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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-32.最上階

 …全く。何て星なんだい。この砂塵と黄土の都ってのは。

 この塔…古代遺跡に到着するまでも苦労したってのに、塔の中でいきなり始まった試練ってのも相当厄介だったさね。

 アタイの予想だと、この塔は主人が配下の者達に試練を与える為の施設。だからこそ、主人として試練を起動した人の記憶をベースに試練内容を構築する。…その結果が10階のアレ。この塔を作った奴は性格悪すぎさね。


「姉御…大丈夫ですか?」

「何さね。大丈夫な訳があるかい。まさか…舞頼が出てくるとは思わないさね。本人よりは弱かったから良いものの、大分やられたのは否めないさね。」

「しかし、姉御が1人で戦う必要も無かったのでは…。」

「ふん。徳川家から高額の金で雇われている以上、徳川忍者のアンタらに無駄な犠牲を出させるのも寝覚めが悪いさね。気にする必要はないよ。」


 そう。10階の試練は徳川舞頼が出てきたのさ。

 舞頼の実力は、徳川家当主を務めるだけあって折り紙つき。試練で弱体化はしていたとはいえ…強かったさね。アタイ達がギリギリ勝てるくらいの強さに調整されていた気がするのは、若干癪に障るけど…オリジナルと同じ強さだったらきっと負けていたさね。


「それよりも、ここからアタイ達が何をしなければならないか…覚えているね?」

「勿論です。秘宝を見つけて徳川陣営を強化する事です。」

「よく覚えていたね。それともう一つ。こちらの方が難題さね。」

「しかし…本当に実現可能なのでしょうか?」

「それはこれからアタイ達がどう動くのか。それで決まるのさね。…噂をすればなんとかさね。」


 アタイ達が立つフロアの中心に光の柱が出現し、中から出てきたのは…ミューチュエルの3人だった。さぁて、どうやって切り崩してやろうか。…アタイの本業とは違うけど、やるしかないのさね。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 塔の最上階へ到着した俺達を待っていたのは、徳川家陣営の面々だった。…リーダー役を務めているザキシャからジト〜って睨まれているんだけど。俺達、何か悪いことしたっけ。


「無事に着いたようだね。」

「おう。苦戦はしたけど、何とかなったかな。」

「そう…つまり、アンタらも誰かを主人とした試練を受けたって事さね?」

「だな。って事は、お前達もか。」

「そうさね。かなり大変だったさね…。」


 なるほど。ザキシャの話から推測するに、俺たち3つの陣営はそれぞれで試練を受けた可能性が高いのか。織田家忍者達が来ていないからなんともだけど、多分そうなるんだろうな。でも、この塔を3つの陣営が同時に登っていて、バッティングしないって事は…どういう事だ?


「まぁ…アンタの考えている事は分かるさね。大方、時空を歪ませて複数の同じ空間を存在させているんだろう。古代の技術っていうのは、そういうものさね。」

「空間を歪ませる…そんな事が可能なのか?」

「ん〜それ以外には考えにくい。って言うのが正確な答えさね。」

「ふんっ。どう考えてもそれ以外ないだろう。」


 …お?織田家忍者が現れた!しかも、ボロボロな格好で偉そう。


「はっはぁん。偉そうな口を聞きながらも、1番ボロボロ!だっさいさね。」

「五月蝿い!我らは試練であの織田重光と戦ったのだ。…どれだけ地獄だったことか!!」

「それを言ったらアタイ達も徳川舞頼と戦ったのさね。」

「俺たちもドラゴンと戦ったな。」

「ドラゴンさね…!?」「ドラゴンとな!???」


 あら?何故ドラゴンが1番驚かれんのか。


「そんな驚く事か?」


 ミリアとブリティの方を向くと「あはは…。」と苦笑いをしていた。


「龍人…お前は知らないと思うけどにゃ、ドラゴンっていうのは伝説上の生き物なのにゃ。」

「そうだよっ。今回は試練だからアレだったけど、普通に白金シティとかで出たら私…ビックリして腰を抜かしちゃうかも。」

「あ、そうなんだ…。」


 うん。無知って怖い。

 いや、俺の場合は記憶喪失だから分からなかったって訳だけど…。でも、記憶喪失の割には見た瞬間にドラゴンって分かったな。って事は、過去の行動の記憶は無いけど、知識としての記憶は残っているって事なのかな。ん〜記憶喪失って難しい。


「はぁ…アンタ達の破天荒ぶりにはつくづく驚かされるさね。」

「そりゃどうも。」

「そろそろ雑談は終わりにしようか。この最上階には何があった?」


 あら。織田忍者リーダーがいきなりピリピリモードになった。


「それなら…期待外れさね。」


 最上階でお宝の取り合いか!?的な雰囲気が一瞬流れるも、ザキシャは残念そうな顔で肩を竦めて奥に置かれた石碑を指差した。


「あるのはあの石碑だけさね。何か文字が書いてあるけど読めないのさ。全く…これだけの試練を突破して何も無いのは悲しすぎるさね。」

「なんだと…!?もしや、先に秘宝を手に入れて隠し持っているな!?」

「そんな事する訳がないさね。もし先に見つけていたら、こんな所でのんびりしていないで、すぐに帰るさね。アンタ、織田忍者のリーダーの割に考えが短絡的さね。」

「ぐ…!?」


 ごもっともな言い返しをされて織田忍者リーダーは悔しそうに拳を握り締めた。あれ。これって逆上して戦闘開始!とかなっちゃうんじゃないか?


 ツンツン


「ん?何?」


 ミリアから控えめのツンツン。俺が見ると、ミリアが小さい声で話す。


「龍人。あの石碑…ちょっと見てくるね。」

「お?あ、あぁ。」


 いや、ザキシャも読めないって言ってたし…見てもしょうがないんじゃぁないか。俺も遠目には見たけど石碑に刻まれている文字は全く読めなさそうだったけどな。

 トトトトっと走ったミリアは石碑の前に行くと、じぃっと文字を眺め首を傾げている。


「お前…!徳川程度のやつらが、織田家に勝てるとでも思っているのか!?」

「そんなのやってみないと分からないさね。勝負っていうのは戦闘能力だけでは決まらないのさ。どうやって戦闘をメイクするかさね。」

「はっはぁん!って事は、徳川忍者は織田忍者に戦闘能力で劣っていると認めるのだな?」

「アホか!戦闘能力だけではないという話さね!どちらが強いとかは断定していないさね!!」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえないなぁ!?」


 …あの2人、めっちゃうるさいんだけど。言い合いを静かに後ろで見ている両陣営の忍者達も良く疲れないな。小学生の口喧嘩みたいなテンションで本当に関わりたくない。


「あ!!」


 と、石碑を見ていたミリアが声を上げた。


「ここの床、押せそうだよ?」

「本当さね!?」

「どこだ!?」


 ズパァァン!とザキシャと織田忍者がミリアの隣に走っていく。

 めっちゃ息合ってんじゃん!と思うけど、突っ込まない。どうせ突っ込んだら不毛な口喧嘩が再発すんだろ。

 俺とブリティを含めた他の面々が石碑の周りに集まると、ミリアが床にある正方形のスイッチ?みたいなのを押そうとしていた。


「それ、本当に押して大丈夫か?押した瞬間に試練開始!とかならないよな。」

「えっ!?」

「なっ!?」

「しまっ…!?」


 俺の指摘に皆が「ギョッ!?」っとなるも遅し。

 ミリアの指はガコンっとスイッチを押し込んでしまっていた。


 ゴゴゴゴゴゴゴ。


 何かが動く低音が響く。聞こえるのは…後ろからか!

 パッと見た先は俺たちがいる空間の中心部分。床の一部分が左右に割れる。下から…何かくる!!


「くるさね!」

「こんな所で更に敵襲とは…!」

「あわわっ押しちゃったよっ!?」


 ゴゴゴゴゴゴゴ。と競り上がってきたのは…。


「うにゃ〜〜!!!キラキラ宝石ゲットなのにゃ!!!」


 チャッチャララァァン!!!という効果音が聞こえてきそうな笑みで、黄土色の宝石を持ち上げたブリティが「これが目に入らぬか!?」みたいなポーズで掲げる。


「ふぅん。あれは…。」

「まさか、この、この塔を攻略した報酬が地軸晶だというのか!?最悪のコスパではないか…。」


 何か思案げな表情のザキシャと、絶望だぜぃ!的に落ち込む織田忍者リーダー。本当に見ていて飽きないコンビだな。


「地軸晶ってレアな宝石なのか?」


 皆の反応から良いものなのか、悪いものなのかもよく分からないので、ストレートに聞いてみる。


「微妙なトコロさね。レアっちゃぁレアだけど、滅多に手に入らない。レベルではないさね。これは黄土と砂塵の都を象徴する宝石さね。都圏の各星毎に、その星を象徴する宝石があるさね。入手難度は若干違うんだけど、全く手に入らない宝石はないさね。」

「くそっ。本当にただの試練の塔という事か。」


 相変わらず悔しがり続ける織田忍者。ちょっと可哀想になってきたかも。


「にゃはははっ!最初に手に入れたブリティのものにゃ!」


 うっわ〜空気を読まないブリティ。流石だ。

 つーか、3つあるんだから、均等分配だろ普通。


「…無駄足とはこの事。我らは撤退させてもらう。」


 ズッズゥゥンとテンション爆下がりの織田忍者達は踵を返すと「出口」と書かれた魔法陣へ向かって歩き始めた。

 え、なにこの流れ。慰めた方が良いのか?


「そう言えば…お前。」


 織田忍者リーダーが振り向いて声を掛けたのは。


「どうしたのにゃ?」


 ブリティだった。


「中々の実力者とお見受けする。ミューチュエル、徳川陣営にいるよりも、織田陣営に来た方が有意義にその力を発揮出来るかと思うが…一緒にくるか?」


 な、な、なんと…いきなりの引き抜きですかいな!?

 だが甘い。この塔に突入する前ならミリアとブリティは仲違いしていたから、引き抜きが成功したかもしれないけど…今は仲直りしているからね。喧嘩を経た俺たちの結束は前よりも固くなっている!


「ん〜。」


 お。ブリティの奴、案外役者だな。地味〜に悩むフリまでしてやんの。


「分かったのにゃ。ブリティは織田陣営に入るのにゃ。」


 ほら。何だかんだ言ってミューチュエルの結束って強い…つよい…つ…え。えぇ?えぇぇぇえええ!?

 俺、人生で初めて目玉が飛び出たかもしれないんですが!!


「ブリティ!どういうつもりだ!?」

「そうだよっ。私達の事、嫌いになっちゃったの?」


 俺とミリアを見たブリティは「フフン」とニヒルな笑みを浮かべる。


「ブリティの人生はブリティのものにゃ。だから、どう生きるかはブリティが決めるのにゃ。とやかく言われる筋合いはないのにゃ。テキナカにゃ。」

「いや、意味がわからないから。」

「…龍人、やめよう。ブリティの言う通りかもしれないよ。私達、ここ最近ブリティと向き合ってなかったもん。」

「でも…。」

「しつこいのにゃ。あばよ。なのにゃ。」


 ぽ〜んと地軸晶を俺に放り投げたブリティはステテテテっと織田忍者が待つ魔法陣へ走っていく。

 えっ。ちょっと受け入れ難い現実なんですが。

 しかも何でミリアは早々に引き止めるの諦めてんだし!?


 そのままブリティは織田忍者達と魔法陣が放つ転送の光の中へ消えていってしまった。


 なんだこの喪失感は。


「全く…試練を超えた先で仲間に裏切られるかい。この試練っていうのも大した事がないって証明かも知れないさね。さぁて、アタイも用事を済ませるとするさね。」


 シャキィン


「…なんのつもりだよ。」


 俺の眉間に苦無の切先を突き付けたザキシャを睨む。

 このタイミングで挑発してくるとか…。


「丁度良いタイミングさね。アンタらの実力を直接確かめさせてもらう。」

「何の為に。」

「敵の実力を測り、今後の作戦に活かす為にさね。」


 はぁっ?


「そうか。流石にブリティが裏切った理由も分からない今の状況で、手加減なんか出来ないからな?」

「ははっ。その程度でメンタルが揺れ動くなんて、まだまだ青二才さね。」


 …どこまでも煽りやがって。


「覚悟しろよ?龍人化…ほげぇ!?」


 脳天に響く衝撃!!??

 頭を押さえて涙目で見ると、凛とした表情のミリアが立っていた。右手にはレイピア。きっとあの柄部分で殴られた…。


「龍人。冷静にならないとダメだと思う。ザキシャは強いよ。私も…ブリティがいなくなっちゃってショックだけど、それはそれなのっ。だからね、今は目の前の相手をちゃんと見る必要があるんじゃないかな。」

「そ、それはそうだけど…。」

「だからね、私が戦う。龍人は見ていてね。」


 …なんでこんなに冷静なんだ?もしかして、ブリティに裏切られた怒りが頂点を通り越して冷静になった感じか?だとしたら激オコスーパー冷静モード。めっちゃ怖いやつじゃん。


「ほぉ…アンタがアタイと戦ってくれるのかい。楽しみさね。」

「手は抜かないからね。勝負の決着はどうやって決める?」

「そうくるかい。だが、冷静で良い判断さね。実力を測るだけなら、命を取る必要はないからね。そうさね…このホールの壁に触れる、もしくは床に倒れた方が負け。でどうかい?」

「うん。それとね、重傷と殺害も禁止ねっ。」

「大分ハードルを上げるじゃないか。本気を出すなって言いたいのかい?」

「違うよっ。本気を出しながらも手加減をするの。その方が実力が分かるでしょ?お互いに。」

「…はっはっはっはっ!」


 額に手を当てて笑うザキシャは、目に浮かんだ涙を拭う。


「益々面白いさね。それで問題なしさね。なら…やろうか。」

「うん。」


 両眼を爛々とギラつかせるザキシャと、静かに…静かに燃えるミリアの戦いが始まった。

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