6-8.迷子探し完了〜閑話&閑話にゃ〜
全神経を集中して、俺の周りにある泥輪の動きを把握していく。それと同時に体を動かして泥輪の直撃を避ける。正直、体を動かすのはほぼ無意識だ。つーのも、泥輪の数が多すぎて把握するので精一杯。良く被弾しないなって思うよ。
何はともあれ、ドレイムと接近戦が出来る距離まで近付くのが最優先だ。
左右から迫る泥輪を刀で弾き飛ばしつつ、俺は自分に起きた変化を認識していた。
その変化っていうのが…後ろから来る泥輪の動きも粗方分かるって事だ。
「危ねぇっ!?」
真後ろから飛んできた泥輪を間一髪で避ける。
多分だけど、これは魔力を使った探知なんだと思う。俺の魔力が周りに広がっていて、そこに触れた物体を認識する。みたいな感じかな。現に魔力がもわーって抜け続けている感覚もあるし。
この状態をどれだけ保てるかは不明だけど、長期戦になれば俺が不利になるのは間違いないと思う。
……もう少しで攻撃の射程圏内だ。
「グルバァ!」
俺の接近に警戒感を露わにしたドレイムは、マシンガンのように泥輪を発射してきた。
あれ?これ、ヤバくないか?前方からの泥輪連射で密度が高過ぎる。俺の動きをトレースしてくるから避けてもすぐに追いつかれる。防ぐのは現実的じゃない。
分身の術でも出来たら、分身体を囮に接近出来るんだけどな。残念ながら…そんな便利な技は使えない。
だとしたら…。
「これで…突破する!!」
木刀に注ぐ魔力を一気に増やす。密度を高めた魔力を木刀を覆う刃へと変化させる。
これがブリティに教わった魔力形状変化。
そんで、ここからはぶっつけ本番…!
魔力刃を纏わせた木刀を連射された泥輪に向けて、渾身の力で振り抜いた。
木刀の一振りに合わせて魔力刃が木刀から離れて飛翔。連射された泥輪を余す事なく真っ二つに切り裂いて無力化していく。
「よしっ!」
脚の魔力強化を一瞬だけ強めて、彼我の距離を一気に詰める。
「これで…フィニッシュだ!!龍劔術【双刀6連閃】!」
魔力刃を纏った状態での6連撃。この魔力刃を使った状態でのスキル使用が、俺が木刀を使うが故に決定打に欠けるっていう欠点を補う為の攻撃だ。
連続で腹部を切り裂かれたドレイムは体液を撒き散らしながら絶叫する。
「グルギャァォウ……!」
「まだ…まだぁ!!」
これで終わりにはならない。いや、終わらせられない。コイツを倒すまで手を止めてなるものか!
叫ぶドレイムが突き出してきた右腕を回避しつつ、左右から剣撃を叩き込む。ズルッとズレる腕。更に甲高くなる絶叫。
斬撃行動が生み出した遠心力で体を横回転させ、足を地面に付くのと同時にステップを踏んで回転力を推進力へと変化。転がるようにしてドレイムの足下へ滑り込む。
「よしっ!ここだ!」
ドレイムの真下で木刀を持ちながら両手をついて体を起こしつつ、駒のように回転しながら両サイドにある足を滅多切りにする。
グラリと揺れる巨体。
よし。これで首元に一撃を入れれば…!
「疾っ!」
足元から飛び出して地面を強く蹴って痛みにもがくドレイムの体を駆け上がり、気合いを入れた斬撃を走らせる。それは喉元へ吸い込まれていき…。
ガギィン!!
「……マジかよ。」
ドレイムの持っていた巨大な酒瓶に突き刺さった木刀は、押しても引いても全く動かなかった。
「グルバァォウ!」
木刀が突き刺さった事によって生じた酒瓶の亀裂から、酒が噴き出す。それは当然の如く俺に降り掛かり…。
ドレイムは勝利を確信したのか、凶悪な笑みで顔を歪めた。顔や首周りで燃え盛る炎が蠢き…至近距離にいた俺へと容赦無く伸びる。
これ…俺の負けじゃないか?
「グルバァァァァァ!!」
勝利の雄叫びと共に迸った炎は、左右から伸びてきた砂の壁に遮られた。
「……助かった。」
「龍人お待たせしたのにゃ。」
俺と砂の壁の間に降り立ったのはブリティだ。首に嵌められていた泥輪は無くなっている。
「ふっ。俺の右手がブリティを殺めようとしたが、不屈の精神で押さえ込み、泥輪の破壊のみにさせてもらった。深淵の闇に飲み込まれずにお仲間を助けた俺へ賛辞の言葉を送るが良い。」
…………。
「ブリティ、もう大丈夫なのか?」
「うにゃ。飼い猫にされた恨みは晴らすのにゃ。」
「ふっ。それでは俺の中に封印されし力の一端を解放しよう。さすれば深淵の闇は俺に服従し、僅かながら意のままに操れる。」
ガガガガッ!っと砂の壁に何かが激突する音が響き渡る。
そろそろ話す時間も無いかな。
「ブリティ、アレ出来るか?」
「もちのろんにゃっ。」
「うし。」
「さすれば、俺の封印していた技でドレイムの隙を作ってやろう!」
「いくのにゃっ!」
ブリティが魔力解除をした事で砂の壁が崩れ、ドレイムの姿が再び見える。
「グルバァァァァァ………。」
満身創痍。両足をズタズタに切り裂かれて、片腕を落とされても尚、戦意を失っていない。それどころか、巨大な泥の玉が胸の前に浮かんでいた。
「行くのにゃ!」
「おう!」
「封印されし力よ今!!」
ドレイムが泥の玉を放ち、光秀が妙に背筋をピーン!と伸ばしたダンサーちっくなポーズで右手を上げると黒い砂の柱が四方からドレイムへ襲い掛かった。
泥の玉を正面で受け止め、左右後方から黒い砂がドレイムに纏わりつく。
「バァウ!!」
「吹っ飛べにゃ!」
「ぬわっ……!?」
ブリティが魔法で作った砂の固定砲台から、ドォン!という派手な音で発射さるのは…俺だ。
俺がプリティの魔法を使って高速で突っ込み、双刀の魔力刃で相手を突き破る。的な作戦だ。
……なんだけど、ブリティの奴、回転を掛けて発射しやがった!周囲の景色が高速で回っていて、最早視認出来ないレベルなんだが。
「でも、これなら!」
魔力の形状変化で作った大きめの魔力刃を前に突き出す。
「龍人ドリル弾なのにゃ!」
ズドン!と剣先に衝撃があったと思うと…。
ダァン!と…俺は壁に激突した。
「……ルバァ。」
そんな小さな声が聞こえて、次にズドォンと巨体が倒れる音が耳に飛び込んできた。
これはきっとそう。アレだ。ドレイムを倒したんだ。
ちゃんと確認したいのに、視界がぐるぐる回っていて気持ち悪い…!
「おぇ…。」
強敵を倒した筈なのに、俺の心に残ったのは「もう高速回転はしたくない」という苦い感情だった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その後、俺たちは無事にレンちゃんを親御さんの所に届ける事が出来た。
まぁ帰り道も中々にドタバタだったけどね。
ドレイムが生み出していたから泥人形はもう出てこないだろうって思っていたら、普通に出てきたし。
ブリティは「煮干しエネルギーが足りないのにゃ」って言ってフラフラしてるし。
光秀は「我が手中に収めた勝利を輝かしいものとして、永遠に称える事こそがこの世の闇を照らす光となるのだ!」と、良くわからない事を言い続けてるし。つーかさ、光秀って所謂…厨二病ってやつだよな?しかもかなり拗らせた部類に入ると思うんだけど。
それに、光秀が赤火と雨の都にいた理由も良くわからない。操られていたブリティと渡り合う程の実力があるんだから、今後もどこかであう可能性はあるけど…。
会いたいかって聞かれたら会いたくないけどね。なんたって厨二病だし。話の殆どが深淵のうんちゃらとかに紐付けされるし。
とまぁ、色々あったけど俺達は無事に白金と紅葉の都にあるホーム…ミューチュエルに帰ってきていた。
「2人共おかえり〜!」
元気な声で出迎えてくれたのはミリアだ。この爽やかで元気な笑顔を見ると心が落ち着くなぁ。
「無事に帰ってこれて何よりね。それで…秘宝はどうだった?」
期待に声を弾ませるのはクルル。いつもは冷静沈着な彼女にしては珍しいな。
ブリティが意味ありげに肩を上下に揺らし始めた。
「ふっふっふ…にゃ。」
「その反応は、あったの?」
ニヤリと笑ったブリティは懐に手を差し伸べると、勢い良く引き抜いた!!
「じゃっじゃ〜ん!にゃ!ボス部屋で見つけたのにゃ!」
その手に握られていたのは。
「…それ、宝石かしら?」
「そうなのにゃ!緋宝石なのにゃっ。これを売れば大金で煮干し買い放題なのにゃっ!!」
と〜っても嬉しそうに緋宝石を掲げながらくるくるまわるブリティ。
ドレイムの下に窪みがあって、そこに埋まっているのをブリティが獣並みの嗅覚で見つけたんだよね。俺だったら絶対見つけられなかった自信がある。流石は猫娘?
嬉しそうなブリティとは対照的に、クルルはカウンターに両手を突いて落ち込んでいた。
「緋宝石…秘宝…ひほう……ダジャレじゃない。」
「あ…はは…。クレア。一先ずは大きめの臨時収入があったって事で…ね?」
背中をポンポンしながら慰めるクレアも若干引き攣り気味の微笑みだ。
「何を落ち込んでいるのにゃ?ご馳走食べ放題なのにゃ。美味しいものを食べて元気一杯腹一杯が幸せフルコンボなのにゃっ。」
「…そうね。今ここで落ち込んでいても何も始まらないわね。」
「うんっ。そうだよ!じゃぁ…今日は、パーティーかな?」
「煮干しパーティーにゃ!」
「じゃぁ、俺…買い出しでも行ってこよっか?」
「龍人!煮干しを忘れたらギルティにゃっ!」
「はいはい。分かってるよ。」
駄洒落的結末から何とか立ち直ったクルルが手をポンポンと叩く。
「1時間後に始めましょう。龍人は飲み物も買ってきて。私とミリアで料理を作るから足りない素材は…。あ、ブリティは自分で煮干しを買ってきなさい。こだわりあるんでしょ?龍人に頼んだら変な煮干しを買ってくるわよ。」
「はっ…!クルルの言う通りにゃ!!あいあいさ〜にゃ!」
「ほーい。」
こうしてパーティーの準備をした俺達は、その夜…と〜っても楽しく騒ぎまくったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
住民が寝静まり、歩く者も殆ど居ない黒水と雪の都。
しんしん雪が降り、湖面は鏡のように情景を写す。
静寂、平和。その中に1つの異分子が紛れ込んでいた。
右手で顔を覆い、左腕は後ろに向けてピーン!と伸びている。左手の指の開き具合や反り方はある種の芸術性すら感じさせる。
加えて右膝は直角まで曲げられていて、クラウチングスタートなのか!?と、見えなくもない。
極め付けは服装。黒マント、黒仮面、黒シルクハット。明らかに変人である。
変な服装、変なポーズ。誰得なのか。
いや、きっとそんな低レベルの話では無いのだろう。
やりたいからやる。きっと、それだけなのだ。その境地に達する事が出来た者のみが理解できる崇高なる高み。
「…これで種は撒いた。芽が育ち、開いた花に寄る獲物が楽しみだ。」
黒尽くめの変な服装で変なポーズを取って1人で満悦の境地に至っていた人物…長いので黒仮面と略そう…は、スチャッとポーズを普通の立ち姿に変えると、後ろを振り返った。
靡く黒マント。風もないのにユラユラと揺れる。まるでそうである事がステータスてあるかのように。なぜ揺れるのか?……以下(略)。
黒仮面の後方には絢爛豪華と評するに相応しい大聖堂が鎮座していた。
よく見れば、重厚感ある入口扉が開かれていて、数名の人が忙しなく出入りしている。
まるで事件でもあったかのような…
「はは。早速気付いた者が現れたか。となると、想定よりは警備のレベルも高いか。まぁ、無駄足に終わらず暁光。次は…。」
どうやら黒仮面の仕業らしい。何をしたのか定かでは無いが、満足そうに頷くとババっ!とマントを翻して闇夜に姿を溶け込ませていく。
誰も見ていないのにマントを翻す意味とは果たして。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
〜プチストーリー〜
ぐふふ。幸せいっぱい夢いっぱいな気持ちで寝るのにゃ。
龍人と赤火と雨の都で緋宝石ってゆーのを手に入れたのにゃ。緋宝石を手に入れる迄は、到底語り尽くせない大冒険があったのにゃ。
龍人と喧嘩もしたのにゃ。新人のくせに生意気なのにゃアイツ。その内、後ろから頭をカジカジしてやるのにゃ。そして、ブリティの優秀な家来にしてやるのにゃ。
…っと、話が逸れたのにゃ。
ブリティ達は緋宝石を手に入れて大金持ちになる権利を得たのにゃ!緋宝石を売り捌いて手に入れるお金で……高級煮干しを買い放題なのにゃ。ぐふふっ。むふふっ。ぐししっ。
……はっ!?
もしかしたら、ブリティは普通の煮干しを食べれない超セレブな猫娘に進化してしまうかもしれないのにゃ!?
なんて、なんて幸せな悩みなのにゃっ!
明日からはプリティ=セレブ=アーショに改名するのにゃっ。
明日のお買い物が楽しみにゃぁ!にゃにゃにゃにゃにゃんっ。にゃにゃんっ。ニャラッニャラッラッラッーンニャァン。
明日が楽しみすぎて寝れないのにゃっ!