表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
170/196

6-13.バナナ奮闘

 さて、ミリアに声を掛けてから俺が龍人だと認識してもらうのに大分苦労したのは割愛しようかと思う。


「えっ、龍人ってそういう趣味が…!?」

「ほ、本当に龍人なの?」

「もっと違うコスプレが…。」


 とか色々言われて俺の心が深く傷ついたのは…秘密だ。

 俺だって好き好んでこんな格好をしている訳じゃぁ無いんだからな!

 この皮剥けバナナコスプレ…顔が出ていないのが悪い。それなのに内側からは視界が遮られる事なく良好っていうのが不思議だよ。高性能コスプレである事は間違いない。…とは思う。良いコスプレかどうかは全く別の話だけど。


 …ごほん。


 んで、話を戻すと…なんとか俺を龍人だと納得してくれたミリアと、怪盗アーベルハイト捕獲作戦を擦り合わせた俺は、すぐに戦いの様子を見学する民衆に紛れた。紛れても目立っているのは間違いないけど。…もぅ気にしたら負けだろ!

 女暗殺者と怪盗アーベルハイトの戦いは激しく、正直入り込む隙が見当たらない。


「ちっ…強いねぇ!」

「はははっ!我の秘めたる力はまだまだこの程度では無い!」


 女暗殺者は苦無と…多分風を使った魔法で戦うのに対し、怪盗アーベルハイトは黒い何かを色々な形に変化させて攻防一体の動きで女暗殺者を翻弄している。

 一見すると互角に見えるけど、なんつーか…怪盗の方が余裕を感じる。


「マズイさね…枷の許可が…。」

「ふふん!隙ありだ!」


 女暗殺者が何かに意識を向けた僅かな隙を怪盗アーベルハイトが的確に突いた。

 黒い手裏剣を上下左右から乱れ飛ばしつつ、ゆらりと女暗殺者の背後へ移動。自身の放った手裏剣が女暗殺者の回避によって自分へ飛来して着弾する寸前で…手裏剣が霧散。霧のように広がった手裏剣は巨大な球体を形成する。


「さらば。美しき女性よ。」


 ドォン!と発射された巨大黒球体は女暗殺者に直撃!


「くそぉぉぉ…………!!」


 遥か彼方へと飛んでいった。勿論、女暗殺者も一緒に。


「我が力がこうしてまた1つの悲しみを生んでしまうとは…あぁ、なんと罪深いのだろうか。」


 …なんか悦に入っている。けど、この、今がチャンス!


「てぇぇい!!」


 人々の隙間を縫うように接近して、颯の如く突きを繰り出したのはミリアだ。怪盗アーベルハイトが油断しているとか関係ない。狙えるチャンスを狙って倒し、捕まえる!それが俺達ミューチュエルが為すべき依頼達成の手段だからな。


「人が勝利の美酒に酔っている所を狙うとは卑劣極まりない!!」


 黒い盾が形成されてミリアが繰り出したレイピアの刺突を弾き返す。


「…!?やっぱり強いね!でも、これならどうかなっ?」


 着地したミリアが次に選んだ攻撃は…炎を纏った五月雨突きだ。しかも突きの軌道が弧を描いて黒い盾を迂回するようにして怪盗アーベルハイトへ迫る。


「くくっ。これは思ったよりも強者が登場したか。ならば、我も正々堂々と応えようか!」


 盾をグワン!と拡大して全ての突きを華麗に防ぐと、両手に黒い短刀を携えた。

 …なんかさっきまでとちょっと雰囲気が違う気がする。

 くそ、ミリアに忠告したいけど俺が今ここで声をかけたら作戦が…。


「ちょっとは本気を出すのかなっ?私を甘く見てると痛い目みるよっ!」


 あ、大丈夫だ。ミリアも相手の雰囲気が変わったのを感じ取ったっぽい。


「はははっ。それで良い。我が真の力を出すかどうかは、これから決まるのだからな。」


 両者は其々の武器を構えて数秒対峙すると…示し合わせたかのように同じタイミングで武器を閃かせた。


 ガギガガガガン!!!


 武器同士が激突する音が連鎖し、ミリアが操る焔が2人の戦いを演舞であるかのように演出する。

 これでミリアが怪盗アーベルハイトを倒せれば俺の出番は無し。

 さて…どうなるかな。


「おいおい。これはなんの騒ぎだ?」

「まぁっ綺麗な演舞ね。今年から新しい演出が加わったのかしら?」


 戦いを出し物だと勘違いした人がゾロゾロと集まり始めた。周りに大聖堂の警備員も15名くらい控えているし…確かに出し物っぽいかも。


「あっ…!?」


 2人の戦いは突如終わりを迎える。

 パキィン!という音が響き、ミリアのレイピアが真っ二つに折れた。


「また…!」

「ははははははは!!!武器が持ち主の実力に見合わない結末がこれか!」


 高らかに笑う怪盗アーベルハイトの短刀がミリアへ迫る。

 …マズイ!


 ガガギィン!


「…これは、こ、これは?」


 戸惑いの声を上げたのは怪盗アーベルハイト。短刀を弾いたのは俺の木刀2本。

 んで、俺の格好は皮が剥けたバナナ。

 部外者が見れば怪盗と美女の対決に乱入したバナナ。

 いや、当事者が見ても同じか。


「……。」


 無言で貫く。声で俺が誰かバレたら、対策を取られるかもしれないからな。

 つっても、大聖堂の上で見せていない技を使うけど!

 使うのは…魔力形状変化。両手に持つ木刀に魔力の刃を纏わせる。

 見た目は木刀。切れ味は鉄刀。


「しっ!!」


 鋭い息を吐きつつ、怪盗アーベルハイトへ斬撃を連続で叩き込む。


「ぬっ!?これは…!?」


 まさかバナナがここまで動くとは思わなかったんだろう。

 虚を突かれた形になった怪盗アーベルハイトが体勢を崩す。そして、そこに踏み込む。


「龍劔術【双刀6連閃】!」


 流れるような動きで6連撃を叩き込む。


「ぐっ…ぬあぁ!!」


 倒したか!?と思ったのも束の間。

 体をグラリと揺らした怪盗アーベルハイトへ追撃を放とうとした瞬間、下から伸びてきた黒い物体に突き上げられて…俺は空高く吹き飛ばされた。

 客観的に言うと…くの字に折れてバナナが空を舞った。んで、落ちた。しかも頭から。地面に突き刺さる形で。


「まさか…このような結末になるとは。我とした事が人を殺めてしまうとは。だが、仕方あるまい。盗みにイレギュラーは付き物。」

「そんな…。」


 怪盗アーベルハイトとミリアの声が聞こえる。

 ただ、顔が突き刺さっているから見えないんだよね。

 取り敢えず頭を抜いて…と。


 ボコっと頭を抜いて周りを見ると、皆が目と口をガッコーンと開けて俺を見ていた。


「な、何故生きている。あの攻撃を受けて、しかも頭から突き刺さって平然としているだと…!?信じられない。お前、何をした!?」

「いや、何もしてないけど。」

「龍人、大丈夫!?」

「なに…?お前、龍人か。」


 ん?なんで俺の名前を聞いて反応してんだ?さっき名乗ったっけ?

 …それよりも、俺が無傷の理由の方が重要だ。いや、本当に無傷なんだよね。相当な衝撃を受けた筈なのに、体に全くダメージが入っていないんだこれが。

 考えられるのは…バナナ?


「……我が痛撃を受けて平然と立ち上がるとは。この、怪盗の名に於いて屠ってくれよう。」

「龍人!逃げて!」


 怪盗アーベルハイトの周りに次々と出現する手裏剣が…猛烈と降り注いだ。勿論、俺に。

 普通に考えて致命打の嵐。

 それなのに。


「……何故、何故無傷なの!?」

「いやぁ、俺にもサッパリ。」


 語尾が女口調でキャラがブレつつある怪盗さん。

 よし。


「……ぬぅ!?」


 魔力による身体能力強化を最大限。木刀の双刀使い皮剥けバナナとして怪盗アーベルハイトを捕まえる!!


 ガガガガガガガガ!


 連続する打撃音。

 木刀と短刀が優劣を争い凌ぎ合う。


「くくっ!先の件は驚いたが所詮はそこまで!いかに防御に秀でていようとも、打ち負かす攻撃がなければ勝つ事は叶わん!」


 …奴の言う通りだ。俺の持ち得る限りの剣技を駆使しているのに、短刀という防御を抜ける事が出来ない。

 でも…!


 カァン!!


 乾いた音が響き、左手の木刀が宙を舞う。


「さぁ!これで終劇といこうか!」


 俺の木刀を弾いいて勝利を確信したのか、高らかに笑いながら短刀の斬撃を放つ怪盗アーベルハイト。

 窮地。でも、これが俺の狙いだ。


「…ぅっらぁぁ!!」


 右手の木刀に両手を添え、魔力を最大限に注ぎ込む。そして、巨大な魔力刃を形成させた。

 この大きさの魔力刃なら、短刀の攻撃も纏めて突き抜けられる!!

 渾身の力を込めて木刀を振り抜く。凝縮された魔力刃が怪盗アーベルハイトの短刀へ触れ、魔力爆発を引き起こしながら特大の斬撃を叩き込む。


 …筈だった。


 バキィッ!!という鈍い音が手元から発生。


「へっ?」


 それは木刀が折れた音だった。

 もしかして…魔力を注ぎ込みすぎて耐えられなかったのか?

 てか、やばい。魔力が…!


 ブゥゥワァァァン!みたいにしか表現できない音と共に、木刀が折れた事で行き場を失った魔力が爆発した。

 発生した爆圧で視界が回転する。

 次に視界が落ち着いたのは背中に強い衝撃を受けて、自分が壁にめり込んでいるのを認識した時だった。


 俺が居たところへ視線を向けると、怪盗アーベルハイトが仁王立ちしていて…。

 頭からパラパラと崩れていった。

 え、もしかして今の魔力爆発で消し炭になったとか?…まさかね。


「龍人…大丈夫!?」


 駆け寄ってくるミリアに聞いてみるか。


「大丈夫だ。このバナナコスプレの耐久力が異常で。それよりも怪盗はどうなったんだ?」

「う〜ん、多分…逃げられた。かな?あの崩れている怪盗さんも、何かで怪盗を型どったものみたいだし…。」

「そっか…。逃げられたか。」


 悔しいけど、完敗だ。

 赤火と雨の都で習得した魔力形状変化で攻撃力を大分高めることが出来たから、ある程度強くなれた気がしていたけど…全然駄目だった。

 戦い方のパターンも少ないし、突破力も駄目。それに武器も俺がやりたい事についてこられなかったし。

 こりゃぁ…色々と見直す必要がありそうだ。


「でもね。…じゃ〜ん。」

「うわっ。マジか!」


 ニッコリ笑顔でミリアが取り出したのは天啓の宝玉だった。


「龍人が魔力の爆発を起こした場所にね、落ちてたんだっ。怪盗アーベルハイトとの戦いには負けちゃったけど、お宝を守る勝負っていう点では私達の勝ちだよっ。」

「…そっかぁ。」


 ちょっとだけホッとする。

 これだけ大立回りをしておいて、何も成果が残せません。だったら、俺が来た意味がないもんな。


「大丈夫ですか!?そ、それは天啓の宝玉!!守って下さったんですね!!ありがとうございます!!!!…っていうかバナナのアナタ…本当に龍人さんなんですか?」


 駆け寄ってきてくれたのは警備隊長だ。


「あぁ。ちょっと待って。今脱ぐから…………あれ?」

「どうしたの?」

「何か問題ですか?」


 おかしいな。


「あぁ…このバナナコスプレ、脱げないんだけど。」

「え?」

「へ?」


 時が止まる。

 主に俺の時が。

 え?俺、もしかしてずっと皮剥けバナナの姿でいかなきゃいけないの!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ