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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-11.ハロウィンイベント

 試合開始の合図と共にトンファー武道家が舞い踊る。細かな脚のステップを軸にした回転中心の動きに、トンファーの打撃を追加したような動きだ。

 動きがやや変則的で、攻撃の軌道を読む事が難しい。上下左右から不規則に放たれるトンファーの打撃に、普通ならボッコボコのメッキョメキョにされる事間違いなし。

 普通なら。


「くぅ…!この…仮面野郎が!」


 一方的に攻撃しているのは武道家。けれど、焦りの表情を浮かべるのも武道家だった。

 その理由は単純明快。

 相対する変態白仮面(俺の心の中で勝手に命名)が、全ての攻撃をクネクネと体を動かしながら回避し続けているからだ。どんな攻撃も全て紙一重で避け続ける動きは…見ていて凄いんだけど、気持ち悪い。

 あの仮面を着けていて視界が狭い筈なのに、その狭い視界の外から放たれる攻撃も全て避けてるもんな。それに動きに澱みがない。まるで武道家と全て示し合わせた演舞であるかの様に攻撃と回避が披露され続けている。


「こうなれば…!!」


 一向に攻撃が当たらないことに痺れを切らした武道家は、バックステップで距離を取ると両店のトンファーを回転させ始めた。持ち手を中心に腕の横でブンブン回っている。もしかして、さっきの動きに回転トンファーを加えるのか?俺だったら自爆する自信があるんだが。


「奥義にてお前を叩きのめすまで!!」

「…ふぅむ。」


 武道家のトンファーを眺めて感心したように頷いた白仮面はババっと両手を広げた。マントの下は勿論、裸にベルトを巻きつけた変態スタイル。マジであいつヤッベーだろ。

 そして、俺は見てしまった。かなりムキムキの筋肉がピクピクっとしているのを。こいつ、かなり鍛えているぞ!!


「…なんのつもりだ?」


 白仮面が両手を広げた後に動きを止めたのを訝しんだ武道家が、眉をピクピクさせながら問いかける。因みに、その間もトンファーはブンブンしている。


「こい。」


 白仮面の返答はひと言。

 それは、お前の攻撃を無防備で受けてやる。と言わんばかりの挑発。


「この…!!!くそがぁ!!!くたばれ!奥義【扇打乱破】!」


 ブッチィ!と頭のどこかで怒りが爆発する音が聞こえたのは…きっと俺だけじゃ無い筈だ。

 武道家はブンブントンファーをお供に、なんか…凄い動きをした。もはやよく分からないけど、相当な乱打を白仮面に叩き込んだっぽい。

 ドガがガガガが!!!!みたいな音が一瞬の内に凝縮して鼓膜を刺激し、次の瞬間には静寂が訪れた。

 「シュゥゥゥ。」という攻撃後の武道家が静かに吐き出す息が、試合の終わりを告げていた。

 そして、グラッと体を揺らして大の字で地面に倒れたのは…武道家だった。


「…へ?」


 いやいや、今の流れは白仮面が倒れる所だろうに。なにがどうなると武道家が倒れるんだよ。


「まだまだだな。」


 両手を広げたポーズを解除した白仮面はパンパンとマントの埃を叩くと静かに退場していった。

 まさかの結末に会場がドッと湧く。

 何が起きたのかは分からない。けれども、勝敗は明確。

 一部の観客は賭けでもしていたのかな?ガッツポーズをする人と荒れてスタッフに取り押さえられる人が出ている。

 きっと武道家の方が人気だったんだろうね。ダークホースの白仮面が勝ったって訳か。白仮面に賭けていた人は相当儲かったに違いない。


 パラパラ


「うわ…砂が降ってきたんだけど。」


 上を見ると2階席には…誰もいない?のかな。つーか店の中に砂を持ち込むなし。てか誰が砂を落としてるんだし。


 それから試合後の荒れた観客が落ち着いた所で次の試合を行う2人がリングに上がる。

 いいねぇ。この闘技場での試合、とても参考になる。俺も双剣での戦い方はもっと柔軟な発想にしなくちゃな。


「隣、良いかな?」

「あぁ、どうぞ………え。」


 別に隣に誰かが座るのは問題無い。快諾して声を掛けてきた人を見た俺は…ものの見事に思考停止してしまった。


 だってさ、さっきまで戦ってた変態白仮面がそこに立っているんだもんよ。


「ふっ。まさか俺が来るとは思わなかったかな?」

「え?」


 なに、この知り合いっぽい雰囲気。俺、こんな怪しい人物の知り合いはいないんだけど。


「それもそうか。俺の華麗なる一撃は、まさしく深淵から出づる悪魔の一撃だった。止められぬ暴力ほど恐ろしいものはない。」


 …ん?この厨二病全開な発言、どこかで聞いた記憶があるんだが。


「それにしても、まさか連続で会うとはね。龍人も俺と共に闇の力を極めたいのかな?」


 もしかして、もしかして…。


「それにしても…仮面を付けるのは大変だよ。おれの素顔を隠す必要が本当にあるのかどうか。」

「もしかしてお前…こ」

「待て!俺の名前を明かしてはイケナイ。暗殺者共が俺の命を狙っている可能性は否定しきれないからね。もし、ここで暗殺者が襲ってきたら、俺はこの闘技場にいる皆を犠牲にする事を覚悟の上で、暗黒ショーを開幕しなければならない。」

「……そうっすか。」


 間違いない。こいつ、香橋光秀だ。赤火と雨の都で助太刀をしてくれたけど、厨二病全開で若干面倒臭かった奴だ!

 なんでコイツがここに居るんだよ…。


「ふむ。龍人は俺が何故ここに居るのか。を疑問に思っているようだな。」

「…なんで分かったし。」

「俺から溢れる闇のエネルギーが相手の意志を自然と読み取ってしまうのだよ。」

「はぁ…。で、なんでお前がここにいるんだよ。」

「それは当然の事。怪盗の予告状が出たと聞いてね。都圏に住む者として何か力になれるかと思って来たのさ。」

「何をするんだ?」

「それはまだ決めていない。そもそも俺の力が必要ではない可能性もあるからな。明日にでも警備の担当者に協力を申し出るつもりだよ。」


 いやぁ…普通に言動から変人だから「きっぱりと丁寧に」断られる気がするなぁ…。


「そういう龍人はどうしてこの星にいるのかな?」

「俺も同じだよ。まぁ、俺の場合は怪盗対策の依頼を受けて来てるから、警備に協力するのは確定なんだけどな。」

「ほぅ…。君が対怪盗の人員とは。これはこれは…。」


 ん?最後の方でボソッと何か言っていたけど、聞き取れなかったな。


「まぁそういう訳だ。もし一緒に警備をする事になったらよろしく頼むよ。全ては正義のために!ね。」


 クネ!グルゥン、ピィィン!!と人間業とは思えないポーズを決めた光秀は、鼻歌を歌いながら出ていった。…良かった。もっと沢山絡まれて「深淵の…」とかを聞かされ続けるのかと思っていたから一安心だよ。


「おい、お前…あの変態仮面と知り合いか?」


 またもや後ろから声を掛けられる。

 振り向くと…さっきの試合が終わった後に暴れていたおっちゃんがイライラした様子で立っていた。


「ん〜知り合いではあるけど、会うのは2回目だから軽い知り合いかな?」

「そうか…。よし、あいつについて知っている事を洗いざらい吐いてもらうぞ。俺の負け分を取り返すために、あいつが再び戦いに出て来た時の参考にしなければならないからな。今回の…今回の負けは、何がなんでも取り返してやる。」


 鼻息の荒いおっちゃんの顔がズイっと近付いてくる。


「え…だから全然知らないって。」

「そんな訳ないだろう?あれほど親しげに話していたんだから。さぁ、吐け。あいつの武器は?戦いの特徴は?特殊能力は?全てはけぇぇぇぇ!!!!」

「ちょ…!?」


 …そこからはある意味で地獄だった。

 全然知らない人の事を根掘り葉掘り聞かれ、それでも使う魔法属性をペラペラ話すのも良くない気がしたから大事な所をボヤかす俺は更に疑われ。

 俺達の騒ぎを見ていた周囲の人達もどんどん加わってきて。


 光秀の野郎!!今度あったら文句言ってやる!!!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 そしてハロウィン当日。

 黒水と雪の都はとぉっても寒いのに、異常な熱気に包まれていた。

 その理由は勿論…ハロウィンイベント「美女と化物のワンナイト」だ。

 歩く人は全てコスプレをしている。普通の格好がイレギュラー…というか、そんな格好は許さない位の熱意を感じる。実際に私服で外に出ようとしたおっちゃんが「こら!私服で出るとか恥ずかしくないのかい!?」っていう声と共に首根っこを掴まれて家の中に消えていく場面も見たし。


 …ん?俺?

 俺は勿論いつもの服装だ。普段から忍者っぽい服装だから大丈夫だろ!むしろ大丈夫であってくれ!!という願いを込めてホテルから出てみたんだよね。そしたら「忍者か。」程度の軽〜く興味の無い視線しか向けられなかったらギリギリセーフだと思う。


 大聖堂から伸びる東西南北の大通りには露天やらイベント会場が設置されていて、沢山の人で賑わっている。

 んで、俺が今いる大聖堂内部の大広間も大混雑していた。

 都圏最大の美術品展覧会らしく、それを見たい人達が大勢押しかけているんだとか。大広間の入り口から大聖堂の入り口まで入場待ち行列がず〜っと続いているから、相当な人達が来ているんだと思う。

 怪盗対策でいつもの8割程度の入場制限を設けているみたいなんだけど、それでも大広間の中は見る限り人!人!人!って感じだね。この中に怪盗が混ざっていても見つけられる自信は流石にないぞ。

 とは言っても、大広間の入り口が一つしか無い以上…入り口の警備を厳重にする事で不審者の入場も退場も防げているみたいだから安心。な気もするけど。


「にしても…警備の動き凄いな。」


 入口近くで通る人達の観察を続けていた俺は、警備の連携プレイに舌を巻いていた。約50人以上の警備員が5分おきに警備配置を交代しながら動き続けているんだよね。

 しかも、その交代する場所が普通に見ていたらランダム。それなのに警備の穴が全く出来ないっていう。

 怪盗が警備の隙を突こうとしていたらな、多分断念しているだろうね。

 警備1人1人毎に違う動き方を伝えているらしく、それら全ての動きが合わさることで隙のない警備体制を完成させている。と警備隊長が言っていたけど…、これは考えるのも覚えるのも相当大変だぞ。

 そんな完璧な警備体制のお陰で、俺は入口で不審者を見つける&警備に異常が出た時のフォロー役っていう…普通に暇としか言いようがないポジションに落ちつけているんだけどね。


 腕組みをしながら眺めていると、警備隊長が若干疲れた様子で俺の近くにやってきた。


「龍人君。どうですか?何か異常は見つかりましたか?」

「いや、全く。綿密な警備のお陰で暇だよ。」

「ははは。それは良かった。」

「にしても、かなり疲れているように見えるけど大丈夫か?まだ昼だぞ。」

「あぁ…大丈夫だよ。昨日、警備が2名ほど体調不良になりましてね。新しい2名を手配しつつ、動きを短時間で叩き込んだから余り寝れてないだけです。」

「うわ。マジか。」

「はい。とは言っても、飲み込みの良い2人だったので、想定よりも1時間ほど早く終わりましたから。今日の動きを見ていても2人とも問題はなさそうなので、一安心です。」

「そりゃ良かった。…えぇっと、この後、12時から13時までは一旦見学は中止になるんだっけか。」

「そうですね。1時間の休憩中に警備体制の再確認を行います。今の様子だと…怪盗アーベルハイトが仕掛けてくるのは午後でしょうね。それも疲れが出てくる夕方以降でしょう。今外でやっている昼のパレードと同じように夕方にもパレードがありますから。その時間に合わせて、パレードの混雑に紛れて逃げる。と予想しています。」

「それ、厄介だな。」

「えぇ。歩く人々全員が仮装をしている状況ですから。逃げられたら簡単には見つけられません。だからこそ、この大広間から出さない事が最優先事項になる訳ですね。」

「だな。俺も午後は一層気を引き締めるよ。」

「お願いします。では、私は他の警備員に声を掛けて回ってきます。」


 そう言うと警備隊長はスタスタと別の警備員の方へ歩いていった。…大変だな隊長って。


 さて、あと15分で12時か。

 最後まで気を抜かないでちゃんと見ておかないとな。

 両手を上に上げて伸びをする。


 その時だった。


 大広間が突如闇に覆われたのは。

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