2-11.幕間〜プラム=ピリト〜
本編でそこ迄活躍をしていないプラム=ピリトのストーリーです。
元々ここでピックアップする予定は無かったのですが、今後の展開を考えて追加しました。
私の名前はプラム=ピリト。
森林街にあるレフナンティの警護団団長を務めているわ。
警護団って何なんだ?…そうですね、簡単に言えばレフナンティを警護する団体なのよ。
…今、名前の通りだろって思いましたね!?しょうがないじゃ無いですか!それ以外の説明は出来ないのよ!
……コホン。取り乱してごめんなさい。
さて、私の仕事について簡単に説明するわ。
1つ目。
警護団指名で出されるギルドクエストを、団員に振り分ける事ね。
レフナンティにあるギルドは、他の星と比べると規模がかなり小さいの。だから、強いギルド加盟者が少ないのよ。
そして、警護団にはギルド加盟者も多く存在するわ。そして、私も強い人は警護団に勧誘している。
これは、レフナンティを守るだけでなく、レフナンティに住む人達を守るためでもあるの。
難易度の高いギルドクエストを単独、少人数クラン(ギルド加盟者個人で作るチームの事ね)で挑んで、尊い命が無駄に失われないようにするためよ。
こうする事で、警護団に難易度の高いクエストが集中する訳なんですが…それを良しとしない人が居るのも事実なの。
この護衛団がギルドに食い込むやり方が正しいか分からない。それでも、私はレフナンティの人達の命が失われないよう…それを最優先に考えてこれからも行動するつもりよ。
2つ目
警護団のメンバーを鍛える事ね。
難易度の高いクエストを実行する割合が高い以上、実力が生死を左右する大きなファクターになるの。
だから、警護団として街の警護を行ったり、クエストの実行をしていない時は、基本的に私との特訓を義務付けているわ。
ても、これには少しだけ悩みがあるのよね。
どうしてか、皆が私との試合を避けたがるのよ。実戦形式が1番重要だと思うから、団長権限で試合はやらせてるけど…。
現に今日も新人君と20連戦しようとしたんだけど…5戦目で止められちゃったわ。そんな少しの戦いでヘバったら、有事の際に何も出来ないから15戦目迄はやったんだけど、そこで意識を失って倒れてしまったの。
ん〜…やっぱり体力が足りないのかしら。私なんて、まだまだ元気なんだけど…。
その後の中堅メンバーとの試合は10戦ずつだったけど、確りとこなしたわ。全部で20人くらいだったかしら?
ちょうどよく疲労が溜まるくらいの人数よね。
でも…もう少し戦いたかったような…。
こうして、私はレフナンティを守る為に毎日弛まぬ努力を続けてきたの。
そして…その努力の成果を試す時がやってきたわ。
それは豊穣祭で。
ギルドの前に建てられた櫓の近くで、私は磯辺揚げを前に葛藤していたの。
食べたい。でも…。視線を横に向ければ、磯辺揚げを食べて絶頂に導かれた人達が恍惚な表情で倒れているの。
毎年恒例の光景だけど、今回は被害者?が多いような…。藤崎茜君の作る料理は本当に規格外ね。
毎年食べてるし…やっばり今年も…食べるしかない!
そう決心して口を開く。そして、磯辺揚げの香ばしい香りが…。
ドォォォン!!
……何、今の。
音が聞こえた方角を見ると…レフナンティの西側から火の手が上がっていたわ。
「火事だぁ!」
「なんだ今の爆発は!?」
「テロじゃないのか!?」
テロ…確かにそのレベルの爆発ね。
まずは現地に向かわないと…!
トンッ
小さな足音だったわ。
それでも、爆発による混乱で騒がしいこの場において…異質な足音を私は聞き逃さなかったの。
櫓の上にその人物は立っていたわ。銀色の髪を靡かせ、私達を睥睨しながら。
手に持つ磯辺揚げの魅力的な香りが鼻腔をくすぐるけど、そんな物にうつつを抜かす余裕すら無かった。
銀髪の男から発せられる気配…それは、私が今迄出会った誰よりも残酷なものだったの。
「貴方…何者ですか!?」
「……五月蝿い。お前らなどに用はない。」
「貴方に用がなくとも、私にはあります!」
この人、明らかに怪しすぎるわ。
こういうやり方はあまり好きじゃないけど…先の爆発の事もあるわ。もし、犯人だとしたらこの場で捕まえなければ、第2、第3の被害が出てしまうわ。
そう考えて拘束用の魔法を発動しようとしたのだけれど、私の考えは…甘かった。
銀髪の男は長い刀を手に取ると、目にも止まらぬ速度で振る。
ドォォォォン!!!ドォン!!ドォォン!!
気付けば…体が宙を舞っていた。
何が起きたのか…分からなかった。落下の感覚を認知し始めると、全身を激しい痛みが襲ったわ。
グンッと引き寄せられ、気づけば…私は銀髪に襟元を掴まれて、ボロ雑巾のようにぶら下げられていた。
「な….にが………目的なの?」
絞り出した声に銀髪は眉をピクリと持ち上げる。
「話せる程度に耐えるか。…アイツが探しているモノになり得るか?」
「アイツ…?」
私の疑問の声は無視。
いつの間にかに銀髪の後ろに立っていた黒装束の女が声をかけてきたからね。
「殺しちゃって良いのかしら?」
「無論。必要なモノ以外は全て殺す。」
私、殺されるのね。
…待って。今の言葉……もしかして、レフナンティの皆も殺されるの?
「待って…。殺すなら……わたし…だけ……に。」
「煩いわね。」
女が手を上げる。
あぁ……私、何も出来なかったな。警護団団長として……失格ね。
女の足元から黒い何かが…飛び出した。それは空へ飛び上がり、弾けた。
花火…?いや、そんなわけ無いわ。だって花火が…黒い訳がないもの。それに、こんな風に地上に落ちてくるなんて。1つ1つが鋭利な刃物のように尖ったそれは、死の雨となって降り注いだ。
………。………え?
私…生きてるの?私の魔力探知では、どんどんレフナンティの人達の生命反応が消えているのに。
何故。どうして…?
「終わったか。」
「えぇ。何人か撃ち漏らしたのが居るみたいだから、行ってくるわ。」
黒装束の女が…消える。
「どうして…何故、私は生かされて…?」
「………来たか。ここからが本番だ。」
…銀髪は私の言葉なんて、全く聞いていなかった。
本当に道端に落ちていた何かを拾ったかのような。そんな程度の認識。扱い。
それに………今、言ったわよね。「ここからが本番。」って。
どういう事?今までの、レフナンティの爆破も、殺戮も…全て前座だったとでも言うの。
これだけの事をして、それが前座?ただの当て馬なの?
この人は…この人達は、人の命を何だと思ってるの。
許せない…。私はもう2度と大切な人が目の前で殺される事の無いように、それだけを考えて行動してきたわ。
でも…。
「許せない…。」
「良い気概だ。その意思があれば、役にも立とう。」
「何を…かはっ!?」
鳩尾を衝撃が突き抜けた。
肺の中の空気が全て吐き出され、酸素を求めて舌がヒクヒクと痙攣を起こす。
そして…私の意識は深い闇へと落ちていったの。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
揺蕩う意識の中、私は『音』を知覚する。
「プラムちゃん!今日もあーそぼっ。」
それは、懐かしい声。
いつも聞いていた、幸せの自覚がない時間。
「今日はねぇ、お水と砂を混ぜてお団子を作ろうっ。」
楽しかった。
いつも、私達は遊んでいた。
特別な事は何も無い。
普通の、ごくごく普通の取り留めの無い日常。
だから私は…罪を犯した。
「プラムちゃん…本当に行くの?」
私は日常に飽きてしまった。今思えば…傲慢だった。でも当時の私は自分の傲慢さに全く気付いていなかったわ。
満足していた。満ち足りた日々だった。でも、だからこそ感じてしまった「退屈」という感情は、私の中で次第に大きくなっていった。…駄目だと、分かっていた。
それでも、幼心に刺激を求めてしまったの。
「うん…。でも、僕心配だな。あの花は北の森じゃないと咲いてないけど…。」
幼馴染の子は、止めてくれた。私達を…いえ、私を心配して。彼は正しかったわ。
でも、駄目だと言われると余計にやりたくなってしまう。
私が我がままを通して無理矢理説得し、私達は行ってしまった。
危険なのは知っていたわ。でも、だからこそ、その危険な場所に行って…その花を手に入れる事を『楽しいはずだ』と思った。
思い込んでしまった。
危険なんて…無いと思ってたの。
もし、そうなったら、誰かが助けてくれると……甘い幻想を抱いていたわ。
「何か…怖いね。でも、ちょっとドキドキして楽しいかも。」
その時の幼馴染の恥ずかしそうな笑顔は…一生忘れる事が出来ないと思うわ。
幼馴染が楽しそうという言葉を聞いて、「ほらね。」とばかりに…私は誇らしげに胸を張っていたの。
だからこそ忘れられない笑顔。…なのでは無い。
これが、私が見た最後の笑顔だったから…。
その後の幼馴染の顔が…表情がこびり付いて離れない。
私は…………間近で見ていた。
目に灯る光が薄くなっていく現実を…知ってしまった。見てしまった。感じてしまった。
私は…………許せない。
私を。
奴らを。
別の『声』を知覚する。
「ふむ。逸材とはならないが、一定の測定効果は得られそうだな。ならば…彼と同時の検証で採用しよう。」
幼い子供の声。
「さて…コレの効果がどれほどの物か…楽しみだな。」
何かが私に触れる。
「さぁ君の感情を…僕に見せてくれ。」
あぁ……あぁあぁあぁあ!?
許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。誰を?私を?アイツを?奴を?奴らを?どうするの?とうするの?どうする…の!?どうしたいの!?どうしたいの!?どう…………殺したいの?
引き裂いて。燃やして。ズタズタにして。
踏み付けて。すり潰して。
肉片も残さないように。
存在が残らないように。
いや、いや、いや、いやいやいやいやいやいやいやいや!!!こんなのわたしじゃない。こんなのわたしであるはずがない。わたしはひとのしなんてのぞんでいない。わたしはひとをまもりたいの。まもるの。それがわたしのそんざいいぎなのに。そうであるはずなのに。
殺したい。
止まらない。止められない。この気持ちを止められない。私の怒りを憎しみを全てをぶつけてやりたい。
だめ。だめよ。だめなの。それではだめなの。わたしはそんなことのためにちからをみがいてきたんじゃないの。みなとともにたかみをめざしたんじゃないの。まもるのよ。まもるの。
まもってまもってまもってまもって………まもって…。
守ってどうなるの?必死に守った結果…私は何を得たの?何を守れたの?何を失ったの………?
そうよ。そうよ。そうなのよ。そうであるはずよ。わたしはまもったのよ。まもっていたの。それをあいつらは………踏みにじった。許されない行為よ。許さない。奴らがいなければ、奴らが来なければ、平和な時間は続いていたの。奴らが、奴らが、奴らが、奴らが奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴ら奴らが………死ねば良いのよ!!!!!!
ワタシハメヲヒライタ。
メノマエニイルオサナイカオヲシタハクイヲキタオトコニイッタワ。
「オシエナサイ。ワタシノフクシュウスベキヤツラノイバショヲ。」
ソノオトコハセイキノナイヒトミデワタシヲミテウッスラトワラウ。
「さぁ、僕の仮説が正しいことを証明しよう。」
ワタシハワタシノソンザイイギヲショウメイスルワ。
コノイノチニ…カエテモ。
後半、プラムが感情を暴走させてイカレていく様子は如何だったでしょうか。
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