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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-7.大晴れ部屋

 順調にダンジョン探索を進めた俺達は、遂に大きい晴れ部屋があるであろう大きな扉の前に立っていた。

 石造りで重厚感マックスの扉は、これから先に大きな試練が待っている事を容易に想像させる。


「…緊張してきたのにゃ。」

「同感。」


 ひとつの星を舞台にしたダンジョンのボス……強そうだな。まだボスが居るって決まったわけじゃないけど…ブリティの様子を見る限り、強敵がいるのは間違いなさそうかな。


「ビンビンに敵意を感じるのにゃ。」


 猫娘であるブリティの猫耳と猫尻尾がピーンと立っている。威嚇する猫みたいだ。


「…行くぞ。」

「うにゃ。」


 扉を開けるべく両手を添えて…


「あら?」


 手を触れた瞬間に扉が自動で開き始めた。

 ゴゴゴゴゴ…と地響きのような音を立てながら静かに開いていく。

 そして、扉の先にあったのは巨大な晴れ部屋。

 そして、巨大な晴れ部屋の中央には巨大なバクが酒瓶を持って爆睡していた。


「え……ビンビンに敵意?」

「にゃ……にゃにゃ?」


 まぁ状況的にこのバクがボスっぽい雰囲気だけど…寝てるしなぁ。


「うにゃっ!奥の岩陰を見るにゃっ!」


 何かを誤魔化すかのようにシュッピーン!とブリティが指を刺した先の岩陰に……女の子?

 もしかしてレンちゃんか?泥だらけで蹲ってるんだが。


「……ん?あの子、俺達に気付いてるみたいだ。……何かやってるな。」


 遠目でよく分からないけど、俺達の近くにある岩を指差してから自分の体をペタペタ触ってる。

 …ダメだ。ジェスチャーの意味がサッパリ分からん。


「一旦レンちゃんっぽい子の所に行くか。」

「それが良いにゃ。きっと1人で寂しい思いをしていたのにゃ。」


 そうして部屋の中に足を踏み入れた。


「グルバァ!!!」


 1歩目を踏み入れたのに呼応してバクが目を覚ます。叫びつつ、酒を飲む。


「ゴキュッゴキュッゴキュッ…グルバァ!!」


 ヨダレだか酒だか分からない液体を撒き散らしつつバクが叫ぶと、俺達の前方に十数体の泥人形が地面から出現した。

 同時にゴゴゴゴゴ…と後ろの扉が閉まっていく。

 逃げるなら…今しかない。でも。

 横のブリティを見ると、力強い目線で頷いてくれた。

 そうだよな。レンちゃんがいるのに逃げるだなんて出来ない。それに、ボスから逃げるってのも…俺の中ではあり得ない。


「やるか。」

「勿論にゃ。」

「グルバァ!!」


 それが開戦の合図になった。

 ブリティはサンドクローと砂を操って踊るように泥人形を粉砕していく。

 俺だって負けてはいられない。魔力の身体能力強化を併用した二刀流で突っ込む。

 泥人形のパンチを左手の木刀でいなしつつ、体を右回転させながら右手の木刀を水平に薙いで泥人形の頭を吹き飛ばす。そのまま遠心力を速度に変えて左手の木刀振り上げ、右から迫っていた泥人形の右手を粉砕。上段から2つの木刀を垂直に振り下ろした。

 よし。道場で色々なタイプの奴らと戦ってきたからな。素手タイプの相手との立ち回りもある程度は理解出来てる。

 数は多いけど、格闘のプロでもない泥人形なら脅威にはならない。


「ブリティ!足を止めるなよ!」

「龍人に言われたくないにゃ!そっちこそ囲まれないように精々頑張るにゃ!」


 なんだよ!アドバイスしただけなのに、ちょっと棘のある返事を返しやがって!


「助けてーって言っても助けてやんないかんな!」

「それはこっちの台詞にゃっ!」


 侃侃諤諤と騒ぎながら泥人形を倒していく。

 ボス戦の緊張感が全く無いけど、それが俺たちなのかもしれない。ボス戦すら通常運転。ある意味脅威かも?


「これで最後!」

「ラストにゃぁぁあ!!」


 俺とブリティの攻撃が最後の泥人形を同時に捉え、胴体を吹き飛ばした。


「ふぅ…これで残るはアイツだけか。」

「さっきからのんびりブリティ達を眺めていて腹が立つのにゃ。」


 大きなバクは泥人形を全て倒された事に気が付いたのか、静かに立ち上がった。

 配下の泥人形がいなくなって1人だからな。のんびりしてはいられないって気付いたんだろ。


「グルバァ…ゴキュッ。」


 眠そうな目で…また酒を飲んだ。コイツ戦う気あるよな?

 つーか、改めて見ると…親父臭さ満載だな。紺色の体に首周りと眉毛から鼻に掛けて炎が燃えていて、口の両端には太い牙。親分感プンプンだぜ!


「グルゥゥウ」


 お?バクが上を向いた。


「バァァァアア!!!」


 んで…酒を吹き出した!?


「うにゃぁぁぁあ!?汚いのにゃ!?」

「…マズイ。ブリティ砂でガードを…」


 バクの炎が吹き出した酒に伸びて…引火した。

 一瞬で広範囲に燃え広がる炎。視界が紅蓮に包まれ…


「……危なかったのにゃ。」

「サンキュ。」


 ギリギリでブリティが作った砂の壁で難を逃れる事に成功。


「龍人、アイツは炎使いにゃ。」

「まぁそうだろうな。」

「配下の泥人形に囲まれると、アイツの炎で消し炭にされそうなのにゃ。龍人、役割分担をするのにゃ。」


 良い提案だ。首肯するとブリティは珍しく?真剣な表情で続けた。


「ブリティはアイツをぶっ倒すのにゃ。龍人は泥人形を片っ端から倒すのにゃ。そうすれば、ブリティがアイツを倒すのに専念できるのにゃ。アーユーオーケェイ?にゃ。」

「アイムオォウケェイ。だ。」

「やるにゃ。」

「おう。」


 ブリティは砂の壁を解除するなり…物凄い速度で疾走していった。流石は猫娘。すっげー早い。

 おし。俺もやるか。


「魔力を木刀に流して……よし、イケる。」


 ただの木刀が魔力を纏った木刀に。これだけで打撃力が段違いになるはず。更に、身体能力の魔力強化を併用する事で、一般的な威力を遥かに凌駕する事が出来る。

 問題はこの状態でどこまで魔力が保つかだけど、まぁやってみなきゃ分からないか。


「らぁ!!」


 気合いと共に接近してきた泥人形を吹き飛ばす。よしっ。片腕の一振りで倒せる。それなら…。


「龍劔術【双刀6連閃】!」


 泥人形の群れに突進しつつ、スキルを発動する。

 前の道場破りの時に習得したすきるだ。ミリアに教えてもらったんだけど、一定の習熟度まで達すると天啓のようにスキル名が閃くんだとか。んで、そのスキル名を唱えるだけで発動短縮、消費魔力削減になる。今俺が使えるスキルはこれしかないけど、それでも有るのと無いのでは大きな違いだ。

 このスキルの良いところは、初撃をどんな風に出しても6連撃を叩き込む動き迄のパターンが自然と頭に浮かび、体がそれをトレースしてくれる所にある。そんなに連撃の練習をした記憶はないんだけど…まぁ細かい事は気にしない。


 ドドドン!!ドン!ドン!


 鈍い音を立てて泥人形が吹き飛んでいく。

 部屋の中に残っているのは…あと12体か。泥人形のリポップ条件がよく分からないけど、最初に出現してから追加は出てなさそうだから、早い段階でバク1体に出来そうだ。


「シッ!」


 鋭く息を吐きながら、スキルを使わない連打を叩き込む。

 無闇矢鱈にスキル連発だと逆に隙を作る可能性もあるからな。

 泥人形の動きは一般人レベルだから、身体能力強化を使っていれば全く問題無し!地味に無双気分を味わえるな。


「これで最後…!」


 水平の斬撃で泥人形の首を吹き飛ばす。ボロボロと崩れていく泥人形を視界の端に収めつつ、バクの方を見るとブリティが素早い動きで翻弄しながらアッパーカットを叩き込んでいた。

 それなら…。

 俺が走って向かったのはレンちゃんだ。可能なら今のうちに部屋の外に連れ出したい。


「大丈夫か!?レンちゃんだよね?」

「う…うんっ。」


 …良かった!無事に見つけられて。

 にしてもドロドロだな。相当怖い目にあったんだろうな。ちゃんとケアしてあげないと。


「あ、あの…!あのね、今のままじゃダメなの…。」

「ん?………もしかして、別にも人がいるのか?」

「ううん。違くてね、あの怪獣……ドレイムって言うらしいんだけど、戦わないで良いの。」

「あのバク、ドレイムって名前なのか。よく知ってるな。つーか、戦わないって…逃げられないぞ?」

「それはね、教えてもらって……逃げたかったけど扉が閉まっててね。でもね、見つからない……」


「うにゃー!?なんなのにゃ!?」


 いきなりのブリティの絶叫に振り向くと…。

 ドレイムの周りに沢山の輪っかが浮かんでいた。なんだアレ。…ドーナツに見えるのは気のせいだろうか。


「グルバァ!!」


 ドレイムの咆哮が響き、ドーナツの雨がブリティへ降り注ぐ。


「こん…なのっ……よっ……ゆーにゃ!?」


 ストリートダンサーみたいな動きで回避するブリティの首にドーナツが直撃。


 カポッ


 っと、ブリティのクビにドーナツが装着された。

 なんなんだ?近くに着弾したドーナツを確認してみると…どうやら泥で出来た輪っかみたいだ。

 ドレイムって炎を使うモンスターじゃないのか?もしかして…。


「うにゃにゃ。」


 ………。


「うにゃにゃにゃぁにゃぁにゃーにゃにゃにゃ。」


 もしかしなくてもブリティの様子がおかしい。


「にゃんにゃんにゃにゃ!!!」


 くるくる回りながら踊り始めたブリティは、いきなり俺とレンちゃんへ接近。無作為にサンドクローを走らせる。

 やべ…間に合わな…


 キィィン!!


 サンドクローを受け止めたのは…俺じゃない。

 今のは完全に間に合わなかった。それなのに、俺とさんと黒の間に横から差し込まれた短刀が受け止めたんだ。


「ふっ。俺の右手が疼く。」


 俺の横に突如現れたのは、片手を腰に当てて、何とも香ばしいポーズを決める男。


「俺の右手を膂力で震えさせるとは。深淵の畔から悪魔が覗く闇夜の刻限にて、封印されし秘術の錆にしてくれよう。」


 ちょっと待て。なんだコイツ。

 ブリティの攻撃を片手で防いでいるんだから、強いのは間違いないけど…言動が異常だ。


「お前、誰だよ。」

「うにゃぃぁぁにゃ!?」


 あ、今ブリティと気が通じ合った気がする。


「この俺の真言を受けても動じぬとは。お前も闇の洗礼を受けた者か…?まぁ良い。質問に答えようか。この猫娘はドレイムの泥首輪によって操られている。よって、華麗に首輪を壊さない限り正気を取り戻す事はない。更に、ドレイムは泥を配下の泥人形として把握する。つまり、泥だらけになれば敵として認識されなくなる。そこの小娘はそうやって難を逃れている。」

「ぐるにゃぁぁ…。」


 この男…結局誰なのか答えてないし。

 つーか、服装ヤバくね?黒いコートの下にボンテージみたいなの着てんだけど。足も白黒のタイツだし。


「先程までは説明した通り。問題はこの猫娘だ。ドレイムの操り人形となった者は、泥による隠匿が効かない。これの意味する所は…分かるだろう?」

「……よーくわかるけど、結局お前は誰だよ。ここまでドレイムの情報を知っていて、どーしてなんもしないんだ。」

「ふっ。愚問。俺1人では分が悪かっただけの事。」

「で、今は?」

「そうだな…。」


 ブリティの回し蹴りに対して身を屈めて避けた男は、斜め下から蹴り上げを放つ。


「ぐるにゃっ!」


 必中のタイミングだったのにも関わらず、ブリティは両手を交差して蹴りを受け止めつつ…後ろに飛んで威力を殺したっぽい。

 ブリティって魔法も強いけど…それを活かす体術が凄い。


「お前…名前は龍人と言ったかな?」

「あぁ。高嶺龍人だ。」

「龍人。心得た。俺は香橋光秀。お前の剣術は見所がある。先ずはあの猫娘をドレイムの縛めから解放しよう。」

「じゃぁ、俺がブリティの…」

「龍人はドレイムの相手を頼む。」

「はいっ?炎と泥の輪を使うモンスター相手に刀2本でどうにかしろと?」

「その通り。なぁに、お前も闇の祝福を受けた同志。深淵より覗く悪魔の力、その一端を引き出せば良いだけの事。」

「…意味が分からないんだけど。」

「では行こう!」

「おい…!」


 光秀…人の話聞かない奴だな!

 俺の言葉を一切無視してブリティと戦い始めたよ。ブリティの砂攻撃に対して、黒い砂?で応戦してんだが。

 属性魔法を使えない俺からすれば異次元ともいえる魔法戦。格の違いを見せつけられているな。俺もブリティ並みに戦えるようになんのかな…。


「……考えるのは後か。今はドレイムをどう倒すのかに集中しないと。」


 木刀に再び魔力を流し込んで強化を施す。龍劔術【双刀6連閃】を全部当てたとして、倒せる気がしない。

 そうすっと……今の状況でやるべき事は1つか。


「おっし。」

「グルバァ!」


 ドレイムも俺が向かってくる事を察知したらしい。ひと声叫ぶと酒瓶を持ち上げて酒を飲み始めた。またあの攻撃か…!

 今の俺に防ぐ手立ては無い。穴を掘って隠れたとしても、撒き散らされて引火した酒が穴の中に落ちてきたらアウト。そんなら…やる事は単純!


「はぁっ!」


 全身に巡る魔力の量と質を一気に強化する。

 手も足も目も耳もだ。全ての身体スペックを魔力で引き上げる。

 …思った通りだ。魔力の消費が若干激しいけど、イメージ通りに動けるぞ。


「ブブブブバァ!!」


 ドレイムが俺の周囲一帯を覆うように酒を吹き出す。そして、雨のように降り注ぐ酒へ向けて体の炎が伸びて引火した。

 まさしく炎の雨。初見だったらヤバいけど、攻撃手段が分かっているなら話は別だ。


 身を低くして疾走しつつ、右手と左手の木刀を交互に振り抜く。木刀の軌道に合わせて魔力刃が飛翔し、炎雨の一部を消し飛ばしていく。

 その僅かな隙間を駆け抜ける!

 よし、うまくいってるぞ。

 このまま至近距離まで…。


「……ってそう簡単には近寄らせてくれないよな。」


 炎雨を切り抜けた先で待っていたのは、泥輪の群れ。

 泥で出来てるんだから硬度は低いはず。直撃したとしてもダメージはそんなになさそうだけど、首に嵌められたら操り人形になっちまう。

 それに…首以外に泥輪を付けられても大丈夫って保証がない。例えば嵌められた箇所だけ動かせなくなる。なんてのもあり得る。


「被弾はNG。これまた単純……って事で!!」


 接近する泥輪4つを二刀流の連撃で吹き飛ばす。

 よし。吹き飛ばした瞬間に泥輪として再生したら詰みかもって思ってたけど、輪の形を失うとただの泥になるっぽいな。

 吹き飛んだ泥が体に付着しても何の影響も感じないから、輪っかじゃない泥であれば問題は無さそうだ。

 俺の接近を許したドレイムはギロリと睨み付け、怒りの咆哮をあげる。


「グ……ルバァレ!!!」


 泥輪による波状攻撃が始まった。

 ここを凌いで…あの技を叩き込んでやる。


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