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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-9.お買い物!お食事!忍者!

 赤火と雨の都に於けるハードな依頼をクリアしたご褒美に、今日は依頼の無い休日だ。

 前から気になってる店が幾つかあったから、そこに行ってみるか!…とまぁ、そんな感じで俺はミリア、ブリティ、クルルの3人と白金と紅葉の都の商店街を歩いていた。


「うぅ〜夢が…夢がぁぁにゃぁぁ。」


 楽しい買い物のはずだけど、ブリティは今日の朝からずっとこんな調子だ。

 ブツブツと呟きながらゾンビみたいにフラフラ歩いている。ブリティと仲良さげな子供達が「あっ!ブリティだ!」と近寄ってきたけど、すぐに「ひいっ…!?」と動きを止めていたもんな。

 うん。本当にやめて欲しい。俺達まで変人に見られちまう。


「…ブリティ。煮干しは買ってあげるって言ったじゃない。」

「違うのにゃぁ。クルルは分かっていないのにゃぁ。ブリティが産声を上げた瞬間から夢を見続けていた煮干しパラダイスの夢が、叶うはずだったのに潰えたのにゃぁぁぁぁ。」

「だ、大丈夫だと思うよっ!きっとまたお宝が見つかるよっ。」

「ミリアも分かっていないのにゃぁぁ。夢は夢なのにゃっ。夢が現実になる瞬間、夢は目標に変わるのにゃぁ。その瞬間の歓喜は、耐え難く忘れ難いものなのにゃぁぁ。ブリティは…ブリティは………目標が奪い取られた夢に変わったのにゃぁぁぁ。この絶望は誰にも分からないのにゃぁぁぁ。」


 悲痛のひと言に尽きる。

 なんでこんな事態になっているのか?って言うと、クルルが緋宝石は売らないって決めたのが原因だな。「今はまだ売るべきではないわ。」と、今日の朝に決定通知が行われ…ブリティが激しく落ち込んだっていう流れだね。

 俺としては売る売らないどっちでも良いんだけど、あんだけ大変な依頼だったんだから…プチボーナスくらい欲しいよねっていうのが率直な意見。

 ま、そのプチボーナスが今日の休み&白金シティ探索なんだけど。お昼はクルルがご馳走してくれるらしいし…個人的には満足っちゃ満足。

 とにかく、悲しみに暮れる猫娘をどうにかしないと、楽しめる休日も楽しめないよなぁ。

 でも、解決する手段も全く思い付かないし…。


「はぁ…。」


 落ち込み続ける猫娘の様子に、肩をガックシ落としたクルルはカツカツとブリティへ近寄る。まさか…「いつまでも我儘言ってるんじゃ無いわよ!」って鉄拳制裁を!?

 項垂れるブリティの目の前まで移動したクルルは、その手を伸ばし………肩をポンポン。と叩いた。


「分かったわよ。煮干じゃなくて高級煮干を買ってあげる。」


 いやいや、そんなんで機嫌が直るなら苦労しない……


「マジのスケにゃ!?」


 ……え?


「にっぼしー煮干しー!高級煮干を食べられるニャァっ!」


 小躍りするブリティ。なんつー切り替えの早さだ。

 つーか、打ち砕かれた夢はどーしたし。


「ふふっ。ブリティは高級煮干を貰えれば大体機嫌が直るんだよ。」

「…へぇ。」


 ダメだ。やっぱりブリティの思考回路は理解出来ない。

 いや…案外単純かな?要は高級煮干しを常備していればブリティを操り放題って事に…。


 それから機嫌の直ったブリティを先頭に歩いていると、今度はミリアに異変が起きる。


「あっ!カルルン!!」


 いきなり謎ワードを叫んだミリアが駆け出した!

 何事!??と思ったら、雑貨屋店頭に並んでいるイルカの人形を真剣に眺め始めたんだが。もしかしてあの人形がカルルンなのかな。


「ふっふっふっ。にゃ。龍人はミリアの趣味を知らないのにゃ。これはブリティのアドバンテージなのにゃっ。ミリアはカルルン人形の大ファンなのにゃ!参ったかにゃ?」

「え、確かに知らなかったけど、もう知ってるからアドバンテージ無くなってるよね?」


 突っ込んだらブリティは両手を頬に当てて「ガビーん」的なポーズを取った。


「しまったのにゃ!!龍人…油断ならない奴にゃ!!」

「えぇ…。」


 声を大にして言いたい。俺はさっきから歩いているだけだ。

 俺が行きたい喫茶店がすぐそこにあるから、ミリアを動かさないと。…何故かクルルはミリアの様子を気にせず別の店に入っていった。自由だ!!


「あれ?このカルルン人形色合いが違うような?でも、アレはもう少し深みがあるはずだから…これは陽の光で日焼けしたのかな。それに裁縫のレベルも………でもこっちのカルルンはポーズが可愛いかもっ。あ、でもそうしたら跳ねているカルルンと寝ているカルルンと………回るカルルンを並べたら楽しそうな雰囲気を出せるかな。そういえば目に使っている素材が少し違うような。もしかして、このカルルン人形…オフィシャル発売じゃないのかな。でも版権の問題があるから……ううん。やっぱり公式人形にしては作りが荒いかも。ちょっと聞いてこなきゃ!」


 ブツブツとカルルン人形について呟いていたミリアは、覚悟を決めた戦士のような顔で店の中に入って行った。


 ……もう、単独行動しよう。

 俺は俺の行きたい店に行く!


 という事で、目的の喫茶店に入ってカボチャのタルトとオリジナルブレンドコーヒーを頼んだ俺は、テラス席でのんひりとした時間を過ごしていた。

 うん。ここ最近毎日ミューチュエルの依頼で動きまくっていたからな。たまにはこうやって何も無い時間を堪能するのも悪く無い。

 通りを歩く人を眺めていると、何やらポスターを貼る人を見つけた。

 等間隔で設置されている掲示板に何か貼ってるな。ポスターか?


「あらぁ、そろそろ選挙なのねぇ。」

「うわっ!?」


 いきなり真横で声がしてビビったんだが。

 見ると喫茶店の奥様が箒を持って立っていた。掃除中だったのかな?


「選挙って…政治の選挙だよな?」

「あら、お兄さん選挙は初めてかい?」

「あぁ。白金と紅葉の都に来たばかりなもんで。」

「そうかいそうかい。白金と紅葉の都は年に一度、政権を巡って徳川家と織田家が選挙戦を繰り広げるのさ。ここ最近は徳川家が連勝しているけど、今年はちょっと様子が違うのさね。」

「様子が…政策が変わったとか?」


 奥様は片手を口に当てて「驚きました」のポーズを取った。きっとこの奥様…若い時はモテたんだろうな。そんな雰囲気を感じる。


「アンタ鋭いねぇ。徳川家は紅葉と自然を大切にした星運営を掲げていて支持率が高かったんだけどね、今年から織田家がテーマパーク開発と自然を大切にした政策の打ち出しをしてから支持率が同じくらいなんだよ。しかもDONっていう企業と手を組んで公園建設事業を行っていて、子持ち世帯からの支持され始めているのさ。」

「その割には奥様は歓迎して無さそうですね。」

「あら。分かるかい?……ちょっと失礼。」


 奥様は俺の隣に座るとヒソヒソ声で話す。


「実はね、そのDONか裏でヤバい事業を進めているって噂が絶えないんだよ。証拠がないからニュースにはなっていないみたいだけどね。実際に証拠探しで動いていた記者数人が行方不明にもなっているみたいだよ。」

「それ、かなり物騒な話だな。」

「だろ?だから私たちの間では…」

「おーい!お前!なーにを話し込んでるんだ!料理ができたから運んでくれー!」


 店の奥から店主さんが叫んだ。


「あらあらいけない。」


 そう言って立ち上がった奥様は、俺に向かって軽くウインクをした。


「まぁ今のは根も葉もない噂さ。深煎りしないのが身のためさね。」


 今のウインクが何故かとっても魅力的に見えたのは、きっと気のせいだろう。うん。そうに違いない。


「にしても…織田家とDONね。俺も時間があったら調べてみるかな。」


 記憶が未だに戻らない俺だけど、白金と紅葉の都に対して愛着は確実に芽生えてきている。だからこそ「俺には関係ない」とする気は全く起きなかった。

 そんな事を言っても、星を動かすレベルの政治家相手に何が出来るかって話ではあるんだけど。

 ただ、前にクルルとミリアから聞いた話と、さっきの奥様の話は一致している。確か前に聞いた時は選挙迄2ヶ月って言ってたっけ。


「龍人。」

「ぬわっ!?いつの間に!?」


 テーブルの向かい席にクルルが座っていた。気配無さ過ぎだろ。くノ一か!?


「龍人。私が前に話した内容は、分かっていると思うけど他言無用よ?」


 俺と奥様の話も聞いてたのね。えっマジでいつから俺の近くにいたんだし。普通に怖いから。怖いんだよ?


「そりゃぁ勿論。変に口外すると狙われたりしそうだし。」

「その通りね。」

「ただ話の真偽はどうやってか確認したいとは思うけどな。」

「……それには直接聞くしかないわ。聞いたところで、とは思うけど。」


 そうなんだよなぁ。嘘でも本当でも選挙は行われる訳だから、何かをするなら選挙前。…あと2ヶ月も無い期間で動かなきゃいけない。若干無謀だよね。

 でも、ミューチュエルの目的が織田家から自然資源を守る事であれば、どちらにせよ選挙の投票が始まる前には陰謀を暴く…位はしないといけない気がする。


「なぁクルル。」

「なに?」

「前にミューチュエルの目的を聞いたよな?」

「…そうね。」


 公の場だから具体ワードは出さなかったけど、伝わったみたいだ。


「その目的達成の為にお宝を探すのは理解してるんだけど、その先はどーすんだ?」

「……今はなんとも言えないわ。各役者がどう動くか。その動きによって生じる隙を突いて綻びを広げるしかないから。でもね、その為の情報は常に収集しているわ。だから、龍人はお宝探しに集中してくれれば問題ないわ。」

「なるほどね。まぁ了解だ。選挙前にお宝を見つけなきゃだしな。」

「そうなのよ。かなりハードルが高いわよ?」

「分かってるって。」


 織田家とDONの陰謀阻止に必要な力を得るために、白金と紅葉の都に隠された秘宝を見つける。分かりやすい目的だからこそ、難易度は高いか。

 クルルの言う通り、そっちに集中するのが良さそうかな。


「じゃあお昼ご飯に行きましょう。そろそろミリアとブリティも戻ってくるでしょ。」

「いやぁ戻ってくるかな………って来たよ。」


 カルルン人形を嬉しそうに抱えたミリアと、高級煮干しと文字が書かれた高級そうな箱をホクホク顔て抱えたブリティが連れ立って歩いてきた。

 流石クルル。2人が目的の物を見つけて帰ってくる時間まで読んでいるとは…!


「ふふっ。コレクションが増えたよっ。」

「にゃはっ!ハッピー煮干しタイムがブリティを待っているのにゃっ!」


 うん。幸せそうで何より。


 その後、中華料理屋に入った俺たちは個室で贅沢コースに舌鼓を打った。高級中華料理って凄いな!ちょっと舐めてた。


 もうお腹いっぱい!と、全員が満腹感てふわふわ〜っとなっていると、個室のドアがノックされる。


「失礼します。」


 遠慮がちに入ってきたのはチャイナドレスを着た店員さんだ。戸惑いがちにドアの外をチラチラ見ながらクルルに視線を送った。


「どうしたの?」

「実は、お客様…クルル様にお会いしたいという方が来ていまして…。」

「……?誰かしら。」

「お名前は仰っていないのですが、くノ一と言えば分かると…。」

「………!?……そう。入ってもらって。」

「もう入ってるわ。」


 うそん。部屋の隅に置かれた椅子にその人物は居た。チャイナドレスの店員さんがビクゥ!となって、部屋の外と中を高速で確認している。…普通に可哀想だ。

 部屋の隅に座っていたのは、深緑の装束に身を包んだ女。

 いや、女忍者か。って事は……くノ一か!!すげぇ。初めて見たよ。くノ一ってカッコいいな。それに、地味にエロいって思うのは俺だけか?……男が俺だけなんだから、俺だけか。テンション上がるな!


「で、では失礼します。」


 店員さんはそそくさと部屋から出ていった。そんなに関わりたくないのか?


「何の用かしら。いきなり押し掛けるなんて無礼よ。」

「そう言わないで。過去にやり合った仲じゃない。」

「…誤解のある言い方ね。私は秘書として、あなた達の暗躍を防いでいただけよ。」

「その手法がえげつなかったのよ。どれだけ苦労したか。」

「そんなの知らないわ。」

「えっと〜…クルル、この人誰なのかなっ?」


 若干気まずそうにしながらもミリアが聞いてくれた。この状況で割り込むなんて流石だ。明日から特攻隊長って呼んだ方が良いかも。


「…貴女達は初めてね。彼女は徳川家の暗部とも言われるくノ一部隊の1人よ。」

「徳川家…現政権のメンバーが何でここに?」

「それは私も聞きたい話よ。先に言っておくけど、政治の道具にされるのはお断りよ。」

「その点は問題無いわ。私は依頼と同時に情報を持ってきたの。貴女達が探す秘宝に関する情報を。」

「秘宝…!?」


 ミリアが反応すると、くノ一は静かに頷いた。


「確かな情報よ。情報を渡す条件は依頼を引き受ける事。勿論、依頼内容を聞いてからの判断で構わないわ。」

「……その前に目的を教えて欲しいわね。私達ミューチュエルが徳川家の味方をするとは限らないのよ?」

「それも織り込み済みよ。徳川家と織田家。2つの派閥に属さない第3の勢力が必要。と我らが主は考えているわ。」

「ふぅん。で、その第3の勢力へ塩を送る…と?」

「そう。諸刃の剣である事は主も承知の上。だが、そうでもしなければならない理由もあるのだ。」

「………。ミリア、どうかしら?」

「うぅーんっと………聞いてみても良いと思うよっ。」

「そう。じゃあまずは話を聞くわ。」

「……え、そんな決め方なの?」

「そうよ。それが私達ミューチュエル。」


 えぇ?マジか。ミリアの直感頼りって事?

 くノ一は戸惑いを隠せない様子だったけど、すぐに気を取り直したのか話を再開した。


「えっと…そう、私達の依頼は黒水と雪の都で行われる「美女と化物のワンナイト」で同時開催される美術品展覧会の警備よ。」

「…それ、私たちに依頼をする必要があるのかしら。ハロウィンイベントで盛り上がるから、一定数の警備員が配備されているイメージがあるわよ。」

「普通ならそれで十分なんだけどね。怪盗アーベルハイトと名乗る人物から予告状が届いているのよ。」


 怪盗?怪盗って所謂あの怪盗?


「……私達を馬鹿にしてるのかしら。」

「していないわ。大真面目よ。仮の化け物が跋扈する夜、虹色に輝くお宝を頂く。…って、大聖堂に手紙が置かれていたらしいわ。常備されている大勢の警備を掻い潜って。」

「……そういう事。けれど、その怪盗対策に徳川家が力を入れる理由が分からないわ。」

「それは単純。ハロウィンイベントは我らが主…徳川舞頼様の発案で始まったもの。そのイベントで怪盗による盗難があれば、後の選挙に大きな支障が出る。更に、大聖堂には他にも多数の美術品…中にはアーティファクトと呼べる物が展示される。今回狙われている虹色のお宝…それも強力な力を与えると言われているわ。怪盗アーベルハイトが他星圏と関わりがある人物だった場合、何かを盗られて流出する事で星圏間均衡が崩れる要因になりかねないのよ。」


 クルルが視線を向けるとミリアは静かに頷いた。


「その理由なら納得はできるわね。加えて第3の勢力としてミューチュエルに情報提供する理由も納得は出来る。あとは、龍人次第ね。」

「はいっ?いきなり俺?」


 くノ一も「えぇ?」という何とも微妙な表情をしていらっしゃいますが。

 それでもクルルは「当たり前でしょ。」という顔をしている。


「ハロウィンイベントだから10月31日よね。その日はブリティは別の依頼があるし、ミリアも夜まで別の依頼があるのよ。そうなると手が空いているのは龍人だけ。だから、あなたがミューチュエルの一員として…この依頼を受けるかを決めなさい。」


 マジか。無茶振りをされた。とか思ったけど、これは「ミューチュエルの一員」として判断を委ねてくれるという事。つまり、俺をメンバーとして認めてくれているって事か。

 ミリアも、そしていつもは敵対心満載のブリティも静かに俺を見ていた。

 どうしたら良い?

 考えるべきなのは「依頼を受けるリスク」と「依頼を受けないリスク」だ。

 受けるリスクで考えられるのは、ミューチュエルの戦力が分散する事。もし、それが目的だったら…例えばクルルが暗殺される可能性もある。クルルは元々織田家の家臣だったらしいし、実はミューチュエルが織田家と裏で繋がっていると勘繰られていてもおかしくはないよな。でも、そんな事を考えたらキリがない…か。

 考えるべきは、1番メリットのある選択肢。

 それなら…答えは決まっている。

 俺はくノ一へ顔を向けて口を開いた。

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