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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-30.龍人化【護龍】

 力が溢れる。暴力的なそれではなく、優しい力。全てを包み込むような温かさが全身に広がっていく。


「これなら…!」


 気付けば俺の周りにはキラキラした白い輝きが浮かんでいた。護龍の魔力なのかな。


 ヒュンヒュンヒュンヒュン!!


「あら?」


 止まっていた筈の時間が動き出しているんですが!?

 俺影の風刃が目の前に迫っているんですが!?

 しかも、俺は…龍劔術【双刀6連閃】を魔力刃極大バージョンで振り回している最中。

 時間の停止と再開の狭間で生まれた隙間を縫って、幾つかの風刃が今まさに俺へ直撃しようとしていた。

 もしかして、新しい力を得て…即退場っていう1番ダサいパターンになっちまうのか!?


 パァン!パァン!パァン!!


 思わず目を瞑ってしまう。

 ん?…直撃した筈なのに、俺に衝撃が無い。


「これは……。」


 目を開くと俺の前方に薄白く光る円形の……バリア?みたいなものが浮かんでいた。

 確か巨大ネズミと戦った時に出たものと一緒だ。

 あの時は俺が「こっちに動かして防ぎたい」って思った方向へなんとなく動いてくれていたっけ。

 けど今回は…。


「はぁん?面白い力を使うなっ!!?」


 俺影の前に魔法陣が4つ並列で展開された。嫌な予感がする…と思ったのと同タイミングで魔法陣から阿保みたいな質量の水流が放出される。

 これ、普通にどっパァン!って押し流されるやつよね!?

 俺の前にある2つのバリアが、三角みたいな形で水流を避けられたらなんとかなりそうなんだけどね!?残念な事に何となくでしか動かせない…!


「おっ?」


 バリア2つの先端がくっていて「くの字」を形成し、水流を押し分けるようにして俺とミリア影を水の暴力から守りきった。

 もしかして…今の龍人化【護龍】を使っている状態なら、このバリアみたいなのを自由に動かせるのか?

 ……お、ピコンって名前が頭に閃いたぞ。このバリアの名前は護龍障壁か。まんまだけど名前はカッコいいな。


「おいおい、別の龍人化かよ。」


 確か…龍人化【破龍】だっけ?を使った俺影が額に手を当てて「こりゃ困った」的なポーズを取る。

 にしても、この龍人化…凄い。内側から凄い力がどんどん湧いてくる。


「これなら…勝てるかも?」

「言うねぇ。けどよ、俺の破龍が攻撃特化なのに対して、お前の護龍は防御特化っぽい雰囲気を感じるぞ。護るだけじゃぁ勝てない。知ってるか?………攻撃は最大の防御なんだよ!!」


 ブワッと俺影の周りに魔法陣が多数展開され、燃え盛る火焔を吐き出した。それも、燃え盛る火焔…だけでなくて、炎の矢とか刃とかの色々な形状が混ざっている。

 護龍障壁の形を変えられるのを見て、簡単に防げないように攻撃のパターンを複雑化したってのか。


「さぁ!この攻撃を防いでみな!けど、防いだって次の攻撃をすぐに放つ!俺に攻撃が届かないお前は…守るだけ!分かるか?これが攻撃は最大の防御って事だ。守るだけ守って消耗するんだな!」


 攻撃は最大の防御。積極的に攻撃をする事で相手を防戦に追い込み、攻撃をさせない手法。

 俺影が言っている事は間違いじゃない。現に有効…というか、俺影の攻撃力を上回る攻撃手段がない俺は守るしか手段がない。つまり、ジリ貧。


「でも……。」


 護龍障壁の1つを球状にして俺とミリア影が中に入る。んで、貫通力の高い攻撃に対して1つの硬度を上げた護龍障壁を当てていく。

 範囲系の攻撃は球状の方で難なく防げている。これなら……勝ちは無いかもしれないけど、負けもない。


「やるな。けどよ、ずっと防御し続けていても事態は動かないぞ?」


 炎の次は氷、氷の次は電気、電気の次は風、水、光…と様々な属性魔法が嵐のように降り注ぐ。

 防ぐ。防ぐ。防ぐ。ただひたすらに防ぎ続ける。護龍障壁が2つしかないの厳しいな…!?4つくらいあれば防御の手数が増えるのに。


「……ちっ。焦らないか。」


 攻め続ける者と守り続ける者。普通に考えれば、攻め続ける者の方が有利だ。けど、それは攻め続けられれば。それが前提だ。

 守るのと攻めるの…一概には言えないけど、消費魔力は現時点では攻め側の方が大きい筈。なら、魔力切れになれば……。


「ちぃっとばかし変えるか。」


 俺影の周囲に展開されていた魔魔法陣に変化が起きる。

 これまでは複数の魔法陣が横に広がっていたのに対して、今度は重なるように展開されていく。


「…やばい気がする。」

「お前の守りのスタイルを貫く!」


 ドッパアン!!と放たれたの複数の風矢。それも恐ろしく密度が高い貫通力特化。つまり、球状の護龍障壁では防げない可能性が高い。硬度を上げた1つの護龍障壁だけでは全ての風矢を止められない。


「……。んなら。」


 球状の魔法陣を解除する。そして、ミリア影の前に硬度を限界まで練り上げた護龍障壁を1つ設置し…俺は前へ駆け出した。

 捨て身の突進。そう捉えた俺影が驚きに目を見開きつつ、楽しそうに笑った。


「やるねぇ!意表を突くって点では良いけどさ、お前が貫かれるぞ?」

「いつでも、ここぞという時は命懸けなんだよ。」

「…あ?」


 俺の言葉を理解出来ない俺影が眉を顰める。


「ここ…だぁ!」


 風矢はきっと威力が、貫通力が相当高い。俺の護龍障壁では防げない程に。

 だから…。


「…やるねぇ!」


 俺への直撃コースを辿る風矢の進行方向に対して、硬度を練り上げた護龍障壁を鋭角に設置。それを風矢がガリガリと削りながら直進する。僅かに軌道を逸らしながら。

 他の風矢が俺の体を掠めながら飛翔していく。でも、直撃は避けた!


「これで……決める!!」


 護龍障壁による軌道逸らしで風矢の直撃を避け、俺影に肉薄した俺が取る行動は1つ。

 全力の一撃。


「……っらぁぁ!!」


 魔力の形状変化で斬撃力を最大まで高めた魔力刃を纏った木刀の一撃を叩きつける。


「けどよ、これなら!」


 俺と俺影の間に一瞬で巨大な魔法陣が展開されて輝き、爆発した。正確には俺の方へ向けて爆発を吐き出した。

 爆発の熱と衝撃波が俺の全身へ叩きつけられる。


 筈だった。


「……なっ!?」


 生憎と無傷。

 魔法陣を覆った護龍障壁がビキビキとヒビを広げるのを横目に、ステップターンで俺影の側面に回りみつつ、薙ぎ払う。

 俺影が防ぎに掛かかった双刀が、俺の木刀に触れる寸前で護龍障壁を刀と木刀の間に展開。木刀と双刀が護龍障壁に当たって弾かれる。そのタイミングで木刀から手を放し、俺影の足を絡め取るように回し蹴りを放つ。

 直撃。重心のバランスを崩した俺影の腹部へ掌底を叩き込んだ。

 衝撃で体を跳ねさせた俺影が地面に叩きつけられる。


「……こりゃぁやられたな。」

「ふぅ…。防御だって最大の攻撃になるんだよ。」


 地面に倒れて動かない、動けない俺影へ言い放つ。

 地面に倒れた瞬間に護龍障壁で床に縫い留めたから、もう何も出来ないだろ。

 フェイントにフェイントを織り交ぜた思い付きの攻撃だったけど、上手く決まって良かった。

 名付けて防御を攻撃に織り交ぜる作戦。ダサいな。


「なぁ、俺は魔法陣を展開出来るんだぞ?こんなんなっても攻撃は出来るんだよ。動きを止めたってだけで安心するのはどうかと思うぞ。」


 ……しまった!完全に油断した!

 魔法陣を展開される前に、首筋に刃を突きつけるとかで命の手綱をこっちが握らないと…!

 慌てて俺影へ追撃をする為に近づこうとし…。


「……あれ?」


 特に何もする気配がない俺影に拍子抜けを味合わされる。


「ははっ。もう何もしないよ。これが命を賭した勝負なら、俺はとっくに首を刎ねられているだろ。詰めが甘い所はあるみたいだが、お前の護っていう覚悟は認めてやる。試練は合格だ。」

「いいのか?」

「あぁ。別に命のやり取りが目的ではないからな。あくまでもこれは試練だ。それ以上でもそれ以下でもない。」


 ブゥン。と俺影の姿がブレる。


「おっ。試練合格だから、俺がここに存在できるのも残り十数秒か。今、伝えるべき事は……。」

「……。」


 静かに待つ。

 これまでの発言から、俺影は俺か忘れている記憶について知っている可能性が高い。その一部でも何かを教えてもらえれば……。


「おし。決めた。お前の記憶は封印されている。お前自身の中に眠るもう1つの力に。力の名は破龍。とある事をきっかけに、力と記憶を破龍が封印したって訳だな。」

「破龍…お前がさっき使っていた龍人化の力だよな。」

「そうだ。多分、記憶を取り戻さないと破龍の力も使えないだろうな。どうやって記憶を…ってのは俺にも分からない。少なくとも、忘れている記憶に耐えられる土壌が出来てから。だとは思うけど。」

「耐えられる……ってどういう事だ?過去に、俺に何があったんだよ。」

「……悪いけど時間だ。次で最後の試練だ頑張れよ。」

「おいっ…!」


 スゥッ。と俺影は何の前触れもなく消えてしまった。


「…記憶の封印か。」


 破龍ってのが俺の記憶と力を一緒に封印したのには、一体どんな理由があるんだろう。記憶だけ封印すれば良いのに、なんで力まで封印したんだ?普通に弱体化する訳だから、デメリットしか無いはずだ。

 現に白金と紅葉の都では魔法を全く使えないから、剣技を鍛えて、そこに魔力形状変化を組み合わせるに至った。これが出来なかったら…俺は完全にミューチュエルのお荷物だったように思う。

 もし、力が封印されてなかったら、俺影みたいに魔法陣を展開して魔法を使えてたんだよな…。やっぱり力の封印にはデメリットしか無い。

 あ…。俺が元々どこの星にいたのか。とか聞けば良かった。先頭に必死すぎて、そーゆー情報を一切聞いていない。失敗したなぁ…。


「龍人!大丈夫!?」


 考え込んでいると、後ろからミリアが駆け寄ってきた。


「むぅ…ボロボロなのにゃ。結界の中が見えなかったけど、何があったのにゃ?」


 遅れてやってきたブリティは尻尾をゆらゆらさせながら首を傾げた。

 あれ?もしかして…2人とも仲直り出来たのか?


「…あ、うん。もう喧嘩はやめようって話になったんだよ。」


 驚いた顔でブリティとミリアの顔を交互に見ていたからか、俺の疑問を察したミリアが教えてくれつつ嬉しそうに笑う。

 遂に…遂に仲直り出来たのかー。これまでの気まずい時間はもう終わりって事だな!良かった良かった。


「ホント良かったよ仲直り出来て。」

「ブリティも大人になったのにゃ。自分を見つめ直す覚悟もしたのにゃ。それよりも、何があったのかを話すにゃ。」

「オッケー。んっとだな…。」


 そこから10分程度掛けて試練であった内容を話すと、ミリアもブリティも腕を組んで首を傾げてしまった。


「難しいね…龍人の記憶を取り戻せれば、今よりも強くなれるって事なのかなっ。」

「だと思うのにゃ。それでも、力と一緒に記憶を封印って…記憶か力のどちらかを封印しなきゃいけない退っ引きならない事情があるはずなのにゃ。場合によっては…龍人の人格が変わる可能性もあるのにゃ?」

「ええっ。龍人の性格が変わるの?……冷徹龍人とか?」

「うにゃぁ…。」


 視線が恐る恐る俺に向けられ…。2人はプルルっと体を震わせた。


「怖いね。」

「頭から齧られそうなのにゃ。龍人、今のままで良いのにゃ。」

「えぇ…?」


 まさかの今のままで良い宣言。

 つーか、俺が冷徹になるのを想像して震えるとか…そんなに俺って冷徹になるとやばいイメージなのか?


「えぇ?じゃないのにゃ。龍人は護龍っていう力を手に入れているのにゃ。大進歩なのにゃ。」

「いや、まぁそうなんだけどさ…。」

「その護龍ってどんな力なの?」

「んー、ざっくり言うと防御特化かな。護龍障壁っていう結界をかなり自由に使える。」

「…………うぅん?」


 あれ?ミリアの反応がすっごい微妙なんですが。「凄いね!龍人が私達を守ってくれるって事かなっ。」的な反応を予想してたんだけど…。


「な、なんだよ。」

「こういう事を言うのは良く無いと思うんだけど…。」

「いや、良い。言ってくれ。」

「…うん。悪気はないからね?なんか、戦いのスタイルがチグハグかもって…。」


 チグハグ?どう言う事だ?

 ポォン!とブリティが手を叩いた。


「なるほどなのにゃ!龍人は近接戦闘がメインなのにゃ。それなのに、後衛が得意にしそうな防御特化の力を使うのにゃ。何をしたいのか分かりにくいのにゃ。」

「うぐ…!?」


 言われてみればその通り…!

 防御魔法は味方と敵の立ち位置や攻撃を見極めて最適な場所へ展開するのが最も効果的。

 そうなのに俺は前線で戦うから全員の立ち位置を確認出来るわけもない。

 つまり……。

 うん。チグハグだ。


「えっと……龍人、大丈夫だよっ。きっと上手い使い方が見つかるからっ!………多分?」


 ミリアのフォローが辛い…。最後なんて曖昧で疑問系になってるじゃん。言っているミリア自身もハテナマークなんだろーなー。


「でもにゃ、その力があって試練に合格したのにゃ。だから、余り悩まずに本能に従って使うのがおすすめにゃ。」

「本能ねぇ…。俺、ブリティほどそーゆーの得意じゃないぞ?」

「大丈夫にゃ。本能は磨けるのにゃ。」

「どうやって?」

「本能で動き続けるのにゃ。」

「お、おう。」


 駄目だ…!本能で動いている奴に聞いても全く分からん!!


「と、とにかく、少し休んだら次の階層へ向かおうぜ。次が…試練10階で最後だ。」

「うにゃ。やったるのにゃ。」

「うん。…ちょっと緊張しちゃうね。」


 ここまで…短いようで長かった。

 奇跡的に試練9階が終わった時点でブリティとミリアの仲違いが解消されたのは大きい。

 後は…全力で最後の試練を突破するのみだ。

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