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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-18.ミューチュエルにて

少し短めです。

 蒼木と桜の都で調査を終えた俺がミューチュエルに戻ると、何やら殺伐とした雰囲気が広がっていた。

 …何やらってのはおかしいか。原因はミリアとブリティの仲違いで明確。実際は仲違いというよりもブリティの一方的なブチ切れ事件な訳だけど。

 2人はミューチュエルカウンターの奥と手前でお互いに背を向けるようにして座っていた。いつもならブリティがミリアに引っ付いてイチャイチャしているんだけど。んー嫌な雰囲気だ。

 …にしても、ブリティだけが背を向けているんなら分かるけど、ミリアも背を向けているとはコレ如何に。


「あら、龍人おかえりなさい。どうだったかしら?」


 帰ってきた俺に気づいたクルルは、ブリティとミリアが醸し出す異様な雰囲気を全く気にしていない。…もしかして2人が喧嘩するのって日常茶飯事なのか?

 俺がミューチュエルに入ってからは初めてだと思うんだけど…。


「あぁ。秘宝は無かったけど、お宝?なのかな。それは見つけたよ。」

「あら。意外ね。何も見つけないで帰ってくると思っていたわ。」

「相変わらずどストレートに失礼だな。まぁ俺も見つかるとは思ってなかったから良いんだけどさ。これだ。」


 俺が取り出したのは拳大の透明な球体。中には桜が乱れ飛ぶようにピンク色の模様が蠢いている。蠢いているって表現するとおどろおどろしいけと、見ていて普通に綺麗な玉だ。


「これは……。」


 心当たりでもあるのか、クルルは胸元から手帳を取り出してペラペラと捲り始めた。いや、胸元から出すなよ。…でも、胸元に手帳が隠れるのか。ロマンだな。


「櫻乱玉…ね。」

「貴重な物か?赤火と雨の都でも緋宝石だっけ?があったし、各星の特産物っぽいよな。」

「そうね。貴重よ。中々手に入らないものよ。……これは、資金難になった時の財源として厳重に保管しておくわ。」

「え、俺の努力は資金源?」

「大手柄じゃない。」

「物は言いようだな。図書館で文献とかを調べまくるの、相当大変だったんだからな。」

「何を言っているのかしら。それ、普段から私がしていることよ。」

「………すいませんでした。」

「ふふ。…それよりも、この2人をどうにかしてくれないかしら。」

「どうって……。まず、なんでミリアも怒ってるんだ?」


 クルルもミリアとブリティの仲違いはお手上げだったか。

 不意にこちらへ顔を向けたミリアを見て、俺はビクッとする。

 スーパージト目なんだが。感情が読めないんだが。え、なに、もしかして俺も何かやらかしたのか?


「もうね、知らないの。私がどんなに聞いても謝っても、煮干しの恨みは一生にゃ。の一点張りだよ?流石の私も堪忍袋の緒がプッチンだよ。」


 成る程。ミリアはブリティの理不尽さ加減に我慢が出来なかったと。


「五月蝿いのにゃ。隠した煮干しを返さない限り、ブリティは冷戦の継続を主張するのにゃ。」


 顔も向けずに話すブリティ。普段なら喧しく近寄ってくるのに。

 これは…。

 目線を送るとクルルは肩を竦めるのみ。

 ………物事には真正面から向き合ってはいけない時もあると思うんだよね。


「クルル。俺にも無理だぞ?」

「そうよねぇ…時間が解決するかしら。まぁ、先に話を進めましょうか。櫻乱玉の他に収穫はある?」


 流石クルル!この状況で強引に話を進めたぞ!この流れに乗らない手は無い。


「あぁ。櫻乱玉の場所を描いていた絵本に、砂漠の塔にお宝を安置した描写があったよ。櫻乱玉も実際に見つかったし、もしかしたら秘宝ってやつがそこにあるかも。」

「砂漠の塔…厄介な場所が出てきたわね。」

「都圏で俺がまだ行った事がない…確か黄土と砂塵の都だっけ?」

「えぇ。魔獣が多数生息する…普通なら誰も立ち入らない星よ。」


 魔獣が多数ね…。普通に行きたくないな。

 都圏はどの星も比較的安全安心って感じだったから、そこまで危険って言われると逆に興味が湧いてくる。

 待て待て……赤火と雨の都は大分危険だったな。アレを忘れるとか、俺の感覚鈍ってきてるかも。


「黄土と砂塵の都が次の目的地だとすると、生半可な覚悟では駄目ね。それに、準備も確りとしておかないと。選挙が終わる迄に帰って来れるかが心配だけど…、それでも行くしかないわ。」


 え、そんなに日数が掛かる想定なのか。


「何か情報を掴んだのか?迷わず行くって決めるなんて。」

「詳しくは分からないけれど、織田陣営が強大な戦力を整えているらしいの。もし、何かの拍子に戦いが始まったら、止められるのは私達しかいないわ。」


 そんな大袈裟な。…って言いたいんだけど、白金と紅葉の都は徳川家と織田家の2大勢力に集約されているから、確かに止められる…っていうか止めようと考える勢力が俺達しかいないのか。

 そんなら、やっぱり秘宝ってのは入手したほうが戦いを止められる確率は高まるか。


「しゃーねぇ。行くか。な、ミリア、ブリティ。」

「うん。私は行くよ。」

「…ブリティも行くのにゃ。この星が滅茶苦茶になるのは許せないのにゃ。でも仲直りはしないのにゃ。」


 …面倒くさいな!?


「チグハグな状態で行くのは心配だけど、止むを得ないわ。それじゃぁ、明日の朝に出発ね。それまでに必要な物は私が準備するわ。あなた達3人は体を休めて。」

「おっけー。」

「うん。」

「分かったのにゃ。」


 こうして俺達は黄土と砂塵の都に向けて各々準備を始める事になったのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍人達は知らない。黄土と砂塵の都に秘宝がある(かもしれない)という情報を得たのが、自分達だけではないという事を。

 そして、秘宝が黄土と砂塵の都にある。その情報を得た者達が動かない訳もなく。


 更に言えば、黄土と砂塵の都という、都圏に於いて危険極まりない場所へ行く。という事は、それなりの実力者が選ばれるのは道理。

 故に、龍人は相当に大変な思いをする事になる(色々な意味で)


 さぁさぁお待ちあれ。

 黄土と砂塵の都篇、間も無く開幕。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 優しい声が聞こえた。

 遠い場所から、静かに、囁きかけるように、慈しみを持った声で語りかけてくる。

 女性の声…だろうか。

 すぐ近くで話しているようにも聞こえるのに、遠くからというのが何故か確信的に分かる。

 何を言っているんだろう。


「…………覚悟…………か?……力………、…る……は…………?………秘………別の…、記憶、……………い、尚、………………か?………………悲し…で欲し………。しか…、…へ……で欲しいと……………す。…負…………命が……………そ。……運…と……………必要が……………。」


 駄目だ…上手く聞き取れない。

 でも、なんだろう。とても大切な事を話しているような気がする。

 この言葉を、聞き漏らしてはいけないはずなんだ。

 懸命に耳を澄ますけど、今より明瞭に聞こえる事はなく、声は少しずつ遠ざかって行ってしまった。


 再び訪れる沈黙。視界は真っ暗で何も映らない。

 そもそも、俺って今どこにいるんだ?

 確か黄土と砂塵の都に行くのに備えて早めにミューチュエルのベッドで寝たはずなんだけど…。


 ふわっと光景が脳裏に浮かぶ。


 そこには黒い何かが居た。静かに蹲り、こちらを見つめている。

 俺は…知っている。こいつが何者なのかを。知っているはずなのに。

 蹲っている?いや、何かを守っている?何をだ?

 俺は、この黒いやつとどういう関係なんだ。


 これは、俺が記憶喪失になる前に見た光景なのかな。

 きっとそうなんだと思う。でも、何故か今起きている事のようにも思えるんだ。


 黒い何かは徐に俺の方へ手を伸ばしてくる。

 その手には光る何かが宿っていて…光は次第に強くなり、迸り、俺を貫いた。


「…うわぁぁぁぁああああ!?」


 はぁっ、はぁっ…ここは………ミューチュエルか。

 今、何か途轍もなく嫌な夢を見た気が……汗もびっしょりだし。


「許さんにゃ!」


 ゴス!!


「ぐっはぁ!?」


 え、俺が寝ているベッドに何故かブリティが居て、寝ながら俺に踵落とししてきたんだけど!?油断しすぎていて、い、息ができな…


「甘いのにゃ!」


 ご就寝されている筈のブリティから放たれるアッパーカットが俺の顎に直撃する。


「ぐんぅぅぅぅ!?」

「止めにゃ!!」


 揺れる視界に映ったのは、高速で接近するブリティのオデコ。

 ガツン!!!という衝撃と同時に視界に星が瞬く。


 …俺が覚えていたのはここまで。


 次の日の朝、俺は鳩尾と顎と額の鈍痛に苛まされたのだった。

 ブリティの寝相、悪すぎだろ。今後絶対隣に寝ないんだからな!!

次話より黄土と砂塵の都における冒険が開始します!

少し長めになるかな?とは思いますが、お付き合いのほどお願い致します!

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