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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-6.ダンジョン探索

 見渡す限りの巨大迷路。

 薄暗い通路。火部屋、雨部屋。

 暑い。寒い。そして…臭い!!


「うにゃ〜鼻がひん曲がりそうにゃ…。……近寄るなにゃ!!」


 ヨタヨタと近寄ってくる泥人形をブリティのアッパーカットが吹き飛ばす。衝撃で体を飛び散らせる泥人形。同時に広がるドブ臭い悪臭。


「くそっ。このダンジョン、体が馬鹿になりそうだ。」

「臭いのにゃぁ…。」


 だから無闇に攻撃するなって言ったのに。

 俺たちの周りに散乱している泥人形の残骸は、ほぼ全てがブリティによるものだ。

 迷子探しで訪れた赤火と雨の都は、名前の通り赤い火が燃え続ける部屋と、雨が振り続ける部屋を中心に構成されたダンジョン星だ。

 迷子のレンちゃんを見つけてパパッと戻るつもりだったんどけど…。


「龍人、ブリティ達迷子だと思うのにゃ。」

「…だな。」


 そう。俺達まで迷子になっていた。

 まぁ…延々と沸き続ける泥人形に追われ続け、似たような部屋を逃げ回っていたんたから当然ではあるんだけど。


「とにかくレンちゃんを見つけることを優先にしよう。お宝を探しているんだから、晴れ部屋にいる可能性は高いと思うんだ。」

「でも、晴れ部屋はどうやって見つけるのにゃ?」

「そこだよなぁ。」


 実際問題として迷子になっている時点で晴れ部屋を見つけるという事自体が無謀ではあるんだけど。

 でも、こういったダンジョンの場合は何かしらの法則で雨部屋と火部屋、晴れ部屋が配置されているもんだけど…。

 マッピングでもしてみるか?


「もう一回ここの火部屋の火をブリティの砂で消してみるかにゃ?」

「いや、さっき消えなかっただろ?」


 赤火と水の都に転移してきてから、すぐにブリティの砂魔法で火を消せないか試したんだけど、全く消える様子が無かったんだよね。普通は火の上に砂を被せたら酸素不足で消えるんだけど。

 魔力起因の火っぽいかな。


「だったらどうするにゃ?」

「火がダメだから雨部屋の水を止めてみるか?」

「ブリティの砂で水を止めるにゃ?」

「それしかないでしょ。」

「にゃっはっはっ!!にゃはは!砂で水は止められないにゃ!龍人ウケるにゃっ!」


 …カッチーン!


「いやいや!乾いた砂なら水は吸い込むだけだけど、濡れた砂の密度を高めれば一定量の水は止められるから。っつーか、砂使いなのにそんなことも知らないとかマジウケピーだしっ。」

「ウケピーってなんだにゃ!?意味は分からないけど馬鹿にされているのはたーっぷり伝わったにゃ!!」


 シャキン!と、ブリティの両手に3本の爪が出現した。


「龍人…ブリティを馬鹿にした報いにゃ。サンドクローの錆にしてやるにゃ。」

「おぅおぅ。やってみろし。」


 前々から毎回俺の事を目の敵にしてたからな。ここて1発、どっちが上なのかを知らしめてやる。

 牙を向いた猫のように「フシュー」と鋭く息を吐いたブリティがサンドクローを振り上げた。合わせて刃のように鋭く形成された砂が舞い上がり、襲い掛かってきた。


「…やっぱ無理かも!」


 ブリティに力の差を見せつけてやる!って思ったけど…属性魔法相手に剣技だけで勝てる未来が見えない!魔力操作で身体能力を上げたとしても、近接オンリーは厳しいな…。

 砂刃に危機を感じで横に飛び退く。


 ガガガガガ!


 砂刃の乱打音が通り過ぎた後方から聞こえ、恐る恐る振り返るとグチャグチャに破壊された壁の向こうに雨部屋が見えた。

 …すっげー破壊力。

 魔力を扱えて剣術をちょこっと嗜んでいる程度じゃ叶うはずもないか。


「逃げるなにゃっ!!」


 ブリティの両腕に砂の爪が形成される。


「マジかよ!?」


 交差するように振るわれる両腕。切り裂かれる地面。弾け飛ぶ石礫。

 咄嗟にガードした両腕に石礫がぶつかる。

 くっ……いってぇ…!

 魔法使い相手だとここまで苦戦すんのか。

 ダメだ。……弱気になりかけていた。白金と紅葉の都に魔法使いが少ないからって、魔法使い相手の戦闘を考慮していなかったのは俺の落ち度だ。

 …それをブリティとの喧嘩で学ぶのも皮肉な話だけど。ともかく、ブリティを止めなきゃ。

 要は当たらなければ良い話だから…


「うにゃっ!?龍人!!中断にゃ!!悪臭退散にゃ!!」


 髪の毛を逆立たせたブリティが見たのは…壁が破壊されて繋がった雨部屋。

 そこから泥人形がゾロゾロと侵入してきていた。


「中断了解!っつーか、攻撃したら悪臭が出るんだから攻撃……あぁもうっ!」


 言っているそばからブリティの砂刃が泥人形を吹き飛ばす。


「くっっっっさいのニャァ!?」

「だから戦うなって………くさっ!?」


 同時に10体位倒したからか!?これまで以上の悪臭なんだが!


「一旦逃げるぞ!」

「し、仕方ないのにゃっ。」


 走る。火部屋を抜け、雨部屋へ。とにかく真っ直ぐ。火部屋、雨部屋、火部屋、雨部屋…。暑い、寒い、暑い寒い!

 と、逃げながら走っている内に、1つの法則性に気付いた。雨部屋と隣接している火部屋の壁だけ燃えていない。


「よし。ブリティ、ストップだ。」

「にゃにゃっ?」


 キキーっと止まったブリティは肩で息をしながら周囲を見回している。泥人形への警戒マックスだね。


「気付いたか?雨部屋と隣接している火部屋の壁は燃えていないんだ。」

「うにゃ?……………き、気付いていたにゃっ。龍人に勝るブリティは最初から気づいていたのにゃ!」

「ほんとかー?」

「本当にゃ!真実にゃ!揺るぐ事無き事実なのにゃ!それでどうするのにゃ!」

「気付いていたなら分かるだろ。」

「分からない…くないのにゃっ!特別に手柄を譲ってやるのにゃ!ほれ、喋れにゃ。」


 …これ以上イジるのはやめておこう。


「雨部屋に隣接した壁が燃えていないって事は、四方を雨部屋に囲まれた部屋が晴れ部屋の可能性があるかなって。まず、碁盤の目状に部屋が配置されている区域を探して、部屋の配置を調べれば見つけられそうじゃない?」

「うむ。ブリティの予想と同じにゃ。龍人褒めて遣わすにゃ。」

「そりゃどうも。そったらブリティ先輩にマッピングは任せるぞ。俺、やった事ないから分からないし。」

「うにゃっ!?」

「えっ?ブリティ先輩なら余裕だと思ったんだけど。」

「そ……そうだにゃ。ブリティに…….任せるにゃ!!」


 それからブリティの下手くそなマッピングのせいで迷いに迷った俺達は、最終的に俺がマッピングをするというスーパー2度手間をする事になった。


「悔しいにゃ。悔しいのにゃっ!!」


 地面をバンバン叩くブリティ。マッピング能力が俺より遥かに劣っているという事実かよっぽど悔しいらしい。

 因みに俺たちが今いるのは、探していた晴れ部屋だ。

 予想通り雨部屋に四方を囲われた部屋が晴れ部屋になっていた。


「にしても……こりゃぁ凄いな。」


 晴れ部屋には地面から巨大な石が突き出していて、その石には宝石が埋まっていた。

 どういう原理でこの石の中に宝石が入るんだろ。ゲームで言うとボーナス部屋って感じだ。石を壊して宝石ゲット!換金しまくって金策万歳!的なね。


「龍人、宝石の採集はブリティに任せるにゃ!龍人じゃ石は壊せないのにゃ。ブリティが適任にゃっ!」


 血走った目のブリティは俺の返事を聞く前に石を壊し始めた。…そんなに俺に負けるのが嫌なのか?俺、そんなに嫌われる事をしたつもりはないんだけどなぁ。

 砂をドリルのようにして削岩を始めたブリティを横目に収めつつ、マッピングをした紙を眺める。

 ブリティのせいで迷いに迷ったお陰か、結構広い範囲をマッピング出来たんだよね。

 無事に晴れ部屋を見つける事は出来たけど、当初の目的である「秘宝」と「レンちゃん」に関する情報はゼロなんだよなぁ。

 赤火と雨の都に晴れ部屋は他にもあるはずだから、今の内に場所の当たりは付けておかないと。

 このまま何日もダンジョンを彷徨うのはゴメンだからな。


「………今の段階で可能性があるのは4箇所か。」


 おおよその検討は付いたから、後は如何に最短ルートで進むか。だな。

 レンちゃん危険な目に遭っているかもしれない以上、のんびり探索は出来ない。唯一救い?かなって思うのは、晴れ部屋に泥人形が出なさそうって事か。今いる晴れ部屋の前に通った火部屋にいた泥人形は、俺達が晴れ部屋に入ったら引き返していったからな。

 レンちゃんが晴れ部屋に逃げ込めていれば、外に出る事が出来ないにしても、一先ずは安全な環境に居る事になる。

 つっても、それも仮定の話だからなんともなんだけどね。


「ブリティ!」

「大量なのにゃ!ブリティ達は成金街道まっしぐらなのにゃっ!」


 気付けば目が¥マークになっているブリティさん。

 パッと見てイッチャッテルよ。


「煮干しが食べ放題なのにゃぁ。それも高級煮干しにゃ!ハッピーラッキーうれぴっぴーにゃぁっ!」


 ヤバイぞ。ブリティのテンションが天元突破してんだけと。

 よし。強力な一撃を脳天にお見舞いして、正気を取り戻すか…。

 ブリティの背後にそーっと近づき、両手を組んだ拳を振り下ろす!


 ドガガガガガガ!!!


「うわっと…!」


 今の音はブリティを殴った音じゃないからな!?いきなり地面が地響きと共に揺れたんよ。


「むむっ。龍人、何かが変わったのにゃ。」


 気狂い猫娘のブリティが、普通に戻ってる!?

 …違う違う。今はノリツッコミをしている場合じゃない。


「何が変わったんだ?今の揺れと関係あるのか?」

「多分…無関係ではないのにゃ。宝石は……持っていくと邪魔になる可能性があるから、後で回収しに……………くるのにゃ!高級煮干しのために!」


 今、宝石を持っていくかどうかについて、すっごい葛藤していたんだろうな。


「オッケー。そしたらさ、晴れ部屋候補の場所が何箇所かあるから、そこを回りつつ変わった何かを突き止めるか。」

「それで良いのにゃ。ブリティの直感にゃけど、レンちゃんは今の何かに巻き込まれているのにゃ。」

「……その直感が当たりそうで怖いよ。」

「ブリティのピキーン!直感は的中率が末恐ろしいのにゃ。」

「じゃ、行こう。」

「うにゃっ。」


 ツッコミどころが多かったけど、俺は突っ込まない。突っ込まないんだからな!





 それからマッピングした地図を頼りに移動をしたんだけど、すぐに問題が生じた。


「龍人、迷子なのかにゃ?迷子にゃ?ブリティと同レベルなのにゃ?」


 自分がマッピング出来ないって認めたのは良いけど、俺を同列に引き摺り下ろそうとするとは!!強かな猫娘だな!


「迷子だけどブリティと同レベルじゃない!部屋の配置が変わってるんだよ。」

「うにゃ?部屋の配置が変わるとか、そんな不思議ダンジョンなのかにゃ?聞いた事が無いのにゃ。龍人、自分のミスを認めたくなくて…そんな嘘をつくようになってしまったのかにゃ。ブリティは悲しいのにゃ。こうやって戦友が悪の道に染まっていくのは耐えられないのにゃ。」


 静かに聞いていれば言いたい放題!!


「じゃぁ見てみろよ。ここがさっき居た晴れ部屋だ。んで、今この場所。ちゃんと確認してみ?それでも俺がミスってるっていうなら、もうマッピングしないからな。」

「むむぅぅぅにゃ。これがこうなって、ここからこう行って…うにゃ?うにゃにゃ?…龍人大変にゃ!!!!部屋の配置が変わってるにゃ!!!」

「だから…さっき言ったし。」


 ブリティと会話のテンポっていうか…テンション?が全く噛み合わないんだが。

 クルルもミリアも良くブリティと一緒に依頼を出来るよ。普通に尊敬する。


「これは、やっぱり龍人がマッピングをするべきにゃ。ブリティがやると迷子になるのにゃ。ていうか、既にブリティは地図の中で迷子にゃ。さぁ龍人!頑張るのにゃ!!」

「へいへい。」


 ともかく、さっきの地響きで部屋の位置が変わったのは間違いなさそうだね。

 もう一回マッピングするしかないか。これで部屋の位置が一定時間で再配置になるっていう仕組みだったら…相当辛いぞ。

 なんたってダンジョン内の探索に加えて…泥人形の相手もしなきゃいけないんだもんな。数多いし。臭いし。


「じゃぁ、ブリティは泥人形の相手をメインに頼む。俺はマッピングをしつつ、ブリティのサポートで動くぞ。」

「まっかせるにゃ。臭いのは嫌だけど、何も考えないで倒しまくるのは得意にゃ!!」


 両手を腰に当ててふん反り返るブリティ。

 今普通に「ブリティは脳筋なのにゃ」的な発言をしていたよな。でも、突っ込まないぞ。だって…突っ込んだらまた不毛なやり取りが延々と続くのは目に見えているからな!!!





 そうして1時間後。

 再マッピングを進めていた俺とブリティは地図を見て…悩んでいた。


「ブリティ。見ての通り、この区画だけが複数の部屋が集まっていて入り口が1つ。しかも周りは火部屋に囲まれているときた。絶対何かあんぞ。でっかい晴れ部屋があるかもな。」

「…聞いた事あるのにゃ。赤火と雨の都にはレア部屋の晴れ部屋を超える大晴れ部屋があるという話を!!きっと…ここにレンちゃんがいて、更にボスが待ち構えているのにゃ。」

「なにそのありきたり且つ王道のダンジョンラスボス的な展開。」

「間違いないのにゃ。ブリティの五感がビシビシと強敵の気配を感じているのにゃ。」

「…俺達で勝てると思うか?」


 ブリティは首をグルグル傾げる。いや、回すか?


「正直な所なんとも言えないのにゃ。ブリティは良いにしても、龍人が木刀二刀流と魔力の身体能力強化のみだと…決定打、特に突破力に欠けるのにゃ。相手が泥人形だったら大丈夫にゃけど、大きいモンスターだったらアウトなのにゃ。龍人の攻撃は虫の攻撃。頼りになるのはブリティの攻撃のみになるのにゃ。そうなったら倒し切れるか分からないのにゃ。でも、龍人が本物の刀を持っているのなら話は変わるんにゃけど…持ってないのにゃ?」


 うわぁ…グサグサ突き刺さるコメント。


「悪いんだけど…持っていないんだよね。俺、誰かを守る為に武器を使いたいって思っているからさ。」


 そうなんだよね。普通に考えれば真剣を持つべきなんだとは分かっているんだけど。


「むむぅ…にゃ。どう考えても突破力が足りないのにゃ。」

「ごめん。」


 地味に凹む。


「問題ないのにゃ。」


 不敵な笑みを浮かべつつ、ブリティはサムズアップをしてきた。


「どんな武器で戦うのか。どんな信念で戦うのかは…人に強制されるものでは無いのにゃ。」

「…ブリティ。」


 めっちゃ良い事言うじゃんかよ!


「その盤面で限られたピースを使って、如何に勝ち筋を引き寄せるかが名軍師の役割なのにゃ。」

「そうだな。」

「まっ、ブリティは軍師じゃにゃいんけど!」

「おいっ!」

「にゃはははー!」


 …全く。何も考えていないようで、案外色々考えてんだよなブリティって。


「ブリティ。」

「改まって何にゃ?」

「ちょっと考えがあんだけど。」

「言ってみるにゃ。」


 ゴニョゴニョゴニョゴニョ……。


「なるほどにゃ!」

「いけそうじゃないか?」

「ブリティなら出来るにゃ。移動しながらコツを教えるにゃ。」

「頼む。」

「うにゃ。そんじゃーぁ行くにゃ。」


 俺とブリティはでっかい晴れ部屋があるかもしれない場所に向けて移動を開始した。

 そう言えば…泥人形が出てこなくてなっているような?

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