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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-3.道場破りは大変

 坊主頭と突き蹴りの応酬を繰り広げる。

 一見は互角。けど…


「はっ!俄仕込みの武術で勝てる訳がなかろう!」


 蹴り上げがこめかみを浅く切り裂き、血液が宙を舞う。

 攻撃は見切れる。体もうごく。

 それでも、武術という技術を持っている坊主頭に対して、素人(多分)の俺は確実に押されていた。

 俺の攻撃が当たらない。段々と攻撃をする余裕すら無くなっていく。必死の体捌きで攻撃を避ける。


「…なっ!?」


 俺の顔面目掛けて伸びてきた拳がフッと視界から消える。同時に腹へ伝わった衝撃に、吹き飛ばされて壁へ叩きつけられた。ガラガラガラと周りの物が落ちるのに合わせて、俺も床へ座り込んでしまう。


「かはっ…。」


 息が乱れて魔力が途切れそうだ。

 今の攻撃はフェイントか。あのタイミングで初めてフェイントを織り交ぜるとか…今の俺と坊主頭では格が違う。

 やばいな。勝ち筋が見えない。

 でも…。


「負ける訳には…いかない。」


 クルルに怒られたくないから!!

 勿論それだけじゃぁない。それだけだったら上司のパワハラに怯えるビビリ君だもんね。

 記憶を取り戻す為には、戦いから逃げてはいけない気がするんだ。漠然とそう感じるだけだから、根拠とかは無いけど。

 とにかく、このままじゃあ勝てない。魔力を全身に広げて戦うのは何とか出来ているけど、そこ迄。

 身体スペックが同等に引き上げられていたとしても、戦闘技術で劣る現状をどうにかしないと勝てる訳がない。

 何か…何かないか。


 ガラ…。


 手に何かが触れる。見ると、俺が壁にぶつかった衝撃で落ちた物…木刀だった。…武器を使えば有利に立ち回れるか?いやいや、普通に考えて道場破りて武器を使ったらルール違反だろ。


「ほぅ…お前、刀使いだったのか。」

「え、いや。」

「隠す事は無い。この道場は総合的な武力向上を求める場所。一度戦いとなれば、素手も武器も関係がない。その理念で強さを求める我らに対し、真の実力を隠して素手で戦う事の方が侮辱に値する。」


…あれ?「武器を使うなど卑怯千万!」って罵られるかと思ったんだけど、寧ろ使用を推奨されているよな?

 武器持ちは武器無しに対して有利って話も聞いた事がある気がするし、ここはダメ元で使ってみるか?


「それなら…遠慮なく。」


 床に散乱していた木刀の1つを手に取る。

 木刀の構え方とか、振り方とか良く分かんないんだけどな。


「……あれ?」


 そんな事を思っていたんだけど、体が自然と動いて構えを取った。なんつーか、慣れ親しんだ動きをトレースしているみたいだ。寧ろ、まだ何か足りないような…。


「やはり刀使いか。構えの隙が消えた。…腕が鳴る。行くぞ!」


 自分で自分の構えに困惑している俺の事を完全に無視して「血が滾るぜ!」的なノリで坊主頭が俺に向かって突進してくる。

 …こうなったらヤケた!直感で動くしか無い!

 坊主頭は順突き、逆突きからの裏拳、そして体を空中で一回転させての踵落としという華麗なるコンボを放ってきた。

 これに対する俺の動きは回避からの水平斬り、その隙間を縫う裏拳をバックステップで躱し、踵落としを木刀の側面で受け止めた。

 ミシッという嫌な音が木刀が奏でる。


「この連携を止めるとは!ならば…!」


 木刀を足場に体を空中で捻った坊主頭は、回し蹴り、後ろ回し蹴りからの地面に手を突いて下方から蹴り上げを放つ。


「くそっ…!」


 全てを木刀で防ぎ…最後の一撃を受けた所でバキッ!という音を響かせて木刀が真っ二つに折れてしまう。

 追い討ちをかける足払い、再びの蹴り上げをバック宙で回避した俺は地面に転がっていた木刀を必死に掴んで再び構えた。

 …お?


「更に隠していたとは…面白い奴よ。」


 目を細めた坊主頭が俺を睨み付ける。「面白い奴」とは言っているものの、若干怒っているような気がする。

 その原因は勿論、俺だ。何故か両手に木刀を持つという二刀流スタイルを披露している。無意識の産物。でも、めっちゃしっくりくるよコレ!?

 なんか、分かったかも。


「お前のお陰で、ちょっと分かったかもしんない。ありがとな。」

「ほう。この戦いで己が進化した。とでも言うのか。」

「進化したかは分からないけど、少なくとも戦い方は思い出してきているよ。これから、それを見せる。」

「期待しよう。」


 坊主頭は口を噤むと、静かに構えを取った。これまでの余裕感を消した、俺を殺さんとするような気合いが迸る。

 おぉー怖い。

 でも、俺も今掴んだ感覚を試したい。ちょっとウズウズしちゃってるもんね。


「いくぞ!」

「おうよ!」


 坊主頭が低い姿勢で俺に向かって突進してくる。

 対する俺は、魔力を再び全身に巡らせていた。それだけでは無い。全身の先…両手に持った木刀へも魔力を広げていく。

 この瞬間、両手に持つ木刀が俺の手足であるかのような感覚が手先に伝わった。


「はぁっ!」


 これまでとは比べ物にならない速度の回し蹴りが俺の胴体を狙う。

 ついさっきの俺なら、多分直撃を受けて吹き飛んでいただろうな。

 でも…。


「なにっ!?」


 俺は自然と笑みが浮かんでいた。そして、左手の木刀で回し蹴りを跳ね上げる。

 魔力を流し込んだ木刀は強度も威力も格段に上昇していて、本来であれば折れるはずの衝撃にも耐えてみせていた。

 更に、全身と木刀に流れる魔力の強度を引き上げ、右手の木刀を初撃に乱打を叩き込んだ。


「ぐあ…これ程とは…。」


 タッタラターン!坊主頭を撃破した!

 的な効果音を頭の中で再生しつつ、息を整える。


「この感覚、俺は剣か刀を使っていたっぽいな。」


 乱打を叩き込んだ時に木刀の刃の向きも調整していたから、刀使いだった可能性が高い。しかも二刀流の。


「さて…どう進もうかな。」


 坊主頭と戦った部屋には3つのドアが設けられていた。

 道場破りってスタンスだから、きっとどの部屋の先にも強者が待ち構えているんだろうね。

 それに、坊主頭が言っていた言葉を思い返すに、全員が武術使いとも限らないかな?武器使いも待機しているかも。

 そいつら全員を倒して師範ってのを見つけるのは…流石に無理ゲーな気がする。

 つーか、今の俺って強くてニューゲームみたいな状態だよね。異世界転生、俺最強。みたいな?いや、そんな甘くないか。

 ともかく、どうにかして師範を見つけないと。


「……待てよ。」


 閃いた。そっか。この道場破りの目的を勘違いしていたよ。俺の予想が正しいなら…取るべき行動は1つ。

 やってみるか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 「えいっ!やぁっ!」


 手を床に付いた状態で体を捻った両脚回し蹴りからの、掌底。3人の武器使いを吹き飛ばす。


「ふぅ。この部屋はやっつけたかな。」


 周りには10人が倒れているの。今回はいつもより相手の気合いが入ってる気がするよっ。


「龍人…大丈夫かなぁ。」


 細かい事を説明する前に離れ離れになっちゃったから…ちょっと心配。

 でも、何となく大丈夫そうな気もするんだ。

 龍人は不思議な雰囲気を持ってる。記憶を無くした割に機転も効くし、魔力の使い方もすぐに理解したし。

 それに…安心感があるんだよねっ。何かあった時には守ってくれそうな。そんな感じ。

 クルルは記憶回復の荒療治で龍人をこの依頼に参加させたみたいだから…少しでも効果があるといいなっ。

 それはそれとして、依頼をキチンと遂行するのも大事!


「今日は…どうしようかな。」


 木製の武器が並んだ棚を眺める。この道場破り依頼は素手で戦う時と、武器を使う時があるんだけど…私の使う武器って木製でもちょっと危ないんだよね。今日はやめとこっかな?


「先ずは進んでみよっと。」


 次なる相手を想定して先に進む為のドアを開ける。

 …あれ?誰もいない。

 いつもなら1つの部屋に1人は待ち構えているんだけど…。次の部屋は……えっ?いないよ。もしかして今回から配置を変えたのかな。

 そう言えば遠くで「ドドドド…」って音が聞こえるから、何か仕掛けがあるのかも?


「ここもいないっ!…もう最後の部屋だよね。」


 ドドドド


 幾つかの部屋を抜けた私は、師範がいるであろう部屋に続く長い廊下に到着しちゃっていたの。龍人はまだ来ていないみたいだけど、先に行っちゃって良いかな?


 ドドドドドドドド


 でも、私が師範を見つけたら道場破りも終わっちゃうし…もう少し待って…。


 ドドドドドドドドドドドド!!


「って、流石にうるさくないかなっ?」


 ドドドドって音がドンドン大きくなってるよっ?ちょっとうるさくて考えるのに集中出来ないかも。

 この音の正体、気になるかもって思って音が聞こえる後ろを見た時。ドアがバァーン!って開け放たれたの!


「えっ!?えぇぇぇーーーっ!?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 本日何個目になるか分からないドアを勢いよく開け放ち、高速で通り抜ける!

 くそっ!俺の考え、正しいと思うんだけど!?でも状況は最悪だぞ!?

 曲がり角を曲がり、再びドアを強引に開け放つ。その先には長い廊下が伸びていて…。


「ミリア!?」

「えっ、龍人っ?」


 目を丸くして驚くミリアが立っていた。本来なら再会を喜ぶべきなんだろうけど、生憎そんな余裕はないっ!


「ミリア!走れ!」

「えっ?ちょっ…!?」


 状況を把握出来ていないミリアの手を握り、走る!

 止まれないんだ。

 だって、後ろに大勢の武道家(素手も武器持ちも)がいるんだから!


「な、なんでこんなに沢山の人に追いかけられてるのっ?」


 俺に引っ張られつつもすぐに並走したミリアに、叫ぶように答える。


「道場破りの勝敗が師範を見つけるかどうかだろ?だから、各部屋で待ち構えていた奴らを全員無視して走り抜けて来たんだよ。若干迷ったのもあってさ、気付いたら後ろにあんなに沢山の奴らがいたって訳だ!」

「えぇっ?斬新!」

「でもルールは破ってないだろ!?」

「うんっ。でも、道場破りっていうよりも鬼ごっこになってるよね!?」

「それは否定できない!…入るぞ!」


 廊下の先にあったドアを開いて中に飛び込む。


「うおっとっとっとっ……。」


 広い部屋の中心には1人の男が立っていた。

 目を瞑り、腕を組んだ様子から「只者ではない」と感じた俺は思わずブレーキをかけて止まる。

 紺色の武道着に銀色の手甲、赤い布をマフラーみたいに巻いて背中から余った布を垂らす姿はちょっとカッコ良い。


「うん。流石ですな。ミリアはいつも通り。新しい相方の発想力と突破力は目を見張るものがあるんですな。」


 …話し方はカッコよくないな!?


「あっ。ビスト!師範を見つけたから私達の勝ちかなっ?」

「そうですな。ただ…。」


 ビストと呼ばれた師範が黒い目を静かに開ける。…コイツ、強いな。


「彼らがこのまま終わりにする事に納得しないはずですな。」


 ドドドド!ザザザザー!!っと、俺を追いかけて来ていた武道家達が部屋に雪崩れ込んできて、俺とミリアを取り囲む。…全員目が血走ってるんだけど!?


「だぁっはぁっ……はぁ……!!もう逃げられないぞ!」


 肩を大きく揺らすゼーハーちょんまげ頭が、明らかに怒りの籠った目で睨みつけてきた。


「とは言っても、オラを見つけた時点で道場破りは決着付いているし…皆、武器を納めるんですな。」


 このまま乱闘だと思っていたから…助かった。

 ビストの道場破り依頼完了の言葉を聞いたちょんまげ頭は、額の汗を拭いながら静かに木刀を構えた。


「アレ?皆聞いているんですかな?」

「ビスト師範。このような終わり、拙者は認めませんぞ!」

「えっ?」

「ブリティ殿のはちゃめちゃ乱闘ならまだしも、この新人は我らを無視して通り過ぎた!道場破りの風上にも置けぬ不届き者にございます!」

「いや…でも、オラ達の負けですな?」

「最早道場破りは関係なし。プライドの問題にござる!」


 うわーめっちゃキレてるじゃん。でも…。


「あのさ。」

「何だ下郎!」


 下郎呼ばわりかい。


「この道場破りに於ける俺達の目的は、そこの師範を見つける事だろ?んでもって、ここの道場は総合的な武力向上を目指してるんだろ?」

「その通りですな。」


 当然。とばかりに頷く師範のビストと、俺たちを囲む武道家達。


「だったらさ、試合って視点なら各部屋で待ち構えて戦って…で良いかも知れないけど、実践…例えばビストを狙った暗殺者が相手だったらお前達は易々と暗殺者を師範の所まで通したって事になるよな?」

「なっ…!?」


 武道家達の顔が引き攣る。驚きや怒りを浮かべながら。


「つまり、お前達は実戦じゃあ…全く役立たずって事になるぞ?」

「この……新人風情が…!!」

「えっと…その、龍人…ですかな?煽るのは良くないんですな。」


 困った顔のビストが「もうやめよう?」と伝えてくるけど、俺は俺なりに道場破りのルールを考えた上での行動をしたつもりだ。

 実戦じゃ綺麗事は通用しないし、ルールなんて無いに等しい。勝つか負けるか。その一点に全てが集約される。

 だからこそ、この勝負…俺は負ける訳にはいかない。


「ミリア。手を出さないでくれるか?」

「えっ?この人数相手に1人で戦うのっ?」

「あぁ。記憶は全く戻ってないんだけど、戦いの感覚が若干戻ってきてるんだ。……もう少し自分を追い込んでみたい。」

「うーん……分かった!でも、危なかったら割って入るからねっ?」


 ミリアは周りを見回して少し悩んだ後、ビストの隣に移動していった。弟子達が無言でミリアを通したのを見る限り、道場破りとか関係無く俺を懲らしめようって流れは間違いないな。

 …おし、今出来る全てをぶつけるぞ。


「お前ら、実戦と試合の違いを教えてやるよ。」

「我らを甘く見たお前が這いつくばる姿が幻視できる!」

「オラ…師範の威厳ゼロの件について、真剣に話し合いたいんですな。」


 悲しみに包まれたビストの独白?は無視。

 さっきから弟子達を煽りながら体の中心で高めていた魔力の塊を一気に解放して全身へめぐらせる。

 更に、脚と両手に持つ木刀へ集まる魔力を強めて…!


「……っらぁ!!」

「グボギャッ!?」

「ぬっほぉぉぅぅうう!?」


 一閃。

 魔力で高めた脚力で突進し、すれ違いざまに木刀で胴体を打ち、もう1本の木刀をケツに突き刺した。…若干喜んでいるような悲鳴が響いたのは気のせいだ。


「なっ…!?さっきよりも早いだと!?」

「龍人凄い…!」


 ちょっと早すぎて俺自身も自分の動きを制御するのが大変だったのは秘密。けど、これなら大人数相手でもやれそうだぞ。


「まだまだ…行くぞ!」


 魔力で強化した脚力を存分に発揮して部屋の中を縦横無尽に駆け回る。んでもって、相手に急接近して木刀連撃を叩き込んでいく。

 なんつーか、剣士っていうより忍者っぽい戦い方な気がするけど…勝者が正義!


「ぐぬぅっ。ならば!」


 数人の弟子が横一列に並んだ。

 剣士、槍士、武術家の3人だ。


「我らハゲ3連星の連携を受けてみろ!」


 ぶっ!?自分でハゲって言った!?自傷行為は良く無いですよ!?

 ハゲ3連星は高速移動する俺を常に正面で捉え続ける。こいつら、動体視力が他の面々よりも優れてんな。この調子だと視覚外からの攻撃は難しそうだ。

 なら…正面から突破する!

 天井を蹴り、地面に着地し、真正面からハゲ3連星へ接近する。


「うらぁ!」

「どぉっせい!」

「ふんぬぅぅうあぁぁ!!」


 槍の連続突きを主軸に、剣が横の斬撃を合わせる事で死角を減らしてくる。


「なら…ここだぁ!」


 相手の攻撃を潜るように避け、下からの斬り払いを…。


「……ちっ!」


 咄嗟に中断して肘で胴体を無理やり跳ねさせると、背中を掠りながら回し蹴りが通り過ぎていった。

 槍、剣、拳…どれも接近戦闘タイプだけど、その中でもレンジが違うって事か。想像以上に突破すんのが難しい。

 槍と剣の追撃を木刀で何とか逸らしつつ距離を取る。


「ぅわっしょい!!」


 着地したタイミングを狙って別の剣使いが薙ぎ払いをしてきたけど、右手の木刀に左手の木刀を添えて相手の剣筋を逸らしつつ、体の回転を左手の木刀に乗せて肩口へ叩き込む。


「ぅぐっはぁ…!?」


 絶妙に気持ち悪い苦悶の声を漏らしながら剣使いは倒れていった。

 …残り6人。俺の前に立つハゲ3連星と右左後ろに1人ずつだ。


「我らが勝利の礎に!!3連星はこやつの動きを注視すべし!」


 動いたのは右左後ろの3人だった。3人の槍使いは目線だけでタイミングを合わせて3方向からの突き出してくる。

 …1人ずつ倒すんじゃ、時間が掛かりすぎるし、反撃の可能性も出てくる。やるなら、3人同時に…!

 けど、3本の槍は俺の回避行動を防ぐ絶妙なコースで突き出されていた。

 俺の体内を廻る魔力が…ドクンと躍動する。

 この瞬間、…視えた。取るべき剣筋が。俺は無意識の内に両手の木刀を振るう。槍を1本弾き、2本目を叩き落とす。喉元へ迫る3本目を木刀の持ち手部分で横から叩き付け…。


 頭に言葉が…名前が浮かんだ。

 何の名前かはわからない。でも、直感が「これを使えば勝てる」と叫んでいた。

 当然、口がその名前を綴ると…木刀を持つ手が、体が自然と動きをトレースした。


 一瞬の後、3人の槍使いを昏倒させた俺は、再びハゲ3連星へ接近する。さっきの技を使えば…!


「ぬ…!?我らが負ける訳にはいかぬ!」

「おうよ!」

「返り討ちにしてくれる!」


 今度のハゲ3連星は槍の薙ぎ払い、剣の連続付き、足下を狙った旋襲脚の連携攻撃だ。


「負けない。…行くぞ!龍劔術【双刀6連閃】!」


 視界の流れる速度が瞬間的に上がり、木刀に流れる魔力が研ぎ澄まされる。2本の木刀は流れるように槍を剣を脚を弾き、ハゲ達の首筋に吸い込まれて行った。


 ドサ。ドサ。ドサ。


 3人の倒れる音が鈍く響き、木刀の構えを解く。

 静まり返る室内で、パンパンパンと手を叩く音が鳴った。


「素晴らしいんですな。」

「うんっ!龍人、カッコよかったよ!」


 ビストとミリアだ。

 俺はミリアにニカっと笑みを向けて近寄ろうと一歩を踏み出し…ガクンと力が抜けてしまった。

 あれ?

 と思ったのも束の間、視界が暗転していった。

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