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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-12.怪盗アーベルハイト華麗に参上

 なんだし!?いきなり真っ暗になるとか…何かのサプライズ演出か?


 ドガン!パリィィン!ガシャァァン!!

「ぐえっ…!?」


 今聞こえたのは…天啓の宝玉が置いてある方向だ。もしかして、怪盗!?


「照明だ!照明を点けろ!」

「はい!すぐに……駄目です。用意していた照明が全て点火出来ません。」

「そ、そんな。何をどうしたら照明が全て駄目になるんだ。」


 ガシャァァァン


「それなら魔法を使える者が何人か居たはずだ!光を放つ魔法を使って、先ずは状況の確認をするぞ!」

「はい!!…ぐあぁっ!?」


 ドサ。ドサドサドサ。


 これ…ヤバイな。完全に後手に回っている。照明が消えてから今まで何も出来ていないぞ。


 ポゥ


 あ、薄暗いけど部屋の中心方向が光った。これで状況確認が……マジか。


「どうやったらこうなるんだよ。」


 薄明かりに照らし出された光景は、理解の範疇を超えるものだった。

 各所に飾られている美術品が入っていたショーケースは複数壊されていて、更に…大聖堂大広間の一角が大きく崩壊していた。物が壊れたりする音は聞こえたけど、ここまで大きく壁が崩壊した音は聞こえなかった筈なんだけど…。この規模の崩壊を静かに引き起こすとか意味が分からない。てか、そんな事出来るのか?


「ククククク。」


 そして、崩壊した壁の前にソイツは浮いていた。

 黒い仮面。黒いシルクハット。黒いマント。全てが黒尽くめ。

 大広間の明かりを消した理由はこれか。今の薄暗さでも真っ黒だから視認が難しい。もし、部屋の中心に灯っている光が消えたら…捕まえるのは至難の業だ。


「我が名は怪盗アーベルハイト!怪物が跋扈するこの日、我が華麗に参上した!かくなる上は…大事なお宝全てが我が手中に収まると心せよ!我がいつまでも怪盗の姿でいると思うな!さぁ、追う者達よ。その心眼をもって我を見つけてみせよ!ここに、史上最大のハロウィン鬼ごっこの開催を宣言する!!!!」


 ズッバァァァン!と両手を広げた怪盗アーベルハイトは空中でクルクルと回転を始める。


「この…!怪盗風情が!!!警備隊!壊れた壁の向こう側へ入り口部隊を送るんだ!会場内のA班は入れ替わりで入り口の警護、さらにB班C班D班は怪盗を捕獲!今が正念場だ!」


 警備隊長の指示で警備員達がババババ!と迅速に移動していく。

 すっげ。相当訓練された動きだ。警備員全員の動きに一切の迷いが無い。


「ハハハハハ!!無駄無駄!我を捕まえるなど…夢のまた夢と知れ!」


 パッと光が消えた。再びの暗闇。この間に逃げるつもりか?


「くそ!またか!全員入り口は死守!!大聖堂の各入り口を封鎖しろ!!」


 警備隊長の絶叫とも言える指示が矢継ぎ早に飛ぶ。

 普通に暗くて見えないんだが。今のこの状況じゃぁ俺、完全に役立たずなんだけど。


「誰か!光……え?」


 パッと大広間内の光が元に戻り、視界が一気に明瞭になった。けれど、視界の回復は安堵に繋がらない。


「はぁっ!?」

「何故だ?」

「どういうことだ?」

「怪盗アーベルハイト…天才か。」


 大広間内にいた全員が絶句せざるを得なかった。

 全員の視線は大きく崩壊した壁…いや、崩壊していたはずの壁へ向けられていた。

 そう。壁が元に戻っていたんだ。

 何の前触れもなく。暗闇になっていた10秒程度の時間で綺麗に戻っていた。

 そして、当然の如く怪盗アーベルハイトもいなくなっていた。


「そ…んな。」


 心をへし折られたかのように警備隊長が膝を付く。

 不味いな。警備隊長が機能しなくなったら、本当に怪盗アーベルハイトを逃しちまう。


「警備隊長さん。」

「な…なんだ。」

「諦めるのは早い。怪盗アーベルハイトは鬼ごっこの開始って言ったんだ。つまり、すぐに宝を持って姿をくらますつもりはないって事だ。一定時間は鬼ごっこを楽しむつもりだと思う。だから…すぐに捜索隊を編成するべきだと思うぞ。」

「そ…そうだな。私とした事が…ありがとう。すぐに捜索を開始します。」


 立ち直った警備隊長が指示を出すのを横で聞きながら、大広間の中を見回す。

 天啓の宝玉は…やっぱ無いか。不可解なのが、他の美術品も幾つか盗まれているんだよね。

 古武将の戦刀はショーケースが割れているけど盗まれていないし。あ、でも涅真珠は盗まれてんな。もしかして、本当の狙いは涅真珠だったりして。

 普通に盗むって事を考えたら価値の高いものを盗むもんな。天啓の宝玉よりも涅真珠の方がコレクター要素も強そうだし。


「龍人君。君も捜索を手伝ってもらえますか?」

「勿論です。俺は…捜索隊とは別で動いて良いですか?イレギュラーな動きをする人がいた方が怪盗も逃げづらいと思うんで。」

「あぁ、お願いします。必ず…捕まえますよ。」

「おうよ。」


 警備隊長と拳を軽く打ち合わせる。男同士の友情。みたいでちょっと心がトキめく。

 …ゴホン。

 さて、怪盗さんを探しますか。


 あの壁が壊れていなかったって事は…。あれ?まて、壊れていなかった?いや、壊れて直ったんじゃぁ……でも、仮に壊れていたのがフェイクだとしたら。

 そうすると。

 咄嗟に入口へ目を向けると、警備員の1人と目が合った。

 なんだ?なんであの警備員は俺を見ている?

 落ち着け。壁が壊れていなかったら、この大広間から出るには正面の入り口を通るしかない。そして、誰にも疑われずに正面入り口を抜けるには…警備員だ。

 俺を見ていた警備員が楽しそうに笑い、走り出した。周りの警備員は「なんだあいつ?」みたいに頭にはてなマークを浮かべている。


「くそっ!やられた!!」


 魔力による身体能力強化を施しながら駆け出す。目標は…走り出した警備員だ。


 恐らくは、あいつが怪盗アーベルハイト。


 警備員は大聖堂の外に出ると上へ飛び上がった。

 見ればピョンピョン飛びながら大聖堂の屋根へ向かっている。


「ヤバイな。大聖堂の上から飛ばれたら追いつけない。」


 こうなったら俺も登るしかない。こんなアスレチック要素の強い建物登り、したこと無いけどな!!


 大聖堂の屋根に到着すると、警備員が屋根の一部に肘を付きながら待っていた。

 コイツ、何を考えているんだ。


「よぉ。優秀な警備員君。我のトリックを見破るとは。褒めてやる。」

「トリックの原理はわからないけど、壁が壊れていたのは嘘なんだろ?そう認識させることで逃走経路を確保して、更にお宝も盗んだ。それに、お前の狙いは天啓の宝玉じゃぁない。恐らくは涅真珠。」

「ククククク……!!!面白い!良い考察だ!だが、それまで。それが分かった所で、お前が真理に辿り着くこともなければ、我を捕まえる事も出来ない。」

「そんなのやってみなきゃぁ分かんないだろ。」

「ほぅ。ならば試してみるが良い!我にたどり着けるか!!」

「やってやるよ!」


 木刀を抜き放ち、全力で接近。斬りかかる。


 ガギィィン!!!


 金属音が響き、俺の木刀は怪盗アーベルハイトが伸ばした両手の人差し指に受け止められていた。


「…マジかよ。」

「この程度で我を捕まえる?笑止!!もう少しマシな追手を待つとしようか。」


 怪盗アーベルハイトの足元から黒い何かが伸び、俺の鳩尾に直撃。


「がはっ…!?」


 完全な不意打ちに肺の空気を全て持っていかれた俺は倒れ込んでしまう。


「さらば。愚者よ。」


 怪盗アーベルハイトは恭しく一礼を披露すると、華麗に大聖堂の屋根から飛び降りていった。


「いたぞ!!怪盗だぁぁ!!全員、追い込めぇぇぇぇ!!!」


 下の方では警備隊が叫ぶのが聞こえる。怪盗の野郎、本当に鬼ごっこを楽しむつもりなのか。


「くっそ…。完全に負けた。けど…諦めないぞ。」


 多分だけど、怪盗アーベルハイトの実力は俺を上回っている。だとすると、普通に正面から戦いを挑んでも勝てない。だとしたら、不意打ち。

 どうしたら良い?怪盗を出し抜くには…。


 …………あ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 タタタタ!!


 軽快な足取りで街を駆け抜ける。ハロウィンイベントで街中を歩く人々全員が仮装をしているのに、全員の視線が俺に集中している。

 くそ…!悪目立ちしてんな。

 俺が追うのは、当然怪盗アーベルハイト。20メートルほど前方で人混みをすり抜けるようにして逃走中だ。

 今、大聖堂の警備隊が全勢力を注ぎ込んで怪盗アーベルハイトを追跡中。俺は…多分野次馬の1人とでも思われてるんだと思う。ちらっと視線を向けられたけど、興味なさそうに逸らされたし。

 でも、それで良いんだ。…そうじゃなかったらこんな格好をしている意味がないからな!


「いたぞ!!回り込んで捕まえろ!」


 俺と怪盗アーベルハイトの間にいる警備隊の横から別の警備隊が現れた。状況を把握した別の警備隊は散開して怪盗アーベルハイトを取り囲むように動いていく。

 これ、俺が何もしなくても捕まえられるかも。


「ハハハハハ!素晴らしい練度の行動!だが、甘い!」


 数秒で周りを取り囲まれた怪盗アーベルハイトは、それでも余裕の態度を崩さない。

 シュパッと広げた両手には…鉄球みたいなものが指の間に挟まっていた。


「我が数多の秘具で退けて見せよう!」


 両手がブゥン!と振るわれる。


「ぐあぁっ!?」

「ぐふぅ…。」


 10人近い警備隊員が倒れた。…いやいや、秘具とか言って鉄球みたいな物を投げただけじゃない?


「こうなったら…全員、斬りかかれぇ!」


 警備隊長の号令で警備隊全員が同時に斬りかかる。


「命を狙う者、失う覚悟をすべし。」


 怪盗アーベルハイトの両手に出現したのは…黒刀。

 あ、ヤバい気がする。殺気が…!


「死の舞踏を演じてみせよ!」


 黒刀が走り…。


 ガギィン!ガギィン!


 と、金属音を響かせて受け止められた。


「あ…。」


 警備隊のすぐ隣後ろまで追いついた俺が見たのは、黒刀を受け止める2人の女性。

 1人はガーターベルトみたいな装束を身につけた…暗殺者?忍者?みたいな細身の女性。

 もう1人は金のロングヘアを揺らす細剣使い…ミリアだった。


「ははぁん。怪しい格好しているからまさかとは思ったけど、アンタがかいとうアーベルハイトかい?」


 獰猛な笑みを浮かべながらギラリと笑うSMのじょ…ゲフンゲフン……女暗殺者は駒のように回転して黒刀を弾き飛ばす。


「えっ…?これはどういう事態なのかなっ?この怪しい人が怪盗なの!?」

「お前さんは……ミューチュエルのミリアかい。このアタイと同じタイミングで飛び込むとか、話で聞いていたよりも度胸はありそうだね。」

「ええっと……セクシー?なお姉さんはどちら様ですか!?」

「…!?ははっ!アタイのこの格好を見てセクシーとは最高だねぇ!」


 いやいや。セクシーだろ。


「アタイの名は…後で教えようかね。先ずはこの変態仮面を倒すよ。」

「むむぅ。我よりも変態な方向に振り切っているコスプレの女に変態と言われるとは…心外だな。」

「ほぅ…アタイのこの服装を変態と言うかい。これはふだ……この日の為に態々用意したのにねぇ。」


 女暗殺者の額に青筋が浮かんでいる。んでもって、今「普段の服装」的な事を言おうとしただろ。

 多分、俺を含む周りにいる全員が同じ事を思ってると思う。緊迫した場面の筈なのに、何故か女暗殺者への同情的雰囲気が場を支配し始めてるからな!


「ふむ。お前は自分の格好が相当に恥ずかしいと認識していないのか。その服装に佇まい、どう見てもSMの女王様だと言う自覚を持つべきだ。」

「な…!?この服装のどこがSMの女王様だって言うんだい!?…た、確かに普段から姉御肌だとは言われるけど、人を虐めて喜ぶ趣味はないんだよ!!」

「……ふん。それならば周りの…」

「あの、そーゆーどうでも良い話は後でしてもらっても良いですか?」


 ミリアの発言にピッキーン。と場が一瞬で凍りついた。

 女暗殺者は怒りの沸点を通り越して、怪盗は「えぇ!?それ言っちゃうの!?」的な驚きで、他ギャラリーは「容赦ねぇな!?」という心の叫びと共に。

 けど、その場を作り出した当人は至って真面目だ。


「まず、怪盗アーベルハイトが今こうやって追いかけられているって事は、きっと天啓の宝玉は盗まれたって事だよねっ?だから、捕まえるのが先決!怪盗さんは逃げるのが先決!服装の話は後で!」


 おいおい。どっちの。ってか誰の味方だよ。


「ぐ…。」

「ぬぅ…。」


 けど、正論っちゃあ正論だから誰も反論出来ない。ギャラリーも頷かざるを得ない。


「…そんなら、アタイがする事は決まっているねぇ。」


 女暗殺者の苦無が台風のように回転し、暴風が巻き起こった。


「これは……!?なるほど。」


 風に吹き飛ばされる怪盗アーベルハイトは何かに納得したように頷きながら、空中で体勢を立て直すと指を鳴らした。

 …なんだ?怪盗アーベルハイトの両手から黒い何かが噴き出て手裏剣を形作った。

 剣を出したり…手品師みたいな奴だな。あれも何かの魔法なのか?


「暗殺者…故に苦無ならば、我は手裏剣にて対抗しよう!」


 弧を描く軌道で手裏剣が空を走り、ザキシャとミリアへ迫る。


「はん!この程度の攻撃でアタイを倒せるとでも?見くびられたものだねぇ!?どきな!邪魔だよ。」


 ドン!と押されたのはミリアだ。


「えっ!?」


 まさか邪魔者扱いされるとは思わなかったんだろうな。びっくりした顔で尻餅を付いたミリアは地味に可愛かった。

 でもって、女暗殺者は手裏剣をカカカカカン!と弾くと怪盗アーベルハイトへ斬りかかって行った。

 よし。今のうちだ。ミリアと怪盗アーベルハイトを捕まえる作戦を…!


「ミリア、大丈夫か?」

「あ、うん。大丈夫だよ……って、えぇ?誰?バナナなのっ?なに!?変態なのっ!?私に何するつもりっ?」

「はいっ?」


 …あぁ、そっか。すっかり忘れていたよ。怪盗アーベルハイトを出し抜く為にコスプレしてたのを!

 俺の今の姿は、皮がむけたバナナだったって事を。

 コスプレ店の親父…本当に良いセンスしてるよ!

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