2-9.出会い〜異世界生活の始まり
先週の金曜日が所用で更新出来ませんでした。
そのため、今週は火曜、金曜の週2回更新です!
銀髪は地を蹴ると、一瞬で俺の目の前に移動し、無造作に刀を振る。
「…マジかよ!?」
何気ない斬撃に見えて、秘められた威力は…異常だった。まず、斬撃によって巻き起こった風圧が側面から叩きつけられ、そこに刃が容赦なく襲いくる。
刀で何とか斬撃を受けるが…吹き飛ばされちまった。
着地して構えを取る。…が、遅かった。
既に再度肉迫していた銀髪が踊るように斬りかかってきたんだ。
武骨さや荒々しさを感じさせない、流麗な動き…って感じかな。踊るようでいて無駄のない動きから繰り出される斬撃の数々に、俺は防戦を強いられる事になってしまう。
…不味いな。このままだと押し切られる。
やっぱり剣技という視点では銀髪に敵わなそうだ。だとすると、短期決戦に持ち込んで勝負を決めるしかない。
「……上手くいってくれよ!」
銀髪の振り下ろしに対し、垂直に構えていた龍刀をやや斜めに傾ける。銀閃の威力を逸らしつ、体を斜めに傾ける事で斬撃を避ける。…っ!?今、俺の可愛い頬っぺたを掠ったぞ!?
ここからが勝負だ。魔法陣を連続で展開していく。放つのは水と電撃、風だ。水で濡らしまくり、風で斬撃と水を飛び散らせる役割をこなし、電撃で感電を含めた攻撃を撃ちまくる。
銀髪は流石の魔法量に球状の防御結界…魔法壁を展開して防御態勢へ移行する。
これだ。このタイミングで、最大火力を叩き込む!
イメージする。魔法陣を。これまで使った事があるどの魔法陣よりも強い…上位魔法を発動する魔法陣を。…ヤベェな。想像以上に魔力消費が大きい気がする。頭の血管が切れそう。それに黒い靄がちょっと濃くなってないか?
まぁ…上位魔法を発動しようと考えたのも、黒い靄がある事で俺の力が上がっている筈…っていうやや賭けに近い判断が元だから、上位魔法陣の発動に黒い靄が反応するのは、当たり前といえば当たり前なのかも。
ただ…黒い靄が濃くなってくるのに連れて、俺の中で燻っていた破壊衝動が蠢き始める気が…。下手したら狂化状態になりそうだから気を付けよう。
…出来た!!
「これで、吹き飛べ…!」
複雑な紋様の上位魔法陣が俺の前方に爛々と輝いて展開される。そして、燃え盛る10個の爆炎球が細長い尾を引いて銀髪へ飛翔した。
ドォォォォン!!!
爆炎球は着弾と同時に爆発を引き起こす。1つの爆発で戸建て4棟は壊せるレベルの威力だ。それが10個。うん。普通に街中で使ったらテロだねコレ。
よし。次、いくぞ。
爆発の余韻が収まると、所々フードが煤けた銀髪が魔法壁を…多重展開?して立っていた。無傷…に近いかもしれないけど、先の攻撃よりはマシってトコか。
「中々の威力だな。だが、この程度で俺を倒せるわけが……。…!?」
余裕のカッコいい台詞を吐こうとした銀髪は、俺の姿が揺らめいて消えた事に言葉を切り、続いて背後から俺が放った絶対零度の凍気を乗せた一閃をギリギリで受け止める。
いやいや、今の必殺の一撃だと思ったんだけど…受け止めますか。
「けど、斬るだけじゃないんでね。」
「…なに!?」
龍刀と銀髪の長い刀が鍔迫り合いをするが…それだけじゃぁない。凍気は刀で防げない。つまり…銀髪の体が凍っていくって事だ。しかも凍気は絶対零度。コレに全身を覆われた銀髪は一瞬で凍り付いて動かなくなった。
「うし。俺の勝ちだ。…おい、お前!」
銀髪から距離をとった俺は、黒装束の女に声を掛ける。
「…なんだ?」
「お前達の負けだ。大人しく投降しろ。」
「投降…か。」
何をしみじみと言ってるんだか。銀髪が凍り付いて動けなくなった事で、俺の勝利は確定だ。黒装束の女は多分銀髪の部下だろ?つまり、銀髪に勝った俺には勝てない。…多分ね。
これで投降させて拘束。後はレフナンティに生きている人がいないか探さないと。
「…フフフフ。フフフフ!甘いわね。勝負は終わってないわ。」
「そっか。じゃぁ、容赦なく行くぞ?」
黒装束の女は軽く首を横に振る。
「違うわ。あなたの相手は…まだ彼よ。」
…?彼…?
一瞬の油断。そこをつけ狙ったかの様に、鬼気迫る殺気が横から発せられる。
「…マジですかい。」
殺気の発生源は銀髪だった。
…凍ってたよね?ガッチガチに。なんで平然と歩いてるんですかね?
「高嶺龍人。俺の想像以上だ。その力、貰い受ける。」
「貰う…?」
「その通り。」
銀髪の刀が薄く光る。
あの感じヤバイ気がする…。
てか、俺の力をもらうってどーゆー事だろうか?力を奪う的な話か?でもそんなトンデモ能力って現実的に存在するのかね。
んー…里因子って特別な物な気がするんだよな。だとすると、奪うってのは少しニュアンスが違う気もする。どちらかというと…里因子所有者の俺を捕まえるつもりなんじゃないかな。
今現在、俺は銀髪に敵対してる訳で、その俺を捕まえると。つまり、死なない程度に大ダメージを与えて行動不能にするのが1番簡単だよね。
…やっべぇじゃん。
「平伏せ。」
来た。決め台詞!
銀髪が刀を構え…水平に薙ぐ。そこから放たれたのは絶対零度の斬撃だった。
俺が使った攻撃の丸パクリじゃん!
けど、威力が全く違った。
斬撃自体の威力は元より、その斬撃を中心として放たれる絶対零度の凍気もその質量と速度、範囲が段違い。
辛うじて魔法壁を張ったけど…即座に破られてしまい、全身がガチガチに凍り付いて動けなくなった俺は地面に平伏してしまう。体が動かなくて確認出来ないけど、今の攻撃でレフナンティの半分近く凍り付いたんじゃないか…?災害レベルの攻撃だよ。
そして決め台詞通りの展開になっちまった。流石決め台詞だよ。
静かに歩み寄ってきた銀髪は、足を止めると俺を見下ろす。
「里因子所有者と言ってもこの程度か。…アイツの言う力には程遠い。」
「何を…言って…ぐあっ!?」
銀髪の爪先が鳩尾に減り込む。
肺の空気が絞り出され、体が宙に浮く。
「かはっ…。」
息が…出来ない。か細い呼吸を必死に繰り返すが、内臓に与えられたダメージが大きく、元に戻る気配は一向に無かった。
「下らん。この程度で…何が叶うというのだ。期待外れも甚だしい。」
銀髪の手が赤く光り、気付けば俺は爆発によって再び吹き飛ばされていた。
ヤベェな…視界が霞んできた。
「…まぁ良い。確保すればアイツがどうにかするか。」
不味い…捕まっちまう。
けど……体が……。
圧倒的な力の差に、絶望感を感じてしまう。
結局敵わないのか。
くそっ。俺は…何も守れないじゃないか。
その時だった。
老人の声が聞こえたんだ。
「…これはこれは、中々の惨状じゃの。少しばかし頑張る必要があるのである。」
俺の隣に誰かが着地する。…今の声の主か?視界の端で黒い杖みたいなのが地面に突き刺さるのが見えた。
「ほぅ…。まさか貴様のような大物がここに現れるとはな。どういった風の吹き回しだ?」
銀髪が眉を持ち上げ、意外そうな顔をする。
…ここまで強いやつが大物って言う人物って誰なんだ?体が動かなくて見えないのが悔やまれるな。
「お主らの動きは逐一観察しているのである。じゃが、今回は初動が遅れたの。この惨状は…悔やまれるのである。」
「ふん。善人面か?」
「何とでも言うが良い。儂は残った命を少しでも救うべくここに居るのじゃ。」
「それが善人面だと言うのだ。貴様の狙いは里因子所有者だろう。」
また里因子所有者か。結局、それが原因なのか…?
「まさか…この星に里因子所有者がいるのであるか?」
「……ちっ。口が滑ったか。」
…ん?老人は里因子所有者の存在を知らなかったのか?
「まさか…お主、里因子所有者を覚醒させる為にこれを引き起こしたのであるか…?」
「…そうだとしたらどうした?」
「許せぬ非道じゃ。」
「ふん。だったら、力尽くで止めれば良いだろう。」
…おい。今の話…マジなのか?
森林街を、レフナンティを壊滅させたのが…里因子所有者を覚醒させる為…………?
それって、俺の所為で…皆が殺されたって事だよな…?
銀髪が鼻を鳴らす。
「ふんっ。お前達だって、私利私欲のために動いているだろうが。俺は知っているぞ。お前達の目論見を。」
「それは儂には関係が無い話じゃ。儂は同意していないのである。」
「果たして本当かどうか…。まぁ良い。俺は引かぬ。」
「……ならば、魔聖の1角を担う儂の力を見せるのである。セフ=スロイ…覚悟するのじゃ。」
地面に突き刺さった黒い杖の先端から、恐ろしい勢いの魔力が噴き出す。…マジか。あの銀髪…セフって名前らしいな…も凄かったけど、それに匹敵するか上回る魔力圧じゃんか。
「強敵と戦うのは久しぶりなのである。」
周囲の景色が…グニャリと歪む。
老人の持つ黒い杖の先に黒い球体が出現し、それを取り巻くように風が吹き荒れる。
…いや、吹き荒れるってより吸い込まれてるのか?すげぇ魔法だ…。
「流石は魔聖。扱う属性も一級品か。」
セフが駆ける…というか、消える。
キィィィン!
という音が聞こえたと思うと、空中で2人は武器を交えていた。凍気を纏う長い刀と、黒い球体を携えた黒い杖がその力をぶつけ、鬩ぎ合う。
ブワッという衝撃が空気を介して伝わり、2人を中心とした円心状の空間が周囲のものを吹き飛ばす。
…俺も当然吹き飛ばされた。
しかも身体が凍り付いてて動かないから受け身も取れず…瓦礫の中に突っ込んでしまう。
それからは音で戦いの様子を聞くしかなかった。
どんな戦いが繰り広げられたのかは分からない。それでも、俺にはまだまだ手が届かない高みにいる2人の戦いは壮絶を極め(聞こえてきた音的に)、最後には何かの話し声が聞こえ(声が小さくて聞き取れず)、静寂が訪れた。
…静かだった。
微かに聞こえるのは風が通り抜ける音と、パラパラと何かが崩れる音のみ。
虚しかった。
…俺は、……俺がもう少し早く記憶を取り戻してれば……こんな事には……。
今更かもしれない。それでも、大切な人々を失った喪失感は否応なく忍び寄ってくる。
ガラッ
不意に瓦礫に埋もれ、暗かった俺の視界に光が差し込んでくる。
その光の中に見えたのは、長い白髭を携えた老人だ。
「見つけたのである。お主が高嶺龍人かの?」
問い掛けに対して小さく首を縦に動かすと、老人は微笑んだ。
「うむ。命あって良かったのである。儂と共に来るのである。」
そう言って、手を差し伸べてきた。
…一瞬、迷う。
この老人を信じて良いのだろうか…と。この人物は里因子所有者という言葉を知っていた。つまり…あのセフという男と同じように、俺を狙っている可能性だってある訳だ。
セフを退け、善人面をして俺の前に現れて取り入るつもりなのかもしれない。もしそうだとしたら…信じ切ったどこかのタイミングで俺の大切な人が命を奪われるかもしれない。
……そんな事がまたあったとしたら、俺は耐えられるのだろうか。いや、きっと耐えられないだろう。
だから。
俺は老人の手を取る事を決意した。
全ては…俺の目的の為に。
魔聖と呼ばれていたこの老人を利用し、俺は…この世界に隠された真相を突き止める。
そして、セフの目的を暴き…止めてやる。これ以上、レフナンティと同じ悲劇を繰り返さない為にも。
凍り付き、震える手を必死に伸ばす。
そして、老人の皺が寄った温かい手を掴んだ。
これが、俺の本当の意味での異世界生活の始まりだった。
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