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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-4.道場破り完結!

 う…体が重い。確か俺は…そうだ、道場破りの最後に弟子達と乱闘をしたんだっけか。

 目を開けると、目の前にミリアの顔があった。


「うきゃっ!?」


 俺が目を開けた事に驚いたのか、飛び退いたミリアは顔を赤くしながら早口で話し始めた。


「えっと、あーっと、目が覚めて良かったっ!いつになったら起きるのかなーって顔を眺めてただけなんだよっ!多分、魔力の使い過ぎが原因で倒れちゃったと思うから、今度は使う魔力量の調節ができると良いと思うよっ!」

「お、おう。」


 …なんか凄い焦ってるんだけど。もしかして、寝てる俺の顔に落書きでもしてたのか?


「目が覚めて良かったんですな。」


 声が聞こえた方を見ると、胡座をかいて腕を組んだビストが真顔で俺を見ていた。もしかして…俺が弟子達を倒した事を怒ってんのかも。確かに初対面にしてはやり過ぎたし、言い過ぎたとは思うけど…。


「申し訳なかったんですな…!」


 ドカンっ!と頭を下げたビストを見て、どう反応して良いのか困ってしまう。まさか謝られるとは思わなかったぞ。


「この道場破りの目的…本来であれば龍人の言う通りだったんですな。けど、回を重ねる内に戦う事が目的になっていたんですな。申し訳ないんですな!」

「あはは…龍人に負けた弟子さん達はすっごいら落ち込んでいてね、さっきまで別の部屋でビストと反省会をしていたんだよ。」

「そ、そうか。」


 罪悪感が半端ないんだけど…!


「オラの指導方法が間違っていたんですな。これからはより実践を重視した指導に切り替えて、いずれ龍人に再戦を申し込ませて欲しい…この通りですな!!」


 再びどっかぁん!と頭が高速で下げられる。


「ま、まぁ気にして無いからさっ。俺もちょっと言い過ぎた気もするし。」

「そんな事無いのですな!実戦はいつ襲い来るか分からない以上、いつ何時も敗北に言い訳は通用しないのですな!その意味でも弟子達にはたーっぷり反省させるんですな。…そして、そして…!オラも指導者として反省するのですな…。」


 ビスト…無性に暑苦しい奴だな!!


 それからビストと弟子達を立ち直らせるのにミリアが奔走してくれて、なんとか立ち直った一同に見送られながら道場を後にした。

 皆がとても晴れやかな顔をしていた理由が気になるけど…怖いから聞くのはやめた。


「龍人…なんかごめんね。面倒い感じに巻き込んじゃって。」

「気にすんなって。あの道場の奴らのテンションは誰にも制御できない気がする。ビストが師範だから似た者が集まってんのかね。」

「あ…それがね、ビストは時々指導に行くだけの臨時師範みたいな立ち位置なんだっ。だから…というか、つまり……元々からあんな感じかもっ。」


 なんという衝撃の事実…!あのビストが臨時キャラだったとは。……いや、寧ろ臨時師範があのテンションに染め上げられているとも解釈出来るのか?


「えっと…それにしても、龍人は凄いねっ!」


 無言に焦ったのか、ミリアは話題を変えてきた!うん、それ、正解だ。


「何がだ?」

「だってね、あんなに魔力を使うのを短時間で上手になれるなんて…すーっごい珍しいんだよっ?」

「それがさ、コツを掴んだっていうよりも体が覚えてたって言う感じなんだよね。」

「もしかして…記憶が戻ったの?」

「うんにゃ。全く。」

「そっか。」


 どことなくホッとした顔のミリアは、小走りで先を行くと振り向く。


「早くミューチュエルに戻ろっ。魔力操作の練習で、競争ねっ!」

「あっ…!ちゃんとヨーイドンしろし!」


 先を駆けるミリアを追いかける。

 気分はお花畑で捕まえて……んな訳あるかい!



 ミューチュエルに到着した俺達を出迎えたクルルは、俺の成果を聞くと顎に手を当てて頷いた。


「ミリア。私は話しても良いと思うのだけれど。」


 …何の話だ。


「うん。私も龍人は信頼出来ると思う。」

「分かったわ。」


 真剣な表情の2人に促されて、バーカウンターの反対側に設置されたテーブルと椅子に座る。

 俺の正面に座ったクルルとミリアの視線を見返す。すっげージッと見てくるから目線を逸らしたくなるけど、何となくそれではいけないような気がしたからだ。


「龍人。」

「うい。」

「私達がミューチュエルで活動している目的…について話すわ。」

「目的…人助けじゃないのか?」

「その通りよ。人助けをする為に必要な目的があるのよ。」


 …いまいち要領を得ないな。今でも人助けは毎日沢山してるってのに。


「先ず…ミューチュエルは私とミリアが設立したの。私は元々織田家の秘書でね、色々あって辞めた後に狙われて…その私をミリアが助けてくれたのよ。困っている人達を助けるミリアの力になりたくてミューチュエルを設立したわ。」


 成る程。命を狙われたって物騒だな。織田家ってどういう家なんだよ。裏社会の組織的な感じかな。一先ず、黙って話を聞こう。


「それでね、人助けを続けていた訳なんだけど…今、この星はDONっていう企業が星の私物化を狙っているの。DONの行動を阻止するには…力が必要なの。」

「力…。」

「クルル、私が話すねっ。」

「分かったわ。」


 ミリアが右手の人差し指を立てると、指先に炎が灯る。


「私は属性魔法で焔を使えるんだっ。これね、普通の焔とはちょっと違って、多分私特有の焔なんだ。だからだとは思うんだけど、私の焔に耐えられる武器が無いの。戦いで焔と武器…レイピアを使うと毎回壊れちゃうんだ。それでね、クルルが都圏の秘宝っていうのが強力な焔への耐性があるって情報を手に入れてくれたんだっ。それで、今はその秘宝を見つけるのが目的なの。」

「成る程。ちょいと疑問なんだけど…その秘宝ってのを手に入れるとDONって奴らの行動を阻止できるのがイコールにならなくないか?」


 クルルがニヤリと笑う。…え、なに?今笑うところか?


「その通りよ。DONは彼らの目的達成の為に、実力者を集めているの。抵抗する人達を排除する実行部隊として。」

「そーゆー事か。実行部隊の排除行為を防げれば、行動阻害にはなるか。で、DONは具体的にどうやって星を私物化しようとしてるんだ?」

「問題はそこね。私物化を目論んでいるらしいっていう話と、DONの公園建設事業に反対した人が実行部隊に抹殺されたっていう話があるだけなのよ。」

「具体的な情報が無いのに、抹殺の話だけが先行しているのか。」

「怪しいでしょ?DONには触れるべからずっていう雰囲気か出ているのに、やっている事業は公園建設等っていう都民の生活を向上させる内容。」

「でもさ、そんならDONの行動阻止を目的に掲げて、その為に秘宝を探すってのは…ちょっと根拠としては弱いぞ。」


 クルルとミリアは顔を見合わせて頷き合う。


「これは、余り人に話す内容じゃないんだけど…。私が織田家にいた話はしたわよね?」

「あぁ。」

「その時の話…聞けば後戻りは出来ないわ。」

「…そんなにヤバい話なのか?」

「えぇ。その話を知っているとバレるだけで命を狙われる可能性がある位には。」


 …マジか。話を聞くか聞かないか。それ自体は俺に委ねるって事だよな。

 きっと話を聞かなくても、聞いても…今まで通り仲間として接してくれるんだと思う。秘宝探しにも参加させてくれるのかな。身の安全を確保するならそれが1番だ。

 ……。

 ………でも。


「聞くよ。いざって時に話の核心を知っているか否かで、取り得るべき判断が変わるからな。」


 ミリアがどことなくホッとした表情を見せた。


「良い返事ね。私がいた織田家は、白金と紅葉の都を観光地する事を前面に押し出して政治活動を行っているの。そうする事で、星の収入を今までよりも格段に向上出来るって論法ね。確かに間違いは無い施策。でも…開発の過程で紅葉原の殆どを無くすつもりなのよ。これは秘書をやっていた私だから知り得た話。表には全く出ていないわ。でも、確実にどこかのタイミングで表面化するはず。そして、この開発で織田家と手を組んでいるのがDONなのよ。」

「…そーゆー事か。確かに、政治絡みだと一定の力が無いと押し潰されるか。よし、それなら俺も手伝うよ。」

「え……?普通、こういう話を聞いたら…巻き込まれたく無いって思わないかしら?」

「まぁそうかも知れないけど。でもさ、記憶がない俺には行く当てがない。でも、居場所はある。それはミューチュエルの皆のお陰だ。だから、俺の居場所が目指す先には一緒に歩んで行きたいんだ。」

「龍人っ…!」


 ガバっ!と、ミリアが飛び込んできた。

 突然の事態に慌ててミリアを受け止める…が、勢いに押されて椅子ごと後ろに転げてしまった。後頭部強打!!

 でも、目の前で嬉しそうな顔で涙を流すミリアに見惚れて、痛みなんてどうでも良かった。


「龍人、ありがとうっ。私ね、この話をしたら龍人はミューチュエルを出ていくかも知れないって覚悟していたんだっ。でも、龍人は一緒に戦ってくれるって言ってくれて…嬉しかった。」

「まぁ、実力的に役に立てるかは何とも言えないけどな。記憶が戻らない以上、戦い方はゼロから作り上げなきゃいけない訳だしさ。」

「その点なら心配ないと思うわよ。」

「なんでだ。」

「先ずはイチャつくのを止めましょう?依頼客が入ってきたら、変な店だと勘違いされるわよ。」

「……!?あわわっ!」


 かなり際どい体勢になっている事実に漸く気がついたミリアは、顔を赤くしながら慌てて飛び退いた。

 うん。ちょっと寂しい。もう少しくっ付いていても良かったんだけど。

 ……ひぃ!?クルルが俺の煩悩を見透かしたのか、鋭い視線を…!!


「えーと、な、なんで心配無いんだよ。」

「さっき行った道場の人達は、白金と紅葉の都でも中の上には数えられる強者よ。その人達を相手に全然出来たんだから。記憶も戦い方も大して思い出していない中でね。」

「それって微妙じゃない?平均よりちょっと強いかな?レベルって事だし。」

「そこは安心して。織田家が本格的に動くのは2ヶ月後の選挙だと思うから。それ迄に、強くならざるを得ない系の依頼と、秘宝に関する調査をバンバンやってもらうわ。人手が増えた事だし捗ると思うわ。」

「あ、そーなるのね。」

「あははっ。クルルはさすがだねっ!龍人、私達も頑張ろうねっ。」


 いや、まぁやらないって選択肢は無いんだけどさ、クルルって容赦ないからね。これから2ヶ月の間にどれだけ過酷に働かされるのかと思うと…ちょっとゾワゾワしちゃう訳ですよ。


 こうして俺は本格的にミューチュエルで秘宝を探す事に…


「今の話、ちゃーんと聞いてたのにゃっ!」


 ズッバアーン!と横からタックルをカマシテキタノハ…ブリティだ!


「ぬぁっ!?なんなんだし!?」

「龍人がミューチュエルの真のメンバーになったのにゃ!でも、ミリアとのラブラブ枠は譲らないのにゃっ!」

「はいっ!?」

「さっきのハグ…知らないとは言わせないのにゃっ!ミリアに抱きついてスンスン匂いを嗅いで良いのはブリティだけなのにゃっ!」


 なんて言い掛かりだ!別にラブラブはしてないぞ!抱きつかれただけだしっ。良い匂いがするなって思ってちょっとだけスンスンしただけだし!

 …あれ?ブリティの言う通りかも。俺、スンスンしてたのか?でも男ってのは本能と……


 カプッ


「いっってぇぇ!?」


 噛まれたんですが!?


「ミリアとイチャコラさっさしないと約束するにゃ!しにゃいならカプカプフェスティバルにゃぁ!」

「ぬわあっ!?待て!やめろ〜〜〜!!」


 この後、ミリアとイチャコラしないって約束したのに、結局カプカプフェスティバルをお見舞いされたのは納得がいかん!!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 白金と紅葉の都…徳川家当主の間。

 質素な木造りの空間中央で一振りの刀を構えるのは、徳川舞頼。徳川家の当主にして、白金と紅葉の都において現政権を担う、寄る人の目線を惹きつける美人であり、需要人物。


「舞頼様。お耳にいれたい内容がございます。」


 シュタッと姿を現したくノ一が片膝をつき、首を垂れながら申し上げる。


「申せ。」


「はっ。ミューチュエルに入ったという新人ですが、我らの同族である可能性が。記憶を失っている事、我らの中で知っている者はおりませんが、服装、剣術からして間違いないかと思われます。」

「そうか。だが、妾は憶測で行動をする事は好まぬ。先ずは確証を。新人の実力も詳細に確認だな。ミューチュエルの存在が今よりも大きくなるのであれば、然るべき措置を取る。」

「はっ!手段はお任せ頂けるので…?」

「構わん。直接だろうが、間接的にだろうが、観察だろうが結果が伴えば良い。それに、汝の方が見極めは優れているだろう?」

「…光栄の極みにございます。それでは、直ちに調査方法の指針決めと人員配置を行います。」

「期待しているぞ。」

「はっ!」


 シュン!とくノ一が姿を消す。


 舞頼は構えから電光の如き一閃を走らせた。

 地面に落ちたのは1匹の蚊。

 両羽が根本から綺麗に切断された蚊は生きる為、モゾモゾとその場から逃げ出そうとする。


「盤面に新たな役者が入り込んだか。しかも捨て駒ではなく、戦局を掻き乱す可能性のあるジョーカー。妾も動く時が来たようだ。」


 ピシィン!!

 紫電が走り抜け、蚊が居たはずの場所から小さな煙が上がった。


「邪は滅するのみ。妾は引かぬ。負けぬ。…これは誓いだ。」


 決意の信念を宿した瞳が窓の外へ向けられると、1枚の紅葉が風に揺られて宙を舞っていた。

 空を舞う紅葉は何にも縛られない自由の象徴か。はたまた動けずに翻弄される不自由の象徴か。

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