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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-28.試練8階

 わきわき手を動かすマッチョな男の影は…一歩ずつ距離を詰めていく。

 対するミリアは一歩ずつ後退りしていく。

 何故か影の顔がニヤニヤニマニマとイヤラシイ笑みを浮かべている気がしてならない。

 まさしく一進一退の攻防。……攻防というか何というか。

 マッチョ影の笑みが深くなった気がしたミリアはビクッと体を震わせる。


「おぉーぅい、何で逃げんだよ?これは試練だぞ。立ち向かってくるべきだっての。」

「だ、だって…手がエッチィんだもんっ!」

「ほっほぉーぅ。この手のエロさに気付くとは、中々に普段からエッチィ事を想像してんだな。」

「ちょっ!?そ、そんな事ないよっ!」

「どうだかなぁ?アイツとあんな事とか、こんな事になったら。なんて時々妄想してんだろ?」

「えっ…あんな事って?」

「ほっほぉぅ。そうかそうか。分からないのか?んなら…俺が1から10まで手取り足取り教え込んでやろうかなぁ。」


 マッチョ影は再び両手をワキワキ動かし始めた。指先に邪悪な念が宿っている気がしてならないのは、ミリアの気のせいではない筈だ。


「うぅ…やだよぉ。」

「あ。」


 マッチョ影が何かを思い出したのか、手をポンと叩く。片手はパー、片手はグーのお決まりポーズだ。


「そーいや、お前さん…7階の試練は誰が相手だったんだ?」

「え…名前は分からないよ。」

「そりゃそうか。特徴は?」

「えっと……焔使いで、鞭みたいな剣も使っていたかな。…強かった。」

「ははぁん…なら、相当搾られただろ?体力的にも精神的にも。」

「……うん。」


 マッチョ影の問い掛けに、ミリアは自然と頷いてしまう。ミリアにとって7階の試練相手は…それ程までの相手だったのだ。

 同じ焔使いとして何故勝てたのかも分からないし、ミリアの精神を抉る的確な口撃は…今思い返しても、良く心が折れなかったと言わざるを得ない。


「なるほどな。そったら、もう覚悟は決めてるって事だ。アイツは厳しいからな。なら、俺が問うのは1つ。」

「問うのは…?」


 イヤらしい雰囲気を消して話すマッチョ影の言葉に不安を感じたミリアの声が揺れる。


「単純だ。この8階に来れたのはお前だけ。龍人とブリティの2人は俺が7階で始末してある。」

「えっ…!?」


 突如突きつけられた残酷な事実にミリアは目を見開くも、すぐに表情を真剣なそれへ戻した。


「そんなの…信じないんだからっ。龍人もブリティも強いし、あなたみたいな変態さんに負けるとは思えないよっ!」

「……変態さんときたか。まぁ、そんなら周りを見てみな。」


 マッチョ影が指を鳴らすと、乳白色だった結界が透明に変わる。


「ほら。誰もいないだろ?」


 確かに結界の外には誰も居なかった。紛れもない真実が晒されたのだ。仲間を失い、ただ1人残ったという事実はミリアへ孤独、喪失という負の感情を抱かせる。

 …筈だった。


「でも、結界の中だよ?」

「ん?」


 レイピアをゆっくり構えながら、ミリアはブレる事のない視線をマッチョ影へ突き刺す。


「結界だもん。内側から見える景色も変えられる気がするっ!だから、私は信じない……ううん。私は仲間を信じるの。だって、仲間だから。」


 信じる。というには幼稚な論理。


「……くくっ!はっはっはっ!!」


 だが、そんなミリアの言葉を聞くと、マッチョ影は片手を額に当てて爆笑した。


「いやぁ、ホントアイツは良い仲間に恵まれるな。もう俺の役目は無いわ。ったく、7階がハード過ぎて俺がソフトにならざるを得ねぇじゃねぇか。ま、ハードタッチよりもソフトタッチ、フェザータッチの方が感度は上がるけどな。」

「ん?」


 厳しい戦いを想定していたミリアは、肩を竦めて座り込んだマッチョ影をみて首を傾げる。後半は純粋?なミリアにはイマイチ理解できなかったようだ。


「アンタ…名前はミリアだったか。龍人に言っとけ。負けるなよ。ってな。」

「え?う、うん。」


 いきなりのアドバイスにミリアが頷くと、マッチョ影が指を鳴らす。パチンっ!と。

 それを合図に結界が消え、ブリティをおんぶして立つ龍人の姿がミリアの視界に飛び込んできた。


「やっぱり…!」


 嘘ついてたんだねっ!と、言おうとしてマッチョ影の方を向くが…そこには誰も居なかった。

 変態だったのは間違いないが、どこか憎めない雰囲気を持っていたマッチョ影が何をしたかったのか…良く分からなかったミリアである。


「ミリア、中が全く見えなかったんだけど…大丈夫か?」

「うん。なんかね、お話しするだけで終わっちゃった。」


 近寄ってくる龍人とブリティを見て、ミリアは嬉しさを抑えられない。

 始末した。と言われ、信じなかった。しかし、不安な気持ちが無かったと言えば嘘になる。

 大切な仲間が無事にそばに居る嬉しさそのままに、ミリアは龍人とブリティに抱きついたのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 なんで俺はミリアに抱きつかれてるんだ?

 予想外の展開にバランスを崩し、お姫様抱っこしていたブリティと飛びついてきたミリア3人でドッタァン!と倒れ込んでしまう。


「ミリア…どうしたんだ?」

「…ううん。何でもないの。でもね、また2人と一緒になれて嬉しいんだっ。」


 目の端に涙を溜めた満面の笑みに、思わずドキッとしてしまう。

 涙と笑顔のコラボレーション…破壊力抜群だな!

 そのまま黙って見つめてしまいそうだったので、慌てて話題を振ってみる。


「8階ではどんな話をして終わったんだ?」

「それはね、秘密だよっ。プライバシーは守るんだからっ。」

「そ、そっか。」


 まさかの即答。追求出来る気配でも無いし…まぁいっか。ともかく、これで8階の試練まで突破出来た事に変わりはないし。


「あ、でもね、龍人に頑張れって言ってたよ。」

「頑張れ…。影に言われても何とも言えないような。」

「それはそうだねっ。でも、これで8階までクリアしたから、あと少しだよっ。」


 ミリアの言う通り…残るは2つ。

 それよりも、先に解決すべき問題がある。これ以上くっ付かれてたらなんか、我慢できないかもっ!?


「あの…そろそろ離れてもらっても良いかも?」

「うん?…きゃっ!?ごめんね!?重くなかった?」

「大丈夫だよ。」


 ここで「重かった」とか言ったら、空気読めないにも程がある。実際そんなに重くなかったし。それよりもミリアが密着しているって状況の方が精神的にヤバかった…かも?明言は避けておこう。

 俺の上に馬乗りになっていたミリアが横にずれると、俺は気持ちよさそうに寝続けるブリティを横に寝かせると、胡座の体勢でホールの中心へ視線を送った。


「多分…次は龍人だよね。」

「順番的にはそうなるよな。」


 そうなんだよね。

 6階がブリティ。7階がミリアで8階が俺だと思ってたけど、そのまま8階もミリア。

 この流れなら9階はほぼ間違いなく俺だよね。

 2人が試練を受けていた様子を見ていても、かなりの困難が想定される。

 肉体的に…ってのもあるけど、戦いの最中で交わされる会話?も結構堪える内容っぽい気がするんだよね。

 覚悟して進まないと…だよなぁ。


「むにゃむにゃ…極上煮干しの乱なのにゃ。」


 ただ、気になるのは…ブリティもミリアも試練に挑んでいる最中はかなり辛そうだったのに、試練が終わった後は非常に晴れ晴れとした表情ってとこだね。何かに吹っ切れたって事なのかな。

 もし、そうだとして…俺の中で蟠っていて解決すべき事項は。


 …全く思い付かない。


「龍人、頑張ってね!」


 両手をグーにして体の前でグンっとする「ファイト!」ポーズを取るミリアが可愛い。

 …ゲフンゲフン。今はそういう事を考えている場合じゃない。


「…色々考えてもしょうがないか。とにかく、行ってみるか。」

「むにゃ。もう食べれないのにゃ。」


 ブリティの寝言が良い感じにシリアス感を散らしてくれる。

 まぁ…そんなこんなで俺達3人は9階に進んだのだった。


 そして…。






 ズガガガガガァン!!


 雨のように降り注いだ氷柱が怒涛のようにホールの床を蹂躙し、着弾した氷柱が破裂する余波を受けた俺は細切れのように吹き飛んだ。


「おい。その程度か?滅茶苦茶弱いじゃん。」


 爆発を放った張本人…双刀使いの影は飽きれた声色で俺を見下す。


「くそ…。」

「そんなんで…やっていけるのか?甘いぞ。甘すぎる。」


 否定に続く否定の言葉。

 見せつけられる力量の差。


 俺は…俺自身の影と戦っていた。

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