表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
188/196

6-31.試練10階

これで前作colonyで描いたストーリーに追いつきました!機械街編はもう少し後になります。

まだまだ白金と紅葉の都編が続きますので、お付き合いをよろしくお願いします。

 試練10階。

 これまでの試練の難度を考慮すれば、相当な難関である事が容易に想像できた。

 だからこそ、俺たちは緊張に顔を強張らせながら10階へ進む。10階へ到着した瞬間に初見殺し的な攻撃を撃たれるかもしれないからね。油断大敵だ。


 ………。


「卵なのにゃ。」

「卵だな。」

「卵だねっ。でも、大きいし、少しカクカクしてるかな?」


 卵だ。一般的な卵よりもカクカクしているのはブリティの言う通り。なんて言えば良いんだろう。んーっと…真っ直ぐな8角形の板を複数接合して卵の形にしたイメージだ。デジタルな感じって言えば良いのかな。

 10階にあるのはこの卵だけで、他には何も見当たらない。となると、この後に何があるのかはほぼ予想できる。

 十中八九、卵の中から何かが出てくるんだろう。

 この塔に来る途中でネズミやらカンガルーに出くわしたし…同系統の巨大動物が出てくる可能性が高そう。

 卵だから、鳥かな。


「分かったのにゃ。巨大怪鳥が卵から出てきて、ブリティ達を啄むに違いないのにゃ。」

「怖いねっ…!」

「でもさ、普通に考えたら卵から出てきたばかりの鳥とか…大きくても何とかなりそうじゃない?」

「それもそうなのにゃ。いや…寧ろ、生まれる前に割るのが吉にゃ。」

「えっ?」

「それは…。」

「任せるにゃっ!」


 腕をブンブン振り回すと、ブリティは高く飛び上がって砂を巨大な腕の形にする。

 生まれる前に割るって…極悪非道というか、相手に勝負をさせない非道な手段な気がすんだけど。


 ニタリ。と悪い顔をしたブリティが降下する。


「これで試練クリアにゃ!!」


 と、声高らかに宣言して砂の巨体腕を叩きつけた。

 アンビリバボー…!これが枠に囚われない人なのか!?


 ズッパァン!と砂の腕が弾けた。クリーンヒット!


「これで卵が割れたし………ん?」


 違和感。なんだ?何かが間違っているような。


 …弾けて舞っていた砂が晴れてくると、プルプル震えたブリティが振り返っていた。


「…どういう事なのにゃ?」


 どう言うことって何が……げ。


「龍人っ!卵が割れないでブリティの砂の腕が弾けたみたいっ!」

「あぁ…。そんでもって、今の卵の状況が俺にはよく分からないかも。」

「うーんと……卵が……変身?きゃっ!?」


 まるでミリアの言葉を待っていたかのように卵に変化が起きた。

 卵が数センチ大の立方体に分解されつつ、渦を巻き…別の生物の形を成し始めたんだ。その姿形は…


「……これは、ドラゴンにゃ。」

「ドラゴンだねっ…!」

「だな。それにデカい。」


 確かに卵は大きかった。でもさ、質量保存の法則を無視したレベルで大きくなってるんだよね。


「グルル……。」


 立方体で構成されたドラゴンみたいなそれが低い唸り声を発した。

 そして。


「グルァァアア!!!」


 全身に打ち付けるような咆哮。

 それと共にパァァァン!!と立方体ドラゴンの表面が弾け飛び……黒い鱗を持ったドラゴンが姿を現した。

 放たれる圧倒感。絶対的に勝つ事が叶わない天敵を前にした獲物の感覚。

 これ、やばくね?


「ミリア!ブリティ!牽制で攻撃を仕掛けつつ、一旦ギリギリまで距離を取るぞ!」

「うにゃにゃ!」

「うんっ!」


 ブリティの石礫とミリアの焔矢が飛翔してドラゴンの顔やら腹やらに直撃していく。其々が常人なら致命傷を受けるレベルの攻撃だとは思うんだけと、ドラゴンは一切怯まない。悠然と立つ姿からは余裕感しか感じられない。


「…無傷か。」


 そう。全くの無傷。攻撃魔法が当たった事すら知覚していないのでは?と疑う程に無反応。


「グルッ!!!ガァァァ!!」


 ドラゴンが首を上げると口元が光り…咆哮と共に爆炎を吐き出した。

 一瞬で視界を覆い尽くす炎。


「任せるのにゃ!!」


 ブリティのサンドクローが床に突き刺さり、そこを起点として床が隆起して壁を形成。炎を寸前で食い止める。

 どうする。どうする。このままじゃぁ圧倒的火力に焼き殺されるだけだ。

 ドラゴンの鱗は相当な硬度を誇るはず。2人の攻撃魔法が全く効かなかった事を考えれば、俺の斬撃も、ミリアの刺突も鱗に阻まれて効果が無い可能性が高い。攻撃の糸口は…くそっ!時間がたりない。


「…龍人、ミリア、これまでの試練で覚悟は決めたのにゃ?」

「ん?」

「ブリティ、どうしちゃったの?」

「ふざけていないのにゃ。ブリティの試練は覚悟を問われたのにゃ。ミリアと龍人は違うのにゃ?」

「…ううん。私も覚悟を聞かれて、確り覚悟したよ。」

「俺も同じだ。皆を守る覚悟をした。」

「あれ?私も守る覚悟だよ?」

「ふむふむなのにゃ。つまり、3人とも何かしらを守る覚悟をしているのにゃ。」


 あれ?こんな場面なのに、形成した壁を維持しているブリティの背中が寂しく見えるのは気のせいか?


「ブリティの予想では、この10階はそれまでの試練の総決算にゃ。細かい事を考える必要はないのにゃ。ブリティ達3人が、この試練で見つけた覚悟…信念を軸に、出来る事を全力でやれば倒せる筈なのにゃ。そうでなければ試練にならないのにゃ。」


 おぉ…ブリティがすっごいまともな事を言ってる。


「そっか…そうだよねっ。うん。ありがとうブリティ。私、頑張るよ。」

「まさかブリティにこんな事を言われるなんてな。」

「龍人…ブリティは真剣にゃ。茶化すなら噛みつくにゃ。」

「ははっ。悪い悪い。俺もやるよ。俺に出来る全力を。」

「うむうむ。それで良いのにゃ。ブリティもここを突破して…」


 ドォンドォンドォン!!

 壁を越えて飛来した火球が近くに着弾する。

 ブリティが最後に言っていた言葉が聞こえなかったけど…まぁ大方「突破して美味しい煮干しをたらふく食べるのにゃ」的な事を言おうとしたんだろ。


「よっし。やるか。」

「うにゃ。ここで仕切り始めるのが龍人の悪い癖なのにゃ。」

「はい!?」

「にゃははっ。冗談にゃ。」

「ふふっ。3人で倒そうね。」

「おうよ。」

「もちのろんにゃ。」


 俺達3人は口元に微笑を浮かべながら、3人の拳をコツンと打ち合わせた。

 ブリティのサンドクローが腕に当たって痛かったのは…空気をぶち壊しそうだったので我慢した。


「スリーカウントで壁を戻すのにゃ。3…2…1…ゴォォォにゃぁぁ!!」


 若干締まらないブリティの掛け声に合わせて壁の左を迂回するように走る。

 ミリアとブリティがどう動くかはまだ分からないけど、攻撃力が高いのはミリアとブリティだ。そんなら、俺がするのは…撹乱と防御。そして弱点の炙り出しだ。

 目的が決まればすべき事も明確になる。


「ガァァルルル!」


 ドラゴンは俺たちがバラけた事に腹を立てたのか、グルっと顔を回しつつ360度全方位に火炎を吐き出した。

 この火炎は…避けちゃぁ駄目だ。突破しないと勝負の舞台にも立てない。


「龍人化【護龍】!護龍障壁展開!」


 護龍障壁を前方に展開しつつ、ドラゴンが吐き出す炎の海へ突っ込んでいく。

 あっちぃ…!けど、ぎりぎり耐えられる!

 全力で駆けて炎の海を抜けると、それまで真っ赤だった視界がパッと開けた。目の前にいるのは閉じた口の端から火炎をチロチロと漏らすドラゴン。

 ブリティとミリアは…まだ抜けてないか。


「グルルルルル…。」


 低く唸るドラゴンは俺を睨みつけて威嚇してくる。

 さぁ…どうやって倒す?


「ガァァ!!」


 ドラゴンが…羽ばたいた。マジか…!宙に浮かばれたら攻撃の手段が限られちまう。


「くそっ!」


 ブワッと浮いたドラゴンの下へ潜り込む。途中、火球が数発降ってきたけど、護龍障壁で防ぐ。

 既にドラゴンは3メートル程度宙に浮いている。

 飛べなくするには羽をを斬るしかないよな!


「っらぁ!」


 木刀に魔力を込めて、上方へ魔力刃の斬撃を飛ばす。


 ブゥン!


 それは、なんて事の無いひと薙ぎ。ドラゴンの尻尾が無造作に振り払われて、魔力刃はおもちゃのように弾け飛んだ。

 ほぼ全力で魔力刃を飛ばしたってのに…俺の攻撃じゃぁ無意味だってのか。


 けど。


「まだまだぁ!!」


 チラッと右を見た俺は、両手の木刀に込めた魔力を乱撃で上空へ放つ。

 無数っていうと若干誇張表現な気もするけど、そう表現してもギリギリOKな量の魔力刃が下から迫ってくる。…ドラゴンはそう認識したはずだ。

 大して効かない攻撃だとしても、それが乱打されるとなれば…鬱陶しく思うのは自明の理。つまり、ドラゴンの意識が下方から迫る俺と大量の魔力刃に集中する。


「グルアァ!」


 ドラゴンの口から放たれたのは火柱。口から火柱!?って思うかもだけど、正しくそのまんま。表現を変えれば炎のレーザーって感じかな。

 それが魔力刃を薙ぎ払っていく。


 けど、これで!


「ブリティ今だ!!」


 俺の掛け声に合わせて、ドラゴンが吐き出した火炎が生じさせた煙の中からブリティが飛び出した。

 四足歩行の態勢で物凄い速度で駆け、ドラゴンと俺が放ち続ける魔力刃群の中間地点を目掛けて跳んだ。

 この状況、単純に考えればブリティは俺の魔力刃に斬り裂かれる危険性と、ドラゴンの尻尾攻撃や火炎攻撃に晒される危険性、2つの脅威に晒される…最悪なポジショニング。無策の飛び出し。

 だからこそ、そう認識したドラゴンが攻撃の手を変える。


「グゥゥアァッ!!」


 ボボボボボボ!!っと火焔球が連続で吐き出される。これの意味するところ…それは単純。下の魔力刃。上の火焔球。上下の挟み込みでブリティを倒すということ。

 へっ。これこそが俺の狙い。そんでもって、俺の狙いを理解したからこそのブリティの飛び出しだ。


「フッフゥゥンにゃ。思惑通りなのにゃ。にゃはははっ!」


 ニカっと笑ったブリティは空中で失速すると…俺が放った魔力刃の上に「立った」。


「グルア…?」


 思わず戸惑いを隠せないドラゴンを尻目に、ブリティは魔力刃を足場に上から降り注ぐ火焔球を軽やかに避けていく。

 実は俺の魔力刃…斬撃能力ゼロにしてあるんだよね。言うなれば魔力棒…?ネーミングセンスねぇな俺!

 …ともかく、俺が放った大量の魔力棒の狙いはドラゴンへの攻撃ではなくて、ブリティが空中で自由に動ける足場作り。

 んでもって、それが成功し、ドラゴンがこの状況に戸惑った事で生まれる僅かな隙をブリティが見逃すわけも無く。


「んっニャァぁ!!!!」


 グンっと膝を曲げてエネルギーを蓄えたブリティが真上へ飛び、ドラゴンとの距離を一気に詰める。

 咄嗟にドラゴンが尻尾を降って迎撃にあたるけど、猫の亜人であるブリティは空中で体勢を上手く制御して尻尾を足場にさらに跳躍した。


「落ちるにゃ!!砂陣【乱斬首】!」


 物騒な名前だな!?

 無数に放たれた砂の刃がドラゴンへ直撃。羽をズタズタに斬り裂かれたドラゴンは恨みがましい声を上げながら落下していく。

 …あれ?落下地点にいるのって俺じゃん。…つぶされる!!????


「ぬぅぅあぁぁぁああああ!!」


 間一髪。ギリギリでダイビングヘッド風に飛んだ俺の真後ろにドラゴンが落ちてきた。

 …危なかった。


「グ…グルルル…ガァァァ…!」


 地に落ちたドラゴンから感じるのは諦め。なんかじゃなかった。

 迸る怒り。同時に膨れ上がる熱気。

 あ、これヤバいかも。

 奥の手的な攻撃をするんじゃないか?


「龍人!」


 少し離れた所でミリアが構えていた。

 その瞳は俺を呼びつつも、真っ直ぐドラゴンを射抜いている。

 つまり…そういう事か。


「俺がすべきなのは…防御と、炙り出し。」


 ならどうするか。

 もう数秒でドラゴンが何かしらの強力な攻撃を放つはず。

 俺はそれを防ぎつつ、ミリアとブリティへ攻撃ポイントを伝える必要がある。

 このドラゴン相手に持久戦は悪手。だからこそ、短期決戦で勝負を決めるしかない。相手が強力な攻撃をするって事は、それだけ生まれる隙も大きいはず。その隙を狙うには…完全に相手の攻撃を防ぎ切る必要がある。

 俺が取りうる手段で最善策を…考えろ。


「ガァァァァァァ!!!!!」


 ドラゴンが吠えた。大きく開いた顎へ真っ赤なエネルギーが収束していく。

 これはアレだ。さっきみたいに口からドーンとビーム的なのを発射するやつだろ。多分、さっきのとは比較にならないレベルで高密度、高熱量、高威力の超攻撃。

 護龍障壁に魔力を注ぎ込めば防げるかもしれないけど、問題は攻撃の性質だ。方向固定のビームじゃなくて、ドラゴンが顔の向きをかえたらビームは別の方向にいくはず。そうなると、護龍障壁で全員を護るのは難しい。多分…防ぎ切るためには護龍障壁は1枚だけの集中展開が必須条件。

 けど、だからといって俺とミリア、ブリティの3人かわ1ヶ所に集まったら…ドラゴンのビームを防ぐだけで手一杯。2回目に同じ状況が来た時に俺が防ぎ切れるかわからない。いや…そもそも今回も防ぎ切れるのか不安だけど。

 やっぱり防御だけじゃあダメだ。

 理想は攻防一体の…。


「ヤバいのにゃ!」

「くそっ!とにかく防いで…!」

「待って!!ここは私がやるよっ!」


 護龍障壁で防御を取ろうとした俺の前に立ったのはミリアだった。


「いや…どうやって…!」

「いいの!今、龍人が防御に全力を使うよりも私の方が負担が少ないと思うっ。…多分、魔力的には1回しか出来なけどっ。」


 いやいや、ドラゴンの口元見てんのか?途轍もない熱量が集中してんだぞ。

 ミリアは焦る俺の顔を見ると「ふふっ。」と笑う。


「大丈夫だよっ。私を信じて。鳥人化【不死鳥】!」


 体の周囲に焔が渦巻いてミリアへ収束すると、金髪と赤い瞳が共に真紅へ染まった。熱く、それでいて優しさを感じる焔の温かさだ。


「いくよっ。惺炎【静】!」

「ガッバァァァ!!!」


 ミリアがスキルを発動するのとほぼ同時に、ドラゴンが口から高熱のビームを発射した。

 一瞬で俺たちの目の前に迫るビーム。それに対して惺炎【静】によって発動したオレンジ色の炎がビームの進路を阻むようにして広がる。


「これは…!」


 ビームはオレンジ色の炎に触れた瞬間にその質量をみるみる減らしていく。けど…消しきれないんじゃぁ…?

 惺炎【静】は対魔法鎮静効果を持った炎だ。相手の魔法を鎮静したとしても、物理的に防ぐ力はないはず。だとすると…消しきれなかったビームが着弾する…!?


「うにゃぁ!!」


 やはり護龍障壁を。と思ったのも束の間。気付けばブリティが生成した岩の壁が消しきれなかったビームを受け止めていた。

 ビキビキと岩の壁が悲鳴を上げ…バァァァン!!と弾け飛ぶ。

 あまりの衝撃に細めた目を開けると、口の端から炎をユラユラと上げるドラゴンが忌々しそうに俺達を睨みつけていた。


「なんとか…防いだね。」

「でもでも何度も同じ事をやるのはリスキーにゃ。」

「次は俺が防ぐよ。」

「うん。でも、防いでいるだけだと…。」

「そうなのにゃ。ジリ貧なのにゃ。あのドラゴンの口の中にさっきのビームをぶっ込んでやりたいのにゃ。ムカつくけど、アイツ強いのにゃ。」


 確かに火力が圧倒的すぎる。どうやってあの火力を防いで反撃すれば良いのかがちっとも分からない。


「龍人にゃ。」

「ん?」


 ブリティが俺の肩をトントン叩いてきた。振り向くと何故かニタリと悪い顔をしている。


「ドラゴンの腹の中に入って、ズタズタに斬り裂いてくるのにゃ。」

「アホか!」


 ぶっ飛び発言!!倒す相手に喰われてどうしろってんだよ。つーか、腹の中に入った時点でズタズタに噛み砕かれてんだろ。


「ちえっ。これで龍人を厄介払い出来る名案だと思ったのにゃ。」

「出来るか!死ぬわ!」


 …あれ?腹の中。…………あ。


「……………。」


 思わず黙り込んだ俺を見てブリティがビビり始める。


「ど、どうしたのにゃ?もしかして、めっちゃ怒っているのにゃ?」

「ブリティ…龍人に謝った方が良いよっ。」

「ご、ごめんなのにゃ。」

「いや…、ブリティさ、」

「な…何にゃ!?謝るくらいなら裸になれって言うつもりにゃ!?」

「龍人…!?それは破廉恥すぎるよっ!」

「んな訳あるかぁぁぁ!!」


 なんで常にお笑いみたいなやり取りを挟み込むんだし!!


「龍人なら食べられてもなんとかなるのにゃ。名前に龍がついているから、あのドラゴンとも分かり合えるのにゃ。」

「分かり合えても食べられたら終わりだろ!」

「んな訳あるかぁぁぁ!にゃ!」

「んな訳あるかにゃぁぁぁ!!」


 はっ!?しまった。つい語尾に「にゃ」を付けてしまった…!


「グル…?」


 フと見れば、ドラゴンが「攻撃して良いのか?」みたいに首を傾げていた。

 そうだよね。だって、強敵と戦っている筈なのに緊張感ゼロなやり取りだもんよ。


「よし。ブリティ、ミリア、次ドラゴンがさっきのビームみたいなのを出そうとしたら…俺をドラゴンの口の中へ飛ばしてくれ。」

「気が狂ったのにゃ。」

「龍人…大丈夫?熱でも…出ちゃったのかな?」

「ミリア、甘いのにゃ。龍人は熱が出た程度ではこんな事は言わないのにゃ。気が狂ったのにゃ。もう人間として終わりの領域に足を突っ込んでしまったのにゃ。…そういう意味では取り返しが付かないから、ドラゴンの餌にしても問題ないかもしれないのにゃ。龍人を食べている間に隙ができる可能性もあるから、有用な犠牲に出来るのにゃ。」

「え、じゃぁ、本当に…?」

「うにゃ。涙が止まらないけど、諦めて龍人を餌にするにゃ。」

「そっか…。」

「いやいや、俺は気が狂ってもいないし、熱も出てないし、餌になるつもりも無いからな。」


 ババっと俺を見たブリティとミリアが「驚愕!!」みたいな顔をしているのは何故だ…!?


「龍人が普通に喋ったのにゃ。」

「やっぱり龍人はまだ大丈夫なんじゃない?」

「そんなはずは…無いのにゃ。気が狂っていないとブリティが龍人を排除する理由がなくなるのにゃ。」

「アホか!!」


 チョ〜〜〜ップ!!!


「い、痛いのにゃ!暴力反対にゃ!」

「っそうだよ龍人!仲間に攻撃するのは変なんだよっ!」

「あのなぁ…。」


 いつまで続くんだこの悪ノリ。

 そんな風に思っていたのはドラゴンも同様みたいで。


「グルアァァァァ!!」


 鋭い咆哮を上げたドラゴンが再び口に膨大なエネルギーを溜め始めた。

 ほらぁ…ふざけている間にもう少し作戦会議出来たでしょうが…。


「きたのにゃ。で、どうするのにゃ龍人。」

「あのな…さっき言ったよな。」

「本気にゃ?」

「本気だ。」

「気狂いにゃ。」

「うっせぇ。いいからやれって。」

「ちっ。今回ばかしは乗ってやるにゃ。」


 なんか…俺がすっげぇ我儘な男みたいじゃね?


「龍人、ブリティ…そろそろ来るよっ!」

「分かったのにゃ。ブリティが龍人を飛ばすから、ミリアは機を狙うのにゃ。」

「もちろんっ。」

「じゃぁ…やりますか。」


 さっきまでのゴチャゴチャなやり取りが嘘のように、チームワークを感じるやり取り。

 若干…というか、かなり疲れるけど、こういう関係って悪くは無いよな。


「ガァァァ!!!!」


 ドラゴンの口元に集中するエネルギーが急激に膨れ上がり始めた。ビームを放つまであと数秒か。


「いくぞ!」

「うにゃ!」

「って…うわぁぁぁ!?」


 巨大な砂の手がいきなり現れて俺を掴んだ。

 あれ?飛ばすとは言ったけど…俺はカタパルト的なのを想像していたんだけどな?


「魔球!龍人球にゃぁぁぁ!!」

「マジかよぉぉっぉぉ!!????」


 ブリティの動きに合わせて野球の投手の如く動いた砂の手が俺を投げた。ボール(俺)は無回転でドラゴンの口へ飛んでいく。

 目の前に迫る高圧エネルギーが俺を迎え討つ為に放たれる。


 その寸前。

 俺の護龍障壁がドラゴンの口を「完全に」塞いだ。


 行き場を失ったエネルギーの行き先は…自明の理。逆流した高圧エネルギーがドラゴンを内部から破壊していく。


「ぐギャァァァァ!???」


 体の至る所からエネルギーの線を漏れさせながら、激痛にのたうち回るドラゴン。


「ごめんね。でも、これで試練クリアだよ!」


 紅蓮の炎に包まれたミリアが彗星の如く疾走し、レイピアでドラゴンの胴体を穿った。エネルギーが漏れた部分の鱗が剥がれているからね。自慢の鱗防御も無意味だ。

 ドッパァァン!!と激しい衝撃波が広がり、胴体に大きな穴を空けたドラゴンがゆっくりと倒れていく。


「うにゃ。全てブリティの作戦通りなのにゃ。」

「嘘つけ!」


 ぺっシィぃぃン!!と、俺がブリティの頭を叩く音が、試練10階のフロアに虚しく響き渡ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ