を見ると……。
「遼…。」
遼が寝ていた。
穏やかな寝顔で。
まるで…安らかに……永遠の…。
「ん……。あ、龍人。おはよう。」
……おぉ。起きたな。ちょっと良からぬ想像しちゃったじゃん。
「おはよう。ここがどこだか知ってるか?」
「うん。魔法街って星だよ。ヘヴィー=グラムっておじーちゃんが連れてきてくれたんだよ。」
「ヘヴィー…あの老人か。」
「かな?街立魔法学院ってとこの学院長らしくて、ここはその魔法学院の保健室?らしいよ。」
「保健室ね……。」
学院って言うんだから、学校なんだろうな。
なんかさ、保健室って言葉は小学校を思い出す。
「小学校みたいだな。」
「え…しょう学校?」
「……あ、そうか。悪い。多分寝ぼけてた。何だろうな。しょう学校って。」
「龍人〜。何かの後遺症かと思って焦っちゃったじゃん。」
「ははっ。悪い悪い。」
…何とか誤魔化せたか?
目の前にいる遼は……遼だ。俺の親友の、幼馴染みの。
でも、こっちの世界の…遼だ。
Colony Worldを一緒に遊んでいた遼じゃない。
記憶が戻った今、そこを混同しないように気を付けないと…。
くそっ。遼は、遼だ。でも、かつての……遼じゃない。それなのに、友情は変わらなくて…。頭が、おかしくなりそうだよ。
「どうしたの?まだ傷が痛む…?」
「ん?いや、痛くないよ。」
駄目だ。このまま考えてたら、鬱になるぞ。
過去に色々あったけど、俺は…今ここで、今この瞬間を生きてる。…うん。切り替えよう。
セフの事、変遷の事…知りたい事は山ほどある。でも、それら全てを知りたい時に知れる訳じゃないからな。
先ずは今を大切にしないと。急がば回れなんて言葉もあるしな。
「ちょっと考えてたんだよ。レフナンティがどうして襲撃されたのかなってね。」
「……そうだよね。俺も、それを知りたい。」
「だよな。遼、強くなろうぜ。」
「え?なんでそこから強くなるってのに繋がるの?」
「考えてもみろよ。レフナンティ襲撃の真相を掴むには、きっとあの銀髪…セフって奴とまた戦いそうじゃん?」
「あ…そっか。」
「だろ?俺、全力で戦ったけど…てんで敵わなかったんだよな。だから、真実に近づいた時に次は逃したくない。掴み取るためにも…強くならないと。」
「そうだね…。うん!そうだね!俺も、強くなるよ。」
「よしっ。そしたら…後で俺の新能力を…。」
「ほっほっほっ。元気じゃの。良い事なのである。」
…!?
いや、マジでビビるわ。予兆無しに俺と遼のベッドの足元に立ってるんだもんよ。
この人は…俺を助けてくれた…。
「2人とも意識を取り戻したようで何よりじゃ。さて、まずは自己紹介をさせてもらうのである。儂はヘヴィー=グラム。この星…魔法街に4人しかおらぬ魔聖の一角を担う老人じゃ。そして魔法街南区の街立魔法学院の学院長も務めているのである。」
4人しかいない魔聖って…凄そうだな。自分でそれを言っちゃうあたりが可愛いけど。
…沈黙。
………あ、俺たちの番か。
「俺は高嶺龍人だ。出身は………森林街だな。」
「藤崎遼。龍人と同じ出身です。」
出身、森林街で良いよな?
正確に言うと地球って気もするけど、そもそもヘヴィーとかこの星…世界?の人が変遷の事実を知ってるのか分からないしな。
「うむ。2人共、森林街では大変だったのである。」
「あの……森林街で他に助かった人はどこにいるんですか?」
遼が不安そうな顔で問いかける。
…そうだよ。確かに「全員殺された」って考えてたけど、難を逃れた人だって…。
けど、ヘヴィーは悲しそうに目を伏せながら首を横に振った。
「残念ながら…儂が見つけられたのは、お主らだけなのである。」
「……そっか。」
明らかに肩を落とす遼を見て、ヘヴィーは優しく微笑んだ。
「しかしじゃ、儂はお主ら2人だけでも助かったことを喜びたいと思っているのである。襲撃をした2人は…間違いなく相当な手練れじゃ。下手をしたら全員死んでおったでの。」
…ヘヴィーの言いたい事は分かる。けど、それでも割り切れない感情ってのがあるんだよな。
まぁ、でも、俺は…もう決めてる。ここで立ち止まらないってな。簡単には割り切れないってのはあるけどね。
その意思を話そうと口を開きかけた俺を見て、ヘヴィーがさり気なくウインクをしてきた。……え?なに?おじぃちゃんのウインクとか怖い。
もしかしてそっち系の趣味をお持ちで……?お爺さんなのにお盛んなのね…!?
「落ち込んでいるところの話で申し訳ないとは思うのじゃが、お主ら…魔法学院に入るつもりはないかの?」
「魔法学院?」
「そうじゃ。その名の通り、魔法を学ぶ学校の事じゃ。」
「いやいや、俺たちなんか…魔法街の人と比べたら全然魔法なんか使えないですし…。」
自信なさげに言う遼を見てヘヴィーは「ほっほっほっ。」と笑った。
「何を言っておるのじゃ。お主らが戦うところを見た事は無いが、儂の見立てでは一定以上の才能はあると踏んでいるのである。」
何を根拠に…。と言いそうになるけど、魔聖っていう称号を持つ人物なのだからその辺りを見抜く力はあるんだろうな。
だから、才能があるというのは褒め言葉として素直に受け取って良い気がする。
問題は「そこ」じゃあない。
「ひとつ聞きたいんだけど、良いか?」
ヘヴィーは俺の方に顔を向けると、微笑みながら静かに頷く。
「俺と遼は言ってしまえば余所者だ。その俺達を学院に招き入れるメリットってなんだ?」
「…ほっほっほっ!龍人よ、その意気快しなのである。」
結構突っ込んだ質問をしたつもりだったんだけどな…ヘヴィーの余裕感ある笑いが返ってきたのは意外だ。
「質問に答えようかの。まず、魔法街はこの世界の星グループである街圏の星々から魔法の腕を磨きたい者が集まる星じゃ。つまり、森林街出身のお主らを誘う事に問題はない。メリットを敢えて上げるとするならば、有望な若者が入学するという事じゃの。」
成る程。確かに理に叶った答えだな。
けど…、それじゃあ俺は納得しないぞ?
「そして。」
追求しようとしたら、ヘヴィーは人差し指をピンッと立てて続けた。…俺の質問を「先回りしましたぜ」的な顔してる!なんか悔しいぞ!?
「お主らはセフ=スロイという…儂等にとっての重要人物が狙ったであろう者達じゃ。奴の狙う真の目的が不明確である以上、保護するという意味合いもあるのである。」
…保護。か。
隠さずそういう事を話すってことは…ある程度は信頼するに足るのか?
「あの…。」
躊躇いがちに遼が口を開く。
「もし、魔法学院に入学しないって言ったら…俺達はどうなるんですか?」
「難しい質問じゃのう。冷たく言えば…好きな星に行って好きに過ごしてもらうしかないの。それが魔法街なのか、別の星なのかは…お主らの選択の自由なのである。」
つまり、魔法学院に入るなら護る。入らないなら自分達で身を守れって事か。
けど、そうなると…俺達をリリースしても良いって考えてるって事だよな。俺達をそこまで重要視していないとも取れるな。
…むぅ。判断が難しい。
いや、簡単か。
要は、俺達が…いや、俺がどうしたいかだ。
そうなれば答えは1つに絞られる。
その先に何があるのかは分からないけど、決めて突き進むしかないんだよな。結局。
「俺は魔法学院に入るぞ。魔法の腕を磨いて、強くなる。」
「龍人…!?」
それしか道はないんだ。
何故変遷が起きたのか。セフの目的は何なのか。ヘヴィーが俺達を助けた目的が何なのか。そして、里因子所有者とは。
これらの真実に辿り着くには…力が必要だ。だから、俺は強くなる道を進む。
その道が向こうから提示されてるんだ。選ばない手は無い。もし、魔法学院が不要だと思えば、その時点で退学すれば良いだけだしな。
新たに使えるようになった黒い靄の力を制御する手段も見つけられるかもだし。
俺が即答した事に驚いたのか、遼は少しの間口を噤み…噛み締めるように頷いた。
「……うん。そうだよね。俺も魔法学院に入るよ。元々ギルドで活躍するって夢もあったんだし、ここで立ち止まっても…姉さんは喜ばないと思うんだ。」
…そうだよな。茜も…。
「良い覚悟じゃの。街立魔法学院は強きを求める者を歓迎するのである。」
満足そうに頷いたヘヴィーは保健室のドアを開ける。
「あと30分程で本年度の入学試験が始まるのである。修練場へ移動するのじゃ。」
「…はいっ?」
「え?」
いきなり展開じゃない?
てか、まだセフの攻撃で受けたダメージ抜け切ってないんですけど。全身痛いんですが!?
「ほれほれ、時間がないのである。」
俺の非難を込めた視線をフル無視して、ヘヴィーは悪ビレもなく急かしてくる。「のである。」みたいなのほほん爺さんみたいな話し方してるけど、トンデモスパルタ爺さんなんじゃないか?
「…ったく、少しは怪我人を労われっての。」
「ほほっ。そこまで言える元気があるのなら問題ないのである。」
「龍人…頑張ろ!」
遼や…何故にあなたはそんなにやる気満々なのですか?
まぁ、そうでもしないと負の感情に押し潰されそうなのかもしれないけど…ね。
…しゃーない!切り替えてやりますか!
「分かったよ。怪我してますなんて言い訳、いざという時には通用しないもんな。丁度良いハンディキャップって事にするか。」
「そうそう。俺と龍人ならきっと大丈夫!」
俺と遼は顔を見合わせ、ニヤッと笑いながら頷き合う。
「ほれ。時間に遅れると参加できないのである。」
そんな俺たちの様子をヘヴィーは楽しそうに眺めていた。
…この爺さん、俺達が入学試験に参加するってほぼほぼ確信してただろ。
なんか掌の上で踊らされた気もするけど、まぁいっか。
俺は遼と共にヘヴィーの後ろを気軽な気持ちで追いかけるのだった。
ふと、思う。
これって…小説でよく読んでいた異世界転生的なやつでは?と。
異世界生活スタートなのでは…。と。
現実?世界と同じ人達がいる異世界とか…気持ち悪過ぎるけどな。
まぁ、焦ってもしょうがないだろ。
1歩1歩、確実に進んでってやる。
先ずは魔法学院の入学だ。
俺は…この世界で強く生きていくんだ。
ここから異世界生活が本格的にスタートします。
先ずは学院編中心に話が進む予定です。