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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
173/196

6−16.幕間

 選挙戦。

 それは勝者によって政権下の星がどのような運命を辿るのかを決定付ける、重要なものである。

 視点を変えれば政権を勝ち取った者は、様々な利権を手中に収めることが出来る。良くも悪くも…だが。


 白金と紅葉の都における徳川家と織田家の選挙戦。

 それはそういう戦い。

 一般人からすれば「どちらの政権が掲げる政策が魅力的か」という単純な問題。

 しかし、選挙を戦う当事者からすればまさしく「生きるか」「死ぬか」という問題なのだ。


 そして、白金シティのとある場所ではまさしく生死を懸けた戦いが繰り広げられていた。


 豪邸。とも呼べる巨大な屋敷。今は使われていないこの屋敷内を、赤黒の装束を身につけた忍者達と、深緑の装束を身につけた忍者が飛び回っている。


「このっ!爆遁【連鎖熱波】!!」


 赤黒忍者が印を結んで伸ばした手から熱波が連続で放たれ、深緑忍者1人に直撃。高熱に焼かれた深緑忍者はのたうち回る。


「負けぬ!木遁【樹針破断】!!」


 床から木の根が次々と突き出て赤黒忍者を狙う。


「これしきっ!」


 赤黒忍者達は華麗な身のこなしで木の根を回避。しかし、


「…なに!?」


 突き出た木の根の鋭い先端が膨れたかと思うと破裂。更に細かい樹針となって周囲一帯を覆い尽くす。

 全身を樹針に突き刺された赤黒忍者は鮮血を迸らせながら倒れていった。


「…キリがない。」

「くそ。押し切れないな。」


 それぞれの陣営が「相手の陣営をどう崩すか」という一点に向けて思考を巡らせる。

 手練同士の戦い。それは作戦と一瞬の判断が、数秒前の戦況を覆す拮抗したもの。

 故に、動きを悟られるわけにはいかない両陣営は、最小限のハンドサインによるコミュニケーションを交わす。中指を上に向けて立てていたり、親指を下に向けているのは…きっとそれなりの意味があるのだろう。


 そして、再び忍術の応酬が始まる。


 2つの忍者勢力。コスプレが趣味の集団。…な訳は無く、歴とした勢力に属する者達だ。

 片方が織田家家臣、もう片方が徳川家家臣。

 赤黒装束の忍者は全てが男。これこそ男気溢れる織田家家臣。

 深緑装束の忍者は全てが女。これこそ色気溢れる徳川家家臣。

 といった具体である。


 この2勢力が、何故この場で争っているのか。


 事態は単純。

 徳川家擁する深緑女忍者軍団…徳川家くノ一が織田家の陰謀を探っていたところ、織田家忍者集団に待ち伏せされたのだ。

 この屋敷でDONと織田重光が秘密の会合を行うという情報を入手したくノ一集団だったが、実際は偽情報。全ては選挙戦の最中に徳川家の戦力を削ぐ為の陰謀だったのである。

 故に状況は待ち伏せをしていた織田忍者の優勢。


 …とはならなかった。


 罠である事を想定していた徳川くノ一の別働隊が、織田忍者を挟み込む形で屋敷内に突撃してきたのだ。


「くそっ…!別働隊だと!?くノ一風情が生意気な!」

「ふん。私達を甘く見るからだ。全ての状況に対する危険予測と準備。それこそが徳川くノ一の真髄。ここで貴殿らを倒し、全ての陰謀を暴いてくれる。」


 劣勢優勢が一瞬で入れ替わった。

 徳川くノ一が一斉に印を結び、それを見た織田忍者が追うように印を結ぶ。


「木遁【大樹陣縛】!!」

「爆遁【溶岩流刃】!!」


 屋敷内のそこかしこから大樹が生え、織田忍者を捕縛すべく極太の幹を触手の如くうねらせる。

 屋敷の床の一部が溶岩化し、そこから溶岩で形成された刃が次々と飛び出して大樹を切り裂いていく。

 連鎖する爆音。幹が溶岩で焼け、濛々と煙が立ち込め、木々が焼ける匂いが充満する。


「く、くそ…!」


 焦りの声を漏らしたのは織田家忍者だ。

 確かに溶岩の刃で大樹を切り裂いて燃やす事が出来る。しかし、完全に物量の差で押し切られようとしていた。

 切られ焼かれた大樹は、その一部を自ら落とし、断面から次々と新しい幹を生み出すのだ。その量、無限大。寧ろ…幹の数は時間を追うごとに増えていた。

 いつしか屋敷内は大樹の幹で埋め尽くされ、拘束された織田忍者が木の実のようにぶら下がるに落ち着いた。


「よし。これで織田家忍者の主戦力を捕まえた。こうなれば、織田重光も何かしらの行動を起こすはず。そこを押さえて、必ずDONとの陰謀を暴いてやるわ。」


 勝利を勝ち取った徳川くノ一達に安堵の空気が流れる。


 ブワっ。と、空気が動いた。


「な…」


 何事かと視線を動かした徳川くノ一の視界に映ったのは…眩いばかりの光。


 ジュッ!!


 一瞬で大樹の一部が消し飛び、体の一部を消し飛ばされたくノ一が驚愕の表情で倒れゆく。


「そ、んな…。」


 薄れゆく視界。

 その視界でくノ一が捕らえたのは…長ランを着込んだリーゼントヤンキー達だった。





「ククククク…。ざまぁねぇな。どんなに忍術が強かろうと、近代兵器の前では無力なんだよ。」


 銃を肩に担いだリーゼントヤンキーが高らかに笑う。

 因みに、ヤンキー達は全員が長ランを着込んでいて、背中には「愛蘇栗威夢」の刺繍。甘党か?甘党なのか?


「さぁて、この戦い織田家が負けるわけにはいかないんでね。加勢させてもらうぜ。」

「お…前たちは。」

「あぁん?誰だって良いだろ。今、重要なのは敵か、味方か。それだけだ。んで、俺達はお前達の敵。分かったか?くたばれ。」


 リーゼントヤンキーのリーダーは極悪な表情で鼻を鳴らすと、銃を徳川くノ一に向けて引き金を引いた。

 放たれたのは…レーザー。

 え、なにっ?いきなり近代的な兵器の登場ですか!?という感想を抱きつつも、くノ一達は必死に回避を試みる。


 ジュッ!


 しかし、回避をした筈のくノ一の1人がバランスを崩して倒れた。否、バランスを崩さざるを得なかった。片足が消し飛んだのだから。


「おぉう。レーザー銃を回避してみせるとはねぇ。恐るべきはその体術か。だがよ、わざわざ印を結んで発動する忍術と、人差し指だけで無限に放てるレーザー…どっちに分があるかねぇ?」

「くっ……!ならば、私達の全力を受けてみろ!」

「ハハハ!良い威勢だ!やっちまえ!」


 リーゼントヤンキー達は軍隊のように揃った動きで銃を構え、斉射を開始する。

 対するくノ一は目にも留まらぬ速さで印を結ぶ。

 飛び交うレーザーがくノ一達を貫いていく。

 だが、怯まない。止まらない。


「負けぬ!死線の先へ辿り着いてみせる!木遁【舞葉残刃】!」


 全てを切り裂く木の葉が舞う。

 くノ一忍術を嘲笑うかのようにレーザーが全てを貫いていく。


「奴等の助力を受ける事になるとは…。」

「しかし、これは好機。くノ一共を一網打尽にするチャンス。」

「うむ。…納得はいかないが、この機を逃す理由もあるまい。…行くぞ!」


 戦場に再び参加した織田忍者達の爆遁が、レーザーに翻弄されながらも勇猛に立ち向かうくノ一へ襲い掛かった。


「ぐぬぅ!?この、この程度で……!」


 爆発。レーザー。木の葉。

 3陣営の攻撃が空間を彩り躯体が悲鳴を上げる屋敷を、紅葉原から静かに眺める男がいた。


 紅葉の下に茣蓙を敷き、片手には日本酒の入ったお猪口。茣蓙の角に置かれた日本酒瓶には「裏顔万歳」という字が、筆で大胆に書かれている。酒の銘柄、それで良いのか?


「さて…これにて暗部間のバランスは某が有利になりましたね。」


 クイッとお猪口を傾ける姿は優雅。

 縁が水色て彩られた白の羽織に、天女のような金の羽衣。加えて白髪の美丈夫。決して若くは無いが、年寄りでも無い。年は30歳前後だろうか。それら全ての要素が「優雅」という言葉を体現していた。


「こちらはもう大丈夫でしょう。」


 パンパンっ!と手を叩くと、シュン!と織田忍者が木の幹横に現れた。


「お呼びでしょうか。」

「えぇ。徳川家のくノ一戦力を削ぐ事には成功したようですので、次の段階に移りましょう。」

「となると、ミューチュエルでしょうか。」

「そう。この選挙戦に於いて唯一、某達が注意しなければならない者達です。あからさまな行動は出来ませんが、織田忍者が得意とするアレならば…出来ますよね?」

「あの面子相手にアレを…」

「ほぅ…自信がないのですか。織田家に何年も仕えておきながら、クソ程の度胸しかないとは…。」

「い、いえっ。滅相もございません。策を練っていただけでして…!」

「ならば、必ず成功させなさい。」

「……はっ!」


 首を垂れる織田忍者の額を汗が伝う。

 織田重光が一瞬放った怒気への恐怖によるものだ。


「下がりなさい。いや…そうですね、他星が良いと思いますよ?万が一にも露見したら、貴方の首が物理的に飛びますので。」

「……承知致しました。」


 織田忍者がシュパン!と去ると、重光は日本酒を喉へ流し込んだ。


「んん…良い香りですね。この紅葉原が見納めになると思うと、多少は風情を感じるというものでしょうか。」


 そう呟いた重光の瞳は、暗く、暗く、どこまでも濁っていた。

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